西方守護伯付き魔女の初陣 (角川ビーンズ文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041096574

作品紹介・あらすじ

魔法がうまく使えず引きこもっていた王女ミルレオは、男になる呪いをかけられ、西方守護軍で少年魔女(!?)として修行することに。しかも自力で呪いが解けなきゃ即結婚! ところが西方に、王女が来たとの知らせが――って、ありえない! ミルレオは“女装”して、守護伯ガウェインと己の名を騙る偽王女の正体を暴きに行くが……「お前、女か!?」「きぃあああ!!」 落ちこぼれ魔女が世界を変える、最強ラブコメファンタジー!!

感想・レビュー・書評

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  • 偉大すぎる母と比べられ続けたミルレオ。ここまで自己評価が低いミルレオは、見ていて悲しくなる。少しでもなにかあると、自分なんて…と思ってしまうところも。間違いなく頑張っているし、魔女としての力もあるミルレオ。ガウェインと一緒にいることで、今後は少しずつでも変わるといいな。と思った。

  • さっくりと読み終えられる恋愛もの。
    ヒロインがズタボロになるあたり、古い作品といえどいかにも守野ヒロインらしいなと。
    恋愛部分は、二人の中を裂こうと画策する人間がでてこない分展開は早い。

  • ほどよく楽しめる王女様の恋愛もの。

  • どうしても泣き顔の似合ってしまう姫君が、「彼」の力を借りて感情の奔流に正直になりはじめる話。

    「魔女」という単語を一つ挙げたとしても、ファンタジー作品における扱いは世界観によって大きく異なりますが、どうしてもネガティブなイメージがぬぐい切れないのも確かだったり。
    とはいえ、物は言いよう、ネガはポジ。実態を知らない輩に勝手なことを言わせるのはバカバカしい。

    本作の舞台は魔女たる彼女ら、彼らが最後に集い、自らの手で建国した小国「ウイザリテ」となります(本作における魔女は定義上性別を限定しません)。
    超常の力を扱うために迫害を受け狩り殺されていった「魔女」たちに本作のファンタジー要素は集約するのです。

    七百年の間、国を明け渡さずに耐えてきた魔女の国。
    現在も隣接する大国の圧迫を受けて、防衛に徹するもそこは魔女のための国。
    国富を生み、単騎にして戦局を覆す力を持つ魔女を他国をかどわかそうものなら、国の境を侵すことも厭わない。

    よって、世界観自体はシビアです。
    「高貴なるものの義務」が主人公の立場上前面に出ているので、私的な場での「甘さ」は出ても公的な場での「甘え」は許されません。
    ただし、恋人の会話にはたとえようのない甘みが宿るのですけどね?

    と、ここで主人公に話題を回します。
    主人公の第一王女「ミルリオ」は救国の英雄でもある女王の母と比べられ、口さがない廷臣の雑言に晒され、自己評価が極限にまですり減っているので、実力を発揮できないタイプの主人公です。

    で、不憫なことに母王に国境防衛の要である「西方守護伯」の元に男に姿を変えた上で放り出されます。
    この辺は人物紹介並びに開始数ページで読者向けに開示される情報なわけですが、ネタバレ承知で言えば娘のメンタルを立て直すための荒療治ですね(一応言われてみれば納得できる合理的な理由もあります)。

    「男装」ではなく「男性化」です。結構容赦ないです。
    少女向け小説・レーベルでは度々みられる手法とはいえ、読者向けに早々に開示して当事者の緊張感を共有してもらうというのは面白い趣向かもしれませんけどね。

    導入部では周囲の認知も少年に対するそれなので内面:令嬢が全くなじみのない男社会、軍隊のノリに晒されます。個室を用意するなどの配慮はありますし、過剰に男社会に巻き込まれることはないにしても不幸なことにかわりはなく。

    華奢で儚げな妖精のような美貌と評されることすなわち、女性としてひとつの到達点であるのでしょう。
    でも、本来の身分と姿を隠されて落ちこぼれて実家を放逐された男子「ミル」としてその印象を反転させると辛い。男としては未熟さに転じる印象を否応なきに突き付けられて、ただでさえ自信がないのに本来の魅力を引き出せない受難を続かせ、カタルシスに向けた溜めとします。

    彼(女)の本領のひとつとして社交界での立ち振る舞いを「男性化してからの女装」という結構アクロバティックな舞台で魅せ、メインヒーローである守護伯「ガウェイン」相手のカミングアウトと秘密の共有。
    「呪い」の正体を見破って本来の姿を取り戻してからのタイトル回収――すなわち従軍し、戦局を左右する前線に陣取るという王族としての本分を全うするクライマックス・シーンへつなげていきます。

    その過程として「ミル」の姿も大いに働いてくれるのですね。
    ミルは涙目が似合う少年として、喜びをあらわにしたと思えば次の瞬間にはしょげ返っていたりします。
    不憫さが目に見えて周囲が放っておけない姿は、衆目に泣き顔を見せることが許されない王女の裏返しなのです。

    やはり少年の姿は動きやすいし、動かしやすいのかもしれません。
    ミルが軍務に従事するにあたり与えられたフリーハンドが大きめということもあり序盤のあれこれをさらっと流しつつ魂の洗濯というべきか、本来あり得ない「幻の少年」として同じ年頃の少年とも交流することもできました。

    なお、主人公ミルリオについてさらに補足しておくと、彼女は利他的であり、自己犠牲も伴う献身的な姿勢が求められる王家/魔女の在り方に忠実です。
    文中にみられる主人公の自分評が卑下の嵐だから納得もできるかもしれませんが、一方でけして捨て鉢ではありません。国威を背負い、自身を国家のために投げ出す覚悟自体は揺るぎなく、心の芯はできているんですね。

    上流社会の幼稚な悪意に振り回されて心をすり減らし、感情のうねりを表に出しても許される居場所を求める。
    境遇は似た者同士だけど、出発点と現状が裏返しなミルリオとガウェインが作劇上でも面白いですね。ミル時代の倒錯した主従の関係を経て、単純な「恋」と対等に似た関係性を構築できたと考えればなおさらです。
    そうやって、戦場で彼女は「自己」の実現/確立という普遍的なテーマに向けて猛進します。

    この戦場において、読者が持てあましていた世界観への疑問を、国土と「魔女」という存在を侵されたことへの怒りを込めつつ、これまで押し込められていた真の実力を個人で戦局を決する形で応えてくれるのです。
    この辺の説明は作品の見せ場ということもあるので割愛させていただきますが結構な名文句が続き、漏れ出る嘆息を頂けたことを報告しておきます。

    続くエピローグの糖度も私には高めでした。
    作品に緩急をつける笑いどころ和みどころは山場の後ということもあってここに集中していたのでふっと頬をゆるめる機会をいただけたとも言っておきますが。

    ここまでのパートでも散見されたシュールなネタとやはり世間知らずで天然ボケ気味な主人公の所作が笑いを誘ってくれました。
    一方でなにがとは言いませんが一部のネタに上滑りした部分があったりもしたのですが、笑いのツボは人それぞれ、まぁさして気に留めたる問題でもないですね。

    加えて少し粗めですが総評も兼ねて個人的な感想を付け加えておきます。
    筆者の守野先生にとって本作は作家人生のはじまりに位置した習作であったとあとがきで触れられています。商業書籍向けに仕立て直された経緯もあって、確かにテーマと設定の上では盛り込み気味な部分も見受けられました。
    事実、作中の理屈立てに荒い部分も隠れていたように思います。

    けれども、ひるがえって感情の奔流と言える中盤からクライマックスに掛けたパートに関しては追い風になっていたように思えました。
    未回収の伏線も結構配置されているようですし、要望さえあれば続刊は視野に入っているでしょうが、どうなのでしょう? 私個人としては大いに期待したいところですが。

    あと、イラストを担当される椎名先生は主人公の代名詞である「銀青の長い髪に金紫の瞳」という描写。
    美しいけど、ともすれば、溶け消え行ってしまいそうだと作中でも触れられ、だけど確かな存在を示している彼/彼女というオーダーに応えてくださっています。
    あと、周囲の騎士たちの生命力も。

    最後に補足しておくと、私個人としては男性化というシナリオ上のギミックに興味を惹かれて読み始めた小説でした。
    シナリオを読み進める上でのフックがわかりやすい分、それに頼った部分があったことも確かです。

    けれど、うつむきがちだけどひたむきな主人公との「世界」との関わり方と、なんだかんだで十六歳という多感な時期をストレートながらシビアな王道で魅せてくださったことにより、秀作と言い切れようものです。

    続刊があるとして、ふたつの性別と立場を使い分ける二重生活が見込めそうですが、ひとまずはここでレビューを閉じさせていただきます。呪いが祝いに転じることありふれていて、だからこそ面白いのかもしれません。

  • 正直に言うと非常に読みにくい。守野さんってこんなに読みにくい文書く人だった?とあとがき読んだら十数年前に書いたものだと判明。なるほど。主語が誰なのか?この動きは誰なのか?言葉足らずな文のせいか混乱気味。ラストも唐突に終わったなぁ。なんか残念。

  • 久々に少女小説らしいものを読んだ。楽しかった!

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著者プロフィール

小説投稿サイトで執筆活動中。第15回ビーンズ小説大賞に応募した「千年の、或ル師弟」にて優秀賞受賞。商業活動では、「神様は少々私に手厳しい1」(プライムノベルス/主婦の友社)にてデビュー。

「2020年 『西方守護伯付き魔女の初陣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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