憑かれた女 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092996

作品紹介・あらすじ

自称探偵小説作家の井手江南に伴われ、エマ子は恐る恐る不気味な洋館の中へ入った。そして問題のドアが開かれた瞬間、彼女は恐怖の悲鳴を上げた。部屋の隅に燃えさかる暖炉の中には、黒煙をあげてくすぶり続ける一本の女の腕が! ここ数カ月間、日夜恐ろしい悪夢に悩み続けてきたエマ子は、それが実際の事件として眼前にくり広げられたと知って戦慄した……。名探偵由利先生と敏腕事件記者三津木俊助が、鮮やかな推理を展開する傑作長編、ほか首吊り船/幽霊騎手の2篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 横溝正史『憑かれた女』角川文庫。

    名探偵・由利麟太郎シリーズの復刊。4ヶ月連続刊行の第2弾。表題作、『首吊り船』『幽霊騎手』の3篇を収録。表題作は群を抜いて面白いが、他の2編は平凡かな。

    そう言えばと、昔読んだ横溝正史の角川文庫版にはよく表題作の他に短編数編がおまけのように収録されていたのを思い出した。

    表題作『憑かれた女』。如何にも横溝正史らしい、おどろおどろしい奇怪な事件から物語は始まる。アザミ酒場をメインに遊んでいた西条エマ子は自称探偵小説家の井手江南と共に立ち入った不気味な洋館で、暖炉で焼かれる女性死体を目にする……事件は猟奇連続殺人の様相を呈し、いよいよ名探偵由利麟太郎と敏腕事件記者三津木俊助が登場する。事件の鍵となる自動電話とは何かと気になり、調べると昔の電話ボックスのことだった。猟奇の果て……

    本体価格760円
    ★★★★

  • 表題作は狂気的な感じで、ああそういうオチだったのか、と思わぬ終わり方だった。

    3つ目の「幽霊騎手」も最後の最後にオチがあって面白かったし、わりとキャラがたってたので面白かった。

  • 金田一と並ぶ名探偵・由利麟太郎シリーズの復刊作品集。幻想に取り憑かれた女が見た死体の謎を追う表題作に加え、冒険探偵小説を感じる怪人や怪盗が登場する『首吊り船』『幽霊騎手』も収録。

    『憑かれた女』
    淫蕩な生活を送る美女・エマ子は、夜中に見るバラバラ死体の幻想に取り憑かれた。酒に溺れる日々を送るうち、大金をちらつかせる謎の外国人が現れる。目隠しをされて連れていかれた場所には、幻影通りの死体があって──。

    エマ子は精神的に病んでる最中、夜な夜なホラーな幻想にも追い詰められていく。ぼくは不安障害を持っているので、エマ子が恐れるパニック発作や広場恐怖は痛いほどわかって苦しかった。そこに本物の死体まで登場してしまう。「エマ子、あなた憑かれてるのよ」としか言えない狂気の世界が待ち受ける。由利先生登場からの謎解きは鮮やかながら、やはり人間こそ最も不可解という魔物に取り憑かれているのだ。思わずため息をつくラスト。由利先生が警鐘を鳴らす一文は今でも痛感する内容。文末に引用させていただきます。

    『首吊り船』
    記者の三津木が五十嵐邸を訪れていた時のこと、汽笛とともに現れた首吊り船!首吊りを模した人形と、しゃれこうべのような顔の男が乗っていた!その謎を解く鍵は、絹子が語った過去の中にあるのか?!父の事業失敗の負債を補填する形で、恋人・瀬下と引き裂かれて五十嵐家に嫁いだ過去。さらに送り付けられてきた白骨化した左腕の正体とは?!

    由利先生と三津木というコンビに加え、登場人物がそれぞれの目的をもって行動する視点切り替えがスリリングな作品。怪人の登場、若い男女の活躍、ボートでのアクションと、ジュブナイルシリーズにも通じる冒険探偵小説の味わいがある。怪人がミステリの仕掛けとしても面白い。読後感も哀愁漂う。

    『幽霊騎手』
    巷をにぎわす怪盗・幽霊騎手!富豪を相手に華麗に立ち回るその姿は、庶民たちの注目の的だった。それをモチーフにした劇で、幽霊騎手に扮して人気を集めていた役者・風間辰之助。そんな彼のもとに、愛する女性・黒沢弓枝から助けを求める電話がかかってきた。幽霊騎手の扮装のまま駆けつけた彼が見たものとは──。

    タイトルからホラーかと思いきや、怪盗もので冒険探偵小説の味が濃い物語。由利先生たちは登場せず、幽霊騎手に扮する役者・風間が主人公。彼が巻き込まれる奇妙な殺人事件と、その背後に隠された人々の因縁が描かれていく。探りを入れる風間を襲う敵の狡猾さもさることながら、幽霊騎手の正体は誰なのか?という謎も並行しており、ハラハラが止まらない。風間の旧友たちも相棒として活躍していて楽しい。

    p.112,113
    「三津木君、これだから日本人というやつがいやになる。科学と常識が矛盾する場合、常識のほうを訂正して、科学のほうへ接近させるということを知らずに、反対に科学のほうを歪じ曲げてでも、自分の納得範囲内に持ってこようとする。この場合、十日の晩と十一日の晩と、二晩もつづけて同じような殺人が行なわれるはずがないという、自分たちのかってな偏見を支持するために専門的な医者の検案を歪じ曲げようとする。医者の検案を素人の常識でかってに訂正してよいものならはじめから医者というものがないも同じではないか。こういう習癖、専門家の正しい判断を尊敬し、信頼することを知らぬ国民性、これが改められない限り、日本に発展はのぞめないね。いや発展どころか、いまに大きな躓きを演じるに違いないよ」

  • 猟奇的事件と悲恋の一作。
    佐藤春夫が探偵小説を猟奇耽異の果実と評した感想に思わず感嘆の吐息を洩らす。
    以下、ネタバレです。

    憑かれた女はただエマ子が不憫。罪を犯したのは彼女だけど江南が悪戯心を起こさなければこんな悲劇はなかったものと思いたい。最期を五月と共に逝けたのが救いだけど、それでも悲しいな。
    首吊り船は三津木くんの活躍が見事。フットワークが軽くて度量が大きい。さすが花形記者というところ。それ以上に由利先生の理路整然とした推理が素晴らしかった。
    最後の幽霊騎手は由利、三津木ペアは出てこないものの、風間辰之助のキャラクタがとても魅力的でヒヤヒヤもワクワクもしながら読めた。
    悪友三人の友情にほっこり。恋心にそっと蓋をする風間がいい男だった。

  • 『憑かれた女』は金田一耕助シリーズの『喘ぎ泣く死美人』の中に原型版があります。
    全く違う経路を辿るので、興味のある方は是非読まれてみてください。

  • 金田一の短編と同じぐらいどろどろしてるんだけど、由利先生はかっこよすぎていまいち名推理でもインパクトがない。

  • 日夜悩まされていた悪夢と同じ光景で実際に起こってしまった殺人事件。
    徹底的な理論派の横溝作品にしては、やけに幻想的な表現が多いなと思ったら、そういう事だったのか…!
    こういうパターンもあるとは、、犯人も最後まで予想できませんでした。

  • 由利麟太郎ものの中編『憑かれた女』を軸に、著者の戦前の作を集めた中短編集。著者の戦前の作の多くは、要するにスリラーで、ミステリ的な妙味はあまりなかったりする。この辺は本書に収録の『首つり船』『幽霊騎手』を読んだ後なら、大概の人がウナ図ていくれるんじゃなかろうか。そんな中、表題作の『憑かれた女』は例外というか、きちんとしたミステリで、驚かされてしまう。いわゆるWHYが腑に落ちる形で説明されるのね。僭越ながら掘り出し物と言わせていただきましょうか。

  • 憑かれた女・首吊り船・幽霊騎手の3編による作品。
    私にとっては、初の横溝正史。
    文章が、古い。
    度々、検索してしまった(汗)
    「憑かれた女」オカルト的かと思ったら、単純なトリックだった。
    他、2作品は、ホラー要素が少ないかな…。
    発表されたのが、40年以上前だけど、今でも楽しめる。
    舞台にも出来そうな感じ。
    横溝正史は、年月が経っても廃れない作家なんだな…
    新たな発見が出来た。
    ‘20.09.12読書完了

  • 近くの本屋さんがほとんど空いてないのでAmazonで購入⭐︎帯がちゃんと付いていてホッとしました

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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