- Amazon.co.jp ・マンガ (180ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041088463
作品紹介・あらすじ
カズサの目の前で、たかねに喰われてしまっためばえ。落ち込むカズサを前に、蜘蛛の子・やつめの決断と選択は? “人間になることを目指す”やつめの来世に、はたしてどんな影響を与えるのか!?
感想・レビュー・書評
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蜘蛛の脚と人の足が歩みを揃える、名前を呼びあうのだ。
ネガとポジ、喜怒哀楽、自他を取り巻く環境と関係性がもたらす思い、そういったもの一切合切を表す言葉を感情といい、やがて人の感情は蟲の形を成して這い出でる。
「蟲」とは善きも悪しきも等しく人の持つ「業」そのもので、生きていく以上は引き受けなければいけないもの。
よって、これから人の子に生まれようとする蜘蛛の子は多くの業を喰らうことで負い、波乱の生涯を送るのでしょう。
そうして、生まれ変わりの機会を得たヒロイン「綾取やつめ」はヒロイン「逸鉢カズサ」としばし別れることに。
もともと生まれ変わるまでの期限付きの命と明言されていた以上覚悟はしていましたが、四巻にて完結という早さにいささか驚いているのが私だったりします。
残る二人の蜘蛛の子の人となりは伝わってきたとはいえ、出番の配分を考えればもう一巻か二巻分の分量は用意できたとは思いますが、この急転直下の畳みかけは決して嫌いではありません。
やつめの、勇み足と、駆け足と、そう言われてみればそうかもと思いました。けれどもこれがあるべき結末のひとつなのだと教えてくれたのかもしれません。
カズサもきちんと納得して彼女の再出発を見送ってくれました。ふたりの関係が一方的に終わらずに安堵です。
もっとも、一巻帯に謳われたバトルロイヤルという売り文句にいささか振り回された感はありましたが。
大人たちは子ども同士の争いを看過しない、集団の和を乱す問題児は鎮圧にかかると決まっている。
その意味では、無理な動きや外部からの介入を加えて引き延ばさずに話を畳み切ったことに真摯さを感じました。
導くべき大人「陸號」が未熟な子ども「足立たかね」の凶行にGOサインを出した理由もまた、思い悩んで現状を動かそうとした結果と思えば悄然とした姿に共感できるのだから不思議なものです。
ひょうひょうとした糸目系男子に見えて、この人も無理に無理を重ねていたんだなとわかり嫌いになれませんでした。
大時代的な陰謀が裏にあるわけでなく、あくまでひとつの街で起こった珍しい事件といった風にまとめることができたことで逆に「日常の中にまぎれた不思議」として世界はより強固に思え、各人の心の中で続いていくのだと思います。
輪廻転生にまつわる機構の話と言っても官僚的というより民間の互助努力に似たセーフティネットだったこと、地域に根付いた温かみと古き良き昭和の雰囲気が悲劇を似合わせない、その双方が本作特有の要素ということも大きいでしょう。
なお、巻末にはこの世界観の根幹をなす「蜘蛛の子」と「地蔵」のシステムについて設定文が置かれています。
きっと、行く街々には蜘蛛の子と地蔵がそれぞれのペアを組んで、人々の抱える「蟲」を人知れず喰い集めているのだろうと想像させてくれます。
少しドキリとさせる設定もさらりと書かれているのですが、その辺が実際の本編で用いられなかったのは残念のような安心のような。
個人的にはこの世あらざる蜘蛛の子「綾取やつめ」をよくぞここまで人の世に引き寄せていただいたと感謝でいっぱいなわけです。
一巻からすれば考えられない微妙な機微が表情から見えて素晴らしかった。
一時の熱情から持続する友情まで一切合切をひっくるめた「過程」がこの「結論」を導き出したと思うと素晴らしい。
やつめとカズサが記憶のあるなしで隔てられはするけれど、縁の糸は再び繋がれて巡り合う。
それでも、いつの日も対等に名前を呼びあえる「友達」という距離感は変わらないと演出することで「転生」に伴う悲壮感を感じさせないのもいいですね。
総じて、事後処置に関しては温情に甘えた感もありましたが、おおむねハッピーエンドに終わってさっぱりとした読後感を与えてくれた快作です。全四巻という分量の中で蜘蛛の生態に少し詳しくなれましたし、「蟲」のことを少しだけですが心憎くは思えなくなったのかもしれません。
これから私は、変わらないように見えた蜘蛛の子のことは美しくも儚いものと思え、変わりゆく人の子をいとおしいと思い続けるのでしょう。詳細をみるコメント0件をすべて表示