鹿の王 水底の橋 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092927

作品紹介・あらすじ

真那の姪を診るために恋人のミラルと清心教医術の発 祥の地・安房那領を訪れた天才医術師・ホッサル。しかし思いがけぬ成り行きから、東乎瑠帝国の次期皇帝を巡る争いに巻き込まれてしまい……!?

感想・レビュー・書評

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  • 何となく終わらせたくなくて積んでいた作品。読んじゃった… 本編では断片的だったホッサルとミラルの関係を堪能しました。ミラルの生き方は素敵だった。

  • 鹿の王が良かったので、購入後しばらくとっておいたのだが、鹿の王のシリーズの続編は読みたいような(キャラクターが死ぬのではないかとハラハラするので)読みたくないような。

    前作のヴァンらは登場せずホッサル視点の物語だが、本作も命の物語なので、序盤から「死の迎え方」の描写があり重い。
    リウマチや血友病の病名を変えたものが出てきたり、還元論(オタワル医術)と全体論(清心教医術)の比較のように我々の世界とつながる部分も多い。
    オタワルは(ローマと中世ヨーロッパの関係のように)科学技術が進んで合理的、近代的な考え方で思想面ではツオル帝国を優越しているように見えるが、ホッサルとミラルの婚姻が許されない身分制度が残るように全てが正しいわけではない。これも我々の世界の歴史そのものだ。
    終盤のキーとなる土毒は症状からボツリヌス菌だろうか。

    あとがきや解説の部分を読むことで実在の病気や細菌を元にしていたこと、鹿の王の黒狼熱は伝染病にしたくなかったこととなどともに、文庫版の発刊前後の新型コロナウィルスによる社会情勢の変化とそれに対する著者の前向きな気持ちが書かれている。
    文庫版に寄せたコメントは、初回の外出自粛の前に書かれたものであるのに1年後(著者の予想より1年遅れた)のデルタ株での惨状を予見しているのは門外漢であるのにすごいと思った。
    文系の研究者は数学や理科にアレルギーがあるバカが多い(逆は少ないはず)が、本当に優れている人は"理系"であることを問題にせず、優れた感性を理系分野の問題に対しても発揮する(ドキリとするような真理に切り込んだ質問や発言をすることがある)と、私は経験的に知っている。この著者もそんな一人だろうと本書を読んで思う。

    タイトルは前作の「鹿の王」と一緒でミスリード。
    前作で鹿の王の意味が明かされた時は「ヴァンの境遇が"鹿の王"とピッタリであり、終盤に仲間の盾となって死ぬ場面が来るんだ」と思ったものだ。
    本書の中盤で「水底の架け橋」が出てくるときには「ホッサルは政略結婚をしてミラルとは心の中でつながりを持ち続けるしかないのか」と切ない気持ちになったが、上橋作品はそんな悲恋は許さない。
    ミラルとホッサルが正面突破で正々堂々と結ばれることが出来るような優れた展開が用意された。全くの予想外の展開であった(終盤を読む前は、ホッサルが家を捨てる→オタワル医術を見捨てることになるので不可。政略結婚しミラルを愛人に→そんなに不誠実なことはしないだろう。ではどうする??と悩んだ)。

    また、上橋作品は処女作から一貫して「優しい、後味の爽やかな作品」だと思っていたが、本作、特に終盤を読んで印象が一変した。
    守人シリーズを読み切っていないので私の印象が間違っているのかもしれないが、
    本書の終盤の由吏侯やリムエッル、津雅那、安房那侯らの政治的な駆け引き・策謀は非常に老獪で緻密、上橋作品では感じたことの無い高レベルのイヤラシさを感じた。良質なミステリーを読んでいるときのような、グルりと足場が入れ替わる感覚と、それに伴う背筋の冷や汗をノーガードでもろに喰らってしまった。

  • 「私たちの武器は知識と想像力と忍耐力、そして他者を助けたいと思う気持ちです」あとがきより

    どの登場人物も素敵だった。

    私が中学生の頃にこの物語に出会っていたら医療従事者を目指していたと思う笑
    ミラルもホッサルも安房那候も本当にかっこいい…

    最後はとても心地よく、本当にシュダの花の香りがしてくるようでした。

  • 面白かった
    二つの異なる医学が反目しあいながらもそれぞれの真理にふれ、理解と疑念両方を持ちながら歩み寄る姿は、医療に携わる人たちも色々な矛盾を抱えながら努力しているということに、改めて気付かされたと思う。
    お医者さん、頑張れ!
    そして、この本は後書き、解説が秀逸。
    生き方について考えさせられるが、結局、前向きに楽しく人のために生きるのが一番、ってこと。

  • 悲恋かと思いきや。運命は自らの行いが導いていくもの。

  • とても面白かったです。主人公のホッサルがとても魅力的で好きです。

  • 鹿の王本編を読んだのはもう五、六年前なので話が分かるかなあと思ったが、とりあえず大丈夫だった。
    上橋菜穂子さんの作品の主人公たちは大きなうねりの中に知らぬ間に巻き込まれていることが多いけれど、今回は得てしてそうなった所もあるような主人公だった。
    オタワルの医術と清心教の医術、それはおおむね現代で言うところの西洋医学と東洋医学のちがい、のようなものらしい。
    清心教の医術師いわく、顔色、表情、話し方、歩き方、息の匂い、舌の状態、目の状態、尿の色や匂い。さらには脈をみるのに手首に触れ、肌の感触も確かめる。患者とつながり、患者から信を置かれ、患者に信を置くことが第一、と言われる。
    オタワルの医術師、ホッサルは
    「我らは、事を分けて、分けて、分け続ける。分かちがたい真実へ辿り着くまで。君らは、むしろ、まずはまとまりを知り、そこから変化の予兆を感じ取るわけだな」
    ざっくりとした言い方かもしれないけれど、なるほどふたつの医学の違いはそういう違いなのかと思った。

  • 今回『鹿の王 水底の橋』は、医師のホッサルと助手のミラルに焦点があてられた作品。
    医療とは本来どうあるべきか?
    命よりも優先されるものがあるのか?
    が、改めて浮き彫りになり読者に問いかけてくれます。
    たくさんの考え方があり、信念がある医師たち。
    そして、目の前で苦しむ患者。苦しむ患者の家族たち。
    果たして、何が優先されるべきなのか…。
    何が医療者として、果たさなくてはいけないのか…。
    上橋菜穂子さんならではの作品だなと、沁みました。
    個人的には、最後のミラルの医師としての言動に、心を揺さぶられました。

  • あぁそうだ、この問題が残ってたよね!という一冊。
    鹿の王1〜4巻で切なさと希望を残すまとまりがある、ヴァンの話だったけど、
    その時に取り残された問題があったわ!


    「宗教」というのは、煩雑なものだなあ。
    と、この本を読み始めて & 今の世界情勢を考えて思った。

    信じるものを優先するというのは、人・民族・国のアイデンティティであり、対立するものや相反するものを受け入れるというのが、根幹を揺るがすことであるというのも理解ができる。

    しかしながら、
    信じるものを優先せるよりも、人命を第一に考えるのであれば、そこに宗教や方法を選んでいる場合ではない、と思うのだけど。

    そうはいかないのが、物語の中でも実際の世界でも難しいところよね。

    とにもかくにも、枠組みを確立させるための信念であるのか、信念があるから枠組みになるのか。
    追求することをやめて枠組みに囚われていることも、他者が追求の手を止めずに糾弾するのもおかしな話よ。
    と、p.217〜218のホッサルと真那の会話を読んでいて思ったな。


    ↓ネタバレ



    今回は、鹿の王1〜4であまり描かれなかったホッサルとミラルの恋物語も焦点が当てられていました。
    まるで長年寄り添った夫婦のような関係性の2人の様子は、マコウカンのようにほっこり感じていましたが、ここに“血筋”という現実味を入れてくるのがさすがよね。
    大人の読者としては、そういうリアリティさというのもあるとグッと物語の要素が詰まってくる感覚。

    どうしようもない問題だと思っていた事を、
    その朗らかさでクリアしてしまうミラルに、最後は読者まで笑顔になってしまう。
    ホッサルが惚れるのも無理はないよ!

  • 最後、怒涛の陰謀と種明かし。それぞれの正義がぶつかり合いすぎて混乱するも、最後見事なまとめ方にて、結構悪どいことしてるのに爽やかに着地していて趣深し。ちょいこじつけハッピーエンドなのも、ファンタジーとして◎なんでタイトル、「水底の橋」なんだ???読解力なくてよくわからなかった…
    まぁ、「鹿の王」続編だったけど、個人的には本編の方が好き。

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著者プロフィール

作家、川村学園女子大学特任教授。1989年『精霊の木』でデビュー。著書に野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、野間児童文芸賞を受賞した『狐笛のかなた』、「獣の奏者」シリーズなどがある。海外での評価も高く、2009年に英語版『精霊の守り人』で米国バチェルダー賞を受賞。14年には「小さなノーベル賞」ともいわれる国際アンデルセン賞〈作家賞〉を受賞。2015年『鹿の王』で本屋大賞、第四回日本医療小説大賞を受賞。

「2020年 『鹿の王 4』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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