晩年 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2009年5月23日発売)
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本 ・本 (386ページ) / ISBN・EAN: 9784041099162

作品紹介・あらすじ

自殺を前提に遺書のつもりで名付けた、第一創作集。”撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり”というヴェルレエヌのエピグラフで始まる「葉」、少年時代を感受性豊かに描いた「思い出」など15篇。

感想・レビュー・書評

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  • 先日から少しずつ摘み読みしている諏訪哲史『偏愛蔵書室』で取り上げられていたのをきっかけにして、太宰治の1st作品集の一編目「葉」を読んだ。
    詩や短歌のようにも作家の吐露、閃き、思索とも思わせる、数語から数行の短い文章、仕上がっている気もする短編やその断片、パンチライン・コレクション。「ほんとうに、言葉は短いほどよい。それだけで、信じさせることができる」ような気がしてくる、諏訪さんがいうところの前後を必要としない「ひとつの極まった文章」を敢えて連ならせ取り込んだ、散文。多分、小説。そのスタイルにも痺れて、また幾つかの心に残る素晴らしい文章にも出会えたけれど、やはり『偏愛蔵書室』でも引かれていた冒頭の一文がとても印象的で特別だった。

    「死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。」

    この一文が冒頭に置かれること、それを書いてしまえること、そのインパクトや、着物一反で延命される生の軽さ、あるいは死の無価値さ、そんな『偏愛蔵書室』で評されていたようなことにも改めて納得したけれど、それと同時にまた別の個人的な納得、共感があったのだった。
    「死のうと思」うまでの能動性は伴わないまでも、今死んでしまうならそれでも良い、もう生きていなくても良いか、と思ってしまう、生と死が限りなく軽くなるような一瞬や時期というのが人生にはある。わたしにはあった。今後もあるかもしれない。そんなとき何気なく誘ってくれる友人との約束や思いがけず頂く製作の締め切り、少しだけ特別な予定が出来ると、わたしも、ああ、「それまでは生きていようと思った」ということが何度もあった。それがなかったら死んでいた、とは後からは想像出来ないけれど、それがあったから今生きているとは思えるかもしれない、今から振り返れば生死に重みを与えてくれたような出来事。それはもし小説を書くなら、その冒頭に書きたいとも思うのかもしれない。そう考えてしまえば、あの一文は生と死の軽さと同時に、そんな出来事、他人との繋がり、そこにある行為/好意の大切な重さも書いているかも知れない、と「勝手な推察」もしてみたくなる。
    前向きに解釈し過ぎ?いや、でも、この小説の最後の一片の詩のような数行、その最後の一行、数文字にもこの作家に持っていたイメージとは裏腹の前向きさと大切にしたい重さがあった。それも作家のその後、最後を思うと「僕の言うことをひとことも信ずるな。」ということなのかもしれないけれど、この小説の最初と最後の数行の「ひとつの極まった文章」にわたしが感じた前向きさは、それだけは、信じることができるものなのだった。この文庫本を読み終わるまでは、いや、そのあとも生きていよう。生きていれる。そんな風にも少し大袈裟に、思いたくもなった。多分、「どうにか、なる」はずだから。今、また少し、言語芸術に救われた気がした。

    『偏愛蔵書室』でセンテンスが引かれていたもうひとつの短編「道化の華」も読んだ。こちらはまた別のスタイルで書かれていて、そのスタイルにも文章にも、物語には少し引っかかることがあるけれど、感動した。その一編については別に考えたり書いたりしたい。

  • 短編集。
    「葉」「思い出」「道化の華」のみ読了。
    やはり私には太宰治は難しい。気持ち的にも合わないなぁ。まどろっこしいんだよな。。

  • 短編集。旅行用に持っていったけど全然読まなかった。
    彼は昔の彼ならず とロマネスク はけっこう好きかも。

  • 高校生の頃耽溺した太宰。最近、ビブリア古書堂の事件手帖で取り上げられていたので、また読む気になった。いゃ〜若い頃とは全く感じ方が違うのでびっくり。今となっては太宰の自意識の高さがむず痒い。



  • 新年一発目は太宰治。

    終始切なかった。
    面白い!という訳ではないのに
    不思議と惹きつけられた。
    現代まで引き継がれる理由は
    なんだろな〜。謎だ。

    この作品のメタファーが
    あるとすれば、未熟な私には
    よくわからなかったです。

  • 道化の華が人気あるんだろうなーとか思いつつ列車、玩具が好き。10年後また読み返したい。

  • 「道化の華」が私は一番好きですかね。
    下手に何も言わない方が良さそう、
    誰でも一読はするべきなのではないでしょうかという印象の一冊。
    好きとか嫌いとかじゃなくって(私はこの一冊をそこまで好きと思わない)読まざるを得なくなってしまう感覚でしょうか。
    読者がそれぞれの物語の渦中に引き込まれてしまうような、そんなでした。

  • 今さら説明しなくても誰もが知っている太宰治の第一創作集。「葉」、「思い出」、「魚服記」、「列車」、「地球図」、「猿ヶ島」、「雀こ」、「道化の華」、「猿面冠者」、「逆行」、「彼は昔の彼ならず」、「ロマネスク」、「玩具」、「陰火」、「めくら草紙」の短編15編から成っており、大半は太宰が23〜24歳の頃に書かれた作品です。

    多彩な実験的手法のオンパレードで、デビュー作にして、その後の太宰作品のエッセンシャルがつまりまくっています。

  • 初期の太宰治作品で、その多くが太宰自身の実体験に基づいて書かれた小説。作中に、小説を書いた際の心情や苦悩などが詰まっており、太宰がどんな思いで綴ったのかを文章から想像できる。

  • 【葉】
    読了してから知ったのだが、これにはストーリーが無い
    らしい。道理でなんにも分からなかった。ただ、
    心が惹かれる言葉は沢山あった。断章がいくつもある。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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