愛と髑髏と (角川文庫)

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  • KADOKAWA (2020年3月24日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784041081983

作品紹介・あらすじ

檻の中に監禁された美青年と犬の関係を鮮烈に描く「悦楽園」、無垢な少女の残酷さを抉り出す「人それぞれ噴火獣」、不可解な殺人に手を染めた女の姿が哀切な「舟唄」ほか、妖しく美しい輝きを秘めた短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 最近初期作品の復刊が多くて、いちファンとしてはうれしい限りです。この作品集は、1970年代からの幻想小説が収められたものですが、時代の違いを感じる単語はあろうとも、作品そのものに漂っている世界の描きかたには古さがありません。
    夢と現のあわいを漂わせる、艶めいた毒気漂う筆致で綴られる物語は、「お話」の魅力がけして起承転結だけにとどまらないことを改めて感じさせてくれます。ミステリ要素があろうと、恋愛を絡めた悲喜劇であろうと、作者の手わざにかかればそれは要素のひとつに過ぎない、と思うのです。あくまで、描く人々の愚かさ脆さ美しさ醜さや、世界の残酷さ哀れさ滑稽さ、その感触をつぶさに楽しむのが本質、などと思ったりするのです。
    この作品集で一番好きなのは「復讐」です。全体像がラスト二ページで鮮やかに翻った展開はまぎれもなくミステリ要素なのでしょうが、そこで見えてくる「復讐」のほんとうの意味の闇深さがたまらなくぞくりとさせられたのでした。
    甘い毒、などといっては稚拙な比喩になってしまいますが、まさにそのようなわかっているのにやめられない、そういう感覚を抱かせる一冊でした。

  • 昨年から角川文庫が皆川博子の短編集を復刊してくれるので嬉しい。こちらは全体的にグロ率高めのダークで退廃的な作品が集められた短編集(1978~1983年の発表作品)

    「風」「丘の上の宴会」の、どちらも死者と生者がラストでくるりと反転するところがゾクゾクして好き。時計犬という謎の仕組みがおぞましい「猫の夜」は不条理な寓話。

    突然犬のように檻に入れられ連れまわされる狂気の幻想「悦楽園」と、見知らぬ男に拾われて野犬を狩りにいく「曉神」は、どちらも犬が重要な役割を果たし、夢(狂気)と現実が地続きでループしているのが恐ろしい。

    「噴火獣」「舟唄」「復讐」は、表面的な事件だけをなぞるなら、ただの殺人事件なのだけど、その裏にある心理、狂気を垣間見ると一気に幻想味を帯びてくる不思議。

    とにかく犬、猫がよく出てきて、大概酷い目に合わされているので、動物好きの方は要注意。たとえば動物の出てこない「復讐」にも憎い女の後姿について「ふてぶてしい猫の臀のよう」という比喩があったり、全作通して、獣くさい印象が強く残った。

    ※収録
    風/悦楽園/猫の夜/人それぞれに噴火獣/舟唄/丘の上の宴会/復讐/暁神/解説:服部まゆみ

  • 素敵! 言葉にならない!
    皆川博子さん、大好き!

  • 毒杯とわかっているのに、呷りたくなるような。
    甘美で恐ろしい短編集でした。

    『人それぞれに噴火獣』が好き。
    世界に馴染めない「子供」であると同時に既に小さな「おんな」で、両者が共存する我儘が哀しく恐ろしい。

  • 短編集。
    個人的に一番は「人それぞれに噴火獣」
    周囲に思うように愛されない主人公・蕗子の母曰くの「可愛げのなさ」の描写の巧みさ、それでも少しだけ誘われる哀れみの感情。暗く歪んだ爽快感のバランスが上手い。
    子供だから理解出来なくても仕方ない…が、蕗子の父と吉岡の関係性からすると本当に怒りを覚えるだろうな…と(前提としてまず両親と吉岡の関係性も歪みがある)
    最後にほんの少し見える吉岡のエゴ、欲しいものが手に入るかどうかは少し怪しいラスト。非常に好み

    この短編のみならず、全体にそれぞれが背負う噴火獣シメール=幻想・妄想が火を噴く様を描いていて、他短編集よりは理解しやすい方では…と思う。
    それでも「猫の時間」はどうやったらこんな装置を思いついたのだろう…と不思議になるが。昭和の日本を舞台にゴシック全開の物語である「人それぞれに噴火獣」と「猫の時間」は皆川節全開、一方で「丘の上の宴会」や「復讐」は何となく皆川作品ぽくないなと思ったりもある。


  • 読後静かな興奮に包まれる。この美しくて狂おしい小説世界は魅惑的で、私もここに加わりたいくらいだ。
    8作品、一つ一つが濃密。作り物ではなく、たしかにそこに生きている人々がいると感じられる。不幸で底知れぬ、匂い立つような情念が漂っている。

    特に好みだったのが「丘の上の宴会」。死んでいると明かされた時の驚き!今村家のみんなも何だか楽しそうだし、雪子も淡々と自分の死を受け入れて通夜の支度のことを考えたりしているところ、好きだった。もう他人の反応を気にする必要もないのだ。

  • 「実際、毒のない文学、毒のない話が面白かろうはずがない」…解説の服部まゆみさんの言葉に深く頷きます。
    毒が満ち満ちていました。好きです。
    犯罪を犯すお話が多かったですが、それに至る心情が一筋縄ではいかず…人の心って割り切れないし、こう!と周りが表現できるものでもないけれど、皆川さんの描く人々は、心に溜まっていく澱がよくわかります。
    だんだん溜まっていって、もう無理…戻れない、となったところで、妹のお臀を押したり、近所の兄さんを灰皿で殴ったり、鈴蘭入りの水を飲んだりするんだ。。
    犯罪を描いても、どこか幻想的で良かったです。「猫の夜」は犬好きにはかなりキツイですが、これが1番残ります。壊れた秩序はこれからどうなるの。。
    復刊なので生まれる前とか1桁の年齢だった頃に書かれたお話ばかりでしたが、今でも読めるの嬉しいです。

  • タイトルと表紙に目がいき、そういえば最近皆川博子さん読んでなかったな……と思い出して購入しました。
    裏表紙には“ 伝説の短編集が甦る!”とあります。私はまだ、女王ワールドの玄関先でオズオズと中の様子を窺っている風情で、この短編集の位置付けなどは後から知りましたが、とにかく「甦ってくれてありがとう!!」という気持ちでいっぱいです。

    収録作の中で比較的硬質と感じた「猫の夜」はしびれました。世界と隔てられた部屋において、永遠のように続けられている所業とその破滅。収録されている集英社文庫版解説で服部まゆみさんも書いてらっしゃったように、フィクションであっても動物が痛めつけられるのは無理だという人には耐え難い作品かもしれませんが。
    「舟唄」もめちゃくちゃ好きです。地下道のウサギとダルマ……濃い闇の中で唐突に耳に入る「眼を狙えよ」……刹那というものの、美しさや傍若無人を体現したような若者二人……。ほんらい幻想の世界に属していないリアルの側の様々が、折り重なって溶け合った結果めまいする世界を創り上げているようで、読む至福にずぶずぶ浸ってしまいます。
    「風」はとにかく良い。他に言葉が見つからない。

    美しい幻想とひとくちに言っても、きらきら眩しく輝いているものは、目が痛んで上手く眺められないことも私にはままある。こういう、ドロドロ纏わりついてくる悪夢なんなら腐臭添え、みたいなほうが性に合っている気がします。
    しかも、幻想小説と聞いて私がイメージするよりもずっと読みやすかったです。

  • 「風」★
    「悦楽園」
    「猫の夜」★
    「人それぞれに噴火獣」★
    「舟唄」★
    「丘の上の宴会」
    「復讐」
    「暁神」
    解説 服部まゆみ
    編者解題 日下三蔵

    語り手あるいは視点人物が実は@@だった、という私好みの叙述でもあり。
    皆川博子独特の、デストルドーというかタナトスというか、が、ひたひた。
    中年女性(生活)の挫折=少女性(夢想)の勝利、というラインが、嗜虐被虐の一点に押し込められていくという……これはもう立派な文芸批評の対象になりうる作家性だ。
    中年女性については「舟唄」、少女については「人それぞれに噴火獣」、そして少女性を離れた寓話としては「猫の夜」。
    凄まじいの一言に尽きる。

  • こちらも、既読短編がちらほら。

    「人それぞれに噴火獣」
    噴火獣とは、シメール(フランス語でいうキメラ)。
    妄想、空想の、火を噴く複合獣の怪物…。
    あまりにも皆川博子世界観やんけ……。
    無垢と邪悪が共存する少女の抱く、幼い妹への鬱屈、父母へのおさない憎悪、身近にいる若い男への憧れ…。
    み、皆川博子だ…。
    その若い男と少女の父親がどう考えても愛人関係やろがいってのも含めて…皆川博子……。

    「復讐」
    狂女ものだ…。
    それでいて、狂母ものだ……。
    愛も憎しみも、狂気も、すぐにくるりとすり替えられる。

    「暁神」
    夢オチにしては………????
    っていう、いつもの皆川博子幻想短編小説。
    そういう感じなのにちゃんと後味が悪いんだぜ…すごいよな……。

  • 『娯楽』★★★☆☆ 6
    【詩情】★★★★★ 15
    【整合】★★★☆☆ 9
    『意外』★★★★☆ 8
    「人物」★★★☆☆ 3
    「可読」★★★☆☆ 3
    「作家」★★★★★ 5
    【尖鋭】★★★★★ 15
    『奥行』★★★★★ 10
    『印象』★★★★☆ 8

    《総合》82 A-

  • 幻想小説。美しく静かな狂いと歪みに浸された「をんな」たちの話が8つ。
    装飾の施されたとても美しいティーカップにとぷりと入った毒入りの紅茶を飲んでしまったような感覚。ゆるりじわりと毒に犯され、見てはいけない何かを見ているような、そんな。
    美しい文章で綴られる毒が気持ちいい。

  • 皆川博子作品は数冊読みましたがこの短編作品も個性豊かで語彙がとても豊富でおられ、心地良いけどどこかお話はダークでありながら読み手のペースを崩さない感じの著者であると感じています。又改めて再読したいと思う作品でした。

  • 初期の短編集、伝説のそれというだけあって、よみながらぞくりとする。
    甘さのある毒なぞ、考えたくもない、!
    という事で若い頃から敬遠気味だった怪奇小説・・とはいえ皆川さんモノは年に一回くらい読んできた・・麻薬の味。
    解説に有る通り「スズラン」のテイスト・・根に毒を持つ美しい花の装い。

    今90歳の筆者、200歳まで生きて欲しい・・文を読ませてほしい。
    この作品は1985年物の復刊・・だけに皆川氏が怪奇小説のあるジャンルを確立するに至った助走の煌めきを感じる。

    晄、色彩の表現が随処に有るせいか、読みつつも時に、眩暈を覚えたり、幻惑に誘い込まれる。「通常で無い」人・・女、娘が多い 文となると接写感覚のせいもあり「心身共に」ぎりぎりの場面がどの短編にも多い。巧いなぁと思う反面「通常で無い」という私の主観からすると共感持てぬ、受容できぬことになる・・そのストレスが読みたいと思わせる媚薬に反転している。

    8つの短編中、7編は犯罪が絡む「をんな」の様。「をんな」と表示するだけで妄想に反転するけど。

  • 皆川作品はとても良いセラピー。
    皆川作品を好むような人種なら、ここに描き込まれている感覚や感傷やぬるりとした感触に身に覚えがあるでしょう?
    こうして文章として紡がれていることで許されざる感覚たちはどうにか報われて、それでどうにか我々は今日も現実世界を生きていけるのです。

  • 久しぶりに皆川さんの短編を読んだが、その絶妙な毒にクラクラした。
    すべて人間の醜いともいえるエゴが剥き出しなのに、繊細なレース編みみたいな幻想的な美しさをもつ短編。解説の服部まゆみさんが言いたいことを全て言ってくれている。
    特に「舟唄」の愛の形が好き。

  • 再読。
    何度読んでもゾクゾクする。これって初期作品に入るんだよな〜凄いよなぁ〜……。

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著者プロフィール

皆川 博子(みながわ・ひろこ):1930年旧朝鮮京城生まれ。72年『海と十字架』でデビュー。73年「アルカディアの夏」で小説現代新人賞受賞。86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞、ほか多数の文学賞を受賞。著書に『聖餐城』『海賊女王』『風配図 WIND ROSE』『天涯図書館』など。

「2024年 『大江戸綺譚 時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

皆川博子の作品

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