日本沈没(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041091197

作品紹介・あらすじ

日本列島に驚くべき事態が起こりつつあるという田所博士の警告を受け、政府も極秘プロジェクトをスタートするが、関東地方を未曾有の大地震が襲い、東京は壊滅状態となってしまう。

感想・レビュー・書評

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  • 小松左京『日本沈没(下)』角川文庫。

    下巻。瀕死の日本に残された時間は僅か10カ月。田所博士の最悪のシナリオに従い、日本政府が動き出すが……

    何十年か振りで読み返すと、改めて違うことが見えてくる。本作では自然の猛威による天災の恐怖が描かれると同時に日本政府の危機管理のあり方も描かれている。

    世界をパンデミックの渦に巻き込んでいる新型コロナウイルス感染症では日本政府の危機管理の甘さ、未熟さを露呈した。さらに困ったのは日本政府が国民の命や安全よりインバウンドによる経済効果と東京オリンピック開催を選択したことだ。

    こうした脅威を前にした時、瞬時に何を最優先にし、何をすべきか決断することが危機管理能力と政治的判断力なのだろう。少なくとも本作に描かれる日本政府は日本という国を残すために大きな決断を行い、極秘裏にあらゆる手を使い、行動している。

    タイトル通り果たして『日本沈没』が現実となるかは本作を読んでのお楽しみ。

    本体価格600円
    ★★★★★

  • 本作品が出版されてちょうど50年とのこと。完全なるフィクション、とあるが、そうとは思えない読後感です。

    相当科学は進歩したんでしょう。でも「日本沈没」が起こらないなんて言えない。
    自分が突然難民になったら、なんて想像をしたことがない。そんな必要もなかった。ホント自分のいるところは平和なんだ。

    著者の息子さんによる「文庫版にあたって」に、執筆動機は「戦争」だったと。「日本」を愛しているがゆえ、叱咤を込めて、日本人とは何か、日本とは何かを考え直したと。

    天災も怖いが、人災も怖い。

    長らく執筆をためらわれた『第二部』をしばらくしたら読んでみよう。

  • 地殻変動により日本列島で地震や火山の噴火が相次ぎ、最後には海面下に沈没してしまうというシナリオに突き進んでいく。

    ・不確定な未来に向き合うリーダーシップ
    ・社会情勢に興味を持たず、日常の延長が続くと信じたい心理
    ・国が何とかしてくれるだろうという無知な人達の環境依存
    ・有事の際における優先順位(命の選択)
    ・単一民族国家

    これらの要素は、コロナ禍&地政学リスクが向上している
    現代にも当てはめて考えることができる。

    「他国の侵略を受けにくい」「島国の閉鎖的で自己完結するマーケット」
    という歴史的に恵まれた環境に身を置いてきた日本人たちが、
    日本沈没により海外へ集団意味を余儀なくされ、将来どうなっていくのか
    とても興味がある。日本沈没第2部の続編も楽しみである。

  • Amazonオーディブルにて読了。 3.3
    1984、三体、プロジェクトヘイルメアリーとSFがマイブームになったので日本のSFもと思い1番有名?な日本沈没を読んだ。これまでのSFは宇宙や近未来の話だったが、この作品はほぼ現代の話でテーマも自分の専攻の地球物理ということもあり、没入感を持って読むことができた。物理モデルは難しくて理解怪しいけど。
    基本的には日本沈没に向けて、さまざまな人間が日本人を助けるために働く物語で、研究者、政治家、技術員などに焦点が当てられる。新社会人となる上で、理想的な日本人の職業人としてのあり方というもの感じれる素晴らしい作品だった。
    ワクワク感は上記のSF作品には及ばないが、リアルな怖さや働き方という面では良かったのでこの評価。日本人万歳!!!笑笑

  • T図書館 再読
    《内容》
    5章沈みゆく国 (本書の2/3が5章だ)
    政府、研究者達、海外の動き、スキャンダル、人間模様
    6章日本沈没
    エピローグ 竜の死

    《感想》
    上巻は事が起こる前の序章だった
    下巻はまったく書き方が異なり、今まで読んだ本の中で別格の大作!
    予想をはるかに越えた作品であった

    傑作と思わせてくれた一つに上げられるのは「空気感」だ
    起きていることをそのまま書くのではなく、「そうなんじゃないか?」といった雰囲気がえがかれていた
    はっきりしない記述が苦手な方は好まないかもしれない
    上巻の第2次関東大震災と称される地震は、単発だと高をくくっている人々
    しかし地震が多発、噴火も始まる
    「何か悪いことが起きているじゃないか」みんなが「何か変だ」という空気感が漂う
    小松氏も地震や沈没と書かず、「それ」「あれ」といった「こそあど言葉」を多用に使っていた
    はっきり書かないことで、不安や恐怖がさらに高まり、相乗効果をもたらしていた
    終盤、世間に日本が沈没すると知れ渡っても「政府が助けてくれる」「何とかしてくれるのではないか」という空気になる
    日本人特有の空気
    その風潮は昔も現代も変わらない
    真否がわからないうわさでも、右往左往することもある
    空気感とは、こういう危機的状況に合う表現のような気がした

    そして徹底的に書いているのは「人間の心情」だ
    もちろん地震の凄まじい状況も書かれてはいるが、意外に少なめで、書きたいのは状況ではなく、あくまでも人間の方だと察する
    前半にある首相の嘆きは、10ページ近くあり圧巻で読みごたえがあった
    「滅びるかもしれない」「決断は荷が重すぎる」「神をも代行する冷酷な狂気」「なりたくて最高権力者になったのではない」等、吐露するのだ
    「決断を委ねられるコンピューターが出現したら…」なんて、1973年で成田氏のようなことを書くなと思ってしまった
    これだけの分量があったのに、国民に向けての演説は、背後にあるテレビから流れているという設定で、要所要所で1文載っている程度
    メインは研究者達の会話だった
    引き算の美学でしょうか!
    そのような感じを受けた
    所詮演説なんて、そんなの十分わかっているでしょうと言った感じなのだろう

    小野寺という中心人物の心情も大変苦しかった
    首相の演説は2週間後に決まっていた中、母親の葬儀で兄と話す
    兄は仕事をやめカナダへ行こうと考えてた
    「早く(カナダへ)行った方がいいよ」と言うだけにとどめ、首相の発表前のため日本が沈没することを言えずに煩悶する
    「みんなに逃げろと大声で叫びたくなってきた」に、言っちゃえ!と感情移入したが、まじめな彼は秘密をしっかり守るのである
    まだ心労は続く
    結婚を決めた彼女と日本を脱出する当日、奮闘する仲間をみて、逃げたくなくなったと心変わりする
    その気持ちもわからんではないが…
    しかし突然彼女から電話が入り、噴火に巻き込まれ、ガリっという音を最後に不通となってしまうのだ
    気味の悪い汗、呆然となる
    これはキツイ
    言葉を失くした

    沈没まで10ヵ月のカウントダウン
    使える空港や高速道路が、地震の影響で沈下や水没で、少なくなっていった
    脱出できたかできなかったか、生き延びたか否か、詳しく書いていないものの、人々の結末を察することができる
    終盤は、田所博士と渡老人の「最後」の会話、研究者達の疲れた様子の会話、ある島に少女といる小野寺の会話で終わっていた
    この様子から小野寺は助かったとわかった
    しかしハテナだった
    すぐ続きを書くつもりで、こういう結末にしたのかわからないが、続編は33年後に書かれ、内容は日本沈没から25年後の設定だという
    読むか迷うところだ
    違う作品も読んでみたい

    解説
    1973年日本列島は海底に沈みかけたことがあった、沈没ブームの1年だった
    小松氏は造船中の地球深部探査船「ちきゅう」を視察している
    出版直前から続いていた浅間山噴火
    西の島の海底火山噴火 、根室半島沖地震6月があり、異常気象が言われていた

  • 地理学だけでなく、救助にかかる各国のpower gameの感じがしっかり描かれていていい。最後は本当に悲惨だけど…生きていくことは辛いけど、最後の八丈島の話のように、それでも外国でたくましく生きていく人に賭ける。

  • 下巻は日本沈没に向かって、地殻変動から火山の噴火、地震、津波とありとあらゆる天災が起こる‥壮大なスペタクル要素がぎっしりつまった内容。多少読みにくい感はあったけど、ラストは日本人として生きてることに感謝したくなるような‥そんな作品でした。第2部、読むのが楽しみです。

  •  1973(昭和48)年刊。
     何度も映画化・テレビドラマ化・劇画化され頗る有名な作品。小松左京さんの本は数冊読んだこともあって嫌いな作家ではなかったが、これは初めて読んだ。
     私はいわゆるパニック映画が好きで、「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」新しいものでは「デイ・アフター・トゥモロウ」など、何度も観た。建物等が大がかりに破壊され、大勢の人びとが叫び、逃げまどうの様子、そのカタストロフに一種の痛快さを感じてしまう。
     小松左京さんは群衆が驚き逃げまどうようなパニックものが得意であったようだが、本作はまさにこの路線の究極のものである。なにしろ一国が消滅するというレベルの大災厄なのだから、その破壊のスケールは凄まじい。
     読み始めると最初の第1章は海洋探査に関わる馴染みのない用語に惑わされ、あまり面白くもないように感じたが、日本列島の破局の兆候がいよいよ濃厚になってくるにつれどんどん面白く、手に汗握るように読んだ。上巻の終わりの方で第二次関東大震災と称される東京の大地震が生々しく描写されるに及んで、痺れるような興奮を覚えた。
     現在を舞台としたSFでは、いや、人物が多く登場し写実を基本とする小説は全部そうだろうが、「シミュレーション」の展開が書くことの核心となる。その想像が生み出す像がリアルさを持って読む者に迫る時、小説は傑出したものと受け止められるだろう。
     小松さんはSF作家だからもともとそういうことが得意であったのだろうが、きっとこれを書くためにもの凄い量の資料を読み込み、多数の取材を経たに違いない。そうした作家の凄まじいほどの努力が窺われ、全く敬服するほかない。地球科学から政治・社会、あらゆる知識が総動員され、壮大なシミュレーションが繰り広げられ、そこには胸をうつ迫力が醸し出される。その上、自然とともに生きてきたという「日本人」の心性への深い了解も語られ、作品は更に奥行きを深める。
     本作の中で打ち出されるマントル対流の科学的理論はもうかなり古いだろうし、国内随所を大地震が襲う中で(東日本大震災で我々が目撃したような)原子力発電所が引き起こす深刻極まりない二次災害の要素が出てこないことなど、現在の知見からはやはり「古さ」が見受けられるものの、読んでいてそれが気になるということは無かった。圧倒的なシミュレーションのメカニズムが小説ストリームを強靱に生成するので、我々は唖然としながら読むばかりである。
    「芸術ではない」と断じる人が大半だろうけれども、シミュレーションという近代小説の定石を極度に延長した迫真のリアリティを示すことにおいて、これは実に見事な作品だと私は考える。日本文学史に本作のタイトルが刻まれてあっても何の不思議もないと私は思う。

  • 名著だと目にはしていたけれど…エンタメだろうと高を括っていた頭に鉄槌を受けた。映像作品に落とし込まれたものを一切目にしてこなかった私は「日本沈没をなんとか止める物語」だと、ハリウッド映画的な内容予測をしていたから。
    これほどの微に入り細を穿ったシュミレーションが50年もの昔に書かれていたとは。書かれた御本人が一番恐ろしかったのではないだろうか。地震が起こるたびに「このあと日本はどうなるか」なんて聞かれても「読んで考えろ」としか答えようがないと思うのだが…
    視点がとてもグローバルで、外から見る日本を少し理解できたと思う。

    地球内部の動きを、気象に当てはめて説明されるのは驚くとともにとっても面白かった。富士山が吹き飛び、日本が割かれ、没していく描写がリアルすぎて、いつも見ている富士山の方に視線をやるのが怖くなったほど。

    溢れ出る昭和感と今は使われない「裏日本」という表現に執筆当時の意識を感じた。良いも悪いもない。当時はそうだったのだから。
    日本民族のアジア諸国に対する優越感、豊かになりすぎて自分を見失う若者、官民の意識の差などは今もって横面を張り飛ばされるような鋭い指摘だと思う。

    最近の情勢も相まって、脱出する日本人の行く末を、どうしても受難の民族に重ねてしまう。
    日本人は民族として子供というのも頷ける。歴史を振り返れば、独立国としての今のあり様は不思議でしかない。多くの人の努力があった事は確かだけれど、綱渡りを幸運でもって渡っているという感覚がある。だけど平生、意識して生きていない。だからそれは守られている子供で間違いない。

    民族として安定するには国土が必要。それが物理的に無い。今ある以上感覚として理解できないが、考えるだけで背筋が凍る。絶対に体験したくない。

    「第一部完」で終わるとは知らず、驚いた。谷甲州共著の続編を読みたいと思うけれど、辛いものだろうな…
    タドコロ先生の熱っ苦しさ嫌いじゃないけど、こんな上司厄介だろうなぁ。オノデラさんは死んじゃうのだろうか…
    あぁ…もう日本は無いのだな…

  • 富士火山帯が火を噴きまくり、中央構造線(九州東部から関東へ横断する断層)に沿って大地震が頻発、日本の国土は崩壊の一途をたどります。諸外国への避難民受け入れ交渉に各国の思惑が入り乱れ、東西世界の緊張が高まっていきます。祖国を失い難民となった日本人が自我同一性を保てるのかということが下巻の主題だと思いました。

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著者プロフィール

昭和6年(1931年)大阪生まれ。旧制神戸一中、三校、京大イタリア文学卒業。経済誌『アトム』記者、ラジオ大阪「いとしこいしの新聞展望」台本書きなどをしながら、1961年〈SFマガジン〉主催の第一回空想科学小説コンテストで「地には平和」が選外努力賞受賞。以後SF作家となり、1973年発表の『日本沈没』は空前のベストセラーとなる。70年万博など幅広く活躍。

「2019年 『小松左京全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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