最後の晩ごはん 閉ざした瞳とクリームソーダ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 568
感想 : 43
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041091128

作品紹介・あらすじ

芦屋の定食屋で働く海里には、憧れの人と新たな舞台に立つ夢ができた。そんなある日、彼は事故で視力を失った女性、瞳と出会う。一方店長の夏神には、昭和のレシピ再現にまつわる取材依頼が舞い込み……。

感想・レビュー・書評

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  • 夜だけ営業の定食屋<ばんめし屋>を舞台にした、ちょっと不思議でほっこりした物語のシリーズも第13作。思っていたより長いシリーズとなった。

    思いがけないトラブルに巻き込まれて芸能界を追われ、今は<ばんめし屋>で働く海里と、やはり過去の登山事故をきっかけに世間から離れてひっそりと<ばんめし屋>を営んでいた夏神という、それぞれ過去を背負っている二人が少しずつ前向きになってきた前作。
    海里は朗読劇を毎週行っている女優・倉持悠子のとの出会いで芝居への情熱を取り戻し、夏神は戦前の料理本をヒントに、古いレシピを現代風にアレンジして客に提供するという新たなメニューに取り組んでいる。

    今作はいよいよそれぞれがリスタートへ向けて本格始動するのかと思いきや、主役は事故で目が見えなくなった女性・中山瞳。
    倉持悠子の朗読劇を聴きに来たという彼女は、最初こそ海里に友好的だったのだが、ある一言をきっかけに頑なになってしまう。

    色々と考えさせられる言葉が今回も出てくる。
    瞳のような身体的ハンディを負った方だけでない、様々な辛い状況にある人にどんな視線や言葉や態度を向けるのが正解なのか、難しい。その時々のシチュエーションや環境や心理状態によって、その人と自分との関係によって違うだろう。
    それでも海里が言うように何もしない、何も返さないよりはずっと良いのではないかと思う。
    また倉持悠子の『自立することは大切だけど、それが孤立とイコールになってはいけない』という言葉にもハッとさせられた。
    『自立した一個の大人だと認められたい』というプライドがあまりにも先行しすぎて、本当に必要な大切な手まで自ら振り払っていないか。

    このシリーズのもう一つの要素、幽霊話がなかなか出てこない、今回は無しなのかと思っていたら意外な形で登場してきた。
    こういう幽霊ならありがたい。
    そして瞳に一目惚れしている坂口も、少々騒々しいが正直で良い人だ。少々周囲のフォローは必要かも知れないが、懸命に前を向いている人は気持ちが良い。

    肝心の夏神だが、過去の事件から世間に注目されることへの不安はまだまだあるが、それでも一歩踏み出したことは嬉しい。
    次回は海里の話がメインになるのだろうか。そしてロイドは相変わらず英国紳士スタイルで二人を見守ってくれるのだろう。

  • シリーズ第13弾。
    今回は事故で視力を失った女性、中山瞳のお話と、夏神の昭和レシピ再現メニューにまつわるお話が中心。

    毎週水曜日の夜、女優の倉持悠子が朗読イベントを行う店に、瞳は一人でやって来た。
    その店で手伝いをしながら、朗読を学んでいる海里と瞳が出会う。
    ここで色々あるのだが、また考えさせられる言葉がたくさん出てくる。
    障がいのある人との接し方、関わり方。
    良かれと思った行動が「優しい差別」と捉えられる事もある。
    苦しいとき辛いとき、「差し伸べてくれる手を一度は握ってみなさい。自立することは大切だけど、それが孤立とイコールになってはいけない」
    良い言葉。
    人は、頼ったり頼られたりですね。

    また夏神には、新聞社から「昭和の料理」についての取材依頼が舞い込む。
    辛い過去を持つ夏神は、悩みに悩むが依頼を受ける事にする。

    海里も夏神も少しずつ前へ進み、成長しているなぁ、としみじみ感じる。
    このシリーズは、二人の成長物語ですね。
    あ、幽霊もちゃんと出てきます。
    出番少な目ではあるけど、良いお話です。

  • 夕方から明け方まで営業する、メニューは定食ひとつだけ、時々幽霊のお客さんもおみえになります。
    …の「ばんめしや」のシリーズももう13弾目。
    店主・夏神留二と元イケメン俳優・五十嵐海里が、時々現れる幽霊のお客さんの心残りを料理で癒していくシリーズとして始まったが、今は、過去に傷を持つ二人の成長物語としても、大いに読み応えのあるところ。

    しばらくは、海里の演じることへの情熱と、それを見守りながら、自分は何がしたいのかと自問する夏神が描かれていたが、今回は夏神にスポットが当たる。
    夏神の料理の師匠の形見とも言える古い料理本は前作に初出だが、引き続き「昭和のメニューを現代に」と研究していた夏神の努力が認められる形である。

    作品名物の幽霊さんも、そう来るか、という形で登場。

    今回もいろいろ考えさせられる言葉があった。
    事故で目が不自由になった女性が口にした、“優しい差別”という抗議もその一つ。
    障害のある人にどう接するのがいいのか、この歳になっても自信が無いというのが正直なところ。
    なるべく特別扱いはせずに、困った時には「手を貸してほしい」と気兼ねなく言ってもらえる信頼関係と雰囲気を作るのが大切なのではないか、と頭では考えるのだけれど。

    夏神の前進に、ちょっと焦る海里。
    焦らずに、良い意味で競争してほしい。
    調整役は、いい味出してる眼鏡、ロイドさんにお任せします。

    『豚肉と野菜の胡麻酢和へ』のレシピを巻末に載せてほしかったなあ~


    プロローグ
    一章 つつがなき日々
    二章 上手くいかない日々
    三章 そっともたれかかること
    四章 思いがけない人物
    五章 それぞれの荷物
    エピローグ

  • 最後の晩ごはん、13巻。
    コンスタントに半年に1冊のペースで新刊が出てるんですね。
    今回登場した幽霊は目の見えない孫娘を見守るおじいちゃん。シンプルながら泣かせる展開でした。坂口君やるやん!!
    1巻ごとに夏神さんも海里も少しずつ成長しているのが見られて嬉しい。そしてそれを優しく見守る眼鏡…普段は天然だけど、年長者として締めるところは締めるロイドが大好きです。

  • 登場人物が少しずつ前に進んでいく過程が心温まる。

  • 目が見えない。目開けても真っ暗、またはほんのちょっとぼんやり何か見えるだけ。そんな世界になってしまったら、瞳さんのように立ち上がることは容易では決してなく、私だったら多分一生世を儚んで恨んで終わらせてしまうかも。そう考えると瞳さんをただただ尊敬します。
    夏神さんもお店が認められてよかった。

  • 話の流れから、海里くんの朗読の仕事が進展するかと思いきや、夏神さんも・・しかし、今回の主人公はまた別人でした。

  • 夏神さんが挑戦していた昭和のメニュー復活が新聞のインタビューに繋がったり、海里が朗読の勉強の関係で手伝っていたバーの手伝いで盲目の女性・瞳と知り合ったり、今回も少しずつ世界が広がっている三人。
    最初は瞳の頑なさがイヤな感じだったけど、『ばんめい屋』の常連客と思わぬカップルの誕生。
    てっきり海里と関係が進むのかと思っていた。

  • いつものお涙頂戴な話ではなかったのは良かった。私は人の意見にあまり左右されることがない、硬くなな性格なので、考え方を変えさせてくれる人と出会いたい。

  • 海里がライブハウスでも手伝いを始めたので
    物語の行動範囲や人間関係も広がったね。
    なので、今回はライブハウスで出会った
    盲目の女性との交流譚。
    幽霊は彼女を見守る保護霊さんです。

    空気を読めないバンドマン坂口君の
    だからこその素直な愛情表現が
    なんか微笑ましくて良いわ。

    地元紙からの取材を受けた夏神さん。
    自分の好きなことをやって
    誰かが喜んでくれるのは嬉しいよね。

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著者プロフィール

作家。監察医。講談社ホワイトハート「人買奇談」にてデビュー。代表作は「鬼籍通覧」シリーズ、「奇談」シリーズ(講談社)、「最後の晩ごはん」(KADOKAWA)、「時をかける眼鏡」(集英社)など多数。

「2023年 『妖魔と下僕の契約条件 5』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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