- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041094136
作品紹介・あらすじ
「あたしの前世は、はっきり言って最悪だった。あたしは、おっさんだった」地球爆発後の近未来。おっさんだったという記憶を持つ「あたし」の親友は、私が前世で殴り殺した妻だった。前世の記憶があるのは私だけ。自分の容姿も、自分が生きてきて得たものすべてが気に入らなかった私は、親友が前世の記憶を思い出すことを恐れている。(「前世の記憶」)「ああもうだめ」私は笑って首を振っている。「うそ、もっとがんばれるでしょ?」「だめ、限界、眠くて」寝ている間に終わった戦争。愛も命も希望も努力も、眠っている間に何もかもが終わっていた。(「眠りの館」)ほか、本書のための書き下ろしを加えた全20篇。その只事でない世界観、圧倒的な美しい文章と表現力により読者を異界へいざない、現実の恐怖へ突き落とす。これぞ世界文学レベルの日本文学。
感想・レビュー・書評
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短編集。トランスフォームものが多かったような印象。タイトルずばりの「ピアノ・トランスフォーマー」ではピアノが勝手に演奏を始め、人間がピアノ化しちゃうし、「ニュー・クリノリン・ジェネレーション」では、人体に生まれつきクリノリン(※ヴィクトリア朝時代のドレスのスカートを膨らますためのお椀型の骨組みみたいなの)が備わった赤ん坊が生まれたり(ジェンダー問題も含んでる)、「スパゲティ禍」では、なんと突然スパゲティ化して人が死ぬようになったディストピアの行く末が描かれる。スパゲティ禍が面白かった。たぶん私、それでもスパゲティ食べられるタイプの人間だと思う…。
その他、好きだったのは「切手占い殺人事件」「れいぞうこ」「キャラ」「いつかたったひとつの最高のかばんで」など。「れいぞうこ」は、腐らないために冷蔵庫で眠りたがる女の子のお話。「キャラ」は4頁くらいしかないけど、キャラと呼ばれる卵型のカプセルを人間が被るようになり、性別や年齢が意味をなくした近未来の話で、ディストピアだけどこういうのちょっといいなと思ってしまう。個性は失われるが、少なくとも外見で差別されることはない。
「切手占い殺人事件」は、女の子たちがなぜか切手に夢中になり男子は眼中に入れてもらえず、やはり女の子たちは無個性化して男子からは見分けがつかなくなっていくが、その理由が男子を意識しなくなったせいというのが面白い。男性側からの女性に対しての個別認識というのは結局そういうことなんだなと。もちろんすべての男性にとってではないだろうけど。
「いつかたったひとつの最高のかばんで」では、ある日突然、非正規社員の長沼さんという女性が失踪し、大量のカバンが残されていたことから物語が始まる。たったひとつの最高のかばんをようやく見つけて、旅に出てしまった長沼さん。女性ばかりが非正規社員の現代社会を皮肉っている部分もあるけれど、単純に長沼さんのように旅に出てしまいたいという誘惑に駆られる。終盤はまるでハーメルンの笛吹きのようだった。
※収録
前世の記憶/眠りの館/れいぞうこ/ピアノ・トランスフォーマー/フラン/切手占い殺人事件/キャラ/時間ある?/スパゲティ禍/世界/ニュー・クリノリン・ジェネレーション/鈴木さんの映画/眠るまで/ネグリジェと世界美術大全集/スマートフォンたちはまだ/怪獣を虐待する/植物装/鍵/誕生/いつかたったひとつの最高のかばんで -
私の好みとは違った。
自分の感性と噛み合わず気味悪さと異質な感じが際立ってしまい、途中で読むのを止めようかと思った。 -
良い本を読みました…藤野さん、ありがとう…。
女であることが理由で打ちのめされることは、いっぱいある。
そんな中で、ただ女であるだけで負わされる恥ずかしさや恐ろしさや悔しさを、最高の物語たちにしてくれているこの短編集の心強さ。
大好き。
どれもとても好きだけど、「鍵」がほんとにほんとにほんとに最高。
二人と並んで練習する私と、無数の女たちの姿が見えた。 -
安定の藤野可織さんワールド。短編集ですが、一発目から眩暈がするような不気味さと衝撃、それがページを捲り終わるまで続くのでした。
この本の読了後に村田沙耶香さんの「地球星人」を読み、さらに頭が破壊されそうに。一冊他の本を噛んでおいてよかった・・・。 -
良作ぞろいの短編集。少女の残酷さと若さへの追憶、執着が、程よい怖さとエンタメの素になっている。「フラン」、「切手占い殺人事件」、「時間ある?」(一番ゾッとした)が印象的。ベストSF2021に収録された「いつかたったひとつの最高のかばんで」も収録されている。
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藤野さんらしいどこか不穏さを感じさせる短編集。「スパゲッティ禍」が好きだった。
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タイトルに惹かれて借りた初読みの作家さん。長短20編が収録されているが、意外なことに同じタイトルの作品はなかった(「前世の記憶」というタイトルの作品はあった)。うーん、なんというか……。純文学系の作家が書いたSF的な作品が多い印象だった。異常が当たり前の日常に焦点を当てて展開するが、どこにも行き着かない。好き嫌いが別れると思うが、どちらかというとぼくは苦手なタイプだった。
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余韻の残る読後感。
特に好きだったのは、
『時間ある?』はラストにゾッとしたし、
『スパゲティ禍』の茹で上がりのホカホカ感とすぐ冷めて「もうこれ以上冷たくなることはないと思っても、まだまだ冷たくな」るのが、スパゲティあるあるだなと思ったけど、それが元〇〇だった物だと思うとえも言われぬ気持ち悪さを感じたし、
『鈴木さんの映画』はわたしもニコラス・ケイジのホログラムがほしかったし、
『鍵』のシスターフッドにアツくなったし、
『いつかたったひとつの最高のかばんで』は、彼女たちがうらやましかった。 -
ニコラス・ケイジ登場です
著者プロフィール
藤野可織の作品






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