肉弾 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2020年6月12日発売)
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  • 本 ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041096758

作品紹介・あらすじ

大学を休学中の貴美也は、父・龍一郎に反発しながらもその庇護下から抜け出せずにいた。北海道での鹿狩りに連れ出され、山深く分け入ったその時、2人は突如熊の襲撃を受ける。貴美也の眼前でなすすべなく腹を裂かれ、食われていく龍一郎。どこからか現れた野犬の群れに紛れ1人逃げのびた貴美也は、絶望の中、生きるために戦うことを決意する。
圧倒的なスケールで人間と動物の生と死を描く、第21回大藪春彦賞受賞作。
解説 平松洋子

感想・レビュー・書評

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  • 河崎秋子『肉弾』角川文庫。

    第21回大藪春彦賞受賞作。過激な自然との闘いを通じて一人の青年の再生していく姿を描いた作品である。『颶風の王』も良かったが本作も非常に良かった。

    羆物ジャンルの新たな傑作と呼んでも良いだろう。しかし、本作はただの羆物には止まらず、さらなる物語を秘め、他の羆物を超えるリアリティと深さがある。

    暴君のような父親のせいで人生に躓き、大学を休学し、ニート生活を送っていた貴美也は父親に北海道での鹿撃ちに連れ出される。山深く分け入った二人は突然、羆の襲撃を受け、父親が貴美也の目の前で撲殺される。その時、野犬の群が羆に襲いかかり、さらに野犬たちは貴美也を襲う……

    羆の恐怖に加え、描かれる貴美也の人生の躓きの理由、ラウダをはじめとする野犬たちの過去……

    本体価格720円
    ★★★★★

  • 人生に自暴自棄な青年が、横暴な父に連れられ北海道のカルデラの森に。鹿狩りのはずが熊を撃つよう父に命ぜられる。そこへ異様な熊が、野犬が……。

    熊、おっかなかった!

    犬は健気だな。

    迫力ある内容で、ため息をもらしながら読んだ。

    命に、手を合わせたくなる。

  • 舞台は北海道。
    茨城からきた父と引きこもりの息子キミヤが狩猟に出かける。
    引きこもりがちの息子は銃器の資格を取ったものの初めての猟。
    豪放磊落な父は強引に禁猟地に入り込み熊を狙うも、
    運悪く鉢合わせたヒグマに襲われる。

    ヒグマと揉み合ううち野犬の群れも絡んできて
    なんとか逃走することに成功

    キミヤは父への屈託があったものの、
    自殺を思いとどまり、父の仇のヒグマを倒すことを決意。
    襲ってきた野犬のリーダーの喉に噛みつき屈服させ、群れの仲間と認められ
    野犬と共にヒグマに対峙する。

    父の遺体の土饅頭から遺体を掘り出して熊の怒りを買うが、
    野犬と知恵と武器、自分の身体でヒグマに立ち向かう。
    傷を負わせて負ってきたヒグマを木の上からナイフを持って喉元に飛び降りると、足場にした枝が熊に刺さり、内臓を破壊、暴れた末に絶命する。

    キミヤは熊を解体し、肝臓を喰らい、野犬に分配する。
    事情あって捨てられた犬たちと共に生きていくことを考えるキミヤだったが、
    父親が依頼した救助要請によりヘリで助け出される。
    犬たちは遠吠えしてその様子を見送り、山はまた元の静寂に包まれた。
    ーーーーーーーーーーー
    銀河流れ星銀のファンとしては胸熱な話。

    ヒグマが倒せるわけないと思いつつ、死ぬ気になれば知恵や生きるための勘も取り戻せるかもしれないと読み進めた。
    歯が折れてしまうくだりが生々しい。
    エキノコックスが怖いので、生水とか飲んで大丈夫かなと思った。
    その後のキミヤはどうなったろう。強く生きていったと思うが。。
    安易にペットを飼い、捨てる人、連れてくる人への蔑視を感じた。
    私も覚悟なしに動物を飼うことはできない。
    命を考える話だった。

  • 道東旅行に行く直前だったか、タイミングよくこの作品を知って、ぜひ読もうと思った。
    熊に襲われて、父親は腹を裂かれ、逃げ延びた青年は生きるために戦うことを決意する、というあらすじは、もちろんあらかじめ読んではいたものの、まさかこんなにリアルに熊やら犬やらと戦う内容だけとは想像はしなかった。なぜなら熊と人間が戦うなんて今も昔もそう滅多にある状況ではないし、その描写はあっても、そこから展開する自然や動物との共存論やひいては人生教訓的な流れに持ってく話かと思ってしまっていたので、ちょっと意外すぎて。しかも戦い方法が銃で撃つとかではなくて、超原始的に噛み付いたり、その辺の棒で突いたりで。

    常々思っているのだけど、さも人間だけが生きている、人間が一番高等な知能を持った、生を優先されるべき生き物であるかのような感覚になりがちだけど、他の生命体だって生きるのに必死だし、その生の権利は、理想論かもしれないが等しく平等であると思うので、山の中でお互いの生のために戦いあう姿は、実はあって当然、自然な姿だよなと思った。

    とにかくヒグマのいる知床に行ったばかりだったこと、世代的にどうしても「流れ星銀」の記憶が残っていたこと、さらには、自分の祖父が猟師だったので、仕留めてまだ毛皮を剥いでいないイノシシが家に物置に吊るされていたのを何回か見たことがあったりしたので、読みながら頭の中で思い描く風景や光景がヴィヴィッドだった。熊に噛み付いても、皮膚が厚く固すぎて訓練された猟犬が振り落とされるのなんて、何回も「銀」で見てたし。
    一方で、現代の半引きこもりだった青年がいくら究極の状況とはいえ、実際問題ここまでできるのかな?という点においてはリアリティに疑問符を持ってしまった。そもそも小説ではあるのだけど。

    人間に捨てられた犬、人間から逃げた犬たちが野生化して群れをなし、最初は青年を襲ってきたものの、次第に昔経験した人間との接触感覚を思い出したのか、心が通じていき、最終的には仲間として一緒に熊に立ち向かう様子は、犬好きにはそうだよね、そうだよね、と。

    巻末の解説には、エディプスコンプレックス、父殺しのテーマが内包されているとあった。確かにと思ったが、読んでる最中は意識が及ばなかった。

  • キミヤと熊の戦い、まさに肉弾戦!ボクは現実的な話が好きだが、人間が熊と戦う非現実的な話でも没頭して読んでしまった。人間だって、捨てられた犬たちだって、熊だって、動物たちはみんな必死に生きている。必死に命を繋いでいる。キミヤは、遭難中、体力的に過去にやっていた陸上が活きているといっていた。父親が目の前で熊に殺され、絶望…。この描写はグロテスクだった。キミヤは自分で命を絶とうとすることもあったが、左脚を熊に傷つけられそうになった時、体は反射的に回避。心は死のうと思っても、体は生きようとしている。生きようと思えた発端が陸上をやっていたことだと思うと、辛い過去があっても、やっていた意味は多いにあった。
    生きることについて、人間と動物たちそれぞれの目線で描き、読んでいてとても惹きつけられた。

  • 『颶風の王』も『肉弾』も、生き物の体温と場所の寒さが印象に残った。

    食べる食べられる、人間とそれ以外の動物、父と息子、庇護するものとされるもの。
    いろいろなものの対比があるなかで、自分はどちらかに属さないといけない場合、その決断の難しさを感じた。
    そして、否応なしに所属させられる場合の覚悟。

  • 3冊目。他の2冊と比較しての3ではあるが、どの本にも共通する命に対する畏敬の念がビシビシ伝わってきて、今作も非常に面白かった。

  • 作者は犬と北海道が好きなんだろうなと思った
    犬と一緒に熊を倒すところはちょっとファンタジーでしたが、主人公の性格がガラリと変わって良かったです。

  • 何でも人のせいにして不貞腐れている主人公が反省して一段成長する話かと思っていたら、反省する暇もなく、十段くらい成長せざるを得ない状況に追い込まれるような話でした。

  • 会社経営者の父親に引きずられている感じの引きこもり青年。
    会話が敬語という事だけでもその関係が読める。
    妻の数回変えるという生活、それが青年の心に落とした蔭に頓着する事もないという事でもなんやら見えてくる。

    北海道の定宿へ赴く2人、主から聞かされた開拓時代の話は重い。が場面はころっと転換し、狩猟の現場で羆に襲撃されあっさり肉の塊に。
    この辺りから少年ジャンプのコミック画面に感じがしてきて・・河崎さんどうしたの??って感覚に。
    デヴューしたての作品によくある粗削り、暴走気味の調子・・でも【颱風の】受賞後の作品だしなぁ。

    パーツパーツ的には力を感じさせつ展開で流石の河崎ものだが~
    羆に襲われた後 野犬の群れと死闘を繰り広げる場面と移り、そこからも・:・もう劇画。
    素手で戦える相手ではなかろう二。狼化した奴らは、元家犬。
    結局は羆の肝にむしゃぶりつくキミヤが神々しく光るエンドだが・・。何でこういう筋を考えたのか・・考える。

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著者プロフィール

1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。最新刊『土に贖う』で新田次郎賞を受賞。

「2020年 『鳩護』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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