これからの都市ソフト戦略

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041081488

作品紹介・あらすじ

「行政任せにしない、“民官連携”をめざせ」「商業スペースは街の3分の1に抑えよ」――。人口減・少子高齢社会に、街も変化を余儀なくされている。
本書は、アメリカとの関わりの中で発展してきたこれまでの街の歩みを振り返り、現在、街が直面している問題の根本原因とは何かを明快に提示。そのうえで、人口減・少子高齢のこれからの社会で、住民の誰もが快適に、幸せに暮らすことができ、人や仕事、観光客をも呼び込む街づくりを提言。
都市開発・地方都市の中心地再開発を成功に導いてきた著者が初めて明かす、民官一体の地方創生のステップを、日米の成功事例を引きながら、豊富な資料を用いて多角的に説く。

感想・レビュー・書評

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  • 現在の日本の街はどのようにしてできたか、どのような課題を抱えているか、そして、「超高齢・人口減・少子化」の時代を迎え、どのような街づくりが求められているのかについて分かりやすく書かれている。
    日本の街について、歴史的に説明しているところや、海外と比較しているところが興味深いと感じた。

    「歩ける範囲でつくるコンパクトシティで街はよみがえる!」という帯から、私は、地方の小都市を再生していく話を念頭に読み始めた。しかし、例に挙げらているのは六本木ヒルズのような大都市の中の街や、ディズニーランドや伊勢神宮のように元々ネームバリューのあるものばかりだったので、その点が少し残念でした。

    著者が問題にしていた、郊外にショッピングセンターが出来て駅前が衰退してしまった地方の小都市、若者が流出し高齢者ばかりになった小さな町などが「コンパクトシティでよみがえる」という話も読みたかった。

  • 都市の活力を維持していくためにソフトの力が重要であるということ、またソフトを伴ったまちづくりをしていくためには、地元の商業事業者の主体性が重要であるということを語っている本であると感じた。

    必ずしも施設やインフラの整備が重要であるということではなく、どのようなサービスや楽しみを提供できるかということが、まちに人を集めるためには本質的なポイントである。

    行政や外部の資本による整備、投資を当てにするのではなく、地元の企業や金融機関が中心となってビジョンを作り、実行していくことが大切という本書の論旨からすると、事例として取り上げられている伊勢の赤福によるおはらい町の再生の事例が、もっともそれに合っている事例であるように感じた。

  • 森ビルでアークヒルズ、六本木ヒルズ、ビーナスフォートなどの都市開発を手掛け、近年は地方都市の再開発に携わる著者が、日本のまちづくりについて論じる。

    「強い街」をつくるため、私有地の所有者や街の人たちが「街づくりの当事者」として力を合わせることで、にぎわいのある、魅力ある街が生まれる。こう言うと理想論に聞こえるかもしれないが、各地で実際に成功事例をつくりあげた実績をもち、米国法人での経験から米国の事例も知る著者の言葉だけに説得力がある。

    まず現状認識として、日本が直面する問題の中心は人口減・少子高齢社会にある。それゆえに街は空洞化し、修復の追いつかない公共インフラに頭を悩ませている。若く元気な人口は減り、高齢者の比率はますます高まり、納税者が減少していく。このまま手を打たなければ、自治体の財政はますます悪化する。特にそのしわ寄せは地方で顕著となる。もはや現状維持を続けている場合ではない。地方の人口が激減していく中で、今のうちから時間をかけて将来の人口に合わせた街づくりをする、その種を蒔いておく必要がある。カギはコンパクトシティの実現にあると著者は考える。

    歴史を振り返ると、日本の街では城から駅に中心が移り、1960年代半ば以降はモータリゼーションに伴い道路網が整備され、街の範囲は郊外に広がり、中心地が分散していった。田園地帯が開発され、住宅や商業施設が無秩序に建設された。城や駅の近くにあった中心市街地から郊外へと人が移り、大規模店の出店規制下で中小の商店主や商店街が守ってきた街なかから人が減り始めた。一方、米国の対日貿易赤字解消を目的に日米構造協議が行われ、外資系流通業者の日本上陸を促す意図も背景に、大店法が1991年に改正され、大規模店の出店規制が緩和される。大型店が価格競争力をもって展開し、街の中心地ではシャッターが下りていった。大店法は2000年に廃止され、その後「まちづくり三法」が整備されたものの、中心市街地の空洞化は解決せず、シャッター街は全国に増え続けている。

    2012年に起こった山梨県・笹子トンネルの天井板崩落事故で、公共インフラ老朽化の危機的状況が顕在化したが、高度成長期に整備された道路や橋梁などのインフラを修復するには税収が必要で、それだけの十分な税収はもはや国にも自治体にもない。利用頻度の低いものは放棄するという選択肢も議論に含めざるをえないだろうし、地方の税収を増やしてできるだけ財源を確保しなければならない。「三割自治」や「四割自治」と言われる地方都市の税収だが、市民税や固定資産税など市税による直接的な税収を、三割・四割からもっと増やしていくよう自治体が努力すべきと著者は言う。街の魅力づくりを進め、人口や事業者の増加→市民税増収、人口や来街者が増えて街に活気→路線価上昇・固定資産税増収、を目指すのである。少子高齢、人口減、低所得者の増加という三重苦は地方都市ほど深刻で、国に頼らず自治体独自でこれら三重苦に対処していく舵取りを、今すぐに始める必要がある。
    そこでコンパクトシティである。もともと城中心の街だったところに駅ができ、郊外に宅地が造成され人々は分散して住むようになり、街は中心地を失った。それをもう一度取り戻し、「職・食・遊・学・住・医」のある、歩ける範囲のコンパクトシティを築くことが、将来的な街づくりの必須条件になると著者は考える。利用頻度の低い公共インフラを放棄し、住民たちが協力して街を築こうという意志をもつことが必要であり、自治体も問題意識を喚起していくべきである。

    戦後の日本では、道路や公園、上下水道などの公共インフラを行政が整備し、街の「ハード」は整えられた。他方、民間の土地所有者たちは個々の私有地にしか目を向けず、街づくりに対する地域での連帯や景観の一体感など「ソフト」の意識をもつことができなかった。住みやすさや街の魅力という視点が欠けていた。また、米国型のSCやチェーン店といった商業型の「ハード」が増え、結果として全国どこも「金太郎飴」のような街になった。これからは、私有地の持ち主など街の人々自ら、自分の街にどのような要素が必要で、どのような街に育てていきたいかを提案し合うことで強い街を目指すという、民間の意識改革が必須であり、それこそがこれからの街づくりに重要な「ソフト戦略」となる。
    「ソフト戦略」の実践例として、東京都港区が挙げられる。六本木ヒルズは、もともと都市計画から抜け落ちたような3万3千坪の木造家屋密集地域だったところ、森ビルの森稔氏が地権者一人ひとりを説得して回り、17年という年月をかけ400軒あまりの人々の同意を得て、地域全体をコンパクトシティとして生まれ変わらせた。六本木ヒルズには「住みたい」「訪れたい」と思わせる「ソフト」があるという。ヨーロッパの街のように、「街をふらつきたい」と思わせる魅力、何らかの「ソフト」がまずあって、「中心地」の周りで自然発生的に街が生まれる。日本の城下町や門前町も同様。

    魅力ある街づくりには手順がある。「ビジョニング」「コンセプト」「ゾーニング」「リーシング」という手順を入れ替えてはならない。
    「ビジョニング」:「このような街をつくりたい」という明確な青写真
    城のある街、伝統工芸のある街、海辺や湖畔の街、生鮮三品の街など、もともとあるものを生かしてもよいし、何か新しい魅力を植え込むことも可能
    「コンセプト」:街づくりにおける基本的な概念、特徴づけ
    誰もがわかる共通の概念とキャッチフレーズを掲げる、そのために街の人たちが納得するまでじっくりと検討する「その街ならでは」
    「ゾーニング」:街のどこにどのような機能を設置するか
    コンセプト実現のために必要な機能「職・食・遊・学・住・医」を街の中にどう設置するか、役割に応じたゾーンを配置
    「リーシング」:大型商業施設やチェーン店などの誘致
    商業一辺倒ではなく文化的な施設やホテル、病院など街や住人とともに歩んでくれる存在。リーシングありきで進めてはならず、必ず最後でなければならない

    街を「強街」として再生するための提言として著者は「都市不拡散」と「商縮」を挙げる。「商縮」ではベトナム戦争後の米国で実施された「ワン・サード理論」を参考に、街の商業面積を三分の一に凝縮する一方、文化施設や医療機関、公共機関、学校などの要素を充実させるよう説く。
    かつて寺や神社を中心に行われてきた祭などの「タウンマネジメント」、地方銀行の役割などにも言及する。

    国や自治体が主導した地方創生の事業で成功例を見つけるのは難しいと著者は言う。民間が主導し、民官連携しながら街の再生に成功した事例として、東京ディズニーランド、ベネッセの直島、伊勢のおはらい町が紹介される。これらは当初、保守的な地元の反対派から批判を浴びたが、街のためを思う純粋なアイディアと、必ず実現しようとする強い思いに裏打ちされていれば、多くの人の気持ちを揺さぶることになる。
    外国の事例では、米国のサンタモニカとサンディエゴが紹介される。1950年代以降の郊外化で中心地商店街の荒廃に直面したサンタモニカでは、その後二度にわたる再開発の失敗を経て「街づくり会社」(ベイサイド・コーポレーション)を立ち上げ、街が衰退した理由を議論した結果、世界中でここにしかないユニークでオンリーワンのストリートづくりをしようと一致団結する(ビジョニングとコンセプト)。そして、当時のレーガン政権によるBID(Business Improvement District)制度を利用し、補助金に頼らず資金調達した。
    BID制度:中心市街地活性化のため、指定された特定地区内の地権者から、強制的に資金を集めて街づくりを運営する仕組み。日本でも大阪市で実施され話題となった。儲かる仕組みの街づくり会社があるから企業も市民も参加し、成果が上がるから更に参加する。
    街づくりの推進役は街づくり会社が担い、自治体はバックアップ役に徹する。例えば、開発ゾーン(サードストリートプロムナード)を唯一無二のエンターテインメントストリートにしたい、というビジョンに対し、サンタモニカ市は映画館の誘致を当該ゾーンにしか認めないという条例を制定。街づくり会社は検討の結果、小規模で個性ある映画館を複数誘致する。小規模映画館は、将来的に大型映画館が参入し競合する心配がないため、安心して誘致を承諾する。飲食店も、ファミレスやファーストフードの出店を行政が禁じ、個性ある店の誘致をバックアップする。こうして、サンタモニカでは見違えるようにいつも人が溢れるお洒落で個性的な街を実現した。サンディエゴも、行政と民間会社が連携した再開発で手法は異なるが、民官合同の再開発という点では共通する。
    これらの事例から、ただやみくもにきれいな街をつくるだけで人は戻ってこない、ということがわかる。そこには人を呼び込むための「ソフト戦略」が必要で、街の人たち自身が自分の街にどんな魅力が埋もれており、どうやってそれを打ち出したいかのビジョンやコンセプトを明確にもつことが求められる。それが明確なら、ゾーニングやリーシングもうまくいく。そして、自然に人が溢れるようになり、住民も増え、市民税や固定資産税も増加する。地権者にとっても土地価格上昇は歓迎なので、BID制度で強制的に費用負担を強いられても協力する。
    JR岐阜駅前再開発「アクティブG」や和歌山市「2030わかやま構想」の事例も興味深い。
    なお、サンタモニカや港区ではその後路線価が高騰し、裕福な人しか住めない街になった。コンパクトシティを実現し、「強街」になることが完結ではない。街づくりに終わりはない、という著者の所感が最後に示される。

  • 歴史から今の都市の形成を追う流れは読みやすかった。
    森ビルでの取り組みの思想は面白かったが、今後の展開が、都市の魅力再興ばかりなのは同意しかねた。
    ハードとコミュニティ形成の専門家なのだろうから仕方ないが、ソフト面への言及・検討が必要なのではないかな。

  • 一般の読み物として,都市計画の歴史などに関して一読の価値がある.ただ言っていることが森ビル顧問が書いてると思うと「どの口が言ってるんだこいつ」となるのではないかと思う.

  • これからの日本の街に必要なことは、みんなで便利に暮らすためのコンパクトシティの実現です。
    もともと城中心の街だったところに駅ができ、郊外に宅地造成されたことで人々は分散して住むようになり、街は中心地を失っていまいました。
    それをもう一度取り戻し「職・食・遊・学・住・医」のある、歩ける範囲のコンパクトシティを築くことは、将来的な街づくりの必須条件となると考えます。
    (引用)これからの都市ソフト戦略、藤後幸生著、角川書店、2019年、130-131

    今までの私達の住む街の成り立ちを知り、我が国の抱える課題、そして、なぜこのような都市ソフト戦略が必要かという豊富なエビデンスによって、読者は納得させられる。
    なぜ、著者は、これからの街づくりに「都市不拡散」と「商縮」を提言するのか。
    本書を読み、コンパクトシティの必要性や商業施設のみならず、そこに学び、医療など様々な機関が構成された有機的、かつ人の心に届くソフト的な都市戦略が必要あると感じた。
    それは、今までの様々な施策の反省から成り立つことも多い。過去から学び、時代の潮流に合わせ、未来のビジョンを見据えた街づくりがいま、求められている。
    特に、ストロー現象の話は、中部圏に住む私の心に響いた。それは、リニアが開通し、東京・名古屋が40分で結ばれるようになれば、名古屋が東京経済圏に統合されることになるかもしれない。つまり、「中部圏」という言葉がなくなってしまう可能性もある。しかし、著者によれば、アイディア次第では、中部圏はチャンスにもなり得ると言う。つまり、「逆ストロー現象」を起こす必要があるのだ。
    この一節を読み、私は、今後ますます高齢化が進み、交通インフラが整備されて人々の移動のスピードが速まることに危機感を抱くと同時に、さらなる自分たちの住む街の都市のソフト戦略が必要であると感じた。
    我が国は、超高齢社会を迎えている。そのときに、本当に住みやすい街、若者と高齢者が共存できる街、そして、いつまでも持続する街づくり。
    その具体的な手法を、森ビル株式会社顧問の藤後氏は、わかりやすく教えてくれた。

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著者プロフィール

株式会社タフ・コーポレーション代表取締役社長。三重県出身。大学卒業後、松坂屋(現・株式会社大丸松坂屋百貨店)を経て渡米。米流通業のノウハウや街づくりを日本に紹介する米国法人を設立。日米往復の中、森ビル株式会社・故森稔と出会い、アークヒルズ、六本木ヒルズ、ヴィーナスフォートなどの商業における都市開発を成功に導く。その傍ら、地方都市の中心地再開発に携わり、民官一体の地方創生を説く。森ビル株式会社、日本マクドナルド株式会社、タリーズコーヒージャパン株式会社等顧問、みえの国観光エグゼクティブ・アドバイザー。

「2019年 『これからの都市ソフト戦略』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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