蜘蛛ですが、なにか? 蜘蛛子四姉妹の日常 (1) (角川コミックス・エース)

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  • Amazon.co.jp ・マンガ (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092309

作品紹介・あらすじ

蜘蛛型の魔物へと異世界転生した「私」。魔物が蔓延る迷宮で生き抜くために身につけたスキルの一つ「並列意思」で分裂させた4つの意思が何故か実体化して…? 「蜘蛛ですが、なにか?」公式ギャグスピンオフ!

感想・レビュー・書評

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  • 四人になった蜘蛛たちのかわいい?生活。
    スピンオフなので、日常系の作品に仕上がってる。

  • エルロー大迷宮にシャワーが無いとは書かれていない。

    『蜘蛛ですが、なにか?』の分岐した「IF」ストーリーとして描かれたスピンオフ・ギャグになります。

    時間軸としては「地龍アラバ」戦以前、具体的には原作小説三巻ラスト、かかし朝浩版漫画八巻以前。
    ならびに原作小説三巻中盤、かかし朝浩版漫画六巻以降、主人公の四番目の進化形態「エデ・サイネ」になってからとなっています。キャラクターデザインも、今回はかかし朝浩版に準拠したものです。

    時間軸及び視点の都合上、主人公たちを除いたほかネームド台詞ありの登場人物は何をしでかすかわからない愉快犯の黒幕「D」。それと、異世界の管理者であり主人公を認識しながら監視に留める謎の男「ギュリエディストディエス」。
    以上に限られた結果……、本編に輪にかけてフリーダムな作品が世に送り出されてしまいました。

    はじめに断っておきますと、この星3は評価保留の意味を込めた星みっつであり、このスピンオフ・シリーズの評価を現時点で下すのは早計とも考えています。

    ただし、ほのぼのギャグな万人向け作品に見えて意外と人を選ぶ要素満載なので列挙させていただきます。
    あくまでシュールギャグ中心の作風なので気にならない方は気にならないでしょうし、なによりここからはネタバレを気にせず織り交ぜる形でレビューを送ります。

    少々きつめに論を展開しますが、ご容赦ください。
    この漫画を気に入られている方向けの講評ではありません。そういった方には私からも回れ右を推奨します。

    ではここから。
    冒頭の思考実験(設問)からわかる通り、この漫画は本編の異常なシチュエーションに加えて「主人公の体が四体に分裂」という前提をプラスワンしたものになります。

    実際はこの状況下、本編の進行とともに顔を出し、最終的には原作小説(書籍版)六巻という比較的早い時期で完膚なきまでに否定される「時限性」のネタなんです。
    よって、実のところ脈絡のなさを置いておけば異常でもなんでもなかったりします。

    なので本作があくまで「かかし朝浩」版漫画からの派生であることを考えれば、原作(書籍版)からは切り離して考える必要があります。冒頭で挙げた時間軸の問題を考えますと、本編の知識を必要とするとともに六巻までを知らないという「客層」の想定も考慮に入るかもしれません。

    反面、掲載WEB誌「ヤングエースUP」は原則全話無料掲載の体裁を取っているので、連載をリアルタイムで追っていく読者にとってはあまり問題になっていません。
    その辺の性質を考えるとビジネスモデルとしては面白い試みだと思いますし、一話当たり「8P」と軽い単発の話が継続的に週刊連載されるというのは漫画本編の緊張をゆるめる箸休めとして優秀かと。

    ここまでくれば「蜘蛛」という題材が比較的好みの分かれるという風評も遠いところに行ってしまったのかもしれませんね。小説、そして漫画版とキャラクターデザインを変遷させつつ、スピンオフも来たとなればコンテンツとして一人前。

    小説で、主人公が「魔法」を使う何気ない想像の一ページからはじまって、四者四様の意識「並列意志」をデザインしたかかし朝浩版、そして一個から四個のキャラクターとして成立させたここ「グラタン鳥」版スピンオフ。
    賛否は分かれど、こうして世に出たことに関しては「可能性」という面でけして悪いことはないと思いました。

    知識を求める基本人格で、意外とプライドが高いまとめ役「情報担当」。
    トレーニングバカでストイックな「体担当」。
    スピリチュアル系女子な不思議ちゃん「魔法担当1号」。
    子どもっぽい構ってちゃんの末っ子気質な「魔法担当2号」。

    情報担当と体担当については本編の「主人公」のペルソナ、一側面という形で切り出せるんですが、後半については作中でツッコまれた通りどこから出てきたかわかりません。
    そちらは実質グラタン鳥先生オリジナルのアイデアになりますね。ただし、最後の子はマスコット路線として本作を見る上では重要です。

    幼さと天真爛漫さが度を越していて「狂気」にしか見えない場面も多いんですが、ムードメーカーとして掛け合いの起点となり、トラブルメーカーとして騒動の種を持ってくることも多い。
    四体が役割分担という意味で話を回りだせば、それぞれの得意分野を持ち寄って色んな仕事を成し遂げることに。

    ――要するにこの四匹が脈絡なく遊んでいるだけの漫画です。
    序盤こそ表情とかポーズの付け方を人間の延長線上で描いていた部分が多かったためか違和感を感じましたが、こなれてくればこっちのものです。シンプルな線のキャラこそ難しいのですねとしみじみと感じました。

    ついで、勢いを感じさせつつ、蜘蛛が動いているという動きを感じさせずに謎の怪生物が動いているよう思わせる工夫が施されているように思えました。
    こちらについてはアイコンとしての「蜘蛛のキャラ」を並べつつ、流れとしての話を紡いでいくといった感でしょうか。変な決めゴマを量産していくのはかかし朝浩版に共通しますね。

    ただし、あちら側はシリアスな流れを緩和するべく、パロディを交えた読者向けの心象風景の具現といった面がありました。
    反面、ストーリーのないコミカル一辺倒なこちらでは変な動きが日常になってしまい、ダレてグダグダになる危機がありました。

    先の言葉をひるがえすようですが、ストーリーラインの助けのないということを考えれば「四体に分裂」は異様な状況下なのかもしれません。
    それなのに、コマを見るたびに常に何かやってるというあわただしさを繰り広げつつ、一定のお題に沿った「コント」を毎回繰り広げている辺りに技量を感じます。
    傲慢な言い方になってしまいますが、このプロットを形にできているという時点で十二分に評価に値します。

    グラタン鳥先生の前作『女戦士とオークさん』と比しても、スピンオフの縛りを受けすぎず自由にやっていただいているようなので、その点でも安心しました。
    本来の絵柄を存分に解放してよい人物の到来も待ち望まれる気がしますが、連載継続につれて機会は巡ってくるでしょう。

    その一方で、本作が「自己の確立」に向けて成長していく主人公のセンシティブな内面を逆撫でするように、能天気なギャグ一本で攻めていく作風になっていることも確かです。
    主人公のことを可愛くも毒のある「マスコット」が繰り広げるドタバタ劇といった目で見れば正解なのですが、一人の誇りと知恵を持った「ヒロイン」の活劇という視点で見ると侮辱に取れないこともないです。

    本編の進行につれて薄れていく主人公のマスコット成分を補給する意味では申し分はないのですが。事実、当初の人気をつかみ取った迷宮探索編のパートは作品全体のパーセンテージとしては低めですし。
    もちろん「原点」として絶対に蔑ろにはできず私としても好きな章であることもあることも確かですが、私個人としては、本編と切り離した「IF」として留まってくれるのか? などとヒヤヒヤしている部分もあります。

    また、あえて漫然とした読み方をすることによって頭が空白になるようなトリップ感覚を味わえる一方、その点「異常性」という意味では舞台設定の方に四匹が食われている感は否めません。

    この「シットコム」の舞台は原作小説三巻までの主舞台となる「エルロー大迷宮」で共通します。
    たいていは野生動物とそう変わらない知能の魔物たちが闊歩する、食うか食われるかの殺伐としたサバイバル空間という価値観の上に、時々「銭湯」を開いていたりと謎の文明を築いていたりする魔物たちというシュールさが上乗せされます。

    そもそも漫画の進捗からすれば出せるキャラクターが乏しく、動かせる駒不足の現状が主人公の分裂という「苦肉の策」に至らしめたと思うのですが、そこに妙な造形をした魔物たちにセリフこそないけれど人格を持たせて、場違いなシチュエーションを仕立てる上での脇役に仕立てることもあります。

    よって、ここ一巻はともかく、本格的にアクセルがかかりだす二巻(収録予定)の回を見ていくと、世界観を壊しそうなネタが目立って、笑う以前に悩む場面が多くなってしまいます。
    全編がギャグ時空であることを考えれば、これは流していいだろう切り替え時が見つからなくて困るんです。

    ただし、本編の根幹設定と決定的な矛盾が生じるような場面はありそうでなかったりします。
    絶対茶化してはいけなかったりするポイントは理解されているようなのが、はじめに断った通り評価を難しくしています。

    そんなわけで現時点での結論を申し上げますと、優れた連載ギャグ漫画は終わらせ方を知っているが持論なので、どう畳むか微妙に気になっているのがひとつ。
    掲載サイトの都合上、かかし朝浩版の進捗に左右されるならどこまで我が道を行くことが出来るのか、またアニメの放送に連れて、出してよい情報がたたき込まれるとして作風を変えるか否か?

    正直な感想を言えば何も考えないで読む分には相当楽しい漫画なんです。私自身何度も読み返すうちに慣れる部分もありましたし、上記の長々しいこまっしゃくれた意見は聞き流すくらいでいい気もします。
    爆笑を誘うというより、何も考えずに変な生き物たちがわちゃわちゃやってる雰囲気が好きですし、ここだけでしか見つけられないだろう謎の絵面をお出しされた時点で間違いなく一作品としては勝利です。

    なににせよスピンオフとしてあくまで商業的なコンテンツの展開としてお出しするには今しかないにしても、早いうちから柱として出されるには重責を担ってしまったのがこの作品の数奇さを物語っているのかもしれません。
    本作がにぎやかであればあるほど、本編の根底に流れる物悲しさがより大きく思えるのも確かなんですけどね。

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著者プロフィール

小説投稿サイト「小説家になろう」に2015年5月より『蜘蛛ですが、なにか?』を投稿開始。初投稿作品だったが一躍人気作になり、本作で書籍化デビュー。アニメ化も決定しており、WEB版はPV数4億6000万を超えるヒット作となっている。(2019年9月現在)

「2022年 『蜘蛛ですが、なにか? 16 短編小説小冊子付き特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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