カインの傲慢

  • KADOKAWA (2020年5月29日発売)
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  • 本 ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041094235

作品紹介・あらすじ

雑木林に埋められた少年の遺体からは、臓器が奪われていた。司法解剖と調査により、遺体は中国の貧困層の子供だと分かり――。孤高の刑事・犬養と相棒の高千穂明日香が、中国で急増する臓器売買の闇にメスを入れる!

感想・レビュー・書評

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  • 肝臓の一部を抜き取られた少年の死体がみつかり、犬養隼人や明日香たち麻生班が中心となって捜査する。少年が中国からの入国者と分かって、明日香が中国に赴く。そこで知らされる中国での臓器売買の実態は悲惨だ。最貧困村では、うすうす臓器売買のことを知りながら、親が子どもをブローカーに売り渡すのだ。さらに肝臓を切り取られた死体の発見が相次ぎ、徐々に背後にいる巨大なエンドユーザーの存在が浮かび上がってくる。
    こういう臓器売買の実態は本当なんだろうなあ。ユーザーたちなりの論理はあるのだろうが、許されるべきことではないし、論理のすり替えではある。利益に群がる者たちもおぞましい。
    事件は犬養と明日香だけで捜査している?そんな印象を与える独行ぶりである。文章が上手いので読まされてしまうが、捜査の現実感が迫ってこないところもある。テーマに寄りかかりすぎか。

  • 犬養隼人刑事シリーズ 5
    忌まわしいドクター・デス事件が終結して、1年後。
    貧困層を狙った、臓器売買の犯人に立ち向かう、犬養隼人刑事。

    練馬区の公園で、臓器が持ち去られている、中国人の少年の死体が発見された。
    犬養刑事とコンビを組む、高千穂明日香は、留学していた経験を生かして、単身、中国へ乗り込む。
    そこで、見たものは、最貧層の家庭だった。

    その後、相次いで、第2、第3の同様の死体が見つかるが、その被害者達は、貧困家庭の少年達だった。

    -----

    富裕層からの依頼により、貧困層が供給する物は、唯一、身体しかない。
    臓器移植問題は、一概には語れないと思う。
    それでも、犯罪絡みの臓器売買は、決して有ってはいけない。
    このシリーズのラストは、犬養刑事にとって、いつも辛い問題を提起している。

  • 中山七里
    「刑事犬養隼人」シリーズ第5弾
    今回は、肝臓を取られた稚拙な縫合痕のある少年の死体発見から物語が始まる。
    犬養は、次々と同じ様な少年の死体が発見されていくこの事件を解決すべく捜査を進めていくのだが・・・
    その背景には、貧困世帯に臓器移植目的の人身売買を持ち掛け、臓器売買の斡旋を行なう、国内外の臓器売買ブローカー、更に、レシピエントとして、そんな臓器の提供を受けるコングロマリットの総帥の存在も見え隠れする。
    犬養は、真相に辿り着き、事件を解決することが出来るのか?
    この物語は、臓器移植に関する国内外の考え方、システムの違い、更にそれをビジネスと捉える者の存在理由、そして人身売買の如き臓器売買に手を出してしまう貧困層の人々のやり切れなさ。
    その対極として、どんな事をしても(現行法に触れる)をしても命を守りたいと望む富裕層の人々の精神状態。
    それらが渾然として、自分の正義感と遵法精神を試された一冊だと思った。
    そんな気持ちを犬養自身も思い知る衝撃のラストは、警察官としてでは無く、病気の子を持つ一人の父親であり、人として突きつけられた諸刃の剣の如き作品でした。

  • 今回の犯人は分かりやすく、どんでん返しとしては弱いラストかと。
    それよりは、この作品のメッセージ性が、より重要な意味を持っているように思います。

    臓器移植が必要な人たちと比べてドナーが圧倒的に少ないために、提供者が現れる前に亡くなってしまう患者たち。臓器を売って生き繋ごうとする貧困層。そこに生まれた不幸な子どもたち。横行する臓器移植ビジネス。
    誰かを一概に悪とは言えない問題に、犬養が出す結論とは。
    考えさせられるラストでした。

  • はい、やらかしました。シリーズ物でした。
    以前の話を知らなくても全然楽しめましたが、損した気分。Orz

    とある死体発見から臓器売買という可能性が疑われ捜査が行われるお話。
    貧困と臓器売買、本当にありそうな話で怖いです...あるのか⁉︎

    読み終えて色々考えさせられるお話だなぁっと思いました。

  • 刑事犬養隼人のシリーズ。臓器を抜き取られた遺体が次々発見される。被害者に共通することは、貧しい家庭で育った少年ということ。犬養と相棒の高千穂が事件を追う。
    貧しい者が臓器を売る。臓器提供ブローカーや手段を選ばぬ富裕者は人をもの(そして金)としてしか見えていない。悲しい現実を描いた社会派もの。それプラス、犬養自身、病を抱えた娘がいる、事件を追う中での犬養の心の葛藤も描かれ、読み応え十分でした。貧困による臓器売買、表面には出てこないけれど、日本でもきっと…。簡単に臓器・命は金で買える、そんな世界はなってはならない。

  • 犬養隼人シリーズ。
    公園で発見された少年の死体。
    それには臓器が抜き去られていて。
    相次いで起こる連続殺人。その犯人と真相に迫る物語。
    臓器売買における裏社会の真相。そこに絡む貧困問題。
    中山さんらしい社会派ミステリー。
    今回も惹き込まれました。
    臓器売買に絡む巨大勢力の陰謀。ただ、その真意は…。
    最後の犬養と黒幕との驚愕のラスト。
    少年を狙った本当の意味。守るべきものと正義と倫理。
    考えさせられる終わり方でした。

  • 犬養隼人シリーズ第5弾。このシリーズではいつも社会問題を取り上げているが、今回は貧困と臓器売買。第1作「切り裂きジャックの告白」で取り上げた臓器移植問題と第4作「ドクター・デスの遺産」で取り扱った安楽死と死ぬ権利。これらが蓄積された犬養の苦悩が更に深まった本作。
    確かに貧乏人は短命で金持ちは長寿。貧乏人と金持ちでは命の重さが違う。善悪とか倫理観ではなくそれは紛れもない現実である。この日本でさえも内臓を売るほどカネに困る貧困層がいるのは事実であり現実だ。
    だからと言ってそれが当然であるかのような主張を受け入れることは別問題。常識的な倫理観を持つ私たちは「貧乏人が自ら売る臓器を買って何が悪い」と嘯く人々を感情的に受け入れることは出来ない。また、犬養のように自分の大切な家族などが当事者であれば感情と倫理観の狭間で苦しむことになる。
    作品としては非常に興味深く面白かったが、ラストが何ともやりきれない。

  • 公園に、肝臓を半分摘出された子供の死体が埋められていた。どうやら、臓器ブローカーが暗躍し、違法な臓器移植が行われているらしい。犬養と明日香が事件に挑む、シリーズ第5弾。

    タイトル「カインの傲慢」は、聖書のカインとアベルの物語(弟アベルを殺した兄カインは、神から追放を言い渡されるが同時に不死も約束される)から。

    一方に病気で苦しむ富裕層の患者がいて、片や貧困に苦しむ健常者がいて、両者の間で(健康を害さない範囲で)臓器の一部を高額で売買するっていうのは、ありのような気がする。まあ、半ば強制されたり、健康度外視で臓器を売りまくったりと、何事も行き過ぎてしまうからなあ。そういえば、昭和の時代に売血という仕組みがあったっけ(後に禁止されたが)。

    本作では、明日香の刑事としての成長が見られるのも見所。

  •  物語は、警視庁捜査一課に一報が届いた。ある男性が朝早く犬の散歩をしていたところ、雑木林で、人の手首が地面から突き出していたのを見つけたと。

     早速、所轄の機捜が駆けつけ、担当検視官御厨が遺体を確認した。
     死体からは、臓器が持ち去られている。
     切り裂きジャックの模倣犯かと思われたが、犯行を隠したとは考えられないという疑問が残り、模倣犯ではないという。遺体には腹部に縫合痕が残っているのであれば、犯人に殺意があったかどうか不明である。そこで御厨は、肝臓の半分だけが摘出されていると言う。その後、同様の手口で遺体が見つかった。

     遺体の身元が判明!東京出入国管理局から、観光ビザで一週間の滞在予定の中国人男性十二歳だった。入国の審査の際の指紋が一致した。一緒に入国した男性が犯人と目され、高千穂明日香が中国に渡航し調べたところ、少年は日本人に成りすました男が、貧困層の家庭を訪れ「養子縁組」と詐言し日本の養い親に届けると言い、人身売買をしていたのだ。
     明日香は、少年は死体で見つかったことを告げると、母親から小鬼子と叫び唾棄された。少年は中国籍を離脱し、帰化申請がなされていないので無国籍扱いだ。
    以上が、前半部分のあらすじです。

     中国は、諸国から非難されながらも国内の臓器移植の需要と供給のバランスが機能し、立派なビジネスとして確立しているという。

     格差社会の結果、貧困から犯罪が生まれるのか?
     問題の本質は、本当に貧困なのか。
     実行犯は誰だ?黒幕は一体誰なのか?

     そして大どんでん返しに、犬養の苦悩が垣間見える。

     この作品は、内容が充実して読み応えがあった。問題点も明確だと思う。
     読書は楽しい。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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