- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041090039
作品紹介・あらすじ
学校の怪談『顔の染み女』を調べていると、別の『開かずの扉の胡蝶さん』の噂が柴山の耳に入る。その部屋で、トルソーを死体に見立てた殺人(?)事件が発生。クラスメイトと柴山が、二重の密室の謎に迫る!
感想・レビュー・書評
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『マツリカ・マジョルカ』『マツリカ・マハリタ』に続く、シリーズ三作目にして初長編の『マツリカ・マトリョシカ』。読み終えた感想としては、「大化けしたなあ」という印象。過去二作品の伏線と、ここに到るまでの柴山君の変化、そして密室の謎が強固に結びつけられ、本格ミステリとしても、青春小説としても、今までにない特異なところにまで、マツリカシリーズは向かっていったように思います。
相も変わらず、マツリカさんの命令で学校の怪談話を調べる柴山は、噂の調査のために深夜に後輩と一緒に校舎に侵入。そのときに見かけたのは、開かずの間と呼ばれる美術室の倉庫で瞬いた光。さらにその開かずの間にも「胡蝶さん」という怪談話があって……
そして翌日、その開かずの間から見つかったのは、「胡蝶さん」に見立て制服を着せられたトルソーとカッターナイフ、そして、ばらまかれた蝶の標本。
さらにその制服は前日に、女子テニス部の更衣室から盗まれたもので、柴山は有力な容疑者の一人になってしまう。そして調べてみると、倉庫は密室状態であったこと。さらに二年前にも同じ場所で、女子高生がカッターナイフで切りつけられた事件が起こっていることが分かり……
柴山君とクラスメート達が挑む密室の謎。糸を使った古典的なトリックから、大がかりな物理トリック。第一発見者犯人説など、様々な推理が乱れ飛びます。そしていずれのトリックも、検討を進めていくと論理的に不可能だと分かる。
推理小説好きの登場人物のメタ的な発言も相まって、並々ならぬ密室へのこだわりと挑戦意識が垣間見える。本格ミステリ、密室好きにはたまらない推理小説です。
そして、青春の喜びと苦みが物語の節々で顔を覗かせる。作中でワイワイとみんなで推理したり、トリックを実際に試したり、試験前の勉強に取り組んだりと、そうした描写は本当に楽しそうで、読んでいる自分もそうした登場人物たちの仲間に、いれてもらったような気持ちになります。
そして推理の過程で明らかになる、登場人物の痛々しい過去。このあたりは前作までの積み重ねがあるからこそより心に迫る。前作『マツリカ・マハリタ』から登場した松本さんは、この『マツリカ・マトリョシカ』で、より身近に感じ、そして魅力的に思うようになりました。
期日までに真犯人を見つけなければ、犯人として学校に告発する。制服を盗まれた女子生徒に告げられ、窮地に追い込まれる柴山君。さらにネットでは、彼の大切な友人に疑いを向ける書き込みも見られ始める。
これ以上みんなに迷惑はかけられない、最悪の場合は自分が罪を被る。そう覚悟を決め柴山君は孤独な推理に臨む決心を固め……
シリーズが始まった当初は、根暗でいわゆるボッチだった柴山君。姉に対するトラウマを引きずり、自分のことを無力だと思っていた彼が、友人達のために覚悟を決める。
その力強さもそうだし、この守りたい大切な人がいる、という思いが柴山君の姉に対する強迫観念に、一つの変化を与えるきっかけにもなって、シリーズを通して本当に繋がった作品だな、と思います。
そして誰かを大切に思う気持ちは、きっと相手にも伝わるはずで。
クライマックスでの柴山君と女子生徒の対決に、柴山君の友人達が駆けつけるシーンなんかは、ベタなのかもしれないけど、本当に良かった。そして、最後に登場するのは……
密室の謎については、最後の推理に到るまで色々な線が作中で考察されてきたけど、ラストの推理は本当に丁寧で読み応えがありました。盗まれた制服に入っていた自転車のカギが、どのポケットに入っていたか?
一見何てことない小さな謎を突破口に、ロジックがつながり、前提としていた条件までもが崩れ、犯人が仕掛けたトリックの全容が明らかになる。そんな本格ミステリの冥利に尽きる見事な推理に加え、明らかになる犯人の思いの切実さも心を打つ。そして犯人の思いと、柴山君の思いも鏡映しのようで、この事件の解明が、柴山君の新たな一歩につながる。
ミステリと青春小説の側面が見事に結び合わされ、シリーズとしても一つの到達点を迎えた、相沢沙呼さんらしい傑作だったと思います。
守りたい人たちと、掬い上げたい言葉。それが臆病だった柴山君を大きく変えていく。彼のネガティブな思考というのは相変わらずなのかもしれないけど、彼を貫く軸は確実に大きく変化していて、シリーズの次回作も本当に楽しみになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
現時点での最新刊である3巻目(続くはず)。
前2巻で増えていった主人公の理解者たちが、みんなで事件についての推理を投げ合う、シリーズものの3巻目らしい構成の良作…どころではない。
柴犬くんがセクシーなお姉さんにドギマギしてしまう視線までも事件の本筋にきちっと折り込み、学校という場を完璧に活かした、前作までの流れが伏線として化ていく様に拍手。そりゃ本格ミステリ大賞のノミネートも当然だ、と。
何より「密室を解く手がかりになったポイント」にマツリカさんが何故気づくに至ったか、の論理の流れが素晴らしい。地の文で書いていたが、著者は良い意味でも悪い意味でも変態さんに違いない(笑) -
ライトな感じですがシリーズ全体的に面白い作品でした。
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自分の存在価値に疑問を抱く思春期の子供達に焦点を当てた、学園ミステリ。
シリーズの3作目、、、とは知らず本作から読んでしまった。それ故に少し楽しみきれなかった感がある。「マツリカ」って何者?!と読みながらずっと思ってたので…
ストーリーの進むテンポ感も少し遅く感じられた。
1作目と2作目も大枠で伏線になっているらしいので、読んでみたい。 -
マツリカシリーズ3作目にして初の長編モノ。
主人公の柴山は、深い心の傷を負い、それ故煮えきらない性格、そしてモテない陰キャラ、常にメンタル弱々な男子高校生。対して探偵役のマツリカさんはというと、廃墟となった雑居ビルに住んでいるという謎の美少女、態度も振る舞いも絶対的存在、そして芝山を虜にさせる美貌の持ち主、でもってキレッキレの推理能力。このキャラ関係は本作でも健在。
今回も、柴山はマツリカさんから、学校内での怪談話の調査を命じらる。
怪談話から曰くありげな過去の不可解な出来事が浮かび上がり、そこから現在の怪しげな出来事に発展し、さながら二重構造の謎を呼ぶ。学園モノ日常の謎の本格ミステリなので殺人は起こらないけども、不可解な出来事はバリバリの密室状態。沢山の推理が繰り広げられ、登場人物たちの意外な接点や共通性が描かれ多重構造の様相。このあたりがタイトルのマトリョシカに繋がってる。相沢沙呼の作品はやはり一筋縄ではいかない。 -
かなりてこずった。過去と現在の2つのタイプの異なる密室を提示している点は面白いけど、密室は強固にしすぎてはいけないいい例じゃないかなぁ。
密室が強固なわりに、探偵役であるマツリカがほぼ登場しない。強固な密室について素人探偵があーだこーだやってるシーンがかなり長いので、正直飽きる。あと主人公の性格とうだうだ感がどうにも受け付けなかった。 -
まさにシリーズの集大成とも言うべき作品で、2年前と現在でそれぞれ密室で起こった事件を1作目と2作目で知り合った友達や先輩達と一緒に推理していく場面や、主人公が過去の自分自身への無力さを嘆き、それでも真相を解明しようとする姿、そして満を持して繰り広げられる推理劇など「これまでのシリーズを読んできて良かった。」と心底思える青春×本格ミステリーだった。出来ればまだまだ続編を読みたいとも思った。
著者プロフィール
相沢沙呼の作品





