- Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041089811
作品紹介・あらすじ
三島屋の主人伊兵衛は、傷ついた姪の心を癒やすため、語り捨ての変わり百物語を始めた。悲しみを乗り越えたおちかが迎える新たな語り手は、なじみの貸本屋「瓢箪古堂」の若旦那勘一。彼が語ったのは、読む者の寿命を教える不思議な冊子と、それに翻弄された浪人の物語だった。勘一の話を引き金に、おちかは自身の運命を変える重大な決断を下すが……。怖いけれども癖になる。三島屋シリーズ第五弾にして、第一期の完結編!
感想・レビュー・書評
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「三島屋変調百物語」は、語って語り捨て、聞いて聞き捨てが決め事でございます。でもホントの語り手は、実は宮部みゆき女史であろうことは、読者の皆様には暗黙の了解ごとだ、と推察致します。
そのご本人が公の場で言っていましたから、語らせて頂いてもお構いなしとさせてください。実は今回で聞き手は、三島屋の姪のおちかから次男坊の富次郎に交代致します。えっ、ご存知でしたか?それならば、
‥‥全体で4人聞き手が立つことになっている。
えっ?そこまではご存知ありませんでしたか?現在27話ということになっておりますし、百物語だというと、やはりそうなるのでございましょう。絶対ではないでしょうが。
かつて某ラジオ番組で女史が話していたんです。
「百もの怪談って、こんなにもさまざまな物語、どうやって思いつくんですか?」
とMCが聞きました。実際は女史の時代モノは怪談かかっている事多いので百より多いとは思いますが、
女史は
「定番のパターンがあるので、話ネタ自体には困りません。ただ、構成は工夫します。ABCをCABにしようとか、小道具に何を使うか、というのを考えるのが楽しい」
とかおっしゃっていました。根っからのストーリーテラーですね。
今回個人的に1番怖かったのは冒頭の「開けずの間」でした。忌(いみ)がどんどん拡大、伝染していくさまが、女史は意識していなかったでしょうが、目に見えないウィルスだけでなくて、目に見えない悪意さえも伝染していく(自殺者さえ出たようですね)昨今のコロナ禍と重なり、たいへん恐ろしゅうございました。
実はここだけの話なんですが、わたし気がついてしまいました。「伍之続」の何処かで言及あるかな、と思いきやなかったので、これはどう処理するのか、わたし、おそらく20年後にドキドキしていると思うのです。何かと申しますと、今回女史は珍しく「文庫版あとがき」にこう書いています。
‥‥百物語という趣向は、昔から、百話完結させてしまうと怪事が起こるので、99話で止めなければならないと戒められています。一方、99話まで到達せずに途中でやめると、足りない数話分の怪事が起きるという戒めもまた存在するのです。(640p)
書いて仕舞えば「言霊」が宿ります。女史は「とんでもないこと」を約束してしまったわけです。99話でピタリと止めなくてはなりません。女史の心配するように、「健康に留意」するのはもちろんのことですが、実はこの文庫本の巻末に「正式に」『現在までに語られた話』は「第二十七話」と書いています。これが問題です。実は26話目に付け足すように「同じ顔をした6人の男と結婚した老女の話」の「一話」があるのです。これが「数え」の中に入るか入らないか、ものすごく重要です。数えずに、百物語までいって怪事が起こるのか?それとも、数えて1話足りずに終了して怪事が起きるのか?そういうことに関係すると思うのです。20-25年後に悩むのではないでしょうか?
いや、杞憂なら良いのですが‥‥。
ついつい気になったので長々と書いてしまいました。どちらにせよ、おちかの嫁ぎ先の話はこのままで終わらないので、もう一波乱あるのは必須です。
あと、おまけとしてトリビアな話を。(←話が長いぞ!)
袋物を売る三島屋は、神田三島町にある店です。「東京時代MAP大江戸編」(新創社)を広げて調べました。現在の神田東松下町辺りでした。おちかの嫁ぎ先は神田多町二丁目だそうですが、それはそのまま地名としてあります。神田駅から秋葉原駅に中央線に沿って歩いてゆくと、神田川手前の右手に三島町、左手に多町があります。おちかはホントに歩いて300メートルちょっとの処に嫁いだわけです。この辺りは、大江戸の一大商業地帯です。果たして庶民は密に密に寄せ合って住んでいたことでしょう。また、「面の家」冒頭で起きた火事は、秋葉原駅の東北出口の辺りです。神田川挟んで500メートルなかったので、三島屋さんも焦ったことでしょう。 -
宮部みゆきのファンタジー時代小説、三島屋変調百物語の5冊目。「伍之続」という書き方が粋ですね。
第一期完結篇。
初読は2019年ですが、文庫で再読。
三島屋は、江戸は神田にある袋物屋。
姪のおちかは辛い事件の起きた故郷を離れて、こちらで働き、叔父の発案で風変わりな百物語を続けていました。
百物語は人々が集まって、怖い話不思議な話を一つずつ語るものですが。
三島屋の百物語は「黒白の間」で、何か話したいことがある人を招き、おちか一人が話を聞き、それを叔父にひと通り伝えた後は、「聞いて聞き捨て、話して話し捨て」が決まり。
ここからは、三島屋の次男・冨次郎が奉公先で怪我をして実家で療養中、隣で話を聞くことになります。
「開けずの間」
9人家族に訪れた思わぬ不幸。
家に戻された長姉は生き別れの我が子を思うあまり、恐ろしいものを家の一間に引き入れてしまう。
何かと引き換えに願いをかなえるという、引き換えとは。
「だんまり姫」
亡者を起こしてしまう「もんも声」を持つ、おせい。
出来るだけ口をきかず、耳の聞こえない夫婦に仕え、身振り手振りで意志を伝えることを覚えたら、お城からお呼びがかかった。
口をきかないお姫様の世話をすることになったおせい。やがて、お城で起きた悲劇を知ることに。
罪のないおせいや可愛らしい姿の面影がずっと消えません。
「面の家」
痩せて行儀の悪い娘・お種が突然、三島屋にやってきた。
なぜか性格の悪い方がいいと監視役に見込まれて、異様なお面のある家に住み込んでいたという。
その面とは。
「あやかし草紙」
瓢箪古堂の若旦那・勘一が語る。
父が懇意にしていた浪人が破格の謝礼で請け負った写本。
そこには大きな秘密があった。
「金目の猫」
三島屋でふらふらしている次男・冨次郎は、一時奉公先から戻った長男・伊一郎と、幼い頃に経験した話をする。
冨次郎は近所にいる猫に情けをかけ、可愛がっていた。
伊一郎が見るところ、その猫の不思議な行動のわけは‥
おちかが一歩を踏み出し、新たな門出へ。
若い娘がいつまでも立ち直れないのは悲し過ぎるが、えっ、百物語卒業?はつまんな~い(笑)
冨次郎のお手並み拝見。
おちかの旦那さんもしっかりしてよっ(笑)
欲や情や行きがかりから、思わぬことに巻き込まれ翻弄される人の弱さ愚かさ必死さ。
辛い気持ちに寄り添い、心通ったひとときを思い、亡き人をしのび、妖しい出来事にも縁を感じる。
切なさと面白みとあたたかさ。
得難いシリーズです。 -
全話ではないけれど、まるっと一冊読み終わった印象は「ときめき」。
怪談にもラブアンドピースな類が存在するのです。 -
自分が観ていた海外の警察ドラマの影響か、シリーズもののキャストの交代は苦手です。(大抵殉職するか、現場での苦い経験から、退職していく……)
でもこの三島屋シリーズの、メインの交代は素直に歓迎できる。シリーズを通して積み上げられたものと、著者の宮部みゆきさんの暖かい眼差し。
ここまで三島屋シリーズを読み、おちかの変化を読んできた読者に対して、物語を通して贈られた一つのプレゼントのようにも思います。
今回の収録作品は5編。宮部さんの真骨頂だと感じたのは、妖怪や死霊を呼び寄せる「もんも声」を持った女性の奇妙な半生が語られる2話の「だんまり姫」
その声のためなるべく人と話さず、身振りや独自の手話を通じて周りとコミュニケーションをとってきたおせい。そんな彼女の元に舞い込んだのは、言葉を発しない城の姫のお世話役。
しかし、その城でも奇妙な出来事が起こり、やがておせいの耳に、男の子の声が聞こえてくるようになり…
三島屋シリーズで特に好きな語りは、怪異を語る上でその現象や出来事だけでなく、語り手の人生が見えてくる話なのですが、この「だんまり姫」も語り手の人生が見えてくるよう。
もんも声のため、身内にも遠慮しながら過ごした幼少期。転機となった宿屋への奉公。城での生活、姫や霊とのやりとり。
三島屋の百物語が単なる怪談もので終わらないのは、怖さであるとか、人の業や哀しみを描いていること以外にも、基本的に1話にしか登場しない語り手にも、人格を与え、そして人生を浮かび上がらせるからだと思います。
そして、この話の結末もとても良かった。お家騒動によって幼くして命を落とし、一種の地縛霊のように城にとらわれた一国様。彼の魂を城から解き放つため、おせいが取った行動。そして一国様の選んだ道。
物語の持つ温かさが伝わってくる、傑作だったと思います。
一家に取り憑いた行き逢い神と、その一家の末路を描く「開けずの間」は怖かった……。嘆き、嫉み、妬み、そして生まれた心の隙間に、スッと忍びよる魔。そして、翻弄され壊れていく人々。
女性の姿をした行き逢い神の笑い声が、自分の脳内で不気味にこだまするような薄気味悪さ。ラスト一行のどこか引きずる感じが、また怪談らしくて不気味だけど忘れがたいです。
世間に不幸をもたらすお面を描いた「面の家」も、ついつい状況を想像してしまう怖さがあります。封印されながらも、常に隙を伺い箱をカタカタ鳴らしながら、人に怪しく囁きかけるたくさんの面。こういう話好きだけど、やっぱり怖いわあ……。
おちかの決断が描かれる表題作の「あやかし草紙」
写本をする元侍の元に舞い込んだ奇妙な依頼と、老女の奇妙な結婚遍歴の話。
三島屋シリーズだからこその、おちかの決意の描き方だったんだろうな、と思います。この描き方がカッコいいし、女性としての覚悟や度胸がこれ以上無いくらい現われていました。
そしておちかから百物語の聞き手を継いだ富次郞の初陣となる「金目の猫」
富次郞の兄、伊一郎が語るのは、単なる怪異の話ではなく、三島屋の家としての話でもあり、そして兄弟の語らいでもあり、思い出話でもあった気がします。
シリーズの転換点にきて、三島屋のルーツの一端が見える。新たなスタートらしい一編でした。
三島屋シリーズの好きなところは、各編で語られる一編一編の完成度もさることながら、聞き手や三島屋の移り変わりも平行して描がれるところです。おちかが徐々に聞き手として成長し、頼もしくなっていき、様々な出会いがあり別れもあり。
今回でその聞き手は、おちかから富次郞に引き継がれたわけですが、この富次郞もきっと作中の時間を通していく中で、所帯を持つか、あるいは目標としている自分の店を持つ時がくるかもしれない。そして役目がだれかに引き継がれるかもしれない。
それでなくても、あたりは柔らかいけど、どこか頼りなくも見える彼が、おちかのように肝の据わった頼もしく見える時期が来るかもしれない。
そんなふうに、聞き手の変化も楽しみにしつつ、自分はこれからも三島屋シリーズを読んでいくのかなあ、と思います。各編で語られる怪異だけでなく、富次郞が、そして三島屋という店自体もどう移り変わっていくのか。
たまにしか会わない親戚一家の近況報告を聞くような、そんな楽しみも徐々に生まれてきているように感じました。 -
☆4.7
まさか、聴き手が変わるとは、後書きで宮部みゆきさんも少し前から意図していたということが書かれていて、なかなか、これはこれで楽しみかもしれない。
おちかさんがしあわせになってほしいものであ。 -
今年一冊目の読了。
一旦の幸せな締めとなる節目の一冊。
こんなに読み手を飽きさせない百物語。お話のバリエーションの広さがすごい。
ちかちゃんが幸せになれたのがなにより。
そして普通ならここで終刊になりそうなのに更に続巻が出ているということが楽しみ。 -
つらい過去を乗り越え、自分の手で幸せを掴んだのがすごくよかった。ちかちゃん、お幸せに。
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前作を読む前におちかさんの旦那さんを知ってしまったので、白無垢姿の女性が表紙のこちらまで一気に読みました(泣)
人の弱さとか怖さのお話しが多いけど、『開けずの間』は珍しくお化けの怖さ。今までで一番怖かったかも?
『だんまり姫』はかわいかった。
三島屋変わり百物語シリーズの第一期が終わりました。色々な事情があって聞き手が変わるよ。次作も楽しみ。
『開けずの間』
『だんまり姫』
『面の家』
『あやかし草紙』
『金目の猫』
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シリーズ第一期完結巻とのこと。
なんだか、シリーズ中では一番、残った印象の薄い作品。
「おちかが嫁にいく」がありきな巻だった気がする。
古本屋の若旦那には、なんだかうすうすそういう予感はしていたし。。
ただし、バトンタッチされる富二郎のキャラには十分に馴染めたので、(既に連載開始されてるという)続巻には、変わらず期待してしまう。
★3つ、7ポイント。
2020.11.18.新。 -
この物語を読むと、家族や家にまつわる様々な災いや不幸、あるいは縁のようなものは、ひょっとしたら「あやかし」のせいなのかも、何て思ってしまう…。
宮部みゆきさんの作り出す不思議な世界にまたもや魅了されました。
著者プロフィール
宮部みゆきの作品






気になりますよね!
良かったぁ、同意する人がおられて。
誰もレビューの中で、触れていないので、私、もしかし...
気になりますよね!
良かったぁ、同意する人がおられて。
誰もレビューの中で、触れていないので、私、もしかしたら「見えていないものが見えている?」という可能性も考えていたんです(勿論、つまらんことだから誰も気にしなかったという可能性も捨てきれないのですが)。もしその場合は、私も百物語の語り手に入れるかな(笑)。
これからもよろしくお願いします。
こんにちは!
ははぁ〜実に面白いお話です。
なるほど。
眼から鱗。
こちとら、まだまだ修行がたりません「もちろんだけ...
こんにちは!
ははぁ〜実に面白いお話です。
なるほど。
眼から鱗。
こちとら、まだまだ修行がたりません「もちろんだけど」
私も修行がまだまだたりません。
私も修行がまだまだたりません。