虹を待つ彼女 (角川文庫)

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  • 本 ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041080368

作品紹介・あらすじ

2020年、研究者の工藤賢は死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。モデルは美貌のゲームクリエイター、水科晴。晴は“ゾンビを撃ち殺す”ゲームのなかで、自らを標的にすることで自殺していた。人工知能の完成に向け調べていくうちに、工藤は彼女に共鳴し、惹かれていく。晴に“雨”という恋人がいたことを突き止めるが、何者かから調査を止めなければ殺す、という脅迫を受けて――。極上のミステリ×珠玉の恋愛小説! 第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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    虹を待つ彼女/逸木裕

    第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作

    6年前に劇場型自殺事件を起こして死亡した
    ゲームクリエイター水科晴(はる)。

    人工知能会話システムの開発者 工藤賢は、
    システムの更なるユーザー開拓の一環として
    晴の人工知能の開発に着手する。

    晴の人工知能を作るために晴の情報を集める中、
    過去を調べるなと脅迫状が届く。

    なぜ晴は周囲を巻き込んで自殺をしたのか、
    その本当の理由に迫る。

    驚きのラストは切ないけれど清々しい。

  • 主人公の思想が気持ち悪い・・・。
    昔の偉人と話してみたい思いはあるので、
    このアイデアはいつか実現してほしいです。

    「人間は多彩だ。虹のように」

  • SF+ミステリー+恋愛。
    しかしこのSF的な要素についてはかなりの現実味というか、現状AIの進化は驚くべきものがあるので、もうAIと恋愛をすることが不自然ではない時代が来るのでしょう。もしかしたら来ている???
    既にこの世を去っている見知らぬ女性をAIとして復活させる。しかも彼女は世間を騒がせた犯罪者で、自らを標的として自殺を遂げている人物。これだけで既に面白い話になりそうだなと想像させますが、正直ここまでSFとミステリーに振ってくるとは思いませんでした。表紙からするともっと恋愛感動に大振りしてくるのかなと。
    捻くれているうえに類まれなる頭脳を持っているが故に、生に倦んでいる青年が主人公ですが、すでに死んでいる女性を復活させる為に次第に感情が白熱してくる所が面白い。
    そしてサブキャラにもなかなか面白い人物がいるので、一過性の容疑者では片づけられない魅力が有ります。

    AIとの恋愛というのは単純に人柄やその雰囲気に魅力を感じるという事でしょう。そこには肉体的接触も金銭的な含みもない、純粋な存在への欲求であると言えるでしょう。
    純粋な愛を結晶化させたものに人間が食い込むのは非常に難しいので、本当にAIの中から理想の存在を見つけた人には心からの祝福を送るしかないでしょう。不完全な我々には完全で理想的な受け答えをするAIに勝つ術はないでしょう。
    恋愛とは言わなくとも、年を取って一人になってからAIが救いになる事は大いにあるかもしれません。

  • この小説を読んだとき「ギアチェンジがスゴい」小説だと思いました。自分が強く感じたのは小説の半分ほどでまず一回、そして終盤にもう一回。ギアを変えたときの振動で、頭を車の天井にぶつけそうになりました(笑)

    一人の人格を完璧に再現する人工知能を作ることになり、そのモデルケースで既に亡くなっている女性が選ばれるのですが、その人工知能を作ることになったプログラマーが主人公のミステリ。
    この亡くなった女性が、かなり個性的というか、とにかく強烈。彼女の自殺方法、生前の生活の様子は、まさに天才や異才の雰囲気を感じさせます。

    以前、北村薫さんは宮部みゆきさんの『火車』を恋愛小説としても読める、と評したそうです。行方不明になった顔も分からない女性に、徐々に囚われ感情移入していく主人公は、一種の恋愛状態であると。

    当時は、分かったような分からない感じだったのですが、この小説を読みようやく北村さんの言わんとするところが分かってきました。すでに亡くなった女性の行動に興味や共感を抱き、徐々に自分の理想を投影し囚われ始める。そしてその執着や行動の意味に主人公が気づいたとき……、まずこれがギアチェンジの第一段階。

    彼女を再現するため、徐々に活動を活発化していく主人公ですが、その調査をやめるよう謎の脅迫者が出てきます。そこから徐々に亡くなった女性を探っていくミステリから、脅迫者は誰か、その目的は、というミステリも展開されていきます。

    そうしたメインストーリーも面白いのですが、サブストーリーが面白いのも、この小説の魅力だと思います。主人公は調査の傍ら、自身が開発した人工知能を使った恋愛アプリをめぐるゴタゴタや、人工知能と将棋棋士の対決、いわゆる「電王戦」をめぐるゴタゴタにも巻き込まれていきます。

    ここで社会が抱く人工知能のイメージや、あるいは個人が抱く人工知能のイメージも描かれて、無意識的に物語のテーマについてより深く考えるようになるのです。日々発展していく人工知能に希望をみるか、恐怖をみるか、友人とみるか、敵とみるか。

    電王戦の話は長編のサブストーリーにするにはもったいなく感じる読み応えを、個人的には感じました。普通に棋士サイドの話も読んでみたい。

    そして脅迫者の行為もエスカレートしていき、一方で主人公の調査もエスカレートしていき……、この辺の書き方もすごいなあ。主人公の執着具合や狂気の描き方が本当に秀逸で、なんだかダークヒーローの活躍を読んでいるような感覚を覚えていきます。ぶっちゃけ脅迫者よりも主人公の方が、怖いかもしれない……

    そして、脅迫者の正体も分かり、主人公も危機を逃れ、ようやく人工知能作りも佳境に(ここまでのエピソードが濃厚なので、ここに至って、「あ、そういえば人工知能を作る話だった」と思い出しました……)

    もうエピローグ的な感じだろうな、と思いながら読んでいたのですが、ここでさらにギアが入ります。「主人公、そこまでやるの……」と唖然とし「こいつ本気だな」と改めて物語に対し向き合わされ、気合いを入れ直し最後まで読み進めることができました。

    ラストシーンも味わい深い……。ここに至って主人公のキャラクターの特異さの意味も分かった気がします。序盤を読んだ段階では、頭の良さを鼻にかけ、人生をバカにしている「イヤなやつ」という印象が強かったのですが、読み進めるにつれ、徐々にその感情は薄れてきて、そしてラストに圧倒されました。

    解説の恩田陸さんも書かれているのですが、これは一種の青春小説でもあったわけですね。思わずスタンディングオベーションを送りたくなるような、そんなラストシーンだった気がします。

    第36回横溝正史ミステリ大賞

  • 初逸木。少〜し読んだだけで、これは間違いなく面白いっ!と直感した本作。その結果……大当たりな作品でした(^^) ある(頭も性格もいい完璧な)男が、初めて愛した女性は残念ながらもう既に死んでいた——それを人工知能として蘇らせる話。究極の恋愛小説。星四つ半。

  • 人工知能という要素と恋愛、ミステリーをうまく融合させて綺麗にまとめられていると感じた。ミステリーの要素は少し弱いかもしれないが、ストーリーはとてもよく、止まらず最後まで読めた。
    冷めきっている主人公が終盤、徐々に人間味溢れる温かみを帯びていくのが、個人的に好きだった。

  • 自殺したゲームクリエイターの水科晴を人工知能として蘇らせようとする工藤。晴の過去を探るうち魅了され恋愛感情を抱く。誰かに命を狙われながらも調べることをやめない工藤。自分でも想像していなかった感情に囚われていくさまは狂気すら感じさせる。ゲームの世界とうまく絡めてあったり、人工知能の善し悪しなどもあってとても面白い。

  • ミステリ……の皮を被った本質は恋愛小説なのではないかと思います。

    人工知能のモデル(故人)に惚れてしまった男と、亡くなったモデルの女性、そしてその恋人の関係を中心に描かれています。モデルの女性は亡くなっているので、最初から報われない恋なのですが。

    主人公の男が本当に腹の立つやつで、斜に構えたプライド高くすかした男で最初は本当にイライラするんですが、恋をしてから少しずつ愛に狂っていき、人間味が出てきてよかったです。

  • ライトノベルのような昨日かなぁ〜と舐めてかかって読み始めたら,大パンチ喰らいました〜
    すごく良かったです。
    文章も上手でどんどん読み進めることができるし、ミステリー?サスペンス?な感じであっという間に作品にのめり込んでいました。
    恋愛,青春,ミステリー、と三つのテーマが一つになった一つで3度美味しい作品でしたー!
    若い子に読んで欲しいよ青春小説ですね!
    アラフォーのおばさんんでもとっても楽しめました!

  • 初めて読んだ時の衝撃を忘れないし今でも一番好き。

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著者プロフィール

小説家。1980年、東京都生まれ。第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、2016年に『虹を待つ彼女』(KADOKAWA)でデビュー。2022年には、のちに『五つの季節に探偵は』(KADOKAWA)に収録された「スケーターズ・ワルツ」で第75回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。このほか著作に、『少女は夜を綴らない』(KADOKAWA)、『電気じかけのクジラは歌う』(講談社)などがある。

「2023年 『世界の終わりのためのミステリ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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