- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041081990
作品紹介・あらすじ
愛する男を慕って、女の黒髪が蠢きだす「文月の使者」、挿絵画家と若い人妻の戯れを濃密に映し出す「青火童女」、蛇屋に里子に出された少女の記憶を描く表題作他、密やかに紡がれる8編。幻の名作、決定版。
感想・レビュー・書評
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美しかった。どこまでが現実でどこまでが幻想なのか分からない世界観。
文月の使者、玉虫抄が好きだった。 -
皆川博子二冊目。前回読んだ『倒立する塔の殺人』よりも幻想色が強くて読みづらかったけど、それに退屈さを感じることは全くなく、重厚感のある短編をそれぞれ深く味わうことができた。
どのお話も戦前の近代日本を舞台にしたものだから現実味のない感じにはならない。むしろ現実の中に潜む異質がその幻想をより一層濃く仕立て上げている。とある中洲を舞台にした「文月の使者」から始まり、その後の数話は中州から離れるが、最後の二篇で戻ってくる。そして最後に収録されている表題の「ゆめこ縮緬」ではこの短編集がまさしく一つになるという仕掛けがあって思わずぞくりとしてしまう。
物語自体は純粋な美しさはない。登場人物たちは己の欲を満たすために動き、生死が交差する話が多い。けれど、皆川さんの紡ぐ言葉は美しい。語彙が豊かで艶っぽく、かつ繊細に一つ一つの描写を表している。その対比が、この物語の中毒性のような部分を生み出しているのではないかと思う。
中でも「影つづれ」と「桔梗闇」が好きだった。玉藻前は知らなかったけれど、その伝説について語る「影つづれ」には引き込まれた。 -
表題作含む8編短編収録。皆川博子さんが紡ぐ幻想的な物語は絢爛豪華な闇色。死と血と官能に彩られた美しい漆黒の花が誘うように咲き乱れ、蔦が繁るようにして物語を織り上げる情念が読み手を絡め取る。どの作品も絶品。甲乙付け難いけれど「文月の使者」が一番のお気に入り。一度読んだらもう戻れない皆川ワールド。暗黒耽美な世界をぜひ。装丁も美しく、飾りたくなってしまう一冊。
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ずっと手に入らなかった短編集が18年ぶりの復刊!「文月の使者」はアンソロジーなどで既読だったけれど、何度読んでも鏡花風でとてもいい。というか解説にもあったけど全8編すべて泉鏡花風を意識して書かれていたように思う。大正~昭和初期の和洋混在の風俗、書生さんや女中さん、お金持ちには妾がいて当然、そして乳母やばあやのいる生活。
精神病院のある「中洲」が舞台になっているものがいくつかあり、どの短編でも医者はだいたい冷酷非道という共通点があるのだけれど、最終話の「ゆめこ縮緬」で全部が繋がって、鳥肌。連作短編というわけではなく独立した短編として読んでいたので、思いがけないオチがついて絶妙の構成だった。
「影つづれ」は玉藻前の物語が、「桔梗闇」「ゆめこ縮緬」は西條八十の詩が効果的に使われている。頽廃的でエロティックで残酷で、この「和もの」幻想譚は、多方向に展開する皆川ワールドの一方の頂点だと思う。世代的にももうこういう文章を書ける作家は今後出てこないんじゃなかろうか。
※収録
文月の使者/影つづれ/桔梗闇/花溶け/玉虫抄/胡蝶塚/青火童女/ゆめこ縮緬 -
「文月の使者」が印象的だ。中洲の煙草屋で話をしているだけなのに、男なのか女なのか、生者なのか死者なのか、境界が分からなくなってきて、どうにも妖しい。
他の話も、ただぼんやりと読んでいても話が頭に入ってこない。流れるような美文なものだから騙されているような気分になってくる。なんとも妖しい一冊だった。 -
耽美。好き。