悪い夏 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 1325
感想 : 131
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041098721

作品紹介・あらすじ

26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外して――。生活保護を不正受給する小悪党、貧困にあえぐシングルマザー、東京進出を目論む地方ヤクザ。加速する負の連鎖が、守を凄絶な悲劇へ叩き堕とす! 第37回横溝ミステリ大賞優秀賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 染井為人『悪い夏』角川文庫。

    第37回横溝ミステリ大賞優秀賞受賞作のノワールサスペンス。不快になるような暑さの中、生活保護を巡る闇と人間の欲望の結末が描かれる。登場人物の誰もが悪に絡め取られて行く、救われない系の物語。新人作家ということで粗さはあるが、面白かった。

    生活保護の不正受給、シングルマザーの貧困、生活保護制度で一儲けを企むヤクザ、不正を働く市役所職員、様々な立場の人間が自己の欲望だけを追求した挙げ句の『悪い夏』の終わりは……

    主人公は、千葉県の中規模都市の市役所でケースワーカーを務める26歳の佐々木守。守の同僚・高野が生活保護を受けるシングルマザーを食い物にし、肉体関係を結んだ挙げ句、増額分の生活保護の一部を搾取する。真相を突き止めようとシングルマザーの家を訪ねた守は東京進出を狙うヤクザの目論みにハマり……

    本来は弱者を救済するための社会保障制度。一見、公平であるかのように見える制度にも様々な問題がある。年金支給額よりも、生活保護支給額の方が高額であったり、ケースワーカーの判断や申告内容により支給されたり、増額されたりと。実際、過去には人気お笑い芸人の母親が生活保護を受けていたケースもあった。

    本体価格680円
    ★★★★★

  • すごい。たしかに「悪い夏」だ、こりゃ。
    めちゃめちゃ悪い。登場人物がみんな悪いし(悪いというかどうしようもないというか)、展開も結末も最悪。どんどん悪い方へ転がっていく。

    主人公は生活保護受給者の家庭訪問や相談を受け付けるケースワーカーの佐々木守・26歳。同僚のケースワーカーの不祥事を知ったことをきっかけに、守は「普通」の人生からどんどん転落していく。
    生活保護の不正受給者がたくさん出てくるので、やっぱりケースワーカーのお仕事って大変なんだろうなと思った。しかし、それ以上に守の身にふりかかる災難が恐ろしい。担当している生活保護の不正受給者が地方ヤクザと絡んでいて、そのヤクザが出てきて・・・その後の展開はもう悪い方へ悪い方へ。人間落ちるときは一瞬だ・・・
    守の転落人生のきっかけになった同僚の不祥事も、守が積極的に見つけたわけではなく、もう一人の同僚が熱心にかかわってしまったから守がまきこまれてしまったわけで。世の中の怖さを知る。落ちるきっかけはすぐそばにあるのかも。

    物語終盤で登場人物大集合!みたいになるところがもうカオスで。お前もそんな人間だったんかい・・・とだんだん呆れて笑えてしまった。当事者にとっては必死の状況なのに。。。
    でも、作者の染井為人さんのあとがき「悲劇と喜劇」を読んで、この感覚は間違いではなかったのかもと思った。染井さんはあとがきで、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」というチャップリンの言葉を引用している。「そのときはつらかった出来事も、あとから思い出すと笑い話」と解釈されるこの言葉を染井さんは、【他人の悲劇は自分にとって喜劇】と置き換えている。「人の不幸は蜜の味」じゃないけれど。
    「端から見れば滑稽で愚かに映りますが、本人たちは至って真剣なのです。そしていかに間違っていようとも、彼らなりの言い分、正義が存在するのです」
    「わたしは作者として登場人物たちの善悪を問うようなことはしたくないのです。誰の人生も他人が裁く権利などないのですから」
    なるほど、たしかに。まわりから見たら疑問に思えるような行動にも、その人なりの理屈や正義があってのことなんだろう。
    にしても、怖い結末だった。ある意味、夏に読めてよかった。


    「今、自分を取り巻くこの現実がすべて夢であってほしい。いや、きっと夢なのだろう。暑すぎる夏が、悪い夢を見せているのだ。」

  • 面白くて一気読み!

    生活福祉課でケースワーカーとして生活保護受給者を回る26歳の守。
    生活保護不正受給の疑いがある、ひと癖もふた癖もある、上手の市民相手に需給辞退を説得していた。
    ところが先輩職員が受給者相手にお金を巻き上げ、肉体関係を迫っていることを知り、そこからあっという間に、本当におむすびコロリン並みにコロコロと転落していく。

    人ってこうやって転落するんだなー。
    奥手でまともな恋愛経験がない26歳公務員なんて、悪い人からすれば赤子の手を捻るように騙せるんだな。

    しかし守よ、あなたは人が良過ぎ、安易に信用するんじゃない!
    さらに女を見る目がないよ!
    でも、こういう人の良さそうな人は他人を疑わずに信じてしまんうだろうなとも思う。疑問を感じたとしても、無意識か意識的か、目をつぶってしまうんだろうね。

    登場人物がみんな悪い人で、イキがってて、弱者で、途中から怖いよりも笑ってしまった。
    あとがきにもあったけど、本人達には「悲劇」だけど、私には「喜劇」だった!
    最後のオチは最高!!

    中でも高レベルの悪人である金本のセリフには唸った。
    『今の日本の劣悪な就労環境で、自力で生計を立てようなんてのがまずおかしいと思わないか。底辺の人間が職に就いても得られる給与は生活保護より低いのが現実だろう。最低限の社会保障すらない。(中略)つまり世間は、『生活保護を貰ってる奴らは、楽して金を得てずるい』ではなく、『一生懸命働いてるのに生活保護世帯よりも安い賃金しか貰えない社会はおかしい』と考えるべきなんだ。どうだ、批判の矛先は国に向かなきゃ嘘だろう。』P320

    タイトルの「悪い夏」。
    誰にとっての悪い夏?悪いのは夏の暑さではなく、人や社会だよね。

  • ケースワーカーの26歳守がある生活保護受給者の22歳のシングルマザーに恋してしまいそこから地獄のように人生が転落していくさまがかわいそうであるのと、すぐそこに社会の底辺まで落ちてしまう恐怖が今の日本にはあるというのを教えてくれた。

    ヤクザが言っていた「生活保護受給している人の方がぎりぎり生活保護を、もらわずに頑張っている人よりも裕福に生活しているのがおかしい」
    「生活保護受給をするのはこんな社会がおかしいと国に圧力をかけている行為である」との考え方が合っているのかというより考えさせられた。

  • 登場人物が悪い人、悲しくなる人ばかり。
    生活保護不正受給者,不正受給を金にしようと企んでいるヤクザ,
    正規に生活保護を受けたい人、不正受給を阻止すべく日々奮闘している生活福祉課のケースワーカー、それぞれの登場人物が絡んで、ひとつの大きな穴に転がり落ち、破滅していく。
    気分が悪くなるほどの悪い奴の罠に正義感が強く優しい男が見事にハマっていく。
    この状態を救える人は誰もおらず、読み進めてもバットエンドしかないだろうと想像がつく。

    読後感が悪いのだが、エピローグ『悲劇』と『喜劇』で著者のねらいが理解できホットした。
    「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇だ」チャップリンの名言。
    「近く」と「遠く」は「自分」と「他人」に置き換えられる、自分が必死でやっていることが、他人が見たとき滑稽に映ることがあるのではと著者は言う。
    だが、自分の身に降りかかったとき人は冷静さを失う、だから人間は難しいとも。

    困難なことにぶつかったとき、どこかに解決策があることや、日々の悩みや言動を俯瞰してみることが大切だと気が付かせてくれた本。
    エンタメ小説なので面白く読めます。 

  • うわ〜面白かったな。「クズとワルしか出てこない」とオビにある。でも読めば、人は自動的に悪人になることはない、ということがよくわかる。クズとワルに誰がしたのよ、って話。生活保護受給者(ケース)とケースワーカーを中心に不幸な人間関係の連続。

    極悪人の金本のセリフが、乱暴ではあるけど真理の一端を照らしていると思うな。

    「『生活保護を貰ってる奴らは、楽してお金を得てずるい』ではなく、『一生懸命働いてるのに生活保護世帯よりも安い賃金しか貰えない社会はおかしい』と考えるべきなんだ。どうだ、批判の矛先は国に向かなきゃ嘘だろう」

  • よくある生活保護の不正受給を題材にした社会派のストーリーかと思っていたら、ただただ人生を転落していく内容の話だった。
    あとがきにある作者の意図には、なるほどと共感。確かに最後は、悲劇がどことなく喜劇に感じられたりして。
    出てくる人物は確かにクズばかりで、読んでいて気分は悪くなる一方、その先が気になってページ捲りが捗る捗る。他人事だから覗いてみたくなる心理が見事に出てしまい、一気読みしてしまいました。
    精神衛生的にはよろしくないけど、こうゆう話は嫌いではない。普通におもしろかった。

  • 書店で衝動買いしましたが、なかなかよかったです。

    社会人なら皆さん一度は生活保護制度について考えたことあるんじゃないでしょうか。
    私の会社でもたまに雑談や飲み会の席で話題に上がります。(残念ながら、ご多分に漏れず蔑む対象として)

    登場人物の大半は不正受給者なので、読んだら受給者への目がより厳しくなる気もしますが、一方でやっぱり本当に助けないといけない人たちもいる事も描いてあり、ケースワーカーの人たちってどっちに転んでも矢面で辛い仕事だなぁ…と。

    金本の言ってた「生活保護の金より、むしろ頑張って働いても生活保護以下の金しか貰えないこの社会が問題」って視点はなかったです。確かに!と思いました。
    健康で文化的な最低限度の生活、を保証するために生活保護制度はあると解釈してるのですが、働いてるのにそれ以下の賃金の人たちはこの権利守られているのでしょうか?

    ストーリーもウシジマくんみたいでスリリングでおもしろいんですが、ちゃんと生活保護制度に対して一石を投じている、そんな一冊でした。

  • 中身が酷い人だらけで、先が気になり一気に読み進めたけど、最後だけが雑に描かれていたような、、、。登場人物、はちゃめちゃの果てはどうなったのか、詳しく知りたかった。イヤミスが好きな人にオススメです。

  • 展開が早く、飽きる事なく読みました。
    クズみたいな人間が多く出てきます。そこも良し。
    クズだなぁ!と思ってた山田という登場人物だが、次から次にそれ以上が出てくるので、最終的には山田のマシさに気づくという。

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著者プロフィール

1983年7月21日生まれ。男性。千葉県印西市出身、東京都葛飾区在住。現在、演劇・ミュージカルのプロデューサー。2017年、『悪い夏』で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビュー。

「2022年 『震える天秤』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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