甘夏とオリオン

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 305
感想 : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041089125

作品紹介・あらすじ

大阪の下町、玉出の銭湯に居候する駆け出しの落語家・甘夏。彼女の師
匠はある夜、一切の連絡を絶って失踪した。師匠不在の中、一門を守り、
師匠を待つことを決めた甘夏と二人の兄弟子。一門のゴシップを楽しむ
野次馬、女性落語家への偏見――。苦境を打開するため、甘夏は自身が
住んでいる銭湯で、深夜に「師匠、死んじゃったかもしれない寄席」を
行うことを思いつく。寄席にはそれぞれに事情を抱える人々が集まってきて――。

感想・レビュー・書評

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  • 上方落語を舞台に失踪した師匠の帰りを待つ弟子たちの成長を描いた話。主役の3番弟子「甘夏」が中心となって物語は展開するが、兄弟子たちも個性があって、それぞれに乗り越えて、いい味出している。
    ちりとてちんの世界みたいな

    印象に残った言葉。
    「本来は見えへんもんを、見えるようにすること」
    落語も小説もおんなじ。

    ストーリーもさることながら、読んでいるのにその場で落語を聴いているように感じる噺の描写が素晴らしかった。

    で、大阪の人情ってのは、味わい深いと言って良いのか分からないけど
    突き放しているようで、放っていない。
    ストレートに見えて分かりづらい。
    居心地が悪そうで、そうでもない。
    なんだかんだで寄り添って応えている。

  • 知っているつもりでちゃんとは知らなかった、というか、漠然としか知らなかった「落語」。
    子どものころからなんとなく耳にしてはいたけれどじっくりと聞いたことがなかった「落語」。
    最近はせいぜいテレビの笑点でくらいしか目にしない。
    そんな落語、しかも大阪の落語を、大阪生まれの増山さんが描くんだから、そりゃもう面白いに決まってる。
    そして、予想通り、しっかりと面白い。面白いのにあちこちでほろりとさせる、まさに落語の世界そのものだ。

    女には無理だと言われても、なんとしても落語家になりたいと桂夏之助に弟子入りした甘夏。
    三か月だけ先輩の若夏、そして兄弟子の小夏。それぞれの落語愛にしびれる。
    夏之助の出奔が三人の弟子に及ぼした影響。それぞれの過去と事情、そして未来への想い。
    いいねぇ。なんだろう、この温かみは。大阪弁のおかげか。
    じんわりと心がほぐされていく遠赤外線のような一冊。寒い夜に読むのにピッタリだ。

  • 大阪弁が流暢なので上方落語の雰囲気が良く出ているし、落語の知識が豊富なので楽しめた。女流落語家の視線は差別との闘いの視線でもあり、頼みとしていた師匠の失踪は、彼女たちをとても辛い立場に追いやっていくのだが、何人もの師匠たちが助けるのは、それは落語という伝統芸能が絶滅の危機を繰り返してきた歴史からの学びであり、若手の落語家を宝だとする精神から、他門の人間にでも話しを教えるということなのだと思った。たくさん落語が出てくる。あらすじを解説してくれるのでわかりやすい。おもしろかった。

  • ここで描かれて落語家さんたちは、一癖も二癖もある人たちです。
    でも、落語の世界で生きていこうと、師匠が失踪しても、真夜中の風呂屋で「師匠、死んじゃったかもしれない」という寄席を開催するところなんかは、強さを感じます。
    タイトルにあるオリオンで、生き方を示すくだりは、色々な場面で使えそうです。
    落語を生で聴きたくなる本でした。

  • 女落語家の甘夏の師匠、夏之助が失踪した。甘夏と2人の兄弟子は落語会を開きながら、師匠の帰りを待つ。甘夏の父親との関係とか、師匠の失踪のこととか、すっきりしないと言えば、すっきりしないのだが、それがまた味わい深いと思えるような作品だった。

  • TLでながれて来た表紙絵に惹かれて、読友さんに落語のお話と教えて頂いて笑点しか落語は見たことがないのに挑んだ1冊。
    文庫だとこの装幀ではないということで図書館で借りた。三番弟子の女落語家甘夏の師匠が失踪したところから始まる。落語界だし、落語話も絡まるから登場人物が多いように感じたけれど失踪した師匠と主人公の甘夏に結びつく展開だから混乱することはなくいくつもの人間ドラマを読んだという読後感。
    人間いろいろ。ラストが切なくもホッとできてよかった。

  • 一気に話に引き込まれました。
    面白かったです!
    落語歌の師匠が失踪して残された三人の弟子。
    個性的な弟子を通して見える師匠の姿。
    いつか帰ってきてほしいと願ってしまいました。

  • 噺家の弟子三人が、失踪した師匠の背を追い足跡を辿り、女性弟子 主人公「甘夏」を中心に芸を磨いてゆく並大抵ではない道を歩む姿を描いた作品

    自分は寄席に行ったことはない
    ですが落語の寄席の雰囲気、つかみ、アドリブは、これこそ人にしかできない粋と感じます

  • 面白かった。
    久しぶりに、書き留めたくなる文章に出会って、ワクワクした。落語が好きなので、より興味が湧いた。
    師匠がいつ登場するのかと、待っていたが、予想外の展開で、なるほどねーって思った。

    知らんことを恥やと思う心を持て。世界はそこから広がるんや。
    心に響いた。

  • 多くの落語の噺が、物語の進行と絡んでいく。登場人物となる噺家達の会話は、その場に立ち会っているかのようだった。数少ないながらも落語を見た記憶がオーバーラップして、読み手の脳内で再現されるのか。

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著者プロフィール

1958年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。2012年に「いつの日か来た道」で第19回松本清張賞最終候補となり、改題した『勇者たちへの伝言』で2013年にデビュー。同作は2016年に「第4回大阪ほんま本大賞」を受賞した。他の著書に『空の走者たち』(2014年)、『風よ僕らに海の歌を』(2017年)がある。

「2022年 『甘夏とオリオン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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