- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041092972
作品紹介・あらすじ
原さくら歌劇団の主宰者である原さくらが「蝶々夫人」の大阪公演を前に突然、姿を消した……。数日後、数多くの艶聞をまきちらし文字どおりプリマドンナとして君臨していたさくらの死体はバラと砂と共にコントラバスの中から発見された! 次々とおこる殺人事件にはどんな秘密が隠されているのだろうか。好評、金田一耕助ものに続く由利先生シリーズの第一弾! 表題作他「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」を収録。
感想・レビュー・書評
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横溝正史『蝶々殺人事件』角川文庫。
名探偵・由利麟太郎シリーズの復刊。4ヶ月連続刊行の第1弾。表題作、『蜘蛛と百合』『薔薇と鬱金香』の3篇を収録。
金田一耕助シリーズに比べるとおどろおどろしさも、事件の真相に驚愕も無い大人しい趣の短編ばかりだと思う。いずれの短編も舞台が華々しく、それなりのトリックも用意されているのだが、それらが上手く融合していないように感じた。
本体価格860円
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長編「蝶々殺人事件」と短編「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」の
計3編収録。
以下、ネタバレしない範囲でザックリと。
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「蝶々殺人事件」
戦後再会した探偵・由利麟太郎と新聞記者・三津木俊助。
二人は過去の難事件を回想し、残された資料を元に
三津木が小説を書いてはどうかという話になり、
昭和12年、原さくら歌劇団に降りかかった惨劇について、
当時のマネージャー土屋恭三が綴った日記が開陳される。
東京公演に引き続き、大阪へ向かった原さくら歌劇団だったが、
稽古の直前になっても肝心のさくらが到着せず、
一同が気を揉んでいると、
オーケストラのコントラバスのケースから、
萎れた花に包まれた彼女の遺体が発見された……。
本筋からは逸れる部分で用いられた
軽い叙述トリックが心憎い。
映像作品では表現しにくい、
活字ならではの小技というべきか
(マンガでも可能だろうけれども)――に、やられた!
と膝を叩いてしまった。
この部分はドラマに採用されるのだろうか……
されない気がするが……どうなのだ……。
ショッキングな幕開けだったが、
他の殺人はアッサリしたスタイルだし、
背後の事情などにドロドロした情念は感じられず、
同じ由利先生シリーズでも『真珠郎』の怪奇趣味とは
打って変わって洗練された推理小説。
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「蜘蛛と百合」
新聞記者・三津木俊助の友人でジゴロの美青年・瓜生朝二が、
俊助と別れた直後、何者かに殺された。
俊助は朝二が関係を持っていた美女・君島百合枝に接近し、
探偵・由利麟太郎に釘を刺されたにもかかわらず、
彼女の魔性に魅入られ……という、妖美な物語。
百合枝と“夫”の歪な関係の完成に手を貸す由利先生と俊助
――という、清廉な彼らには珍しく
非道徳的な雰囲気に包まれて終わる作品。
私はキッチリ、カッチリした本格推理小説より、
こういう耽美的な怪奇・探偵小説が好きなのだった。
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「薔薇と鬱金香」
鬱金香夫人=マダム・チューリップと綽名される
美人雑誌記者・弓子は、五年前、夫の畔柳博士を殺害され、
未亡人となったが、小説家・磯貝半三郎と再婚した。
畔柳博士を殺したのは当時の美青年人気歌手《薔薇郎》だったが、
彼は獄中で病死。
今は幸福に暮らす磯貝夫妻に、
死んだはずの《薔薇郎》の魔の手が――。
予想外のハッピーエンドだが、
気になるのは薬で眠らされた(?)きりの
堀見三郎くん、今いずこ……。 -
金田一耕助とともに横溝先生が生み出した名探偵・由利麟太郎シリーズの名編。コントラバス・ケースがあんなことになってしまう表題作をはじめ、ミステリから怪奇浪漫小説まで楽しめる作品集。
『蝶々殺人事件』
日本屈指の歌劇団を主宰する原さくらが、東京公演を終えて大阪公演を控えたわずかな間に失踪した。誰も行方を知らず、公演当日に。紛失したと思われたコントラバス・ケースを開けるとそこに彼女はいた──物言わぬ死体となって。
記者の三津木俊助が名探偵・由利麟太郎と経験した事件を小説にしたいと話すシーンから物語は始まる。さくらのマネージャー・土屋の日記を語り手として過去へ飛ぶ。そして、由利たちが登場してからはその視点で、大阪と東京を股にかけた不可解な事件を解き明かしていく。コントラバス・ケースから見つかった死体!表紙にもなったこのおぞましい光景を目の当たりにするも、事件を手繰るほどにこれが恐ろしい計画に基づいたものだと思い知らされていく。
事件のトリックもさることながら、手繰るほどに絡まって固く結ばれていく人間関係の描き方はさすがの一言。その糸を自分の意図通りに動かして楽譜通りに鳴らしていく犯人の狡猾さにゾッとさせられる。読者への挑戦が挟まっているので、我こそはと思う方はぜひ考えてみてほしい。トリックだけにとどまらず、様々な技巧を凝らしているので最後の最後まで気が抜けない作品だった。
『蜘蛛と百合』
記者・三津木俊助の友人・瓜生(うりう)は君島百合枝という美女と付き合っていた。しかし、百合枝の影にただならぬものを感じていた瓜生。三津木は彼を止めようと駆け出すも、瓜生はすでに殺されていた──。さらに、三津木もまたその妖艶さの虜へと堕ちていく。
男たちを次々と骨抜きにする百合枝の色香。
「ほんとうの美というものは、単に外貌だけにとどまらず、あらゆる細胞から立ちのぼる、陽炎のようなものである」
三津木にまでこう言わしめて、破滅への道を歩ませる存在感たるや。こんなに腑抜けた姿を初めて見た(笑) 由利先生によって百合と蜘蛛の毒からは救われたものの、ゾッとする人間模様と、情を感じるラストが印象的だった。
『薔薇と鬱金香(うつこんこう)』
東都劇場の試演に呼ばれた由利や三津木たち。来客の中に鬱金香夫人もしくはマダム・チューリップと呼ばれる美しい女性がいた。今は再婚して磯貝弓子となったが、彼女は夫・畔柳博士を殺されたという過去を持っていた。いざ、試演を迎えると、その内容に弓子の顔色が変わっていって──。
ミステリのスパイスをきかせた怪奇浪漫小説。知らない事実が顔を出すたび、登場人物とともにぞくりと背筋が震える。途方もない仕掛けから、まさかあの対決へとなだれ込むとは意外だった。チューリップの花園と、そこで決めた覚悟が美しい。それにしても、ばあや何者?!とツッコまざるを得ないが、怪奇浪漫小説なのでそこはまあいいかなと。
最後に冒頭の由利先生の言葉がとても勉強になったので引用して終わります。
p.6
「なに、それでいいんだよ。君みたいに若い人は、またいつか取り返しがつくさ。私みたいな老人にはそれがないから用心深くなる。つまり用心深いということは、老境に入った証拠かも知れないよ」
p.8
「計画的な犯罪があるということは、それだけ社会の秩序が保たれている証拠だよ。殺人を例にとって見ても、人間なんていくら殺しても構わないということになれば、誰が何を苦しんで凝った計画なんかたてるもんか。社会が進歩するにしたがって人命の尊重される率は大きくなる。人命が尊重されればされるだけ殺人に対する制裁はきびしくなる。その制裁をのがれようとするからこそ、犯人は陰険な、回りくどい計画をたてるのじゃないか」 -
由利先生シリーズ。表題作の長編と、短編2つ収録。
プリマドンナの死体がコントラバスケースの中から発見されるという派手な事件だが、被害者がどこで殺されてどのように運ばれたのかを検証していく過程はけっこう地味で、『樽』を彷彿とさせる。暗号あり、変装ありでミステリ的な要素をみっしり詰め込んだ感じ。
しかし個人的には、一番のサプライズは事件が終わって由利先生の家で話しているときに明らかになった事実だった。びっくりしたなあもう。 -
再読。犯人が分かっていても横溝正史は面白い。趣味嗜好は人それぞれ。金田一はそこも解ってくれて救われる。
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吉川晃司でドラマ化すると聞いたので。
金田一シリーズのようなおどろおどろしい雰囲気はそのまま、全くタイプの違う名探偵が解決。いわゆるイケオジの由利先生の活躍はかっこいいの一言。
コントラバスケースが猟奇殺人の演出だけでなく、ちゃんと犯罪計画に組み込まれていて面白かった。後半二編は解説にあった通り「妖艶な頽廃美」。
横溝はどれを読んでも外れないから好き。 -
ドラマ化をきっかけに初由利先生に挑戦。
これでもかというほど横溝正史のエッセンスが高い熱量を
もって詰め込まれていました。
少々暑苦しいくらいです。
特に表題作より蜘蛛と百合が強烈な印象として残りました。
ただ何となく戦前の空気感が馴染まないせいなのか
まだ最高峰まで到達していないせいなのか
どうにも湿度が高い気がして読み終わったから
次の作品を…!という気持ちにはなれませんでした。 -
坂口安吾が絶賛していたというから、読んでみた。金田一耕助シリーズから離れると、ある意味展開が自由になって良いなと思いました。内容は面白かったけど、表紙の絵はどうかと思う・・・
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由利麟太郎シリーズ初読。Kindleではシリーズ1作目となっていたが、発表順は長編中一番最後ではないか。紛らわしいからやめてほしい。
金田一シリーズとは違っておどろおどろしい雰囲気はなく、スマートな本格に仕上がっている。表紙から想像するイメージよりもマイルドな内容だった。動機もトリックも驚きの連続で、こんな形で着地するとは。関係があると思わせておいての無関係とか、現代ミステリに慣れ過ぎていると面食らってしまう展開ばかりだった。ドラマ録っとけば良かったな。
同時収録の『蜘蛛と百合』も面白かった。どちらも面白いが、由利先生の方が好きかも。 -
「由利麟太郎」探偵ものの3作品、300ページほどの表題作が1947(昭和22)年、短い2作「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」は共に1936(昭和11)年の作である。
表題作は金田一耕助ものの最初の作品『本陣殺人事件』と同時期のもので、トリックに凝ったかなりややこしい話。怪奇趣味やそれに伴う濃厚な情緒はここには見られず、むしろ機械的に物語は進む。横溝正史自身が四六時中トリックを考案しているようなマニアックな作家であったので、凝ったトリックを設定しエラリー・クイーンばりの本格推理小説を実現したこの作品は、自信作であったのかもしれない。が、情緒性がなさすぎて、私にはさほど面白くなかった。
むしろ、併収の短い2作品の方が、怪奇風の情動があって面白く感じた。これらは本格推理小説としては全然成立していないのだが、私はこういう雰囲気ある物語の方が好きだ。
そっち系の、古い横溝正史作品をもっと探索してみたい。
著者プロフィール
横溝正史の作品






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