- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041099148
作品紹介・あらすじ
「人間は恋と革命のために生れて来た」。古い道徳とどこまでも争い、"太陽のように生きる"べく、道ならぬ恋に突き進んでいく29歳のかず子。最後の貴婦人の誇りを胸に、結核で死んでいく母。自分の体に流れる貴族の血に抗いながらも麻薬に溺れ、破滅していく弟・直治。無頼な生活を送る小説家・上原。戦後の動乱の時代を生きる四人四様の、滅びの美しさを描き、戦後、ベストセラーになった、太宰の代表作。
感想・レビュー・書評
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今月の“千年読書会”の課題本、でした。
手元になかったので角川文庫版をチョイス、
表紙が暗闇の中で微笑む少女と、なかなかに印象的です。
さて、物語の舞台は戦後間もない、混乱期の日本。
そして軸になるのは4名の男女、でしょうか。
どこかお嬢様然としたバツイチの、「かず子」。
復員後、なんとも退廃的な生活を送るかず子の弟、「直治」。
戦後の混乱の中でも誇りを見失わず凛と在り続ける、その二人の「母」。
そして、どこか太宰を投影したかのような無頼な小説家、「上原」。
戦後の混乱期にそれぞれが悩み、苦しんでいる、
そんな様子の物語が綴られていくことになります。
劇中では主に、かず子の視点で語られていきますが、、
皆が悶えている中でも、どこか危機感のない悩みを持ち続ける彼女、
そんな様子を楽天的で前向きととらえればよいのか、
ただの甘ったれと断罪すればよいのか、、悩ましいところです。
直治と母、二人を失っていく中でも、
さして好きでもない上原との不義の子を授かりたいと。
およそ生活力のないかず子が、シングルマザーとなる、
先に見えるのは緩やかな破たんでしかないとも思いますが、、
この後、“母”となったかず子がどうなっていくのか、
意外と強かにのほほんと生きていったのではないか、と個人的には。
そんな根拠のない明るさが、戦後の苦しい現実の日本社会において、
受け入れられていった理由ではないかなと、そんな風に感じた一冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
お母さまのスウプのいただき方が素敵。
無心そうにあちこち傍見などなさりながら、ひらりひらりと、まるで小さな翼のようにスプウンをあつかい、スウプを一滴もおこぼしになる事も無いし、吸う音もお皿の音も、ちっともお立てにならぬのだ。
没落貴族のプライドと、不良への屈折した憧憬と、弱く脆い男たち。
上原も直治も山木も太宰も面倒くさい男たちだな…。
かず子のその後が気になる。 -
言葉の言い回しが、新鮮に感じた。やはり、人間のぐだぐた、揺れや迷い…を忠実に文章にしているがすこい。途中から、なぜだか心の中で、Queenのボヘミアン・ラプソディーが流れてきた。太宰が生きた時代背景も影響しているんだろうが、現代にも通じる気がする。
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やっぱり太宰の小説は好きだなぁ。最後の頁をめくり終えて、本を閉じた私が感じたのはそういう満足感とも幸福感ともつかない気持ちだった。バッドエンドと言ってしまうには、かず子は顔を上げ、前を、未来を見据えたラストだったとはいえ、決してハッピーエンドではないのに。
「人間は恋と革命のために生れて来たのだ」
有名なこのフレーズを初めて小説の中で読んだ。このフレーズ1つであっても、ひどく印象的で、何となく自分の中にずっと残っていた一文。
でもやっぱり、小説の中の言葉は小説の中で読むのが1番だった。何となく、で頭に残っていた文章に命が吹き込まれた。そんな風に表現したら良いのだろうか。今までよりもずっと強く、私の中に刻まれた。
「私ね、革命家になるの。」
弟の直治にそう言ったかず子は、有言実行した。この台詞を読んだ時点では、彼女が本当に革命家になってしまうだなんて思いもしなかった。
最後まで彼女に感情移入こそしなかったけれど、始めはまだまだ「お綺麗なお貴族様」といった印象で、ずっと遠いところにいたような気がしていたかず子が、物語が進むにつれて少しずつ、自分のいる場所に近付いてきているような気持ちだった。もっとも、革命家となった彼女は最終的に、始めとはまた違った意味で遠い人になってしまったのだけれど。
「幸福感というものは、悲哀の川の底に沈んで、幽かに光っている砂金のようなものではなかろうか。悲しみの限りを通り過ぎて、不思議な薄明りの気持、あれが幸福感というものならば、陛下も、お母さまも、それから私も、たしかにいま、幸福なのである。」
この一節がたまらなく好きだな、と思った。幸福感の捉え方も表現する言葉も、その言い回しも。明確な言葉は見付からないけれど、なんだかとても気に入ってしまった。
かず子のことばかり書いたけれど、直治の遺書の締め括り。
「姉さん。僕は、貴族です。」
この最後に、胸を締め付けられる思いがした。なんだか嫌な奴だな、そんな風に思っていた彼が抱え続けた苦悩を思うと、切なくて悲しくて言葉に詰まってしまう。
庶民にもなれず、さりとて貴族にも戻れなくて。生きる場所と手段を探し続けた苦しみが書き連ねられた遺書は読んでいて私まで苦しくなった。
最初から最後まで、希望に満ち溢れたキラキラと輝く明日なんて見えなくて、タイトルの通り、陽射しの傾く、夕暮れの小説。悲しくて綺麗で優しい物語。力強く前を向かせてくれる小説ではないけれど、それでも最後は顔を上げて、もがきながらでも、前に進んでみようかな。そんな風に思わせてくれた。
やっぱり私は太宰治が、太宰の書く小説がたまらなく好きだ。
余談ですが、この角川文庫版を手に取ったのなら、是非最後には角田光代さんの作品解説まで読んでほしいなぁと思います。私はこの解説がとても好き。 -
暗い中の明るさや、弱い中の小さな強さみたいなのが感じれた気がしました。すごく面白かったです。
(趣味で楽しんで読んでるくらいなので、わかってないと思われるかもですが...)
自分の読んだ本がなくて、この表紙のものを選んだのですが、表紙のイケメソはどちら様なのでしょうか...? -
「私=かず子」の目線で語られる。
冒頭のスウプを召し上がるお母様のシーンは、上品で美しく、印象深い。
このシーンが象徴的に初めに語られるからこそ、ここからの転落が悲しい。
気高い貴族であるお母様との暮らしは、次第に落ちぶれてゆく。
お母様は結核でこの世を去る。
帰国した弟は酒と薬に溺れ、かず子自身もダメ男に惹かれてゆく。
美しく気高かったものが、汚れ落ちぶれてゆく様。
けれどもそれはある意味、表面ばかりきらびやかに飾った薄っぺらな生活から、人間臭く逞しく生きる事への変貌だ。
終盤の直治の遺書が痛い。
貴族という亡霊に追われ、こうする他なかったのだろうか。
ラストのかず子の手紙文中、上原にするお願いがある。
その事柄は、女の意地と図太さと、そうしなければ先に歩いてゆけないか弱さが複雑に絡み合ったものだ。
尊敬と恋慕からマイ・チェーホフだったはずのM.Cも、マイ、コメディアンと記される。
それでも読者である私の脳裏には、眩しすぎるほどの西陽にふらつきながらも、泥にまみれても力強く前を見据えて立ち上がるかず子が浮かんだ。
気になったので昭和22年2月7日を検索すると、
「華族世襲財産法を廃止する法律案」が、帝国議会に提出された日とあった。
これ、当然太宰は知っていての事…なんだよねぇ?
現実の法案提出と、かず子の手紙がシンクロする。
「斜陽」は滅びの美しさと表現されるけれど、当時の現実の社会で、実際に似たような事例があったりしたのだろうな。
敗戦後の復興の影で、時代に気圧され没落していった貴族・華族。
愚かな戦争行為の副産物は、長く長く様々な形で生まれてゆく。
現実の滅びとは、そんなに美しいものではない。
太宰というと「人間失格」「走れメロス」などが挙げられがちだが、
私が好きなのは、「斜陽」と「津軽」だ。
斜陽とは西に傾いた太陽の事だけれど、
新しい波に圧倒的に押されて、次第に没落してゆく様との意味もある。
当時本作が話題を呼んで、時代の流れにより落ちぶれていった元上流階級の華族などを斜陽族と呼んだりしたらしい。
蛇足だが、「斜陽」を読み終えてから何年も後に、ユトリロ展を訪れた際は、
あぁ斜陽にも出てきたなーなんてぼんやりと思ったものだった。
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文章がとてもきれいで、読みやすいだけでなく、しっかりと書き込まれてさすがにすごいと思った。軽い文章と重い文章の落差がはっきりしているもよいのかも。
印象に残ったのはかず子の「戦闘、開始」の部分と、直治の遺書。
細部を忘れていたり、消化しきれていない部分もあったりするので、再読したい。
あと、この変な漫画絵表紙ではなく、安西水丸の表紙で読みました。 -
☀️あらすじ☀️
「人間は恋と革命のために生れて来た」。古い道徳とどこまでも争い、“太陽のように生きる”べく、道ならぬ恋に突き進んでいく29歳のかず子。最後の貴婦人の誇りを胸に、結核で死んでいく母。自分の体に流れる貴族の血に抗いながらも麻薬に溺れ、破滅していく弟・直治。無頼な生活を送る小説家・上原。戦後の動乱の時代を生きる四人四様の、滅びの美しさを描き、戦後、ベストセラーになった、太宰の代表作。─本性あらすじより
☀️感想☀️
初めて読んだ『斜陽』。
正直よくわからなかった。
特に、ラスト、なぜ自分の子ども(上原との)を「これは、直治が、或る女の人に生ませた子ですの」と上原の奥さんに抱かせるのか。
シンプルに考えれば、嫉妬や嫌がらせなのかな?と思うものの、本当のところはわからず…(まとめサイトにも、載ってない)
あと、かず子のお母さんの死が辛かった。自分も母親のことが好きだから、余計に感情移入してしまった。
こんな感じて内容の感想はぼんやりしているものの、文章の書き方が現代的というか、今の作家さんとしてもおかしくないところに驚いた。ひとつひとつの表現、漢字やひらがな、間合い、ちゃんと計算されている。
最後に、「人間は恋と革命のために生まれて来た」って、しびれるぅ~!! -
何度目かの再読。「人間は恋と革命のために生まれて来た」。世間知らずで無邪気であったかず子が初めて恋というものを知った時、愛していた母が衰弱してゆくのに従って女性の強かさに目覚めてゆく。恋とは他者を通しての世界への覚醒であり、生きていく上での戦いの始まりなのかもしれない。恋すること、愛することは命懸けだから。かず子の弟・直治がボロボロになって遂には自ら死を選ぶ様は読んでいてとても痛ましい。母と直治は美しい水の中でしか生きられない綺麗な魚だったのだ。ただかず子だけが上原という劇薬を飲んで濁流の中を泳ぐ魚になった。彼女はやがて大海原へ辿り着くだろう。そこにあるのは戦いの凱歌か、或いは戦闘の虚しさなのか。せめてかず子とその子だけは幸せになって欲しいと願わずにはいられない。
著者プロフィール
太宰治の作品





