いまさら翼といわれても (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041081648

作品紹介・あらすじ

「ちーちゃんの行きそうなところ、知らない?」夏休み初日、折木奉太郎にかかってきた〈古典部〉部員・伊原摩耶花からの電話。合唱祭の本番を前に、ソロパートを任されている千反田えるが姿を消したと言う。千反田は今、どんな思いでどこにいるのか――会場に駆けつけた奉太郎は推理を開始する。千反田の知られざる苦悩が垣間見える表題作ほか、〈古典部〉メンバーの過去と未来が垣間見える、瑞々しくもビターな全6篇。

感想・レビュー・書評

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  •  古典部シリーズ第6弾は、順不同の6つの短編が収録されており、謎解きはともかくとして、物語の素晴らしさはシリーズ一番なのではと思われた、それくらい心に残るものが強く、今回は折木奉太郎(ホータロー)だけではなく、千反田える、福部里志、伊原摩耶花、それぞれの新たなパーソナリティも知ることができた、ファン必読の作品。


    「箱の中の欠落」
     生徒会長選挙に於ける不正かもしれない謎を巡って浮かび上がる里志の、『物事がもっぱら道理に沿って進んでいるからこそ、自分がふざけていられるのだと言わんばかりに』、『不正義とか理不尽とかへの嫌悪感が人一倍強い』一面に、ホータローも感銘を受け事件解決に協力した友情は、それを二人だけの夜の散歩で考察する流れも合わさって、より思い出深いものになったのであろう、そうした感慨深さはホータローの始まりの文章からも実感できた。

    「鏡には映らない」
     かつての中学3年生のホータローの同級生たちは、何故か彼に対する印象が悪く、それはまた摩耶花も同様の思いであったのだが、その真相を知ったときの彼ともう一人の行いには、自分自身がどう思われるかというのは全く考えていなかったのであろう、それくらいの価値のある行動と繋がっていたのは、この年代ならではの陰湿さとでも言えばいいのだろうか、そうした感動的なものと不快なものとが共存した物語は、まさにタイトルとも呼応した、人の心は鏡に映らないから安易に扱いかねないが、だからこそ、それをいちばん大切にしなければならないのだと。

    「連峰は晴れているか」
     ホータローの『気になるんだ』と千反田の『気になります!』が初めて合わさったレアな物語は、たとえ二度と会わないかもしれない人であっても、その人の誤ったパーソナリティを簡単に他の人へと伝えることに躊躇いを感じる、そんなホータローの姿は後の物語とも重なることで、より印象深いものになるように思われた。

    「わたしたちの伝説の一冊」
     摩耶花のあの1件のいきさつが詳細に綴られた物語は始終重苦しく、しかも漫画で描かれた夢のある内容が現実の世界で起こってもただ鬱陶しいだけなんて、身も蓋もない生々しさも漂わせる中、『本って不思議ね。だれが書いてもいいなんて』という言葉もあることや、結末の吹っ切れ方に希望を見出せたことが、せめてもの救いだと思いたい。

     それから「鏡には映らない」も含めて、摩耶花と「ふくちゃん」の仲の良さを、今回摩耶花主観の物語でようやく実感できたことが嬉しくて、中々、ホータロー主観だとそれが分からないからね。

    「長い休日」
     ホータローと千反田の距離がまた一歩、ささやかだけれども縮まるきっかけとなりそうな、ホータローの『やらなくてもいいことなら やらない』理由がついに明かされるが、そこには彼も他の人と同じ、傷つくことだってあるひとりの人間であることがよく分かり、こういうのってきっと罪名とかは無いのかもしれないけれども、その気持ちは私も痛いほどによく分かり、世の中には二種類の人がいるといった分けられ方の無いような世界こそ理想なんだろうが、人が人である限り、それは難しいのだろうなと悲しい気持ちに陥りそうな中、タイトルにも込められた姉弟愛の素晴らしさを実感できたことで、ホータローは救われた部分もきっとあるのだと思い、それが今の彼のパーソナリティへと繋がっていることにも、確かな説得力を感じられた。

    「いまさら翼といわれても」
     夏休み初日に開催される合唱祭のソロパートを担当する千反田が、当日になって突然行方不明になった理由を、ホータロー、里志、摩耶花がそれぞれに協力して突き止める展開には、おそらく初めて見る千反田のある一面が垣間見えたのだが、それに寄り添うホータローの優しさが、また他の人には真似できないような彼らしさで、これまで彼女にしか分からないものを背負ってきた千反田を慮り、人の心とはこれくらい繊細なものなんだということを、彼はきっと読み手にも教えてくれたのだと思う。


     今のところ、物語としての古典部シリーズは本書が最新巻のようで、もう一冊「米澤穂信と古典部」というファン向けの本に、最新作が1編収録されているそうなので(しかも大日向が関わってる!?)、そちらも是非読みたいと思います。

    • akikobbさん
      たださん、おはようございます。

      私も今図書館で借りている本の中に、こちらと、『米澤穂信と古典部』の2冊がありますよ。「物語としてはシリーズ...
      たださん、おはようございます。

      私も今図書館で借りている本の中に、こちらと、『米澤穂信と古典部』の2冊がありますよ。「物語としてはシリーズ中いちばん」「ファン必読」の言葉に期待が高まります♪
      四人それぞれ、いろんな2人の組み合わせ、どれにも読み応えがありそうですね。追いかけます!
      2024/11/04
    • たださん
      akikobbさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)

      『米澤穂信と古典部』も一緒に借りられたあたり、さすが準備は万端とい...
      akikobbさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)

      『米澤穂信と古典部』も一緒に借りられたあたり、さすが準備は万端といったところですね。私はちょっと間が開くかもしれません。

      それから、本書に関しては4人それぞれの新たな魅力を知ると共に、彼らの本質的な部分にもふれている印象が強く、これまで以上に古典部メンバーの物語ということが実感できると思います。レビュー楽しみにしてます♪
      2024/11/04
  • この作者のデビュー作が「氷菓」だとは知らなかった。最初からハイクオリティだ。古典部シリーズは、最初アニメで見た。画面もきれいだったが、その内容の密度の高さにも驚いた。高校生たちの心理をよく描いてあって、その心理の綾を衝く推理も面白かった。高校生には高校生の毒があるのもリアルな感じがしたものだ。「やらなくていいものはやらない」とうそぶいているくせに、ついつい人のために頭を働かせてしまうクールなアニメの折木奉太郎がそのまま小説の中にいる。6篇の内、4編は折木の視点、2編は伊原摩耶花の視点で展開する。折木の小学校時代のエピソードが出てきたり、伊原のマンガ家になりたいという夢が一歩進んだり、千反田えるの家の跡継ぎの問題やらが出てきたりと、小説の中でも時はつぎつぎと流れている。折木の推理は相変わらず鮮やか。普通の人はこうはいかない。それにしても高校生もいろいろ大変だ。

  • 〈古典部〉シリーズ第6弾は、古典部の4人それぞれが語り手となる短編集。
    第1弾目の「氷菓」から彼ら4人の高校生活をずっと追ってきて、本書では彼らの今まで語られなかった一面を知ることができます。

    「鏡には映らない」
    中学の卒業制作の時にとったある行動によって、同級生に誤解されてしまった折木。
    同じ中学だった伊原がその真相を解き明かす。
    実は折木はヒーローだったなんて、かっこ良すぎます。

    「わたしたちの伝説の一冊」
    伊原が漫研をやめたその裏に、こんな凄まじい出来事があったなんて。

    「長い休日」
    奉太郎が省エネ主義になった理由は?

    少しほろ苦く重めで、悩みを抱えた高校生の物語から、心に刺さるところや学ぶことがたくさんあります。
    謎を解いたあとに残るさわやかさとか、必要以上に深入りしないところとか。

    そして、作者の米澤穂信さんのあとがきがまたさり気なくて、いいです。

  • 古典部シリーズ最新作。
    今までは千反田に苦悩と呼ばれるものが今までなかったので,
    最後の章はとても驚き胸が苦しくなってしまった。
    えると奉太郎が苦悩をどんな風に決着をつけるのだろうか…。

  • 古典部シリーズを一気読みして、とうとう最新作。
    シリーズの中でも1番を争うくらい良かった。
    個人的な事情で集中力欠けての読書だったものの面白く読めた。
    古典部それぞれの魅力をさらに深く知れた一冊。

  • 古典部シリーズ
    久しぶりにシリーズ物をしっかり最後まで読めた。
    腑に落ちないところもあれど、私からしたらちょっと特別な彼らの普通の高校としての一面がみれて良かった

  • 古典部シリーズ6作目
    「遠回りする雛」以来の短編集
    シリーズの中でも特にビターでほろ苦い話が多め。
    古典部4人の心の変化や成長を感じると共にこの後どうなっていくのかわたし、気になります!
    ホータローのモットーの原点となった「長い休日」がマイベスト

  • 再読。表題作もいいが、摩耶花が語り手となる二つの話が謎解きも含め面白く好み。古典部の4人だけでなく脇の登場人物までもきちんと描かれてるのがこのシリーズの良さ。読み終えて寂しい。

  • 短編集ですごく読みやすかったです。
    この本を読む前に原田マハさんの「本日は、お日柄もよく」を読んでいて、選挙関係のお話の始まりだったのでちょっと読むのが憂鬱でしたが(これは自分が悪い)その後の章からはすらすら読む事ができました。

    いまさら翼といわれても。確かにこの話は学生の人に多く当てはまる現象だなと思いました。自分の人生を振り返ってみると野球を小、中、高と続けていてその後に就職だ、進学だなど、何かやりたい事はないのか?などと聞かれるケースが多々あった。その時は今まで野球しかしてこなかったから、他の選択肢が何も見えなかった。千反田さんとは違う状況かもしれないが、これからも野球を続けていくんだという盲目的な心理に陥っていて、引退した後は「はい、今から君の好きな事、やりたい事、を選んで人生を決めなさい。」といわれても。何をしていいのかさえ分からなかった。
    自分の人生のレールを引き過ぎて、特急列車にしかならないよりも、各駅停車でゆっくりと。いろんな路線に可能性を見出して走っていこう。
    ってあの頃の自分に言いたい…

  • 古典部員、それぞれが主人公とした短編集。

    短編なのに、内容濃いめでガツンとした読み応えが好みでした。
    表題作「いまさら翼といわれても」は、なかなか考えさせられるラスト。決めるれた人生から解き放たれるって幸せや解放感だけではすまない、なんて考えも及ばなかった。
    決めるれた人生が幸せなのか不幸なのかは他人が決められることではない。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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