最後の晩ごはん 秘された花とシフォンケーキ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041084502

作品紹介・あらすじ

節分。恵方巻きを振る舞う「ばんめし屋」を、作家の淡海が訪れた。彼は店員の海里に、彼を小説のモデルだと発表したことを謝る。そして罪滅ぼしのように、彼に小さなステージへのオーディションを提案し……

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ第12弾。
    前作で、小説家の淡海が爆弾発言をし、騒動に巻き込まれた海里。
    夏神とロイドも淡海に対して、わだかまりを抱えたままになっている。
    今回の物語は、淡海が謝罪し、なんとか以前の関係性を取り戻す場面から始まる。

    そんな淡海が罪滅ぼしのように、海里に朗読舞台のオーディション話しを持ちかける。
    海里はここから新しい一歩を踏み出すが、それは小さいかもしれないけれど、確かな一歩。
    本当に成長したなぁ、なんて思ってしまう。

    また夏神も少しずつ前へ進もうとしている。
    この二人を見守るロイドの存在が本当に良い。
    海里と夏神の気持ちを察知し、絶妙なタイミングで声をかけたり気配を消したり。
    エピローグではロイドの素敵なお話。
    本当にこのシリーズ、回を重ねるごとに愛しい。

  • 夜だけ営業する定食〈ばんめし屋〉を舞台にした、ちょっと不思議で温かいシリーズ第12作。

    前作で常連客の作家・淡海の爆弾発言により再び厄介な形で芸能界と世間から注目を浴びることになった海里〈ばんめし屋〉。
    淡海からの謝罪を受け入れ和解することから始まる今回の話だが、この辺は表現者たる作家と役者の感覚の、悪く言えば業のようなものを感じる。
    しかし一方で、これだけのことをしたからには良い作品を創らねばならないという、自らを追い込む覚悟も感じる。
    そういえば以前海里は自分を陥れた女優と再会したときに、自分にこれだけのことをしたのだから立派な役者になってみたいなことを言っていた。

    海里が淡海のツテで見つけた新しい道は、これまでいた芸能界とは違う、華やかとは程遠い場所ではあるものの、誤魔化しのきかない舞台であり、地に足つけて少しずつ進んでいく未来を感じさせるものだった。
    とは言え、〈ばんめし屋〉での日々はもう少し続きそうでホッとする。

    夏神の方も、変わらぬ味を提供する定食屋の料理人としてどう成長していくのかという悩みを持つようになる。それは海里の姿に刺激を浮けてのこと、彼もまた新たな一歩を踏み出そうとしている。
    今回は幽霊の出番はそう多くないが、幽霊の老人の言葉は夏神の亡き師匠の言葉に重なることもあり、夏神の料理人としての魂に新しい火を点けたようだ。
    海里にも良い師匠が出来たようで、これからどう成長するのか楽しみだ。

    シリーズももう12作、そろそろ終盤かと思うのだが、どんな結末が待っているのか。
    いつまでも夏神と海里とロイドのデコボコトリオを見ていたい気もするが。

  • 最後の晩ごはん、12作目。
    前作でいざこざの余韻を引きずったままだった淡海先生と和解できてよかった。
    ばんめし屋で働きながら、淡海先生の計らいで、小さなバーで朗読の仕事を始めることになった海里。そんな海里を見て、自分も何か新しい一歩を踏み出さないと、と考える夏神さん。と、それを見守るメガネ。この3人の距離感が心地よく、ずっと一緒にいてほしいと思ってしまう。
    夏神さんの師匠の「記憶の中の味はどんどん美化されていくので、同じものを注文されたときに「変わらない味」と感じてもらうためには前よりもっと美味しくしなくてはいけない。」という言葉、なるほどなぁと思った。「変わらない味」は料理人のたゆまぬ努力の結果なのですね。

  • 大きな波風は立たない回だったが
    ふと気づいたことがある。

    これまで読み進めてきた読者には
    夏神と海里のことで…知らないことは
    なくなってしまったのではないか。

    もしや
    今作の最後に描かれた
    ロイドの亡き持ち主との逸話は伏線なのかな。

    付喪神ロイドにもまた、その過去がある。
    願望として…描かれるのではないかと。


  • 節分の晩、年末の謝罪にきた淡海悟郎と和解。淡海は日替わりの恵方巻きを食べながら知り合いが始めたカフェバーの小さな舞台で何かを演じるのはどうかと海里に打診するー

    ◆今回、海里の進退がもう一歩進んだのでだいぶ後半まで「おや?幽霊は?」って感じだったけど「お袋の味」の記憶の優しさにぐっときたー。そして繁春さんと亡き人の思い出、「悠子おねえさん」のバトンと叱咤激励。海里のこれからがますます楽しみだよー。早速シフォンケーキ試したくなっちゃう(笑)

    夏神さんは夏神さんで、海里とロイドが来る以前のワンオペをやってみて「人手」だけじゃない、2人の明るい接客とかにも考え巡らせてるし、師匠からの料理のことも考えてるから、ここから海里の芸能復帰と夏神の晩飯屋の、それぞれの道になっていくのかなー

  • 前作で淡海が引き起こした騒動を経て、今は芸能界に戻るのではなく、好きな芝居と料理、どちらにも関わっていこうと気持ちを固めた海里。
    出会った頃と比べ、格段に逞しくなり、自分の足で進んでいく海里を見て、自分も現状維持ではなく、前へ進もうと模索する夏神。
    支え合い、刺激を受け、互いに成長していく、この2人の師匠と弟子の関係は、見ていて本当に気持ちがいい。

    物語としては大きな進展はないけれど、海里に小さな舞台での朗読の仕事が決まり、着実に一歩進んでいる。
    今後どう進んでいくのかは分からないけれど、もう少しばんめし屋の面々を見ていたい気もする。

  • シリーズ第12弾。
    相変わらずの迷える子羊たちと、ちょっとズレつつも、"最年長者として"見守り続けるメガネ。
    アンリ・シャルパンティエのお菓子が食べたくなっちゃった…
    は、置いといて。

    作家としての業と覚悟を語る、淡海五朗(おうみ ごろう)
    取材で人を傷つけてしまうこともある。
    しかし、必ず作品として昇華する、それが作家としての覚悟。

    女優として、母として、悲しいことも乗り越えてきた、倉持悠子(くらもち ゆうこ)。
    自分の手で選択してきた道だから、今立っている場所に誇りを持ちたい。

    海里が元所属していたプロダクションの社長・大倉美和(おおくら みわ)は、口は悪いが心配症。
    彼女が見ているのは、ふわふわと危なっかしい若者だった、かつての海里かもしれない。

    そして…戦前戦後を生きた、やたらハッキリした(いろんな意味で)今回の幽霊さんは、昔のレシピをそのままなぞっても、同じ味は再現できない、と夏神に言う。

    試練を乗り越えて生きてきた大人たちは、それぞれに確固たる考えを持っている。
    若者が迷わないよう、アドバイスもしてくれる。
    しかし、経験の少ない若者たちには、なんだか皆、違うことを言っているようで、却って迷ってしまうこともある。
    海里も、夏神も、やはりこの先も迷いながら、自分の手で道を選び、失敗を重ね、ゆっくりと歩んでいくしかないのだろう。

    海里が芝居の道に再び心をとらわれて、応援してやりたい半面、自分から離れて行くような寂しさを感じていた夏神も、この本では、自分の進む道をなんとか見つけて前に進み始めたようで安心した。

    まず、日常があって、その中で夢に進む努力は一歩ずつ。
    読者も、とにかく見守るしかない。

  • 芦屋の定食屋「ばんめし屋」。節分の恵方巻きを振る舞う店員の海里と店長の夏神のもとを、作家の淡海が訪れた。彼は海里が小説のモデルであることを発表し、騒ぎになったことを謝罪。そして罪滅ぼしのように、海里にオーディションを提案する。それは小さな店で行われる、往年の人気女優との朗読舞台。一方夏神は、昔懐かしい料理を復活させ、看板メニューにすべく動き始めるが、厄介な幽霊が現れ…。心震えるお料理青春小説第12弾。

  • 突然訪ねてきた淡海先生の海里への謝罪と新たな仕事の紹介。子供の頃の思い出のテレビ出演者に会えたら嬉しいよね。

  • 海里に迷惑をかけたってことで
    淡海先生が新しい企画を持ってきました。
    小さなライブハウスでの朗読劇。
    海里はベテラン女優を師匠に練習開始。
    一方、古い料理本から
    メニューを考案しようと取り組む夏神さんは
    霊感のない彼にもハッキリ応対できる
    ナゾの幽霊に困惑。

    結構、手を変え品を変え
    いろいろな幽霊が現れるねぇ〜。
    今回のご老人も死んだ自覚はあるのに
    なぜ成仏できないか自分でもわからない。
    そこから上手に「思い出の料理」を
    引き出していくのがおもしろい。

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著者プロフィール

作家。監察医。講談社ホワイトハート「人買奇談」にてデビュー。代表作は「鬼籍通覧」シリーズ、「奇談」シリーズ(講談社)、「最後の晩ごはん」(KADOKAWA)、「時をかける眼鏡」(集英社)など多数。

「2023年 『妖魔と下僕の契約条件 5』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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