失われた過去と未来の犯罪 (1) (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041081655

作品紹介・あらすじ

ある日、人類は記憶障害に陥り外部装置なしでは記憶を保てなくなった。バラバラにされた心と身体が引き起こす、悲劇と喜劇。様々な生の記憶を宿す「わたし」とは一体何者なのか。壮大な物語が幕を開ける!

感想・レビュー・書評

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  • ある日突然全人類が10分程度しか記憶を保持できなくなる、というSFです。よくもこんなシチュエーションを思いつく。
    出会いがしらの人格の入れ替わりは使い古されたテーマですが、それをここまでSF的なロジックに落とし込んだ作品を私は見たことがありません。作中では言及されていませんが、外部メモリを悪用すると不死が実現しますね。

  • 宇宙規模の壮大なスケールに感動しました。
    ある日突然、全人類の記憶が10分程度しか持たなくなる危機が訪れます。
    半導体チップを身体に埋め込み、記憶を記録する人類へと進化していきます。
    身体と記憶が完全に分離した時「魂」は存在するのか。
    死後再生が可能な世界では、様々な葛藤が生まれます。
    「あなたはあなたの心のままに生きればいいのですよ」と第一動者は言いました。
    人生が現実だと思って疑わないが、実はそうしたいと自分の心の中で願っているだけなのかもしれません。

  • 人類が突然、記憶する能力を失ってしまった世界でのお話。
    当初はパニックに陥るものの、それから数十年後、記憶の外部記憶装置が完成し、人類はそれなくしては生きられなくなっていく……。

    記憶力を失い、肉体と記憶が切り離された世界で起こる様々な事件。記憶装置なく生きることを決めた人々、そして死者の外部記憶装置を挿入して“口寄せ”するイタコ。
    自己というものは何なのか、記憶や現実はどこまで信用できるのか。魂は一体どこにあるのか。
    新人類の創世神話ともいえるのかもしれない。
    色々なことを考えさせられる一冊です。

  • はじめは「殺人鬼にまつわる備忘録」でうんざりするほど読まされたやり取りをまた…?と思ったけど、こういう方向に持っていくのか!
    知の共有が究極的には個人へ回帰されるという流れは結構好きです。

  • ミステリというよりかはSF。
    人類の長期記憶がメモリに頼るようになったら…という設定の物語。その世界できっと行われるであろう犯罪の数々。

    もし死んでも、生まれ変わった時に今の記憶があればいいのにな、とか、子供になってやり直したいとか、そういう願望がなくはないのだけどね。

    肉体と記憶が別々になったら「自分」はどちらが主体なのか、「死」はどういう定義になるのか。いろいろ考えさせられる話でした。

  • これ面白かった。
    人類は突然長期記憶を失ってしまう。記憶を失くしていく人類はその状況になんとか気づき、対応していく第一章から、長期記憶を失った人類が外部記憶装置(メモリ)を当たり前に使う世界での人々の群像劇である第二章へと続く。
    その人の人生の記憶データを蓄積したメモリは、その人本人なのか?まるで魂のように、メモリは他人の肉体などに挿入され、物語は展開し、魂とは?現実とは?といった宗教的な疑問を呈する。
    長期記憶を失った人類、という設定を現実的な世界観まで掘り下げたSF作品。作家の想像力に脱帽。SFのどんな設定だろうが、実際の現実だろうが、ちゃんと掘り下げたら、行き着く場所は同じなのかもしれないと思わされた程。テーマは壮大なのに、ストーリーや登場人物は身近で等身大。会話文多めで読みやすく一気に読了してしまった。


  • 実際に外部記憶装置に記憶を記録出来る時代がやってきたら本当にこの本に書かれてる出来事が起こりそう…

    ってかよくこんな話思いつくな…と深く感心した

  • これは発想がおもしろいなぁ。
    本書は2部構成。突如として記憶が短時間で消えてしまう「大忘却」が発生した世界を舞台に、第1部では大忘却発生から事態の把握とトラブルの回避に努める人々を描きます。一方、第2部では時を進め、人々が記憶を外部記憶装置に頼ることになった時代、そして大忘却後に生まれた人々が繰り広げるドラマを通じ、人間の本質や世界の姿を考察するところまで至ります。
    第1部はドタバタ劇と泰三流ロジカルを楽しめましたが、第2部の最初のドラマを読んで、ああ1部は序章に過ぎなかったのだな、とてもおもしろいテーマを扱ったな、と痛感しました。最初のドラマとはちょっとした事故で他人の外部記憶装置を間違ってはめてしまうというもの。その結果、記憶は自分だが、体は他人という事態が発生。これは、自分とは肉体ではなく記憶なのか、自分の定義とは一体何なのか、という問いに結びつきます。第2部ではこういった肉体と記憶が切り離せるようになった世界で、アイデンティティーを問うようなドラマが展開。ついには外部記憶装置により、死者を蘇らせることすら可能になります。
    テクノロジーの進化がアイデンティティーの所在を問う物語はもちろんこの作品に限りませんが、ちょっとユニークな事象をキックに思考を推し進めるところが著者らしさでしょうか。

    泰三流のイかれた掛け合いこそ弱めな印象ですが、時折垣間見える登場人物のクレイジーさにニヤニヤしたりと、人におすすめしたくなる作品でした。

  • 最初はプククと笑いながら読んでたんだけど、あれ、これは一体どこへ連れて行かれるの?

    予測不能の物語に、さすがとか、まいったとかは言えないわ。

    恐れ入りました。

  • 色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。本物と幻を区別する方法がないのなら、本物と幻は同じものだと考えるしかない…そんなめちゃくちゃな!(でも「阿・吽」で般若三蔵も「目に見えるものも記憶も全ては虚妄」って仰ってた…)
    人とは記憶なのか、魂とは記憶なのか。ある人の記憶を他者に入れたら、その人を定義するのは肉体に依るのか記憶に依るのか…これはだいたい記憶が勝っていました。記憶が永遠に失われないとしたら、人が死ぬことは無くなるのか。
    いやぁもの凄いですね…人類の記憶が10分しか保たなくなるパニックSFかと思いきや、人とは何かをじわじわ考えさせられ始める。数多の人々の記憶を取り込んで輪廻転生に近いものになった、とか。
    地球に浄土が爆誕してしまうラスト、そして「間違ったら何度でもやり直したらいい」の創世記。面白かったです。

    解説の終盤に深く頷きました。今の風潮では「(今すぐ)役に立つか立たないか」で役に立つ知識が尊ばれるけど、大事なのは今は役に立つかわからんけどいつかは役に立つかもしれない知識でも入れとく事だろうと思います。役に立つか立たないかなんてこの瞬間にも変化してるかもしれないのに。
    そう思い、今日も役に立たなそうな知識を蓄えながら生きていく訳です。一劫の長さとか今のところあの世でしか必要ない。

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著者プロフィール

1962年京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」で第10回SFマガジン読者賞国内部門、2014年『アリス殺し』で啓文堂文芸書大賞受賞。その他、『大きな森の小さな密室』『密室・殺人』『肉食屋敷』『ウルトラマンF』『失われた過去と未来の犯罪』『人外サーカス』など著書多数。

「2023年 『人獣細工』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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