- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041081686
作品紹介・あらすじ
コーヒーの香りでふと思い出す学生時代。今は亡き、慕っていた先輩から届いた葉書には謎めいたアルファベットの羅列があった。小さな謎を見つめれば、大切な事が見えてくる。北村薫からの7つの挑戦。
感想・レビュー・書評
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無理やり☆5にさせられる感じかなあ。上手いんだよねえ、文章も題材の生かし方も落とし方も。7つの短編の内、6つが謎解きミステリー。謎を解きながら、ちょっとした人生の断片が顔を出す。そのさりげなさが憎い。最後の「ビスケット」の名探偵は、不思議な存在だ。「冬のオペラ」というこの作者のミステリーに出てくるらしい。現代という時間にいる名探偵を憎たらしいほど上手く描いている。憎い憎いばかり言ってるなあ。やれやれ。
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最早、研究書か蘊蓄小説しか描かなくなってしまったのかと思っていた北村薫が、原点に戻って「日常の謎」小説(短編集)に挑んだ。
謎を解くことで浮かび上がる、人の気持ち。それこそが醍醐味で、北村薫の優しさも相まって、読後感はすこぶる良い。
よかったのは次の数編。
「遠い唇」
女性の回りくどい意思表示は、わからないことが多い(←私だけ?)。でも、この小編の暗号がわかる人は少ないだろう。大学サークルの女性の先輩の連絡葉書にあった意味不明のアルファベット。先輩は「何でもないわ。‥‥いたずら書き」というだけ。
2年越しに解かれた謎は、ああ言った後の「硬く結ばれた唇」と共に永遠に記憶に残る。
「しりとり」
今度は、早世した夫が妻に残した俳句もどき。
数年前のメモが、作者の分身の如き「わたし」によって解かれる。どうしても解かれるべき謎ではないけど、解かれた時の風景が美しい。
「続・二銭銅貨」
言うまでもなく(と言う言い方が出来るのは、北村薫ファンぐらいなもの)江戸川乱歩の出世作「二銭銅貨」を俎上に上げて、かの作品の「隠れた真相」を乱歩自身が突き止めようとした小編である。時は太平洋戦争末期、乱歩は20年前に「二銭銅貨」の「案」を話してくれた人のお宅を訪れ、ずっと気にかかっていた疑問をぶつける。
‥‥とは言え、当然コレは北村薫の創作だ。基本あの小説「だけ」から、これだけの「真相」を創作できるのだから、やはり北村薫は凄い。
「ゴースト」
北村薫は編集者を主要人物にすることが多い。「八月の六日間」も「太宰治の辞書」も、この短編集の「しりとり」でも、この「ゴースト」でも編集者が出てくる。北村薫の活動範囲は書庫か図書館か、それとも各出版社の編集者(何故か女性)との語らいなのだろうか?それは兎も角、女性の細やかな心理は描かれている。
‥‥と思っていたら、後書きで主人公は「八月の六日間」の朝美だと「謎解き」がありました。
「ビスケット」
「日常の謎解き」ではない。殺人事件が起きてしまう。しかも、「冬のオペラ」の巫弓彦と姫宮あゆみコンビが20年ぶりに再会する。それもそのはず、テレビ番組用の特別原作として書かれたという「謎解き」がありました。 -
謎解きがもたらす余韻、の一冊。
バラエティに富んだ謎解き七篇は第一話の「遠い唇」でいきなり珠玉の味わい。
この小さな謎解き後の余韻、謎解きの爽快感がいきなりせつなさに姿を変えて心に残るこの余韻がたまらない。
心のどこかがキュッとした、その瞬間をたしかに感じた。
香りやもので呼び起こされるあの時。
時を経て受け取るあの時のあの想い。
こういう形で想いが大切な人の心に残る…これもまた幸せの一つなんじゃないかしら。
そしてこの作品が自分の心にも忘れがたいものとして残る…うん、なんか今、すごく幸せ。 -
人の死なないミステリーを描かせたら随一と感じている北村薫氏の短編集。
大学時代の先輩が葉書に残した暗号、江戸川乱歩の「二銭銅貨」へのオマージュのほか、ミステリーからは少し離れる二作品、そして最後の一作は殺人事件だが、血生臭くないダイイングメッセージもの。
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北村薫の作風の幅広さとその博識ぶりが遺憾無く発揮されております。ミステリー要素も一級品なのは言うまでもなく、漂う哀愁とクスッとさせられるユーモアがたまらない。核心をつくひとフレーズを随所に発揮させるその筆致に感服です。
「続・二銭銅貨」はすぐさま元ネタを手に取ってみた。確かに最後のぼやかし気味の幕引きは気になるかもなーと思うけど、そこを創作で補完するなんて。北村薫の末恐ろしすぎ。
お気に入りは「解釈」かな。異星人が純文学から地球人をら勘違いしていく展開が単純に面白い。こんなライトに文学作品を題材にした作品があれば、取り上げられた作品のハードルが引き下げられて読者層の幅広がるだろうなと夢想しちゃう。
既作品との関連がある作品があったので、ぜひ立ち戻ってみたいと思わされる。読書の目標がまた一つ増えて嬉しい。 -
バラエティに富んだ謎解き短篇集。
短いながらも印象に残る話が多い。
表題作は苦いような切ないような気分になった。
無性にコーヒーが飲みたくなる。
特に気に入った作品は、しりとり。
すごく良い。この17文字は刺さった。
何度でも読みたくなる。
宇宙人が名著を読む「解釈」は発想が面白い。
そう読んじゃいますか、と笑いたくなる。
なかなか楽しい短篇集だった。 -
大学教授の寺脇は、同僚と教職員食堂で、食事をとりながら、学生時代を思い出す。きれいな字を書くひとつ上の長内先輩に、宛名書きを頼んだこと。その中の自分宛のハガキに添えられていた謎のアルファベットの意味は何だったのか。(表題作『遠い唇』ほか6篇)
ちょっとした謎と、大人だからこそ味わえる、ほのかな甘みと苦味。サクサクと読むのはもったいない極上の短編集。昔ながらの珈琲専門店で、ゆっくり味わうのも良さそう。