テスカトリポカ

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041096987

感想・レビュー・書評

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  • 世界観が一貫してる。
    こわいし、悍しい…

    神話。
    人々の拠り所。
    何を良しとするのか。

    救いにも暴力にもなりうる。
    自分にとっては救いのつもりでも
    他者にとっては暴力になる。

    人間は弱いから、やっぱり
    拠り所を作りたくなる。
    弱いには弱いなりの理論がある。

    誰だってこの本の中の誰にでもなりうる。

  • 『Ank: a mirroring ape』以来の著者作品( https://booklog.jp/users/yaj1102/archives/1/4062207133)。

     前作では「京都暴動(キョート・ライオット)」として怒涛のバイオレンス・シーンを執拗なまでに描いたが、本作でも凄惨な暴力描写は健在。ノワール作家としての面目躍如は異論のないところ。

     メキシコの麻薬カルテルの幹部バルミロ・カサソラが、新興組織との抗争に敗れ流れ着いた日本で、新たな犯罪システムを構築する。そこに、日本で生まれたメキシコ人を母に持つ土方コシモとの出会いがあり、失った家族(ファミリア)の復活を目論み、血で血を洗うような裏社会の中で復讐を目指していく物語。

     犯罪組織の暗躍をメインに描き、これほどの残忍で衝撃的なクライム・ノベルが、なぜに直木賞?と疑問が生じなくもなかったが、前作同様に、暴力的な描写の背後に設えた、用意周到な舞台装置や、現代の社会に対する問題提起があるからこそ、と納得の読後感だった。
     曰く、前作では、霊長類の知能の研究と来たるべきAIの発展を絡めたことや、日本の霊長類研究の先端である京都を舞台に、禅の思想なども織り込みストーリーの納得感を高めていた。
     本作では、14~15世紀に栄えたアステカ古代文明と、その魔術的、呪術的な神話世界と、凶悪犯罪との見事な対比だ。昔語りのようにアステカの神々の物語を聞かされていると、バルミロが作り上げた犯罪組織とその所業が、聖なる行為に思えてくる。呪詛にかかったか、それこそ麻薬による幻覚のような錯覚を覚える。

     そして、麻薬密売の構造や、新たな血の資本主義 - ブラッド・キャピタリズム -は、実は、資本主義の行きつく究極であるか、あるいは、現代においても、強い者が弱い者をとことん搾取する構造は、この作品の表面的な凄惨さよりも、より巧妙な形で、より残酷に行われているのではなかろうかと想像を働かせざるを得なくなる。

     読者にそうした思いを抱かせる、単なるバイオレンスな作品でないところが、実に、佐藤究的であり、今回の直木賞の受賞となった点であろう。

     それにしてもだ。
     550ページにも及ぶ重厚なストーリーであるが、500ページまでが、起承転結でいう「起」と「承」に費やされる。圧倒的な文量で登場人物たちの過去やキャラクタが描写されているのは圧巻だが、最後の50ページで「転」と「結」を描き切ってしまうバランスは、いかがなものか? 決して悪い、と言ってるわけではない。それまでの500ページも実にワクワクと読み進むことができたし、その前段があっての最後のカタルシスではあるが、どこか惜しい気もした。

     特に、キーパーソンの一人である元心臓外科医末永の独白で、人類学者レスリー・シャープ著『奇妙な収穫(strange harvest)』)の中の、<生物学的感傷性(バイオセンチメンタリティ)>を引いて、

    「臓器移植の受容者(レシピエント)とその家族は提供者(ドナー)のことをもっと知りたいと望んでいる (中略) 臓器移植で延命するのは、単純な経験じゃない。複雑な、深い感情がそこに生じるというわけだ。」

     と、単に臓器という機能を受け継ぐだけでなく、心というか、記憶というか、科学で解明できない不思議な、奇妙な収穫が、引き継がれていくようなことを匂わせるくだりがある。

     思い出すのは、手塚治虫の代表作『ブラック・ジャック』の一話を大林宣彦が映画作品に仕立て上げた『瞳の中の訪問者』だ。角膜移植を受けた少女が、その角膜を通じて、ドナーが生前見ていたものを見ることになるという不思議なお話。

     本作では、バルミロの構築した完全な組織犯罪に、小さな亀裂が入るひとつのきっかけとなるのが、順太という9歳のドナーの無意識の気づき(=みんな、ころされる)であるが、なぜ、その少年が、そのことに気づけたかの回収はない。それこそ、アステカ神話のような、神がかりな力が作用でもしたかのようであった。
     期待していたのは、心臓移植のレシピエントがドナーの記憶をたどって、バルミロの構築した犯罪システムに風穴を開ける端緒になるのでは?!ということ。そうはならなかった。
     本作が、映画化されるならば、そのときには、ちょっとそんなアレンジも期待してみようか。

     面白かった!!

  • 面白かったが前半が良いだけにもっと面白くなったんじゃないかという不満が残る。あれ、これで終わり?って感じがした。

  •  メキシコ好きなので、テスカトリポカは知っていた。アステカの神をタイトルにしたくらいだから、もうぜったいヤバい話だよね? と想像はしたけれど、予想以上にヤバかった。
     
     直木賞候補になったと聞いたとき、残酷な殺人描写のてんこ盛りがネックになって、受賞できないなと思った。でも、こちらも予想に反して見事受賞。女性のほうが忌避するかと思ったら、林真理子と宮部みゆきが猛プッシュしたそうな。それも意外。

     話はメキシコの麻薬カルテルのボスが、敵対する勢力との争いに敗れて、命ひとつで逃げ出すところからはじまる。そして国外逃亡中に麻薬に代わる新たなビジネスの種を見つける。臓器だ。新鮮な臓器を、適宜提供するには、ドナーを捜すだけでは無理。特に子どもの臓器はどんな貴金属よりも高価だ。ドナーはつくりだすのが手っ取り早い。要するに殺人。その場所として選ばれた場所は川崎。京浜工業地帯の中核を成し、巨大な倉庫群を抱える街。海でも陸でも輸送の足は手配しやすく、なおかつ隠れる場所には事欠かない場所。ブローカーや、元有名外科医や、薬物中毒の保育士、半グレ集団、そしてもうひとりの主人公である親殺しの混血少年が、闇社会で暗躍する。

     描写は凄い、ストーリーの緊迫感も凄い、川崎にこんな凄い裏社会が実際にあることを信じてしまうくらい凄い。♪好きです川崎、愛の街♪と歌って踊る街には到底思えない。
     
     残酷な描写は多いが、社会に溶け込めず苦悩する人間の弱さや、敵に対しては残忍だが身内に対しては優しいという人間臭さも、深みがあって良い。ラストはちょっと切ない。北野武の映画作品を見終わったときの感覚に近い。この小説を、殺人描写がひどいという事で落選、にしたくなかったという選考委員の気持ちはよくわかる。
      
     個人的には、高校生以下には読ませないほうがいいと思う。高校生直木賞の選考からもはずしたほうがいいんじゃないだろうか。想像力豊かな子は吐くと思う。

  • 今読み終わったばかりなのだけれど、2021年8月13日の金曜日に『テスカトリポカ』を読み終えた偶然うち震える思いがしている。今日は、アステカ王国がコンキスタドールに滅ぼされてちょうど500年の日。

  • とてつもなくグロテスクなバイオレンス。と言えるのだけれど…
    そのバックボーンに、滅亡した文明・アステカの神々に対する信仰がズッシリと存在する為、印象が大きく変化していると思う。



    メキシコの巨大麻薬カルテル「ロス・カサソラス」が、対抗する組織「ドゴ・カルテル」の軍用ドローンによる爆撃で壊滅する。

    カサソラスを率いる四兄弟の内、唯一生き延びたバルミロは、命辛辛辿り着いたジャカルタで、窮地を救ってやった日本人の臓器ブローカー・末永と共に日本へと向かう。

    元・心臓血管外科医の末永は、自らの類い稀な技術を用い、移植もセットにした心臓売買ビジネスを画策していたのだった。

    一方、
    メキシコ人の母と日本人ヤクザの間に生まれた土方コシモは、ジャンキーとなった母親と落ちぶれたヤクザの父親を、その異常な怪力で殴り殺し少年院へ入院する。

    出所後、木工細工で発揮する類い稀な技術とセンスから、NPO団体「かがやくこども」を通じパブロのナイフ工房に引き取られる。

    やがて、コシモのとてつもない破壊力を秘めた暴力性を知ったバルミロに「坊や」と呼ばれ寵愛されるようになり、深い闇の世界へと足を踏み入れて行く。



    ◯土方コシモ…2mを超える巨軀と、驚異的な怪力を有する少年。手先が器用で彫刻に秀でた才能を見せる。

    ◯バルミロ・カサソラ…兄弟で巨大麻薬カルテルを率いていたが、対抗組織との抗争に敗れ一人生き残り逃亡。
    復讐を誓い、資金集めのビジネスを模索している中で末永の心臓移植売買と巡り会う。

    ◯リベルタ…バルミロの祖母。アステカの神「テスカトリポカ」を崇拝し、滅びた王国アステカの歴史と精神を孫達に叩き込む。

    ◯末永充嗣…有能な心臓血管外科医だったが麻薬服用中に事故を起こした為国外に逃亡。ジャカルタで腎臓のブローカーをしていが、ドナーを横取りされ窮地に立った所をバルミロに救われる。
    かねてから描いていた世界規模の心臓密売移植ビジネス実現に向け、バルミロと組み日本へと向かう。

    ◯野村健二…薬品の横領で医学会を追放された麻酔科医。闇医師となってからも麻薬を売買し末永と繋がり心臓ビジネスにも関わる。

    ◯座波パブロ…沖縄育ちのペルー人ハーフ。優秀なナイフメーカーで、少年院を出たコシモの師匠となる。
    純粋な芸術家で、悪への加担に心を痛めている。コシモが闇に堕ちて行く事に強い自責の念が…。

    ◯チャターラ…150kg超の巨漢で怪力。自動車解体場で人知れず殺人を繰り返し、遺体を煮溶かして始末していた。バルミロが育てた最初の殺し屋。

    ◯宇野矢鈴…コカイン中毒の元・保育士。NPO団体「かがやくこども」が、心臓密売マーケットの中枢である事を知らず、やりがいを感じている。

    ◯順太…ドナーとなる子供を収容するシェルターに住む9歳の少年。血の匂いから、自分達の運命に気付いている。コシモと友人に。

  • メキシコの麻薬密売人バルミロと、両親を自分の手で殺めてしまった少年コシモ。アステカの神に対する信仰を持つ二人が出会い、新たな心臓密売ビジネスに携わるノワール小説。禍々しくも神秘的なアステカの神々の物語とアウトローな面々の繰り広げる血みどろの戦いが絶妙に交じり合い、壮絶ながらもどこかしら爽快な読み心地でした。
    あまり馴染みのないアステカ信仰のイメージがとにかく壮大で呑み込まれます。現代なら単に野蛮と評されてしまうであろう儀式に関しても、神々しくすら思えてしまいました。
    登場人物、とにかく残忍な悪人が多いのだけれど。その中でコシモの真っ直ぐさが清々しくいとおしく思えました。一般的には彼も悪だと認定される方なのだろうけれど、巡り合わせが悪かっただけで実は全く悪人ではないんだよなあ。むしろよくぞあの面々に染まらなかったものだと感心の念すらおぼえました。

  • かなりボリュームのある作品だが、スケール感あるストーリー展開で、続きが気になり、一気に読み進めることができた。
    残酷な描写があるものの、そこまで気にならなかった。欲を言えば、終盤にもう一捻り欲しかったが、十分楽しむことが出来る内容。

  • グロテスクな部分もあるんだけど、ただのグロじゃないっていう何これ?
    加害者側の心構えがグロ最高いぇーいじゃなくて、信心だからなのか…?
    分厚い分、登場人物それぞれの背景が垣間見れて良かった。
    アステカ文明についても知りたいような知りたくないような…
    元気な時に調べようかな!

  • 滅ぼされたアステカ文明の精神を受け継ぐ者が悪に染まり麻薬や臓器売買組織を作るが内部抗争が起こり…。
    アステカ文明の凄まじい教えをなぞるようにストーリーもかなりの凄まじさで常識が麻痺してしまいそうな感覚に。家族を殺されたバルミロが復讐を誓う序盤で復讐劇を期待したが、そこに至る資金集めの時点で終盤に差し掛かり帰着点が見えなくなりました。
    丁寧にキャラ作りをした殺し屋達や闇医者達は簡単に頃されてしまい、バルミロとコシモの対決も巻が入った感じ。アステカ文明の丁寧な解説は省略してもいいので終盤はもう少し丁寧に描いて欲しかったです。

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著者プロフィール

1977年福岡県生まれ。2004年、佐藤憲胤名義で書いた『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となり、デビュー。2016年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞を、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞、第165回直木賞を受賞。

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