キトラ・ボックス (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.45
  • (7)
  • (10)
  • (16)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 153
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041080313

作品紹介・あらすじ

シルクロードの考古学者は奈良山中で古代の鏡と剣に巡り合う。剣はキトラ古墳から持ち出されたのか。謎を追ううち何者かの襲撃を受けた彼女を救うため三次郎は昔の恋人を通じ元公安警部補に協力を求めるが。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 古代史のキトラ古墳という謎を、ミステリー仕立てで事解いていく壮大なストーリー。前作「アトミックボックス」の登場人物も絡んで、飽きさせない仕組みも施していて面白い本だった。途中、不可解な言葉などがあって、作家の失敗かと思ったが、最後にそれは伏線であったことで納得。過去の壬申の乱を追った章は、歴史小説を読んでいるようで、夢中になった。

  • 大胆な設定に一気読みしてしまいました。
    1300年前に築かれた古代遺跡キトラ古墳を巡る謎と、現代のウイグル自治区問題を掛け合わせた、歴史ロマンにして社会派小説という意欲作。
    池澤さんって、本当に知的な人だなあ、としみじみ感心してしまった。

    考古学者の藤浪は、奈良の日月神社の御神体の確認を頼まれる。彼はそこで見つかった銅鏡が、ウイグルのトルファンで出土したものと非常によく似ていることに気づき、ウイグル人で今は大阪にて考古学研究をしている女性カトゥンに共同研究を持ちかける。
    二人は鏡の謎を追う中で、長年の謎であったキトラ古墳の埋葬者に迫っていく。
    けれど、カトゥンは、その「出自」ゆえに、中国当局から狙われていて、誘拐されてしまって…。

    私は10代の頃に出会った井上靖氏の「天平の甍」をきっかけにして、日本の飛鳥〜奈良時代と、同時期のシルクロード(西域)の歴史にどハマりして色々読み漁って、色々遺跡巡りしていたことがあったので、それだけで本作は好みのドンピシャ。

    しかも、サスペンスとしての展開が早くて、ライトにしても古代史好きだからわかる、いろいろな描写の「意図的な矛盾」がもう気になって気になって。
    ドキドキワクワクがとまりませんでした。

    最後はちょっと力技でまとめたというか、散りばめた伏線のいくつか(と私が勝手にとらえてただけかもしれないけど)…特に、あえて平行や矛盾をさせたはずの時空的隔たりを回収せずに終わったかな…?と思ったり。
    同時平行的に描かれていた古代と中世と現代は、期待したようには最後上手く繋がらず…。
    歴史的にも現代時事的にも、ミステリーとしては少し基盤が弱いかもしれません。

    あと、池澤さんの文章の最大の魅力だと勝手に私が考えている、曖昧で捉え所がないけれど、多かれ少なかれ誰もが持っている感覚に、理知的かつ美しい文体と言葉で、明確な形を与えて示してくれた時に感じる、あの静かに満たされる高揚感が鳴りをひそめていたのが少し残念でした。
    (どうにも上手い例えが見つかりませんが、一目ぼれして買ったシンプルだけど質の良い普段着を身につけた時に、身体にぴったりとなじんで綺麗なラインが出て、一人で密かにじんわりと満足する時のような肌感覚に近い、しっくり感みたいなものを感じさせてくれる池澤さんの文章の大ファンなのです、私は)

    読み手を選ぶ作品かもしれませんが、日本古代史や西域好きにとっては、「もしかしたらそうだったかも」というロマンがある作品です。

    *******

    (余談)
    本作に全く関係のない内容だったので上では書かなかったのだけど。

    本作を読みながら、キトラ古墳の保存資料館「四神の館」がオープンした当初に抽選申し込んで喜び勇んで訪問したこととか、かつての西域諸国の一つであったウズベキスタンを旅行したこととか、色々思い出すことが多かったです。

    本作でも登場したウイグルとチベットは、アクセスが不便だったのと、自治区問題による混乱が突発的に起こるかもしれない不安で結局行かなかったことを、今になって後悔しています。
    色々たいへんなりに、行ける時に行っておけばよかった…。
    問題は収まるどころか激化しており、もしかしたらもう一生いけない土地になってしまったかも…。
    したい事はしたいと思った時にしておくべきという先人の言葉を思い出します。






  • 古代史の謎とか好きなので楽しめたが、名のある大作家?の割にこんなもんか、っていうのが第一の感想。歴史の謎も個人レベルの交友で解決、説明のための一人語り多用、艶のない文章、いまいち魅力のない、薄っぺらで顔の見えない登場人物たち。
    古代史の蘊蓄やアイデアの披露などはない。あくまでも古代史をネタに使って軽くて薄い読み捨てストーリー小説といったとこ。著者のライフワークではないし、興味のある分野を扱ったわけでもないし、本気の作品でもないんだろうなっていう感じ。

  • アトミック・ボックスに続いてミステリーを愉しむか、と購読。

    あまり面白くはなかった。
    登場人物が英雄的すぎるのか。

    特に後半で宮本美汐が出てきたところで、
    さっさとストーリーだけ把握して読み飛ばしたくなった。
    アトミック・ボックスを読んでいて、主役ながら好感を持てなかったのは、美汐の常人離れした言動からだ。

    物語の成り行きを掌握する神の目を、2冊の主人公たちがいとも簡単に持ちすぎているのかもしれない。

    古代ミステリーなら、もう少し、古代の要素の比重を多くした方が面白かったと思う。感覚的には、古代:現代=8:2~7:3くらいに。
    歴史の砂に埋もれていた壮大な出来事・策謀・思いが、
    物語の最後で、現代の陽光を浴びる、というような。
    井上靖の「敦煌」みたいな。

    おそらく、現代の比率が高くなってしまったのは、
    著者が、中国による少数民族弾圧を批判するメッセージを
    もう1つのテーマ(こちらが本命か)として入れたためだ。
    2つのテーマを入れるのは、アトミック・ボックスでは
    よかったが、
    本作では焦点がぼやけて面白さが散逸した感じだ。

    では現代部分のどこを削るかといえば、アトミック・ボックスの面々ではないだろうか。
    初出の面々とした方が、純粋にミステリーや、著者の伝えたいテーマが際立つと思う。
    キャラクターが強すぎる彼らの描写は、まるで、最初は面白かったが面白くなくなってしまったラジオドラマの「NISSAN あ、安部礼司」みたいで、キャラクターの存在だけで売ろう、売れるという意図を勘ぐってしまう。
    シリーズものでこの面子でこの先続けるという商業的な戦略なら、やめた方がよいと思う。

    現代の日本にはあまりいないと思われる、饒舌で利発な”一般人”たちに反権力を朗々と言わせるよりも、
    今は物言えぬ、歴史に埋もれた、例えばヤグラカルの生き方を通して、彼らのアイデンティティへの尊敬を読者の胸に想起せしめる方が、素敵ではないだろうか。

    また、キトラ古墳の被葬者が誰か、という実在の謎をテーマの1つとするなら、最初の方で阿倍による回顧を入れる時点で肝心の部分がネタバレになってしまっている。

    次作に期待します。

  • 神社のご神体の持つ謎、古墳の被埋葬者にある謎。解明しようとする研究者にも謎があった。推測し根拠を探す、きっと気が長く根気のある人にしか出来ないだろう。飽きずに向き合い続けられるのも大切な資質かもしれない。

  • 面白いことは面白いけど、私が池澤さんの作品に期待するものとは、やや違ったかな、という感じ。
    アトミックボックスを先に読んで、キャラクターに馴染んでいたらまた違うのかも。

    じゃあ何を期待しているのかといえば、ストーリー展開で引っ張るというより、静かにじわっと染みてくるような描写なんだと思う。
    この作品は、そういう方向ではなかった。

    でも、考古学と現在の中国の民族問題を大胆にリンクさせた展開などは、さすがという感じ。

  •  国営飛鳥歴史公園の一画にある、キトラ古墳。
     阿部山に築かれた、この特別史跡にスポットを当てた考古学ミステリ。
     古墳の被葬者については諸説あるが、本書はその一説に基づき、かつての倭国、唐、ウイグルなど、大陸を繋ぐ歴史ロマンと、現代における新疆ウイグル自治区の独立運動を巡る国際的陰謀を絡めた、壮大な構想のストーリーが展開する。
     奈良の日月神社、大三島の大山祇神社、そしてトルファン。
     三面の禽獣葡萄鏡に秘められた、国と身分を超えた友情が示す、キトラ古墳の被葬者の思念。
     歴史のIFに大胆に挑戦した、魅力的な古代史冒険物である。

  • 古代史と中国問題をリンクさせた設定。
    後半は少々急ぎ足の締めくくりに終わったが、面白く読めた。
    池澤氏編集の文学全集も少しずつ読んでいきたい。

  • ①中国の国内問題をアピ-ルするために日本人の善意を利用する内容はガックリ
    ②都合よく新聞記者や元公安の助っ人が登場するのは安直すぎないか。
    全体の内容はスリリングで面白かった

  • ダヴィンチコード的なアクションミステリ(あそこまで目まぐるしくないけど)で、池澤夏樹さんはこういうのも書くんだ、と新鮮。そしてシリーズ2作目だった。鏡が時間空間を超えてつながるのがなかなか感動的。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池澤夏樹の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×