勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 179
レビュー : 18
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041084229

作品紹介・あらすじ

看護師の月岡美琴は松本市郊外にある梓川病院に勤めて3年目になる。この小規模病院は、高齢の患者が多い。 特に内科病棟は、半ば高齢者の介護施設のような状態だった。その内科へ、外科での研修期間を終えた研修医・桂正太郎がやってきた。くたびれた風貌、実家が花屋で花に詳しい──どこかつかみどころがないその研修医は、しかし患者に対して真摯に向き合い、まだ不慣れながらも懸命に診療をこなしていた。ある日、美琴は桂と共に、膵癌を患っていた長坂さんを看取る。妻子を遺して亡くなった長坂さんを思い「神様というのは、ひどいものです」と静かに気持ちを吐露する桂。一方で、誤嚥性肺炎で入院している88歳の新村さんの生きる姿に希望も見出す。患者の数だけある生と死の在り方に悩みながらも、まっすぐに歩みを進める2人。きれいごとでは済まされない、高齢者医療の現実を描き出した、感動の医療小説!

感想・レビュー・書評

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  • 若い看護師と研修医の、恋と成長の物語。
    全体的に前向きで、時にじーんとくる。

    『神様のカルテ』とつながった世界。

    ほとんどが高齢者で、認知症と寝たきりも多い、地方の小規模病院。
    取り上げられる問題は、高齢者ならではの内容。

    治療を終えて元気になって退院するのが普通の病院の医療ものとは、一線を画す。

  • 神様のカルテの別バージョンかな。
    看護師の美琴と研修医の桂とが、地域医療が抱える問題をテーマとした物語をすすめていく過程で、お互いに成長していく様が描かれています。
    この本を通じて、医療とは生と死とはについて考えさせられます。また、「花」をうまく題材に組み込んでいるなと思いました。

    二人の関係も発展していくので、その意味でも今後が楽しみです。


  • 終末医療を縦糸に、研修医と看護師というハードワークを横糸に、松本を舞台に描く恋の話。『神様のカルテ』の著者の作品ということで新聞広告を見てすぐポチる。『神様のカルテ』で描かれる医師にはベテランが多いが、本書では若い研修医、看護師が中心になり、医療とは、医療のこれからを考えさせられる。このシリーズも続くといいなと思う。『神様のカルテ』が好きなら必読。

  • 地方病院での高齢者医療や経営を題材にした一冊。
    看護師3年目の美琴と研修医1年目の桂を始め、会話は軽快。花の名前もたくさん出てくる。
    そのためか、重い題材なのに、軽くサクサク読めてしまい、自分の中で戸惑いが生まれました。

    認知症や寝たきりの高齢者への治療をどこまで行うのか、どのように考えるのか。
    ままならないこと、納得いかないこと、様々な現実を目の当たりにしながら、二人は様々な個性のある先輩たちに揉まれて成長していく。自分なりの哲学を作ろうとしていく。

    医療に正解はなくて、やれることすべてをおこなうことが正しいわけではない治療。家族の希望もふまえ、そのときそのときの最良の治療を行う。時には指導医に意見しても。

    難しいテーマでしたが、この作家さん独特の優しい世界で溢れていました。主人公二人の今後も気になるところ。神様のカルテのあの方らしき方もちらりと登場。姉妹編になるのかな。

  • この話を読み始めたとき、有川浩さんの『植物図鑑』の冒頭、川端康成の引用『花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。』という一節を思い出した。


    長野の舞台の医療現場の話かぁ……。『神様のカルテ』と被るなぁ。でも、今度は看護師さんの話か。ふむふむ……
    てな感じで読み進めていたが、『神様のカルテ』とは、明らかに違うテーマが書かれていた。
    それは、『死』と向かい合う医療とはどういうものか、ということだ。
    主人公は、看護師と研修医。どちらも若く、自分の『仕事』をこなすのに精一杯。ベテランの先輩の在り方を見ながら、自分達で考え、答えのない問題に、何らかの答えを出さなければならない案件に直面していく。
    難しい問題なのに、日頃は、どこか遠くの話のように、それこそ、小説やドラマを見ているような客観でいた『死』や『老い』というものは、実は隣り合わせにあるのだと、重くないタッチで、切実に描かれている。
    いろいろ考えされられながらも、楽しんで読めた。

    あの人がちらりと気配を見せたときには、わぁ・:*+.\(( °ω° ))/.:+ってなったよ!

  • 『神様のカルテ』の著者による医療ものの新作。
    年若い研修医と看護師が向かい合うのは、高齢者医療がメイン。
    読んでいて、生でなく死と向き合う医療、次世代や未来に繋がる医療、という事が重く心に残る。
    今の医療の厳しい現実と向き合いながらも、どこか温かい物語になっているのは著者が未来、人間に向ける眼差しが温かいのだろうか。
    医療従事者には心から頭が下がります。
    お医者さんが身体を労れずに医療にあたる現実はどうにかならないのだろうか。
    なんかおかしい、その感覚をすくいあげて言葉にして示す難しさ。
    人の数だけ正しさも見える景色も違う。
    これからの時代、家族や自分の老後、子供たち、物語を楽しみながらもさまざまなことを考えさせられた。
    怖くて向き合いたくない死、思考停止にならないようにしなくては。

    あの人の影が見えたのは嬉しいところ。
    このシリーズも続くのかな。
    物語の形で見せて頂ける医療の現実。
    期待しています。

  • 基本辛い話だけど。
    若い二人が安曇野で愛を育む話でもあって、松本が素晴らしい土地だから、なんとか読むことが出来る。
    そこが上手。

  • 安曇野の病院に研修医としてやって来た桂正太郎。ここでは入院患者は老人ばかりで胃瘻など終末期医療について悩む。月岡美琴は3年目の看護師。無茶を言う患者家族や事なかれ主義の上層部に噛みつく。

    とっても面白かった。

    「神様のカルテ」とは別のシリーズだけれど流れる哲学は同じ。

    回復の可能性のない老人を生かし続ける事の意味や、医者に任せるだけで考えようとしない患者家族など色々かんがえされられる。

    「テレビや小説では"劇的な死"や"感動的な死"ばかりが描かれる一方で、地味で汚くて不快な臭気を発する"現実の死"は、施設や病院に押し込んで黙殺する。そういう現代の医療が直面している闇の一端が、社会の縮図が、桂の前に立ちはだかっている問題なのである」

    続編をぜひ読みたいけれど、連載が3年もかかっているので、いつになることやら。

  • 現在の日本で避けることができない地方の高齢者医療についての物語。難しいテーマだが大変読みやすい物語となっており、色々考えさせられる本。
    医療物語だけでなく、主人公の恋愛模様もあり大変面白い。
    さすが夏川さんと感じた。

  • 正義とは
    常に主観と偏見の産物



    この人の本を読んでいると、おお!俺という人間も案外素直な人間なんじゃないか? と…

    物事斜めに見ている訳ではないけど、垂れ流されるニュースやバラエティ番組に毒を吐きまくってると、ふと自分が面倒臭い偏屈野郎のような気がして来る。
    そんな私が、
    著者の「思惑通り」に、非人道的な医者のやり方に憤り、その背景を知ってちょっと同情したり…
    お約束のカップル誕生にニヤついてるのだから。

    奇抜でも新くもない設定の物語にこうも引き込まれるのは、提示される大きなテーマが、まさに医療現場で起きている…けれど、日常の生活をしている限りは直面しない問題。
    それでも、いつかは必ず判断を迫られる問題だからなのだろうか…

    最後まで悩む事、考える事を放棄しない人間でいたい

    (1)秋海棠の季節
    美琴の働く梓川病院に一年目研修医の桂正太郎がやって来る。奇妙な言動と粗雑な風体ながら、真心こもった応対を見せる男に次第に心惹かれてゆく美琴だった。桂の担当患者・長坂は末期の膵癌。秋海棠を愛し、妻子を愛するこの患者にせめて満開の秋海棠をと願うも、悪化の一途を辿り還らぬ人に。
    長坂の教えてくれたダイコンを切りながら神を呪い、それでも人間の…そして医師の可能性を信じると語る桂だった。
    一方美琴は、大滝の後任として主任への昇進を打診される。三島は、病院のVIP患者の知人から届いた投書を見て決めたという…

    (2)ダリア・ダイアリー
    三島の下での消化器内科研修を終えた桂は、高齢の患者の急変には追加の治療をせず片っ端から看取る事から「死神の谷崎」の異名とる男の下で循環器内科の研修に入る。
    高齢者を枝葉と言い切り、切り捨てなければならないと明言して憚らない指導医との仕事で、強度のストレスから疲弊してゆく。
    さらに、感染症等の問題から病院内の生花を禁止する案が採択されそうになり桂は強く反発するが…
    循環器科研修も終盤に入る頃、ついに指導医の指示に逆らい追加の治療を施した事を咎められた桂は、その理由を問われ答えた…
    家族に繋ぐために・・・

    花を飾ろう作戦のアドバイスのお礼に、美琴の奢りで行ったランチの道中、意を決した桂はついに告白する。

    (3)山茶花の咲く道
    日勤を終え、大滝に頼まれヘルプで入った食事介助を引き継ぎ、帰ろうした美琴と京子の前で、80才の患者・山口が食事を誤嚥し死亡に至る。
    保身に走る病院は、事前に慰謝料を支払い鎮静化を図ろうとする。

    何がおかしいのか…
    会議の中、湧き上がる違和感の本質を論理的に説明出来ない美琴に桂の的確なサポートが…
    「未来の為に・・・」

    (4)カタクリ賛歌
    腹痛と発熱で救急搬送されてきた患者は95才の女性・内島やゑだった。総胆管結石による急性胆管炎。ERCPによる処置がもっとも適切と言えるが、安全とは言い難い上に95才という年齢によりリスクは一気に跳ね上がる。加えて、もう十分に生きた」というやゑの言葉に治療を断念する。

    一方、同室の患者・田々井は殆ど意識の無い状態で胃瘻造設を検討するが、桂は孫の投げ槍とも言える態度に違和感を覚えるが、三島から「胃瘻を作るか作らないかではなく、胃瘻を作るか患者を死なせるかの選択」だと突きつけられ愕然となる。
    久々ののデートでカタクリの群生地を訪れた美琴と桂は短期外泊していた内島親子と遭遇する。
    生まれ育った美しい風景の中、穏やかで満ち足りた表情を見せるやゑと、それを優しく見守る息子を見た桂の心に、かすかに火がともる。
    田々井の孫を呼び出した桂は、相変わらず「悩む」事を放棄し医師に丸投げする孫に、カタクリの花の話を聞かせ「看取り」を勧める。

    一方、95才の内島やゑは「まだ根が切れていない」とERCPの治療に踏み切り、施術を三島に依頼するのだった。


    ◯月岡美琴・・梓川病院三年目の看護師。
    ◯桂正太郎・・花屋の息子。一年目の研修医。
    ◯三島先生・・副院長で内科部長。特に消化器領域の権威。「小さな巨人」と呼ばれ観世流の謡を嗜む。
    ◯谷崎先生・・循環器内科20年のベテラン指導医。過去に、高齢者の大量輸血とタイミングが被り妻を失った…?
    ◯沢野京子・・美琴の同期。髪の色が奇抜。
    ◯大滝主任・・170cmの大柄。看護師達の信頼が厚い5年先輩の主任看護師。
    美琴を自分の後任に推薦。
    ◯内島親子・・口の悪いハゲ息子と、人生に諦念している95才の胆管炎患者。

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著者プロフィール

夏川草介(なつかわ そうすけ)
1978年、大阪府生まれの医師・小説家。信州大学医学部卒業後、医師として勤務。そのかたわら2009年に『神様のカルテ』で第10回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。同作は第7回本屋大賞2位となり、2011年、2014年に深川栄洋監督、櫻井翔主演で映画化される代表作となった。

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