昨日星を探した言い訳

著者 :
  • KADOKAWA
3.86
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本棚登録 : 476
レビュー : 32
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041097793

作品紹介・あらすじ

自分の声質へのコンプレックスから寡黙になった坂口孝文は、全寮制の中高一貫校・制道院学園に進学した。中等部2年への進級の際、生まれつき緑色の目を持ち、映画監督の清寺時生を養父にもつ茅森良子が転入してくる。目の色による差別が、表向きにはなくなったこの国で、茅森は総理大臣になり真の平等な社会を創ることを目標にしていた。第一歩として、政財界に人材を輩出する名門・制道院で、生徒会長になることを目指す茅森と坂口は同じ図書委員になる。二人は一日かけて三十キロを歩く学校の伝統行事〈拝望会〉の改革と、坂口が運営する秘密地下組織〈清掃員〉の活動を通じて協力関係を深め、互いに惹かれ合っていく。拝望会当日、坂口は茅森から秘密を打ち明けられる。茅森が制道院に転入して図書委員になったのは、昔一度だけ目にした、養父・清寺時生の幻の脚本「イルカの唄」を探すためだった――。

感想・レビュー・書評

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  • 中高一貫の全寮制の共学校。もうその設定だけで心がときめく。
    そこに迫害され差別されてきた「緑の目」の人間たちの歴史をからませていく。一気に物語に深みが増した気がする。単なる学園ものではない、深みが。

    総理大臣になること、を目標に掲げる少女茅森と、繊細さと独自の正義感を持て余す坂口の、長い長い青春と恋の物語。そこに、アイデンティティと差別と友情と同情と理解と共感と、それからあと何があったか…とにかく十代で経験するべきすべてのものがここにある。
    オトナにはオトナの理論があり、正義がある。それは多分いつも、正しい。
    けれど、十代には十代の、彼らにしか分かち合えない、譲れない、正義も間違いなく存在する。
    眼の色が違うことや、足が不自由なこと、そういう被差別要因に対して、どうふるまうのが正しいのか。
    坂口の橋本先生への嫌悪、綿貫との拝望会でのエピソード、その根拠。簡単に言葉で言い表せない違和感たち。そこからつながる茅森と紡ぎ続けたとある脚本。そのひとつひとつが美しくて尊くて、涙腺を刺激してくる。
    いつの間に自分はこんなにも彼らから遠くへと来てしまったのか、と愕然ともする。

    正しい事、正義、倫理。そういうものに圧迫され続ける今だからこそ読んで欲しい一冊。
    読み終わった後、きっと、深く呼吸ができる。

  • 愛と倫理の物語。痛いほどまっすぐで、潔癖な少年少女の姿に胸がいっぱいになりました。美しいしすてきな理想だけれど、真面目すぎて馬鹿馬鹿しく思えるほど。たくさんの会話と議論により積み重ねた信頼と愛。河野先生の作品のなかで、一番恋愛色が強かったのではないかと思います。繊細だけどわがままで強い物語。100個の嫌いなところと、ひとつの好きなところ。が、一番好きでした。多様性が叫ばれるいまの時代に即した物語でした。

  • 100個の嫌いなところとひとつの好きなところら

    いくらだって並べられるあいつ嫌いなところ
    でも、たったひとつの好きなところは唱えようとしても言葉にならない

    ラストが特に好きだった

  • 差別が日常の陰に潜む世界で、理想的な世界を目指している少女・茅森と、彼女を尊敬して支えようとする坂口の物語。
    表紙の帯のアオリにもある「あのころ僕は、茅森良子に恋していた。もしもこの一文に嘘があるなら、それは過去形で語ったことくらいだ。」という文章がおしゃれ。

    作品の中で語られる差別のエピソードは、所詮フィクションでしかないのだが、登場人物たちはそれぞれの信念と複雑な思いを抱えていて、それがリアリティを持っている。
    主要人物には純粋な悪人はおらず、それぞれに正義がある。

    例えば、女子が生徒会長になることに否定的な卒業生代表がいる。
    彼は、女性の能力が低いという偏見を持っているわけではなく、男というものは責任を負うべきという考えに依っている。

    差別を否定し弱者を救済しようとする熱血教師は、主人公たちに押しつけがましく思われているが、彼は心の底から平和を望んでおり、差別にあふれた世界では貴重な存在だ。

    足が不自由で車椅子で生活しているある生徒は、憐みの目を向けられたり、勝手に救いの手を差し伸べられることに納得していない。
    彼は足が不自由な現状を受け入れようとしており、友人たちが長距離遠足に出かける様子を羨ましく思い、また羨ましく思えることを大切にしようとしている。

    差別をなくそうとする人もいれば、思いは同じにしていても差別があった歴史自体はなくしてはならないと考える人もいたり、人の考えは千差万別だ。
    「差別=悪」という命題は真ではあるけれでも、そこにすべてを集約しようとすると、個々の考えの微妙なニュアンスが失われていってしまう。
    よく考えさせられる物語だった。

    さて、本作は茅森と坂口の恋愛小説という側面も持っているが、二人とも例にもれず複雑な性格をしているものだから、まあややこしいことになる。
    彼らは、中学高校と同じ時間を過ごす中でお互いのその複雑な考え方を理解することを学んでいくのだが、自分が素直になるという方向へはあまり成長しなかったみたいだ。
    私もいろいろ考えすぎて物事を複雑にしてしまう質だからよくわかるのだが、彼らを見ていて少しめんどくさい奴らだなと思ってしまった。

    複雑な考え方を理解すること、自分とは違う考え方を認めること。
    それと同様に、自分の考え方を認めてもらえるように努力することも必要だ。

  • これは青春小説?恋愛小説?となかなかカテゴリしにくい印象でした。

    第一部と第二部に分かれていて、第一部では主に生徒会選挙について、第二部では幻の脚本「イルカの唄」についての描写が描かれています。時折、25歳になった主人公とヒロインの物語を交えながら、2人(主人公とヒロイン)の視点で交互に物語は進行しています。
    一つのエピソードを2人の視点から読み解けるので、新たな発見があるのが魅力的でした。
    一応、恋愛要素があるのですが、2人の関係性がどこかドライな感じがしました。この空気感は、河野さんの「階段島」や「架見崎」シリーズの主要2人とどことなく感じさせるなと思いました。距離感も近からず、遠からずで、青春群像劇を見ている印象でした。

    内容ですが、特に印象的だったのは、第一部。小さな「政治」を見ているようでした。ある人を生徒会長にするためにあらゆる人に声を掛け、協力していく様は政治そのものでした。まるで学校が国会、各寮が派閥かのようでした。
    その中で、若者ならではの嫉妬や主張なども描かれていて、
    どこかファンタジーぽいけれども、現実感がありました。
    ただ、全体的にダラダラ感があり、もう少し圧縮してもよかったのではというのが個人的に思いました。
    それぞれの登場人物達の「正義」が詰まった作品で、読み終わった後、複雑な余韻に浸れました。

  • 初読みの作家さん。
    表紙がキレイで手に取った1冊。

    うーん、何ともレビューが難しい。
    「正義」とはきっと生きていくその時々によって
    変わっていくものだと思う。
    大人には大人の、子供には子供の正義があるのだ。

    全然本書とは関係がないのだが、
    ジョンレノンの「イマジン」を頭に流しながら読んでいた。
    私がもう10歳若い時に読んでいたら、
    また違った感想を持ったのだろうな。

  • 制道院という学校の持つ、伝統と停滞。
    成績と寄付によって住む寮が分かれ、学校の生徒会には「黒色」の目を持つ「男子」が明らかに台頭していた。

    そこで制道院に、有名な映画監督を養父に持つ「緑色」の目をした「女子」が転校してくる。
    彼女は周りから距離を置かれながらも、「総理大臣になる」と話す。

    そんな彼女に次第に惹かれていった坂口は、彼女が指針にしている、幻の脚本〈イルカの唄〉を一緒に探しはじめるのだった。

    茅森良子がこの国のトップに立ってやろうという、善良な野望と。そうした形で、自身の信念を体現しようとする茅森を大切にしたい坂口の、二人の世界はよく出来ていると思う。

    〈イルカの唄〉を坂口だけが読み終えることになるのだが、その結末に茅森は果たして耐えられなかっただろうか。

    だからこそ、クライマックスで茅森を置き去りにしなければならなかった坂口が、どうして八年後に再会を求めたのか。
    そこに、彼のどんな成長があったのかを上手く見出せなかった。

    また、茅森と坂口をある意味で受け入れてきたはずの制道院メンバーはどうなったのだろう。
    そういった疑問の中で、エンディングを二人の再会に集約した所に、ただのドラマで終わって欲しくないなという感想が生まれた。

    さて。意外と、この話の中で時間経過を含んだ成長?を見せたのは橋本先生と中川先生なのでは。
    自分の中の正しさが、固まっているほどに、ズレてしまうことには痛みが伴うように思う。
    これではいけない、でも、変えられない。
    そんな痛みと、二人は向き合うことに耐え続けたのかもしれない。

    ふと、住野よるの『青くて痛くて脆い』のモアイ二人を彷彿とさせた。

  • きっと、読んだその時々で感じ方が変わる本。
    他人との関わり方、誠実さ、優しさ。他者を傷付けうる優しさと善意を抱えて生きていること、それは決して悪ではないこと。人によって、受け取り方が違うということ。
    とても繊細で、暖かくて、しかし優しく喉元に刃物を突きつけられているような錯覚を憶える。現代に溢れる沢山の問題がこの話の中には詰まっていて、「貴方の答えは?」と問われているような気持ちになる一冊でした。これからも何度も読み返したい、本当に素敵な本。

  • 記録

  • 環太平洋大学附属図書館の所蔵情報はこちら⇒
    http://library.ipu-japan.ac.jp/Main/Book?book_id=TS00086335

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著者プロフィール

徳島県出身。2009年に『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』で、角川スニーカー文庫よりデビュー。若者を中心に人気を博し、シリーズは7冊を数える。他著作に「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズ(角川文庫)、『いなくなれ、群青』(新潮文庫)に始まる「階段島」シリーズなどがある。

「2020年 『昨日星を探した言い訳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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