ホテルメドゥーサ (角川文庫)

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  • 本 ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041096147

作品紹介・あらすじ

フィンランドの森に佇む素朴なホテルには、異次元へのドアがあるという噂がある。本当にここではないどこかへ行けるとしたら、どうする? 人生をやり直したいと切実に願う男女4人が出した答えとは……?

感想・レビュー・書評

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  • 北欧・フィンランドの森。
    残念ながら一度も訪れたことはないけれど、映画『かもめ食堂』で観たことならある。
    深くて濃い緑に溢れ、張り詰めた空気が漂い森全体が静まりかえる。空から微かに降り注ぐ木漏れ日が辺りを柔らかく包み込む。神聖で神秘的な空間。
    そんなアルファ波がたくさん発生しそうな場所になら、異次元へ繋がるドアがあってもおかしくない。

    人生をやり直したい、と心から願う4人の日本人が時を同じくして、何か不思議な力に導かれるようにはるばるフィンランドの森の中に佇む"ホテルメドゥーサ"に集まった。
    いざ異次元へ、となった時、本当に行くべきか悩む4人が森の中で話し合う。
    年齢も性別も育った環境も様々な4人は、異次元への期待と今いる星・地球について思いを巡らす。

    その中で特に印象深いのは"後戻り"について。
    この星のいいところは後戻りできないこと、と言う一人の言葉「俺の人生、正直やり直したいことばっかりだけど、もしも本当にやり直しがきいたら、全然前に進めなくてどこにも行けなくなりそうだもん。やり直せないから、どうしようもなくなって、こんなところまで来ちゃったわけですよ。後戻りできないからこそ、今、俺はここにいる」
    異次元の世界のように、何度でもやり直しし放題なのは一見良さそうに思えるけれど、それでは一向に先へは進めない。やり直しなしの一度きりの人生もまたよし、と思えた。

    一度きりの人生、その場に留まるのも先へ進むのもその人次第。どちらが正解なんてない。
    迷って悩んで自分の気持ちを受け止めた末に、自分で決断することにこそ意義がある。
    フィンランドの母なる森らしく、迷える人々を優しくおおらかに包み込んでくれる物語だった。

  • 表紙の可愛らしさにやられ手に取りました。それぞれの人生の回想シーンは山あり谷ありですが、全体的にのんびりと穏やかな空気が漂っており、ああ、フィンランド良き!

    向こうの世界の様子が事細かに書かれていないのが、深い霧に包まれた酸素の濃い森に隠されているようで素敵でした。

    私も人生に迷いと後悔しかないので、一度ホテルメドゥーサに行こうと思います。

  • 本屋さんによりけりかもしれないけど
    たくさんある平積みの中で
    ダントツで減っていたのが目に留まった
    はじめましての作家さん。
    帯は大好きな、もたいまさこさん!
    「これは、間違いないぞ」と確信。
    異次元というワードでもSFさはほとんど感じられなかったし、違和感もなかった。
    
    異次元へ続くドアへの期待と不安の中で
    自分の内側にあるものや、なぜここに来たのか
    異次元があるなら自分は行くのか…
    その答えを見つけようとする4人を通して
    こちらに問いかけてくるような場面が
    何度もあるから考えさせられる。
    
    住んでいる場所も職業もバラバラ。
    どうしてこの4人が
    フィンランドに来ることになったのか。
    どうしてこの4人だったのか。
    それが少しずつ明かされていくたびに
    宝物を探し当てたような
    大きな大きな喜びと驚き…!!
    沢山の人に体感してほしいーー!
    
    生きていれば楽しい、楽しいばかりじゃない。
    過去を振り返れば「あの時〜してれば」と
    別の選択、別の人生が頭をよぎることもある。
    でもそれは、その時の自分にできるベストの選択だったし
    先にどんなことが待ち受けているのか不安で
    変えることでのちに後悔するかもしれなくても
    自分を奮い立たせ、決断して行動する。
    これがなによりも大きな大きな一歩で
    このことが、いまわたしの力になっている。
    
    最後には、4人それぞれが納得する答えを出して
    お互いにそれを尊重し受け入れる。
    誰のことも否定しないし、そこには肯定感しかない。
    瀧井朝世さんの解説も、とっても良かった。
    

  • フィンランドが舞台の小説ってことで読みました。
    物語は…フィンランドでなくてもよかったし、フィンランドっぽさもなかったしで、残念。
    物語自体はファンタジーなんだけど、消化不良で終わってしまいました。異次元はわからないから結局こっちの世界の人が見えるところしか書けないんだよ、ということか。

  • 不思議な繋がりと、異世界を感じさせる本
    フィンランドに旅行してみたくなった

  • 【こことは違う世界があると想像できる救い】

    4人の日本人が、フィンランドの森にある異次元への入り口を求めて、ホテル・メドゥーサに辿り着く、ちょっとファンタジックなお話。





    矢野多聞40歳。梅林希羅々25歳。燕洋一50代。 久遠典江、50歳。


    読者は、4人それぞれの語りから、ホテル・メドゥーサに辿り着いた経緯を知る。そして、ホテルで巡り合った4人の交流やそこで過ごす時間は、さらに4人それぞれが、未知なる異次元に足を踏み入れるかの決定に影響を与える。

    世界の相対化、
    好奇心、
    いろいろ考えながら、楽しく読ませていただきました。

  • 典江さんと典江さんの旦那さん好き

  • 人生は、ままならないけれど、愛おしい。

    フィンランドの森に佇むホテルには、“異次元へのドア”があるという噂がある。異次元なんてあるわけない⁉︎ 異次元詐欺か?だけど…


    表紙に一目惚れしてKindleの半額セールで購入。黒い犬と黒い羊可愛い。殆ど出てこないけど。


    異次元を求めてホテルメドゥーサを訪れたのは、
    矢野多聞、40歳…(たぶん)人を殺してしまったので逃げてきた。
    梅林希羅々、25歳…自分自身を変えたいけど変えられない。
    燕洋一、54歳…死んだ最愛の妻が異次元で待っているので。
    久遠典江、50歳…好奇心を抑えられずにやってきた。

    みんな今の世の中が絶対に嫌というわけではない、異次元についても半信半疑、それなのにフィンランドまできたんかい!

    私が異次元より驚いたのは、久遠典江さんの旦那さんの言葉。

    「タダシも無事に就職できたし、完全に巣立ったわけだ。その後の人生は、お互いに好きなように生きてみないか」
    考古学研究の為、発掘に集中したいので家にいない日が多くなるということらしい…

    こんなこと言われたら私はショックで泣く。捨てられたとしか思えない。

    だけど、久遠典江さんは、
    「それぞれが望むところで息災であれば、それでよし。」

    愛情が薄いわけじゃないという。目から鱗が落ちる、はらはらと。そんなものなのか…。

    いろんな人間がいる、いいことも悪いこともある、地球ってそんなところ。
    地球とか異次元とか思ったより話がだだっ広くて驚いたけど、気付かされたことがたくさんある作品でした。

    彼らは本当に異次元の世界に行くのか?行くか行かないのかの葛藤も人それぞれで面白い。迷え、迷え、どの道を選んでも、自分で選んだのならそれでよし!

  • ファンタジーといえる物語。今も日本で人気の北欧を舞台にし、いかにも北欧の森の中でなら、あり得るのではと思わせる設定である。
    ファンタジー、北欧と言ってもイメージする「かわいい」というような作品ではなく、それぞれ、人生に鬱屈したものを抱えた四人の日本人が、「今」を脱出したいと願い、北欧までやってくる。
    フィンランド、ホテルメドゥーサにやってくるまでの四人の老若男女の日本での人生が、ある意味、とても普通であり、それでもそこから脱出したいと感じていることが面白く感じた。

  • 短いが結構ぎゅっと詰まった感のある小説。

    ここまでの人生に何か未練をもつ男女4人が、フィンランドの森近くにある宿に集まる。その森には五次元への入り口があり、亡くなった人に会えたり、人生をやり直せたりするらしいという噂を何かで知って、集まった4人。

    殺人を犯してしまったかもしれないと逃げてきた占いバーのマスター、自然な笑顔ができない20代の女性、最愛の妻を亡くして消沈する男、子育て、介護、夫の定年まで家の仕事を勤め上げてきた初老の女性。

    彼らそれぞれの人生は普通にどこにでもありそうなもの。つまり普通にどこにでもありそうな人生を送っている普通の日本人(自分も含めて)は何か人生に後悔をおいてしまっているんだろう。

    やり直せるなら、やり直すのか?その後悔を置いたまま軌道修正をする人生を送るのか?

    ラスト、4人はそれぞれの選択をしていく。決して誰も否定されず自分の意思をもって選択する4人の姿が非常に良い。自分の人生だもの、自分で選んでいきたいよねぇ。

    フィンランドという設定が生かしきれてない(別にアイスランドでもニュージーランドでも波照間島でもいいような気がする)のが少々残念。あと、文庫化する際の改題はもう少し情報としてメディアに乗っけて欲しい。それらの不満は些末なもの…良いものを読ませてもらったという気持ちを持てる小説。

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著者プロフィール

1978年大阪府生まれ。早稲田大学教育学部国語国文科卒。2013年、第15回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『小さいおじさん』でデビュー。同作は角川文庫化にあたり『私たちの願いは、いつも。』に改題。雑誌掲載の短編に「シトラスの森」。ボイルドエッグズのサイト内「今月のゆでかげん」でエッセイを不定期に執筆、母の逝去に際して掲載された「母は、シリウス星へ里帰り」が話題となる。WOWOW×Hulu共同製作ドラマ「コートダジュールNo.10」の脚本(9話のうち5話)を担当するなど、活動の幅を広げている。

「2018年 『くらげホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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