- Amazon.co.jp ・マンガ (180ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041084656
作品紹介・あらすじ
アシダカグモのたかねが同胞である蜘蛛の子を狙う理由――。それは、「共喰いが最も効率よく最速で人間になれる」という答えを導き出したからだった。しかし、その方法に断固として反対するやつめとカズサは!?
感想・レビュー・書評
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跳ね回る蜘蛛の子は、生まれる前にはねられた。
レビューもここ三巻となれば前提は省かせていただくわけですが。
感情=蟲の発想と、蟲を喰らう蜘蛛、その連想さえ働けば世界観はあなたの掴むところです。
二巻の引きから、主人公「カズサ」の助けもあって「たかね」を撤退の一手を選ばせたもう一人の主人公「やつめ」。
そんな本題を後に、まずは箸休めを挟みます。女学校モノといえば同輩同士もそうですが、先輩後輩関係から生まれる思慕、ということで。
文芸部にまつわるエトセトラ、後輩を愛する残念な先輩がコミカルなオーバーリアクションにダークな感情も載せていく百合はとてもいいものです。
問題を生む前に感情を狩り取るからこそ、この物語は深刻になり過ぎずに進むのですが、それでも一瞬の間が重いのですよ。
三巻での純粋な日常回はこの一話分のみですが、続巻につれて本編の深刻さが増していく分は番外編で補っていくのかもしれませんね。
そんなわけで続く本編、四人目の蜘蛛の子「登利井めばえ」は意外な人物だったわけですが、よくよく二巻を見てみれば確かにこれは、と思う描き方をされているのですよね。ひとつ言っておくと、脱帽です。
と、まずこれを言っておくのがフェアだと思うのであえて拙速にネタバレを張ります。
構造としては二巻のリフレインなんですが、丁寧に打った描写の積み重ねが既視感を覚えさせつつ、繰り返してしまったという無情と後悔を生むという――。
女の子同士の交遊が心の琴線を打ち鳴らし、緊張の糸をゆるめた瞬間に警戒の網を破って仕留められてしまった。
孤立した、弱いところから狙うのが狩りの定石とは言え、主人公の家族ぐるみで交流を深め、うきうきショッピングってタイミングでの襲撃は実に見事でした。
そして、蜘蛛が獲物を喰らう際は咀嚼するのではなく、内容物を吸い取るのだそうですが、それを活かした描写か、ラストで消えゆくめばえちゃんが、あとには何も残らない虚無と諦念を今一度、そして鮮明な形で読者に知らしめてくれました。
まだ見ぬふたりの蜘蛛の子を含め、残るは四名。
人は死して名を残すとはいえ、世に生まれ出る以前の彼女ら、彼らを呼ぶ者は限られている。
曲がりなりにも「トップアイドル」が消えて、波紋は生まれるのか、それともそんなこと些事だとばかりに世の流れは呑み込んでしまうのか。
強く、のびやかに見えても、その実は夢まぼろしのような身体しか持てていない蜘蛛の子の宿命というか、この辺りの容赦のなさが実に好きです。
そして、生まれ変わっても同じく強い自分でいられるのか、実際はどうかわかりませんが残酷な予想も描けますしね……。
あと、ここ三巻で「共喰い」をする裏の意図が明らかになったわけですが、二巻の違和感を払拭するに値した、きちんとした理由でした。
そもそもうちの子の椅子が用意されていないのなら、他の子の椅子を壊してしまえばいい。
そうすれば、この全員がクリアできるという建前の椅子取りゲームだって――それを用意した「上」も動くし、きっと認めざるを得ないだろう。
私の解釈違いかもしれませんが、言外にそんな主張が見えましたよ、これは怖い。
時に、あと四巻に向けて述べるとするのなら。
成長途上の蜘蛛の子たちは、感情がないわけではないんですが、どうも発露の仕方が平坦で「喜び」や「怒り」一辺倒と、人間と近いは近いけれど、やはり違うと再認識させられた三巻でした。
それゆえに段々「人間」に近づいていく過程が素晴らしく、先に触れた点も含めて寂しく、時に恐ろしく見えたりもしたのですけれどね。
嗜好が偏食気味な蜘蛛の子「たかね」が己に足りない思考を補って、完全なものに近づいていくその過程が今後容易く予想できるようです。
その辺が、付け入るスキにもなりそうで面白いんですけどね。
二人目が落とされた以上、流石に残された四組中三組も具体的な行動に移る頃合いでしょうし、このテンポなら必要以上に間延びせずに完結に持っていけそうです。
生存を賭した模様図が織られはじめました、蜘蛛の巣に似てきっと美しいのでしょうね。詳細をみるコメント0件をすべて表示