女生徒 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
4.12
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本棚登録 : 3645
感想 : 219
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041099155

作品紹介・あらすじ

「幸福は一夜おくれて来る。幸福は、-」。女性読者から送られてきた日記をもとに、ある女の子の、多感で透明な心情を綴った表題作。名声を得ることで破局を迎えた画家夫婦の内面を、妻の告白を通して語る「きりぎりす」、情死した夫を引き取りに行く妻を描いた「おさん」など、太宰がもっとも得意とする女性の告白体小説の手法で書かれた秀作計14篇を収録。作家の折々の心情が色濃く投影された、女の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 夏が近づいてくるとむしょうに太宰が読みたくなる。

    「女生徒」は太宰の小説のなかでいちばん好きかもしれない。
    一字一句の配置が完璧だと思う。どうして太宰は感受性豊かな女生徒の心情を、こんなにも正確に瑞々しく書き出せるの?
    現実も時代をかるがると飛び越え、読んでいるうちに私は女生徒の一日をそっくりそのまま生きている。そうして冷たい蒲団にたおれこみ、幸福は一夜おくれて来る、と思いながら眠りにつく。

    ほかにも「皮膚と心」では、思いがけず肌荒れしてしまった女性の絶望が痛いほどよく分かる。肌荒れは女性にとって大敵だもんね。
    ーー
    結婚のまえの夜、または、なつかしくてならぬ人と五年ぶりに逢う直前などに、思わぬ醜怪の吹出物に見舞われたら、私ならば死ぬる。家出して、堕落してやる。自殺する。女は、一瞬間一瞬間の、せめて美しさのよろこびだけで生きているのだもの。

    「あのね、明日は、どうなったっていい、と思い込んだとき女の、一ばん女らしさが出ていると、そう思わない?」
    ーー

    あるいは「待つ」というたった4ページの掌編にも。
    誰ともわからぬ人を毎日駅までお迎えに行く女性。誰をか、あるいは何をかさえ分からない。旦那さま、恋人、お友達、お金、亡霊、春のようなもの、青葉、五月、麦畑を流れる清水、でもすべてちがう。
    二十歳の彼女が、いつのときか待ち続けているものに出会えたらいいな、と思う。

    収録されている14篇は、最初から最後までどれも女性一人称の告白体小説。この取り合わせ素晴らしいなぁ。
    私にとってお守りのような一冊。

  • いつも同じような日常というものを表現されているようで、私は少し恐ろしく感じました。
    主人公の思考や行動はなかなかに軽妙で面白いですが、犬のカアに対する対応や電車で乗り合わせた隣のおばさんに対する気持ちなどは、なんとなく気に食わない考えで不愉快になりました。
    近々、演劇として観賞する機会があるのでどのような解釈ができるのか楽しみです。

  • 心の深いところで、共感する。なんで知ってるの?って思うくらい。

  • 太宰で一番好きな作品かもしれない。少女の淡々とした日常が独り言のように綴られているだけなのに形容し難い美しさはどこからくるのだろう。太宰自身、「少女」であったことなどないはずなのにこれを美しいと思うのは自分が男だからだろうか。青い空を見上げた際の描写が好きで、初めて『ライ麦畑でつかまえて』を読んだときを思い出すくらいの感動を憶えた。美しく生きたいと思います。

  • 初めて太宰治の作品をきちんと読んだ。もともと文豪と呼ばれる作家が苦手だと思っていたので、避けていたがこの女生徒が入っている短編集はとても面白かった。すべて女性一人称で書かれていて、これが男性が書けるのかと驚く。時代は古い感じはするが、女心は今も昔も一緒。
    皮膚と心、きりぎりす、葉桜と魔笛はきれいな感じで家族を思う女心。
    恥、饗応夫人は女の悲しい性とか読んでいて恥ずかしくなるほどの女の気持ち。
    読まず嫌いせず、読んでみる事をおすすめしたい。

  • 私はまだ若いから、16歳だから太宰治にこんなにも入れ込めるのだろうか。1行、1文字ずつ大事に読んだ。好きなところは繰り返し繰り返し読んだ。大人になった時にこれを読んでくだらないと思うのか、それともやっぱり好きだなあと思うのか楽しみ。絶望と後悔の中の一条の光を私も見つけたい。この人のように。

  • かなり訳のわからない内容だが、多分その訳のわからなさが新鮮だったのだろう。今も昔も少女というのはそう変わらない生き物だと思った。

  • 「女生徒」「貨幣」「饗応夫人」
    それにしても太宰は奇人・変人である。一緒に居たくない人である

  • 大分昔に読んだけど、女の子の気持ち、微妙に揺れ動く感情を見事にみせてくれました。でも後にそれは太宰の恋人か誰かの日記だたのかと知った時はヤッパリかと少し残念でした。でも彼なりにいじり完成させた文学的価値はさすがでした。

  • 女性視点の私小説風の短編でまとめられた一冊。
    表題作が描くのは、天使と娼婦に同時に憧れ、自らを愛しながら疎む、ザ・思春期…こういう言い方をすると安っぽくなってしまって申し訳ないのだけれど、それが安くなく非常に上手いのがさすが。
    他の作品もガラス窓をそっと爪で引っ掻くような、小さいけれど忘れられない音がした。
    特に、「おさん」がお気に入り。

    「男のひとは、妻をいつも思っていることが道徳的だと感ちがいしているのではないでしょうか。他にすきなひとが出来ても、おのれの妻を忘れないというのは、いい事だ、良心的だ、男はつねにそのようでなければならない、とでも思い込んでいるのではないでしょうか。(中略)ひとを愛するなら、妻を全く忘れて、あっさり無心に愛してやって下さい。」

    ため息が出るほど文章自体も中身も見事な一作だった。

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著者プロフィール

明治42年(1909年)青森県生まれ。小説家。1935年、「逆行」が第1回芥川賞の次席となり、翌年、第一創作集『晩年』を刊行。『斜陽』などで流行作家となるが、『人間失格』を残し玉川上水で入水自殺した。「乙女の本棚」シリーズでは本作のほかに、『魚服記』、『葉桜と魔笛』、『女生徒』がある。

「2023年 『待つ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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