ヘディングはおもに頭で

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 78
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041097892

作品紹介・あらすじ

大学受験に二度失敗し、浪人をしながらアルバイトを転々として暮らしている松永おんは、かつて双子の弟がいたことから、自分は半分だけの存在だという意識を持って生きている。半年前から働きはじめた弁当屋では何の楽しみもやりがいも見いだすことができない。そんな日々を過ごしていたある日、おんは高校時代の部活・写真部の集まりで友人に誘われたことがきっかけで、初めてフットサルをする。それはおんにとって「まったく新しい何か」だった。誰かにスイッチを押されたようにフットサルを始めたおんは、永田町にあるフットサルスクールに通うようになる。一方、地元北千住の同人誌が開催する読書会にも参加するなど、徐々に世界を広げていくおんだが……。

感想・レビュー・書評

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  • いいお話だった~。意識の流れ、というのかな、20歳の主人公の内面をひたすら追うのは、水族館の水槽を息を止めて眺めているような感覚。自分が泳いでるわけではないのにたまに水面に顔を出して息継ぎしたくなるような。この年頃の、バイトや趣味の活動なんかで知らん人の中にひとりで出て行くときのこの感じ、「あったなあ!」と思う。社会にもまれることが自分を嫌になるくらい見つめること――外に開けるより内にえぐれること――だった。でも、えぐれつつ、いつのまにか開けているんだよね。ナイーブなくせに初対面の人を脳内で値踏みする視線は不躾ってあたりもこの年代のリアルか。あと、母親具合悪いって聞いてまず自分の今後の心配するところ!あー、でも、そんなもろもろも、この子の母親の年になった今でも、実は意外にわたしにも残っていたりするのかも。いやでも、ちょっとこの子は行く先々で意地悪な人、嫌なやつに会いがちすぎてかわいそうだったけど。
    著者の西崎さんは1955年生まれで、こういうのをノスタルジーではなくみずみずしく描けることに驚いた。そのいっぽうで、そういうことに驚くのは、小説家の想像力、観察眼に対して失礼な、わかってないことなんだとも自戒する。
    「輸血されたような気分になった」っていう比喩が好きだ。

  • 浪人生の「おん」は、弁当屋でアルバイトしながら、漠然と受験勉強をする毎日。でも4か月前からフットサルのスクールに通いはじめて、目に見えないくらいじわじわと世界が広がりはじめる。

    大きなドラマがある小説ではない。でも、多くの人の人生がそうであるように、日々のほんの小さなできごとの積み重ねで、ほんの少しずつ何かが変わっていく。そのようすが静かな筆致で、でもときにぐふっと笑ってしまうようなユーモアを交えながら描かれているのがとても好きだった。

    おんは、自分は頭もとりたててよくはなく、「自分にしかできないこと」というような才能もない、と劣等感を抱えている。しかも生まれたときは双子だったのに、片割れは生後すぐに死んでしまったらしいから、自分が「半分だけの存在」であるようにも感じている。でも、バイトに通い、フットサルをする単調な日々を送りながらも、そのフットサルに心を惹かれて少しずつ深く入っていくうちに、自分の不完全さをそのまま受けとめるようになっていく。

    わかりやすく啓示を受ける場面があるわけじゃないんだけど、なんとなく成長していく。そのゆるやかな感じがとても好きだし、そうやって自分の不完全さを受けいれ、なおかつ好きなものに打ちこんでいけたら、たとえそれでお金をかせいだり賞をとったりしなくても、りっぱに自分だけの人生が送れるんじゃないかな、などと感じた。

  • 最近流行りの繊細さんの心理描写や人間観察をフットサル中心に展開する話。こういう若者が増えているということか。思わせぶりなタイトルは最後までストーリーと関連付けられなかった。

  • 二浪中の主人公「おん」
    弁当屋でバイトをしながら
    フットサルのクラブに夢中になり
    受験勉強に意味を見出せなくなる。
    読書クラブでの人間関係だったり
    狭い世界でもいろんなことが起こる。
    一見弱そうな主人公だが
    悪口や陰湿な嫌がらせにも
    淡々とやり過ごしているのが強さをもつ。
    無気力なのか意思が強いのか
    よく分からない不思議な人格。

  • 浪人生の日常の物語。
    フットサルや読書サークルという新しい環境に自らを置き、何か大きな出来事がある訳ではないけど、ちょっとずつ緩やかに変化していく主人公。
    浪人生だけど、あまり受験勉強とかのシーンはありません。フットサルのシーンがメインかな。

    何となく、こんなゆるゆるだらだらした雰囲気、嫌いじゃない。実際大学生とかもこんな感じだよね。主人公は大学生じゃないけど。でも、リアル。
    自分も浪人してたから、既に大学生になっている友達や社会人に対しての妙な劣等感というかちょっとモヤモヤした気持ちよく分かる。

    19歳とか20歳って、いちばん中途半端な期間な気がする。
    大学生になっていればまだしも、浪人生だと「学生」という訳でもなくて、社会人でもない。自分の将来のこととか考えるし、自分に何ができるんだろうってよく考えてた。
    20歳にもなれば世間的には大人だし、法律的にもいろいろ許されることが出てくるけれど、自分の感覚はまだどこか子ども。頭ではもう20歳だとは分かっているけれど、20歳になったからといって急に「大人」になれる訳では無い。

    そんな過渡期にあって、フットサルや読書サークルを通してちょっとずつ自分と向き合って自分を理解していく主人公の姿に共感した。
    自分のちょっと苦労した浪人時代を思い出して、ほろ苦くもあった。


    1点気になったのは、終始主人公目線だったので三人称じゃなくて一人称でもよかったのではないかと思いました。もしかしたら、双子エピソードで名前のことを描きたかったからかな、とも思いましたが。。。

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著者プロフィール

1955年生まれ。青森県出身。翻訳家、作家、アンソロジスト、編集者、ミュージシャンなどとして、様々なジャンルで活躍中。2002年に『世界の果ての庭』で第14回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。著書に『蕃東国年代記』『飛行士と東京の雨の森』などが、訳書にコッパード『郵便局と蛇』、バークリー『第二の銃声』、『ヴァージニア・ウルフ短篇集』などがある。

「2020年 『ヘディングはおもに頭で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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