この本を盗む者は

著者 :
  • KADOKAWA
2.81
  • (53)
  • (179)
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  • (253)
  • (116)
本棚登録 : 4456
感想 : 409
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092699

作品紹介・あらすじ

「ああ、読まなければよかった! これだから本は嫌いなのに!」
書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。
“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”
本の呪いが発動し、街は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り世界が元に戻らないと知った深冬は、探偵が銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて――。

「呪われて、読む。そして書く――私たちは!」
森見登美彦氏 推薦!


※電子書籍版には特典として、カバーイラストコンペ応募作品のイラストギャラリーを収録しています。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、本が好きでしょうか?もしそうだとして、『二十三万九千百二十二冊』という膨大な数の本が自由に読めると聞いたらどう思うでしょうか?

    レビューを読みはじめて早々に、『二十三万九千百二十二冊』の本と言われても困りますよね。ブクログの私の本棚に”感想を書いた”として登録した冊数は現時点で七百冊にも届いていません。私は週に三冊の女性作家さんの小説を読むというペースでこの三年間読書を続けてきました。会社員としての仕事もある中に、週三冊のペースはなかなかにハードなものがあります。

    しかし、そんなハードな読書を続けても未だ『二十三万九千百二十二冊』の一パーセントにも届いていないという計算結果を思うと、そんな恐ろしい冊数の本の存在自体がもはやなんの意味もない数字に思えてきます。そもそもそんな冊数の本は一生かかっても読みきれないのは明白です。とは言え、本が好きな人にとっては、たくさんの本に埋もれたような暮らしを一度は体験してみたいという思いはあるのではないでしょうか?辻村深月さん「図書室で暮らしたい」という書名の作品がある通り、実際に読めるかどうかは別として、現実と夢、それは切り分けて考えてもいいのかもしれません。

    さてここに、曾祖父が残した『二十三万九千百二十二冊』の本が保管されている『巨大な書庫』のような家のことを思う『本嫌い』の女子高生が主人公となる物語があります。保管されているすべての本には『ブック・カース(本の呪い)』がかかっていると説明されるこの作品。そんな本を『館の外に一冊でも持ち出したら』『呪い』が『発動する』と説明されるこの作品。そしてそれは、そんな『ブック・カース』が発動したその先に、『呪い』を解くために奔走する一人の女子高生の姿を見る物語です。

    『角のまるい菱形をしている』という周囲の川によって『島のように周囲から切り離された地形』にある読長町(よむながまち)。そんな街の中央には『御倉館(みくらかん)』という『書物の蒐集家』だった御倉嘉市が『大正時代から』集めた『二十三万九千百二十二冊』もの本が収められた『巨大な書庫』がありました。しかし、ある時『一度に二百冊の稀覯本が失われた』ことをきっかけに嘉市の娘・たまきは『御倉館』を閉ざし『愛する本を守』るために『奇妙な魔術』をかけたのでした。
    時代が下がり、自転車事故で『全治一ヶ月』で入院している父の御倉あゆむを娘の深冬(みふゆ)が見舞い、『御倉館の警報』による苦情が来ていることを報告します。『御倉館』に一人暮らす『誰かが面倒みないとろくに生活できない』叔母の ひるねが原因と父親に詰め寄る深冬。病院を後にした深冬は商店街へと向かいます。『十歩歩けば本にまつわるなにがしかの店に行き当たる』『本の町』である読長町。そして、惣菜店で焼き鳥を買うと『三角の切妻屋根を頂いた』『御倉館』へとやってきました。『警報を解除』し『ひるね叔母ちゃん?』と建物へと入った深冬は『古本特有のつんとするにおい』を感じます。二階の部屋の絨毯の上に眠る叔母を見つけた深冬ですが、『揺さぶって』も起きません。そんな時、『叔母の手の中』に紙のメモを見つけた深冬が『ゆっくりと引き揚げ』ると、そこには『この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる』と書かれていました。『肌がぞわっと粟立った』という深冬は『何これ、気持ち悪っ』と紙を放します。そんなところに『まとわりつ』くような風が吹いてきて『真っ白い運動靴と靴下を履き、深冬と同じ高校の制服を着』た一人の少女が現れました。『ましろ。真剣の真に、白で、真白』と言う少女の登場に慌てた深冬は『叔母ちゃん、起きて』と焦るも『目を覚まさない』叔母。そんな深冬に『帰れないよ』『泥棒が来て、呪いが発動したから』と言う真白は『深冬ちゃんは本を読まなくちゃならない』と続けます。そして、本棚に進んだ真白は『これを読んで』と『ある書架の前で』『足を止め』て書棚を指します。そんな先には『繁茂村の兄弟』という書名の一冊の本がありました。『読んで、深冬ちゃん』と言われて本を開くと『物事にははじまりと終わりがある…』とはじまる物語が記されていました。『内容は想像もつかないが、無性に惹かれる』という思いの中に読み始めた深冬でしたが、やがて『まさかこれを全部読めって?』と不満げに言い、本を閉じると『あたしもう帰るよ』と帰ろうとします。その時『コケッ』という声がして、足下をみると『一羽の雄鶏』がいます。『な…なんで、鶏が…』と真白を見ると、そこには『目元と髪以外の顔が犬になってしまった』真白の姿がありました。これは夢だと思い『起きろ、起きろ…』と『自分に語りかけ』る深冬に真白は『深冬ちゃん』と言うと『これは夢じゃなくて、”呪い”』と説明を始めます。『御倉館の本…そのすべてに”ブック・カース”がかかってるの。盗んだら、御倉一族以外の人間が館の外に本を一冊でも持ち出したら、発動する』と説明する真白に『…あんた、頭でも打ったの?』と言うと外に出た深冬は、そこに『派手な満艦飾の旗が溢れ、道路を覆』い、『緑色だった銀杏の葉は黄金に輝』き、そして『月がウインクしてる』というまさかの街の姿がありました。『今から深冬ちゃんは泥棒を捜さなきゃならない。泥棒を捕まえたら、ブック・カースは消えて街も元に戻るから』と言う真白に『本を盗んだ泥棒を見つければ、街は元に戻るの?』と訊く深冬。そして、そんな深冬が真白とともに『本を盗んだ泥棒』を探すファンタジーな物語が始まりました。

    “書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人…ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、深冬は残されたメッセージを目にする。’この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる’ 本の呪いが発動し、街は物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り元に戻らないと知った深冬は、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて…”とファンタジー感溢れる内容紹介に心躍るこの作品。2021年本屋大賞の第10位にランクインした作品でもあり以前から興味はありましたが手にするのがズルズルと遅くなってしまいました。私はファンタジーに分類される作品がとても好きで、中でも村山早紀さんが展開される”風早の街”を舞台にした物語の数々には心を囚われることしきりです。ということで読む前から期待度Maxに読みはじめました。

    では、そんなこの作品をレビューするに際してその舞台設定をまず見てみたいと思います。この作品は『全国に名の知れた書物の蒐集家で評論家であ』った御倉嘉市が川によって『島のように周囲から切り離された地形にできた』『読長町』に建てた『御倉館』および町全体が舞台になります。この『島のように』という設定になっている理由は〈第四話〉でなるほどとその設定理由がわかるのですがいずれにしても『読長町』という本好きにとってはなんとも意味深(笑)な町名が興味を掻き立ててくれます。そして、そんな町の中にある『御倉館』という『巨大な書庫』で事件?事象?が起こっていくことになりますが、その原因が冒頭に”プロローグ”の如く記されています。

    ① 『一九〇〇年に産まれた嘉市が大正時代からこつこつ集め続けたコレクション』を『御倉館』という『巨大な書庫』に蔵書した

    ② 娘の たまきが『御倉館』を引き継ぐも、ある日、『一度に二百冊の稀覯本が失われ』てしまう

    ③ 『御倉館を閉鎖』し、『建物のあらゆる場所に警報装置をつけ』る

    ④ 『たまきが息を引き取った後』、『たまきは愛する本を守ろうとするあまりに、読長町と縁の深い狐神に頼んで、書物のひとつひとつに、奇妙な魔術をかけた』という噂が流れる
    → これが『ブック・カース』と呼ばれるもの

    そして、この『魔術』という点に呼応するように展開するのがファンタジーな物語です。そんなファンタジーの描写がかなりかっ飛んでいますので、少し抜き出して見てみましょう。

    ・『漆黒の空』に『満月』を見る深冬という場面
    → 『満月の隣にもうひとつ満月が現れ、その下にピンク色の穴がぽっかりと開いて、「なおお」と野太い鳴声が漏れた』。
    → 『夜空だと思っていたものは、巨大な黒猫の体だったのだ』。
    → 『夜の黒猫は満月の両目を薄く細めて挨拶すると、仲間を背中に乗せたまま巨大な体を軽々と翻し、猛烈な風を吹き荒らしてどこかへ飛んでいった』。
    → 『夜の黒猫は姿を消し、代わりに朝が来た』。

    そもそもの表現が強烈なのにこんな一部分だけ抜き出してもなかなか理解いただけないかもしれませんが、ようは超『巨大な黒猫』が目の前を覆っていたというシーンです。『満月』とは目であり、『ピンク色の穴』が口ということですね。そして、『巨大な黒猫』が去ったら『朝が来た』とは凄い世界観です!では、もう一箇所抜き出します。

    ・『深冬ちゃん、頭のてっぺんを触ってみて』と真白に言われ『嫌な予感がした』深冬という場面
    → 『深冬はおそるおそる手を伸ばして頭のてっぺんに触れる。そして自分の頭から、ふたつの毛むくじゃらの尖ったものが生えていることに気づいた』。
    → 『天鵞絨のようになめらかな感触は明らかに獣の耳』
    → 『しかも尻からは尻尾まで生えていた。深冬は絶叫した』
    → 『みっ…みみ、耳が!尻尾が!』、そして深冬を抱くと真白は『思い切り地面を蹴』り、『空を飛』びます

    いやあ、これはもう超!ファンタジーの世界ですよね。『耳』が生え!、『尻尾』が生え!、そして『空を飛』んじゃうわけですから。もうなんでもありという感じです。ここで大切なのはこの記述を頭の中でイメージして、想像力を飛翔させていけるかどうかだと思います。そう、読者のあなたの想像力が試されるのがこの作品の大きな特徴とも言えます。

    そして、そんなファンタジーな物語は最終話である〈第五話〉でさらに突き抜けます!みなさんのこの作品のレビューを読むと、予期していなかったファンタジー描写の連続についていけない!途中で断念した!という方もいらっしゃいます。小説のジャンルは人によって好き好きです。私もホラーだけは夜中にトイレに行けなくなって健康問題が生じると困るので絶対読みません。それと同じようにファンタジーが苦手という方にはこれらの表現の頻出は少し厳しいところもあるのかもしれません。ただ、ファンタジーが好きだと思ってきた私自身にもひとつ発見がありました。私はファンタジーが好きです。しかし、私が読んできたファンタジー作品、例えば村山早紀さんの”風早の街”が登場する作品の場合、あくまで街の表情は普通です。そこに”猫がしゃべってる!”とか、”植物が主人公の危機を救ってくれる!”など、物語の一部分にファンタジーがひょっこり登場します。そんなファンタジーを読んできた感覚からはこの作品のようなちょっとかっ飛んだ世界観はある意味で衝撃的でした。そういう意味では私にとっての好みの方向のファンタジーではない部分もありはしますが、一方でこれはこれで面白いとも感じました。ということで、途中で挫折される方もいらっしゃるこの作品、これから読まれる方に幸せな読書が、そうアンマッチな読書が生じないことをお祈りします。

    そして、この作品のもう一つの特徴が”小説内小説”が展開するところです。これこそが、この作品の読み味をもっとも左右する部分であり、上記したファンタジー表現はここに引きずられて登場するものでもあります。では、各章のタイトルと”小説内小説”の書名、そしてそのジャンルをここに整理しておきましょう。

    ・〈第一話 魔術的現実主義の旗に追われる〉: 小説内小説『繁茂村の兄弟』
    → マジックリアリズム

    ・〈第二話 固ゆで玉子に閉じ込められる〉: 小説内小説『BLACK BOOK』
    → ハードボイルド

    ・〈第三話 幻想と蒸気の靄に包まれる〉: 小説内小説『銀の獣』
    → スチームパンク

    ・〈第四話 寂しい街に取り残される〉: 小説内小説『人ぎらいの街』
    → 奇妙な味

    ・〈第五話 真実を知る羽目になる〉: 小説内小説『(ネタバレになるので秘密(笑))』
    → (はい、こちらも秘密(笑))

    わざわざ各章のタイトルを書き出したのは、一見意味不明なそれでいてとても印象的なタイトルがつけられているのを知っていただきたかったからです。そこには、このタイトルが暗示する物語が展開していきます。また、各話で取り上げられる”小説内小説”は、そのタイトルからは内容は全く判然としません。そんな中から一つ抜き出してご紹介しておきましょう。〈第二話 固ゆで玉子に閉じ込められる〉に登場する『BLACK BOOK』という”小説内小説”の冒頭です。

    『リッキー・マクロイは窓のブラインドを下ろし、煙草に火を点けた。青い夜に橙が灯る。「お互い考えていることは同じだな、ジョー」』

    どうでしょうか?上記で説明させていただいたファンタジーからは随分遠い印象を受けると思います。もう少し先の部分からもう一箇所抜き出しましょう。

    『リッキーは振り向きざま、奇襲をかけ損ねた若いハイエナの首を左手で締め上げ右手のM1911を突きつけた。「十日だ、クソ野郎」』

    どうでしょうか?ピンとこられた方もいらっしゃるかもしれませんが、この読み味はまさしく『ハードボイルド』です。はい、そんな風にピンと来たところで章題を見ていただくとそこには、『固ゆで玉子』という言葉が入っています。『固ゆで玉子』=英語で『ハードボイルド』ということで実は章題が内容を暗示していたことがわかります。しかし、これはあくまでこの〈第二話〉が『ハードボイルド』な物語であって、他の章はそれぞれに異なるジャンルの物語が”小説内小説”として登場します。そんな”小説内小説”のジャンルによって展開する内容も異なりますし、読み味も当然変化します。”この4つのジャンルは単に自分が好きで、自分でも書いてみたかったからという理由も正直大きい”とおっしゃる作者の深緑野分さん。そんな言葉の先に書きたいものを書かれた深緑さんの攻めの姿勢を強く感じさせるこの作品は、一冊でさまざまなジャンルの小説をちょい読みできるとても贅沢な作品だと言えると思います。

    そして、そんなこの作品の各章で展開する事件?事象?の基本的な構成は以下のイメージです。

    ① 『御倉館』で本が盗まれる

    ② 深冬が本を読む

    ③ 深冬の周囲、街に変化が起こる

    ④ 盗んだ者を捕まえ、本を取り戻す

    ⑤ 街が元に戻る

    超単純化するとそれぞれの章ではこのような物語が展開します。こう書くとまるで連作短編のような印象を受ける方もいるかもしれませんが実際には各章でこの基本線以外の動きがあるためそう単純に説明できる構成でもありません。また、上記したさまざまなジャンルの”小説内小説”が登場するのもわかりづらさを感じさせる部分でもあります。そして、全体像が見えて来るのは〈第四話〉くらいからです。そういう意味でも作品世界に合わないと感じられた方も頑張って〈第四話〉までは読み進めていただきたいと思います。

    そんなこの作品は『本嫌い』の主人公・深冬の心の変化を見る物語でもあります。前提設定にある通り『読長町』という『本の街』に生まれ、『巨大な書庫』とも言われる本だらけの『御倉館』で本に囲まれて育った深冬。しかし、そんな深冬は『本嫌い』でもありました。そんな深冬が全五章からなる物語の中で、街を『元に戻す』ために奔走していく姿が描かれていくこの作品。そんな作品の中で、さまざまな世界観と巡り合う深冬にどんな変化が生まれていくのか。そこにどんな世界が開けるのか。上記した通り、この作品は〈第四話〉に入って一気に物語が動きはじめ〈第四話〉と〈第五話〉では事実上連続した一つの緊迫した場面が展開します。そして最終話の〈第五話〉にも”小説内小説”が登場し、結末へ向けてこの物語世界の全容が全て明らかになっていきます。そこに繰り広げられる冒険活劇っぽいストーリー展開は間違いなく面白いです。しかし、同時に極めて”アニメ”っぽさを感じさせ、この世界観にハマるか、ハマらないかで読み味は大きく変わると思います。そんな中で主人公・深冬に大きな変化が訪れていくこの作品。さまざまな本の世界を見、さまざまな体験をし、そしてこの世界のありようを理解した先に深冬が見る『御倉館』に隠された真実の物語。そこには、そんな深冬がこの物語世界を体験すべき理由が、体験したからこそ訪れる未来の姿があったのだと思います。

    『深冬ちゃん、今から深冬ちゃんは泥棒を捜さなきゃならない。泥棒を捕まえたら、ブック・カースは消えて街も元に戻るから』。

    曾祖父が建てた『巨大な書庫』『御倉館』を訪れた主人公の深冬。そんな深冬が『御倉館』の中で出会った一人の少女・真白から告げられた言葉の先に、本を読み、泥棒を追い、そして盗まれた本を取り戻す姿が描かれたこの作品。そこにはファンタジー世界にどっぷり浸れる全五章の物語が描かれていました。さまざまなジャンルの”小説内小説”が登場することで、読み味の変化が楽しめるこの作品。絶対アニメ化すべし!と思えるくらいにそれぞれの場面の映像が頭の中に浮かんでは消えるこの作品。

    独特な構成の物語が展開していく中に、深緑さんの攻めの作品作りを見た、そんな作品でした。

  • 本に関するお話だと思って読みましたが、期待値があまりに大きすぎて私はややはずれた感がありました。
    ファンタジーは苦手です。

    読長町という町に書物の蒐集家で評論家の御倉嘉一の膨大な書庫、御倉館があります。
    稀覯本200冊がそこの書架から消え失せてしまい、狐神により書物のひとつひとつには奇妙な魔術がかけられています。
    そこの孫である、あゆむとひるねの兄妹。
    あゆむの子供である深冬が主人公です。

    深冬は呪いがかけられ、本の世界に入り込み、犬耳の少女真白とともに、次から次へと違う本の世界に入って冒険をします。
    誰かが、本を一冊盗むたびに新しい本の中の世界に入っていきます。

    本の中の世界は現実では友だちでも現実とは違う役割を演じていますが、そういうあれこれを、私はファンタジーが苦手なので、本の中の世界はなじめませんでした。

    第五話の謎解きは、最後にたたみかけるようで、面白く、真白や、ひるね叔母さんの出生の秘密が特に面白かったです。

  • なかなか素敵な装丁だと思う。
    タイトルも良い。

    巨大な書庫「御倉館」から盗まれた稀覯本と泥棒を追って、本の世界を旅する本嫌いの高校生、深冬の物語。

    ファンタジーなので、好き嫌いがあるかと思う。
    「極上の現実逃避」ができるか否かは人によると思う。展開が目まぐるし過ぎて僕にはちょっと難しかった。

    御倉館は僕の頭の中ではところざわサクラタウンの角川武蔵野ミュージアムのイメージだった。描写は全然違うけど。

    ー 無性にすかすかする胸を埋められるのは、本しかなかった。

    冒険から戻ったあと、読書に耽る様になった深冬の心情を描いた記述。響いた。これって本好きな人なら皆共感できるんじゃないかな。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      なるほど~
      そうでしたか!

      わたしは「1979年のピンボール」(79年で合ってます?)が好きでした。
      今はもう春樹さん離れちゃ...
      たけさん

      なるほど~
      そうでしたか!

      わたしは「1979年のピンボール」(79年で合ってます?)が好きでした。
      今はもう春樹さん離れちゃったんですけどね…

      だいぶ作品とずれたコメントを失礼致しましたm(_ _)m
      2021/04/10
    • たけさん
      naonaonao16gさん

      どうも、1973年っぽいです(笑)

      僕も最近の春樹さんの長編はついていけないファンタジーだと感じてしまいま...
      naonaonao16gさん

      どうも、1973年っぽいです(笑)

      僕も最近の春樹さんの長編はついていけないファンタジーだと感じてしまいます。
      少し苦手です(笑)

      ファンタジーの話なので、ずれてないです。ご心配なく!
      2021/04/10
    • naonaonao16gさん
      たけさん

      なんと(笑)お恥ずかしい(笑)
      79年はBUMPのメンバーの生まれ年、KinKiのお二人の生まれ年でした(笑)

      ありがとうござ...
      たけさん

      なんと(笑)お恥ずかしい(笑)
      79年はBUMPのメンバーの生まれ年、KinKiのお二人の生まれ年でした(笑)

      ありがとうございます!
      2021/04/10
  • 書物に囲まれて育ちながらも本が好きではない高校生の女の子。
    父親が管理人を務める巨大な書庫「御倉館」から蔵書が盗まれたことで本の呪いが発動し、本の世界へと迷い込む。
    現実の世界と本の世界を行き来しながら本を盗む者を追っていき、女の子が成長していく物語。
    そうかぁ。ファンタジーだったのかぁ。
    本のジャンルによって読む時の心構えは変わる。
    私はファンタジーを読む時は割と気合を入れる。
    世界観にハマると楽しいが、そこまでいくのに結構脳が消耗するからだ。
    脳内映像化という無意識の作業が脳に負荷をかけているのかもしれない。
    肩の力を抜いてエッセイを楽しんだ後だから余計にそう感じたのかな。
    …気合いが足りなかったかぁ。
    それでも、ラストに近づくにつれ、すべての謎の真相が明らかになっていくにかけて面白かった。

  • 子供が読んでいたものを拝借。
    こってりファンタジーを読む気持ちを作らないまま、読破してしまい、戸惑ってます。

    読み終わってから、『ベルリンは晴れているか』『戦場のコックたち』と同じ作家さんであることに気付き、これまた戸惑う。作風が全然違う!

    さて、気持ちを整理して。


    高校生の深冬は、街で有名な本の蒐集家の家系に生まれますが、本好きではありません。

    ある日、家の書庫から本が盗まれるという事件が発生し、現場には、メッセージが残されています。

    それは、「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」というもの。

    そして本の呪いにより、深冬の住んでいる街は、本の世界へと変わってしまいます。街を元に戻すために、深冬は、本の世界を冒険することになります。


    読み終わって感じたのは、不思議な世界に連れてこられたのはわかったけど、この世界観はなんなのか?そして、この結末はどう解釈すれば良いのか?ということ。

    まず不思議な世界観は、ブックカースという呪いで、現実の街が本の世界に飲み込まれるという設定。そしてブックカースという魔術的=西洋的な呪いが、日本的なお稲荷様との、なにやらダークな契約を交わしているという和洋折衷感(契約というのも西洋的)。想像の世界とこの世をつなぐ、あの世の一歩手前の世界、「煉獄」(ファンタジーとホラーが絡み合っている)。そして人ならず者、ひるね、真白という謎の存在(この2人はモンスターというより座敷童子的な感じだけど、真白に関してはもののけ姫のサンのような、ネバーエンディングストーリーの犬みたいな龍のようだったりと‥)。

    この世界感を消化しきれないまま、後半戦は結末まで一気に読ませられます。

    そして結末は、どういうこと?ってなる。
    謎の存在、真白が結末に深くかかわってきますが、その存在をどう解釈するかにしばらくうなされました。

    (きっと真白は‥なんだと解釈)

    こんなことをうんうん考えさせられている時点で、すっかり本の呪いにかかっている気がしてきました。

    こんなにも自由な作家さんだったなんて。

  •  タイトルが示すとおり、「本をめぐる本」の系譜にある1冊です。

     本に関連する多種多様な店が立ち並び、全国から本の蒐集家が集う書店街を擁する町、読長町(よむながまち)。その真ん中に位置するのが、著名な書物の蒐集家にして評論家が建てた「御倉館(みくらかん)」。地下二階から地上二階までがすべて書庫(!)であり、かつては町の誰もが一度は訪れたほどの町の名所だったが、同じく蒐集家であった娘のたまきが引き継いだ後、その御倉館から約二百冊の書物が盗まれ、激昂したたまきにより御倉館は閉鎖されてしまう。
     やがて、たまきの孫にあたる深冬(みふゆ)が小学生のとき、祖母たまきが逝去すると、ある噂が流れるようになった。それはたまきが、厳重な警備だけでなく、町の神社で書物の神様として祀られている稲荷神に頼んで、御倉館の書物のひとつひとつに奇妙な魔術をかけたというもの。
     そして、深冬が高校生になった初夏。本が大嫌いで、御倉館のことも避けてきた深冬だったが、入院した父あゆむの代わりに、ひとり暮らす叔母のひるねの様子をみるために御倉館を訪れると、名前のごとく眠りこけているひるね。その手に一枚の御札を見つけ、つまみ上げてそこに書かれた文字――“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”――を読み上げると、どこから現れたのか、傍らには雪のように白い髪のあどけない少女が立っていた。驚き混乱する深冬に、少女は真白(ましろ)と名乗り、本が盗まれてしまったことで「呪い」が発動した、と告げるのだった。
     ――「信じて。深冬ちゃんは本を読まなければならない」

     現代を舞台に、現実主義的な女子高生を主人公に据えた、“ブック・カース(本の呪い)”なる超現実的な現象をめぐる冒険ファンタジー。2015年『戦場のコックたち』、2018年『ベルリンは晴れているか』と、歴史を下敷きに入念な調査の末に織り上げた重厚な作品を続けて発表したことで、ミステリファンだけでなく文学読みの人たちにも確実に認知と評価を高めてきた印象が強くあった中で発表された今作。著者ご自身も「運動神経で書いた」と述べているように、前2作とかなり趣が異なるのは確かだけれども、いやいやこれ、ものすごく愛おしくて豊穣な作品じゃないですか!
     マジック・リアリズムにハードボイルド、スチームパンク的SF冒険譚と、現実の読長町を呑み込み変貌させてしまう“ブック・カース(本の呪い)”を引き起こす、1話毎に風味の変わる作中作のバリエーションの豊かさ(目次でピンときた人も少なくないはず!)に頬が緩んでいくこと必至。
     初めは目の前の超常的な出来事が理解できず、「これだから本は嫌いなのに」と叫びながら真白に手を引かれるばかりの深冬が、けれどもだんだんと明らかになる本を盗んだ犯人とその理由の謎を自らの意志で追いはじめ、バディとなって疾走する深冬と真白の姿に心が躍ります。そしてその先で御倉館と盗まれた蔵書、そして真白の正体をめぐる真実に辿り着いた時に、胸を埋め尽くす懐かしさと切なさたるや。
     本が好きな人はもちろんのこと、深冬のように「本なんて嫌い」という人にこそおすすめしてみたい、著者の新たな代表作だと思います。

  • 本の町の中にある個人の蔵書館「御倉館」御倉深冬は本が好きではないが管理人の父の手伝いとして時々館を訪れ、そこに住む叔母のひるねの世話をしていた。ある日御倉館から蔵書が盗まれた時に発動する呪いに巻き込まれた深冬。呪いとは本の世界が現実に侵食していくものだった。本を盗んだ犯人を捕まえない限り呪いは解けない。深冬は発動する度に現れる謎の少女真白と泥棒を捕まえに行く羽目になる。呪いで発動した物語の世界がファンタジックだったりハードボイルドだったりと魅力的だが深冬と一緒に呆気にとられているうちに話が畳まれてしまい消化不良。このままだとどうもな、と思っていたら呪いの発生に繋がる世界に入り、深冬自身の成長が見られるようになってからはさくさく読めた。でも前半の良くない印象が拭いきれず。残念。

  • 読長町・御倉館から"この本"が盗まれることから起こる物語。第三話まではファンタジーのようで今一つ集中できなかったが、第四話でばあちゃんが出て来てからは、終わりまで一気読みだった。読長町のような街があると良いな、と思った。

  • ジャンルとしては、ある意味、王道のファンタジーで、ストーリーも起承転結、綺麗にまとまっていると思います。読んでいて、普通に楽しめるのだけど、私的には何かが足りない気がする。

    物語は、悩み多き主人公の成長物語で、特種な家系での葛藤や、謎の少女、様々な本の世界での冒険、そして、これまでの真相・・と、おそらく好きな方もいらっしゃると思います。

    ただ、私としては、本の集まる「読長町」の設定が、いまいち臨場感が薄くて、本好きの人が胸躍る世界観というわけでは無いのが、まず一つ。

    もう一つは、「真白」の設定ですかね。ネタばれになるので詳細は控えますが、ファンタジー特有の、「何でもあり」な点は、時に心に響く場合もあるが、今回は、そうではなかったかな。終わり方も、あれで良いとは思うけど、あまりにストレート過ぎるのも、うーん。意外性に欠けるというか。思っていた通りの展開なんですよね。

    それから、本の呪いと「たまき」の真相については、裏をたどると、それをしたいが為の設定だったのかとも思えそうで、何だか、やるせない気分になりました。ある意味、今作で一番の被害者は、たまきなのかもしれない。

  • タイトルからミステリーかと思っていたが、読み始めたらファンタジーだった。現実の世界での本泥棒を本の世界で探す。こう書くとなんだかややこしいな。でも読んでみるとなかなか面白かった。家が図書館っていうのは憧れるなぁ。

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

深緑野分の作品

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