- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041095669
作品紹介・あらすじ
【Innocence:[名]無罪、潔白】
音海星吾は美術サークルに所属する大学生。中学生時代、不良に絡まれた星吾は、彼を助けようとして身代わりに刺された青年を見捨てて逃げてしまう。青年はその後死亡したため、星吾はネット社会を中心とした世間の誹謗中傷を浴び続ける。
大学入学後も星吾は心を閉ざして生きていたが、ある日、ホームから飛び降りようとした中年男性に「そんなに死にたいなら、夜にやってよ。朝やられると迷惑なんだ」と心無い言葉をぶつけてしまう。現場を目撃していた同じ大学の学生・紗椰にその言葉を批判されるが、それがきっかけで星吾は彼女と交流を持つようになる。星吾は心惹かれるようになった紗椰に思いを告げようとするが、自らの過去の重みのため、踏み出すことができない。コンビニのバイト仲間の吉田光輝、美術サークルの顧問・宇佐美ら周囲の人間との交流を通して、徐々に人間らしい心を取り戻しかける星吾。
そんななか、星吾を狙うように美術室の花瓶が投げ落とされ、さらに信号待ちの際、車道に突き飛ばされるという事件が起こる。星吾を襲う犯人の正体は? そして星吾の選択とは――。
一度過ちをおかした人間は、
人を好きになってはいけないのだろうか。
魂を揺さぶるラストが待ち受ける、慟哭のサスペンス!
感想・レビュー・書評
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高校受験前の中学生のとき、恐喝されたうえ殺人事件にまで巻き込まれた主人公・音海星吾が、大学生になってから不気味な出来事に翻弄される物語。始めの方はちょっとホラーっぽい雰囲気の話だったが、中盤以降は主人公の救いの話になって行き、とても面白く感じられた。
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デビュー作『ジャッジメント』で度肝を抜かれた小林由香氏の最新作『イノセンス』。
本作も非常に考えさせられるものがあった。
あらすじであるが、
不良3人からカツアゲされていた中学生がある若者に助けられた。しかし、その若者は不良にナイフで刺されてしまった。その場でその中学生が助けを呼べばその若者の命は助かった可能性が高かったが、中学生は何もせずにその場から逃げ出してしまう。このことが後で世間から問題となった。この逃げた中学生は、犯人以上に社会からバッシングを受け、住所、名前を特定され、ネットで炎上した。この中学生は社会から逃げるように日々を生き、現在身をひそめるようにこっそりと大学生となって暮らしている。そこへまたある出来事が降りかかってくる。
という感じである。
デビュー作の『ジャッジメント』でもそうであるが、小林由香先生のテーマは『罪と罰』であろうと思う。言い換えるなら『憎悪と赦し』であるだろうか。
どんな人間でも『過ち』を犯す。それを『赦す』ことができるのもまた人間だけであろう。
外国の文学であれば、ここに『神の赦し』というテーマが入ってくるのであろうが、日本では『神の赦し』をテーマにするとちょっとおかしな方向に行ってしまう可能性もあるのであえてそこには触れていない。
やはりこの部分が日本と西洋の大きな違いなのだろな。ドストエフスキーの『罪と罰』を引き合いを出すまでもなく、人間を赦せるのは西洋では『神』であり、日本では『人』ということなのだろう。
このテーマを論じ始めるとレビューが終わらなくなるので、このあたりでやめたいが、非常に興味深いテーマであることは間違いない
本書も、人のあるべき姿を映した良作である。
おすすめである。 -
息苦しさが続いた一冊。
今回は一度過ちをおかした人間は人を好きになってはいけないのだろうかーという問題提起。
ずっと息苦しさが続くような読書時間。
付き纏う誹謗中傷の苦しみ、自由に呼吸ができないようなもがき、黒一色の心を抱えたような星吾の感情は何度も胸を打つ。
一番悪いのは殺めた人。なのに憎しみや哀しみ、自分の都合の良いように相手を選び、ぶつけるのが人間なのか…終盤は特に息苦しさに襲われる。
過ちは誰にでもあるしそれは消せない。けれどそれをどう繋げどう生きるかが大切なのかも。そしてそれを導いてくれる一つが人、人の言葉と温もりなのかもしれない。それを信じたい。 -
作品を発表するたびに、社会的な問題を提起する作者。
今作では14歳の時に恐喝から救ってくれた男性が刺されたのにも関わらず、警察にも消防にも通報せず、逃げてしまったことでその男性を死なせてしまった大学生の苦悩の物語。
帯では「事件の加害者は人を好きになってはいけないのか」と問いかけているが、厳密に言うと主人公の星吾は事件の加害者ではない。
もちろん救護しなければいけない人を放置したことは、決して許されることではないが、14歳の少年がその場に居合わせた時にそんな冷静な判断が出来るだろうか?
それでも星吾は、自分を救ってくれた人を放置して死なせてしまったことを、ずっと後悔し、他人と関わらない人生を選ぶ。
しかし、ネットで逃げた少年と特定された星吾の周囲では、彼への脅迫行為が続く。
デビュー当時から作者が問いかけて来た私的制裁の有無が今作の軸でもある。
味方だったはずの人が、事件の関係者であったり、ミステリー要素もありながら、ラストに星吾が描き上げた絵について触れた部分では、14歳の自分が救えなかった命を未来では救ってみせる、と言う強い意志が感じられる。
人間は完璧ではない。時には間違いも犯す。それは誰しも同じ。そのあと、どういう行動をとるか?どう考えるか?どう生きるか?
そんなことを感がさせてくれる作品だった。 -
少年が14歳の時にカツアゲにあい危ない目にあった
その時助けてくれた青年は残念ながら死亡した。
そのことにより少年の運命も他の人の運命も狂っていく
一体何がよかったのだろうか -
最近の不寛容な社会を背景にしたミステリ・サスペンス。ただし、ミステリ要素は付け足しと感じるくらいに、背景が重い。犯罪は被害者も被害者家族も人生が変わってしまうが、巻き込まれた不作為者も社会の目の中で罪悪感に押しつぶされる。まさに不寛容な社会だ。法律で裁かれないものは償いをどうすればよいのか?答えのない重いテーマだが、最後にうっすらと光明が見えるようでほっとする。
著者プロフィール
小林由香の作品






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