- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041086315
作品紹介・あらすじ
第10回Twitter文学賞国内編 第1位!
ハンガリー王国大蔵省の役人のバログは、敵軍迫る首都から国有財産の退避を命じられ、政府がユダヤ人から没収した財産を積んだ「黄金列車」の運行にかかわることになる。
バログは財宝を狙う有象無象を相手に、文官の論理と交渉術を持って渡り合っていくが、一方で、ユダヤ人の財産である物品は彼を過去の思い出へといざなう。かつて友誼を結んだユダヤ人の友人たち、妻との出会い、輝くような青春の思い出と、徐々に迫ってくる戦争の影――。
ヨーロッパを疾駆する機関車のなか、現在と過去を行き来しながらバログはある決意を固める。
実在した「黄金列車」の詳細な資料を元に物語を飛翔させる、佐藤亜紀の新たな代表作!
感想・レビュー・書評
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前線が迫る中、ユダヤ人の没収財産をハンガリー国外へ運び出しているというのに、ト書きのような文章だからかドキドキしたりせず、舞台でも見ているような感じだった。
誰もがよろしくないことをしている自覚がありながらも遂行していく。
戦争だからそういうものだと慣れてしまいそうになり、バログが妻と暮らした頃の回想が挟まれると、異様なことだと我に返った。
それでもいつの間にか何をやっているんだという気持ちが薄れて、この先を上手くやり過ごせるかどうかばかり気になっていた。気付かないうちに麻痺していて恐ろしいことだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とにかく冗長だ。人名も覚えられない。読むのに疲れた。その割に面白さもそれほどではなく。
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佐藤亜紀さんの作品を読むのは、初めて。
読み始めてから全体の1/4程度まで読み終えた時、あまりにも頁をめくる手がのらなくて、だんだん苦痛に思えてきて、もうここで読むのを止めようかな、と思った。
もう少し、あともう少しだけ読んでみようと挫けそうになるのを何度かやり過ごしていくうちに、途中から今度は頁をめくる手が止められなくなった。
どうなる?これ、逃げ切れる?と気になって仕方がなかった。
読み終えた今、重厚さと独特のテンポを放つ物語に脳の疲労が凄まじい。
でも、途中で読むのを止めなくて良かったと思う。
淡々としているし、スッキリとしたラストシーンが待っているわけでもないけれどー。
もしも、私と同じような状況に陥った人がいるなら、あと少し読んでみようを繋げて、是非とも読了してほしいと思う。 -
これまでに観た映画や読んだ本、学生時代、世界史や地理、音楽、美術の時間に聞いたり見たりして、心に残ったワンシーンが突然目に浮かぶような…不思議な読み心地の本。
最後は必ず「戦争だけはしちゃいかんよ」で終わる母の昔語りを唐突に思い出したりもして…。
尊敬する書評家、豊崎由美さん絶賛の一冊。
うむ!なるほどなるほど!でした‼︎
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さすがは佐藤亜紀。これもまた重厚な傑作だった。面白おかしいエンタメではないが、寸分の隙もない時代の臨場感にいつの間にか没入してしまう。大戦の晩期にユダヤ人からの没収財産を運搬する列車を舞台にして、官吏のバログが抱えてきた過去と、現在直面している事態とを絶妙に行きつ戻りつしながら物語は進む。そこに醸成されるのは、時代と時間、年齢の悲哀だ。いつもながら時代説明や状況説明を大きく省いた語り口は読者を試すが、それを経て辿り着く満足感は他に類を見ない。
この小説のラスト、そこに至るまでとはまったく違った景色が提示される。人それぞれに感じるところは違うのだろうが、僕は「あなたにとっての黄金とは何ですか?」と問いかけられている気がした。 -
佐藤亜紀読むの初めて。面白かったー
最初、文章に慣れるのにちょっとかかったの、海外小説っぽい語りだからかなぁ。
単純にカタカナ多いと覚えられないんだよなぁ名前とか。
そこ慣れたらぐわっと読めて面白かった。
第二次世界大戦時の日本やドイツみたいな主要な(と言っていいのか)国以外の国のことを、こんな風に書く作家さんがいるとは、とびっくりした。
こういった物語を書くのってめちゃくちゃ難しいと思う。
過去と現在が入り混じって、過去のいろいろあるけどなんとかやってる幸福と、それがじわじわと現在に侵食されていくの怖かったなぁ。
戦争が終わったときの、ゲシュタポの言葉がしんどかった。
「わかってるよ。生きて行かなきゃなんないからな。ぜぇんぶ忘れて生きて行かないと死ぬからな」
と言うの。この言葉があったことで、佐藤亜紀という作家を信用できるよね。物語を善悪の問題にしない。 -
ユダヤ人からの没収財産を積んだ黄金列車の中で現在と過去を行き来しながら展開していく物語。
人の財産を守り抜く役人の姿に馴染めない。 -
1944年、12月、ハンガリー・ブダペシュトから1本の列車が出発する。
40両を超える編成の長い長い列車には、ユダヤ人から没収した資産が積まれていた。列車は途中、さらに資産を積み込み、あるいは整理のために留まる。爆撃で先へ進めないことも、機関車の手配がうまくいかないこともある。
重い列車は、行きつ止まりつ、ゆっくりと西を目指す。「国有財産」を国外へと退避させるために。
主人公のバログは、冴えない木っ端役人である。
彼には、かつて親しかったユダヤ人の友人がいた。友人一家は悲惨な運命を辿っていた。
バログは、上司から「ユダヤ資産管理委員会」への移動を命じられ、気は進まないながらも引き受けざるを得なかった。
長らく引きこもって暮らしていた妻は、バログがこの職に就いてから、命を落とした。
独り身となったバログは「黄金列車」に乗り込む。
列車には巨万の富が積まれている。戦争の混乱が増す中で、さまざまな輩がお宝に引き寄せられる。上司や同僚とともに、そうした人々と渡り合いながら、列車の運行にも心を砕く。積み荷の整理もしなければならない。
物語は、列車が進行する「現在」と、バログの「過去」を行き来しながら進む。
若かりし頃のきらめく思い出。楽しかった友との語らい。妻と初めて遭った日。戻らぬ青春。
哀切を胸に秘めながら、バログは淡々と職務をこなす。
時に重苦しく動かぬ事態にうんざりしながら、時に不条理とも思える状況に立ち向かいながら。
それでも与えられた役目を生きる。
物語は、乾いた短文の現在形で綴られていく。
いささかぶっきらぼうともいえる文体からにじみ出てくるのは、人が生きることの哀しさと、それでも生き続けることのかすかな喜びと希望だろうか。
重く軋む列車は、人生の哀歓を駆け抜ける。