- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041095973
作品紹介・あらすじ
守るものなんて、初めからなかった――。人生のどん詰まりにぶちあたった女は、 すべてを捨てて書くことを選んだ。母が墓場へと持っていったあの秘密さえも――。直木賞作家の新たな到達点!
感想・レビュー・書評
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一人のアマチュア作家が、一人の編集者に出会い突き動かされたように小説を書き上げていく。
彼女の作品の題材は、私小説的な狭い自分の家庭の世界。それを虚構として、第三者の視線で書きあげるようにアドバイスを受ける。彼女の家族の現状と小説とがクロスする。自分の産んだ子供を母の子として妹として家族となリ、女としても母としても主体性なく生活してきた。自分のルーツを知り小説を書き上げる事で、娘と向かい合い、亡き母を認めていく。彼女の作家として、家族としての成長過程。
桜木さんの「小説を書く」という事への想いを込めているのかなと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
編集者とのやり取りが、厳しい世界を物語っている。自伝的小説、創作小説、いずれにしてもそれらに登場する人物は、これまでの人生で縁があり心に残った人々がモデルになっている場合があるでしょう。
ものを書き世に出す人々の責任の重さは如何ばかりか?
《砂上》に登場する人物の中で、幼馴染み剛さんのお母さんである珠子おばさんのキャラが面白い。思惑通りに行かないことを知った時の行動に「さもありなん」と主人公は思ったでしょうね。 -
桜木紫乃『砂上』角川文庫。
小説を書くということは、過去の罪を含めた自分の全てをさらけ出し、身を削る行為なのだろうか……
本作は独りの女性の物語が、途中から、母親、娘、孫娘の女性三代の物語に変化していくという作中作の『砂上』のような物語である。物語には、作者の桜木紫乃の人生に重なる部分があるのだろうか。ラストに描かれた会話に、『それを愛とは呼ばず』のラストにも似た、桜木紫乃の残酷さを見ることが出来る。
北海道の江別で、遠くに微かな作家という夢を見ながらエッセイを書き、新人賞に応募しながら、ひっそりと暮らす柊令央。ある日、彼女の元を応募原稿を読んだという編集者の小川乙三が訪ねて来る。小川は令央に過去のエッセイ『砂上』をベースに小説を書くことを進める。身を削るようにして何度となく書き直し、小説をつむぎ出すうちに令央は人間として、一つずつ自らを守る殻を破っていく……
購入した文庫本には何故か桜木紫乃の手書きによる『日刊 おばんです』という謎の新聞が挟まっていた。
本体価格620円
★★★★★ -
編集者という職業が存在することは知っていましたが、作家に与える影響や関係性がどの程度のものかを考えたことはありませんでした。この本を読む限り、その存在は大きく、力量次第で作家も変わるほどなのだろうと感じました。
自分の卒業論文を思い出しました。教授が朱書きを入れ、自分の文章はどこへやら。そして力作になったことが懐かしい。
2022,1/31-2/3 -
※
読み終えて小説を書くってことは、ある真実に
たくさんの嘘を装飾して限りなく現実にみえる
虚構を作り上げることなのかなと思いました。
作家さん全てがこの方法で小説を書いている
訳ではないだろうけれど、少なくとも『砂上』の
作者である桜木紫乃さんは、話を生み出す際に
こんなふうに話を構築していく手法を取ることが
あるんじゃないかと感じました。
話の中で主人公に感情の薄さが武器になると
告げた編集者との出会いは主人公にとって
運命的に感じましたが、編集者には別の意図が
あって、主人公が自分に利する人間かどうかを
様子見するために網を張られただけと考えるのは
穿ちすぎでしょうか。
物語の中の主人公の主体性の無さぶりや、
編集者の突き放しっぷりに、返って体温や
人間味を感じました。
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247Pと軽く読めそうな薄目の文庫なのに内容はずっしり、ドライでほの暗いところで静かに燃えている、ような印象。桜木さんがオール読物で受賞した後なかなか次作が世に出なかった、ということはどこかインタビューかなにかで知っていたけれどその当時のことを執筆10年を前にしてようやく小説というかたちにしたのかなと思った。辛辣な編集者と好感を持てない主人公だけれど行く末が気になって読ませられた。共感から遠いところからでも読了後に残るのが小説の楽しさだし、この暗い炎の熱さがとてもいい。
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どこまでが創作で、どこまでが現実なのか、そして柊玲央はどのように虚構を築きあげるのか・・・。
あまりにリアルな、編集者と、まだスタートラインに立ててもいない作家のやりとり。もっと上手く嘘をつきなさい、と、隠さずに真実をあぶり出す、に矛盾がない。その編集者さえ、虚構に見せる筆致。
スタートから10年後、こう振り返るのか。しかも作品にしてしまう。当たり前のようでいて、これをエッセイにしなかったところが桜木紫乃さん。 -
ポイントが三つある。
小説家を目指している柊玲央が小説を生み出していく苦しみ、新人を叱咤する編集者、そして柊玲央本人の人生事情。
いや、むしろ登場する小説に厳しい目線の編集者小川乙三を描くことで、桜木紫乃さんの小説への心意気を言いたかったのかのではないかと。
この小説中の小説「砂上」が、もし出版されないという結論だったらどうだろう。やっぱり小説家志望はあきらめないのか?また、本になったのはいいけれど、売れなかったら?読まれなかったら?読者に理解されなかったら?
出版されなくて、売れなくて、うずもれていった物書きたちの積んでも積んでも崩れる砂の山。
著者プロフィール
桜木紫乃の作品





