蜘蛛ですが、なにか? (10) (角川コミックス・エース)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 151
感想 : 4
  • Amazon.co.jp ・マンガ (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041099230

作品紹介・あらすじ

マザーの罠に嵌り、窮地に追い込まれた蜘蛛子。身体を失い絶体絶命のその時、ついに並列意思達が帰ってきた! 並列意思達と融合し、本気モードの蜘蛛子は念願(?)のマザー越えを成せるのか!?

感想・レビュー・書評

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  • 人間がこんなに出てくると違和感が…(苦笑

    どんなに強くなっても魔王が存在する以上、どこかで抑え込まれる構造があるなー。

  •  マザー撃破後、グッと人との関わりが多くなった。
    最初サクサク人殺してたからどうなるのかなと思ってたけど気まぐれに助けたりしてる。あまり良い印象ではないな。
    (210618)

  • マザーを倒す。

  • 女王を斃して王が残った盤面の遊戯、大詰めではなくひっくり返る。

    連続二クールから成るテレビアニメ版『蜘蛛ですが、なにか?』。
    一クール目は地龍アラバ撃破からのエルロー大迷宮脱出という一クール目の仕上げにふさわしいエピソードをもって締めくくりとしました。

    二クール目は迷宮内外を往復しつつ、やがて完全に飛び出しての外界での奮闘を主舞台としていくわけです。
    もうひとつの視点「S編」とのリンクがいよいよ効果を発揮していくパートという意味でも見逃せないでしょう。

    その一方で、こちら漫画版ではあえてもうひとつの視点の大半を省略し、ダイナミックで機知あふれる戦闘に尺を割きました。
    主人公の心理の動きおよび、戦闘をはじめとした各種行動によって獲得した「スキル」に伏線を絞ったのです。

    結果、原作書籍版と比べて主人公が持つ魅力的な属性はいっそう増幅されました。
    これらコミカルな動きやマスコットなキャッチーさは、後続の媒体であるアニメにも大いに受け継がれたといえるでしょう。

    また、視点を絞ったことによって生まれる展開のスピーディーさは見逃せませんね。
    要所で挿入されるスキルの羅列も漫画ならではの演出として目を見張るポイントかもしれません。

    文字情報の塊が迫力を生んだり、伏線のひとつとみなしてじっくり読み返したり――、この辺りは自分のペースで読み進めることが出来る漫画というメディアの特権でしょう。
    反面、媒体毎の比較がしやすくなったことで美点はもちろん欠点も見えてきました。追々説明しましょう。

    そのようにして、前提をいくつか置かせていただきました。
    コミカライズ『蜘蛛ですが、なにか?』、いよいよ二桁の大台に乗った十巻目のレビューと参りましょう。
    今回はしつこいくらいに分析と私見を交え、完全ネタバレの姿勢で行きますがご容赦およびご注意ください。

    さて、この巻ですが九巻の引きにもあった通り、地龍アラバに続く強敵「マザー(クイーンタラテクト)」との決着巻になっています。
    壁を越える度に「ステータス」や「スキル」という数値化された強さと、それとは別に可視化されない心の強さを身に着けてきた主人公にとって飛躍する地点、第一巻から引っ張り続けた巨大な壁が崩壊する時です。

    なお、本作に何度か見られる「親殺し」の見立ての最初の例と言ってしまえば感慨深いかもしれません。
    もっとも裏事情を言ってしまえば、このマザー戦、漫画版における直接の原作となる書籍版では、直接対決に持ち込むまでに決着はついています。とはいえ親の骸を平らげるだけの消化試合では終わりはしないのですが。

    調子に乗ったためにマザーが最後に託した勝ち筋に見事引っ掛かり、主人公に残る最後の慢心を打ち砕く。けれど先に言った通りに主人公は気づかないうちに勝利条件を満たしていました。
    結果、この上ない教訓を得た後に感慨深くもあっさりと片を付けるわけです。

    ひるがえって漫画版では今までの戦闘スタイルの振り返りも兼ねて約一話ほどオリジナル戦闘が描かれています。
    ここまで主人公の搦手に抗い続けた現世での母に対するせめてもの、作者からの手向けでしょうか?
    いずれにせよ、主人公が追われる恐怖としてはマザーの上にいる蜘蛛の始祖「魔王」が控えている以上、この巻を見渡してみれば並立して襲い掛かる課題のひとつを片づけたといった風ですね。

    とはいったものの。心情的な区切りとしてはまたしても節目といった風情はあります。
    ただし、このマザーとの戦いが作品全体を見渡してみれば強敵との間で繰り広げられる手に汗握るバトルとしては、ほぼ、ここが打ち止め。その点こそを特筆すべきでしょう。

    ないことはないのですが、こうも連続した状況下からはご無沙汰になる、そうご理解ください。
    ここからは本格的に迷宮外の探索に繰り出せることになった主人公が人間社会とコンタクトを取ることで生まれる軋轢。あまりに強大な力を持った主人公が世界に及ぼしていく波紋がストーリーの主題となっていきます。

    そんなわけで。
    このレビュー冒頭でアニメの性質について触れたことが効いてきます。
    それと十巻を楽しむうえでのポイントとしては、ほぼ主人公一本に視点を絞った漫画版と多視点から成る他媒体との間で生まれるメディア間の情報格差が取り上げられます。

    時に、ここで表紙をご覧ください。
    元々原作書籍からしてネタにされていたのですが、この作品全体の尖り具合を説明する上で表紙絵が「人間不在」、モンスターだけという攻めた構図が注目されたのです。

    小説で言うなら作品の導入部である迷宮脱出までの三巻、漫画を取っても主人公の前世のイメージ映像(と思しき)顔を隠した美少女を除き、ほぼ魔物でした。
    よって原作書籍四巻、そして漫画十巻、共に人間が配置されることによってこの法則は打破されたといえます。

    そこに共通するのはひとりの人物だったりします。
    つまりは、原作書籍四巻のラストを飾る、転生者「ソフィア・ケレン(根岸彰子)」との邂逅に他なりません。彼女はレギュラーとして本編における今後の展開を担います。

    で、ソフィアと主人公との出会い、作品の大仕掛けのひとつである、ふたつの視点の「時系列のズレ」を一目で理解させる手法として申し分なかったのですよ。
    漫画版では「S編」をほぼ切り捨てたがためにあまり効果は発揮しなかったものの、それでも書籍と漫画の表紙を見比べてみれば瞭然です。一方は少女、一方は赤ん坊ですから。

    とは言え先について触れすぎるのもなんですから、今について目を向けておきますか。
    ほとんど前世では馴染みはなかったものの同郷人と出会ったことと、無力な赤子に対しなぜか迫る陰謀を放っておけない主人公が人間社会と関わらざるを得ない理由となるのですね。
    なお、前振りは迷宮時代に主人公の二面性に触れるついでに既に済ませていたりします。

    迷宮で危機に陥っていた冒険者たちのことを見て見ぬ振りが出来ないから助けたお人好しな主人公、同時に自らに刃を向けた敵対者に容赦しない無慈悲な主人公。
    前者に関しては漫画の六巻、後者に関しては同じく七巻で触れられているのです。

    よって、主人公が赴いた地方の領主の娘として生を受けたソフィアに対し、なぜか陰謀を巡らせるエルフによって大量に差し向けられた盗賊をちょちょいと退治しつつ……。
    そこに丁度よく蜘蛛を神獣として崇める現地宗教と、困った人を放っておけなかった主人公の慈悲深い行動が噛み合った結果……目立ちます。

    目立った結果、なぜか主人公の存在自体が異世界の国同士の紛争の種になってしまうのですが、その辺に触れる前にそこに至った原因をひとつ紐解いてから説明していくことにします。

    まずは盗賊退治。
    この辺の盗賊退治は主人公が新たに獲得した戦闘手段「遠隔視と邪眼の組み合わせ」のお披露目と実証実験を兼ね、動かずに掃討していきます。作画の配慮か、グロさは混じらずヤバさが大いに伝わる体ですね。
    それと、この巻における後のパートにも言えることですが、今までの縦横無尽の立ち回りでなく、座したままのリアクションと主人公の考察だけで間を持たせることが出来る辺りにこの漫画の底力を感じました。

    あと、本格的に外界に主人公が進出したことによって、見えてくる周囲の風景や地形地物の雄大さ、巨大な城塞都市の精緻な描き込み等はこの世界の存在感と、改めて迷宮から解放された主人公の自由闊達さを伸び伸びと表してくれているように感じました。

    今後の展開を踏まえればこれらは必須だな、などと頭の中で考える私自身、小賢しい計算を抜きにしてもとても嬉しくなったことを報告しておきます。
    ソフィアを救うパートをはじめ近距離から人間とコンタクトを取るシーンが多く、主人公の相対的な大きさが改めて感覚的にわかる絵面も見逃せないかと。主人公が大きく見えるか小さく見えるかはきっと人それぞれ。

    さて。
    話を戻して盗賊たち。いなくなっても誰も困らないと直感的に理解できる記号的な悪人として描かれているので、パロディと女子高生気分を交えた軽い気分で片づけていっても問題ではないと理解できるものの……。

    先述した七巻で主人公が見せたような無慈悲で能天気な姿に、今回は読者ではなく主人公自身がドン引きします。
    なぜかといえば、主人公が抱える精神の同居人「並列意思」たちが本体から自立して思考し始めるためです。
    自分の一番近いところにいる味方どころか、自分自身の考えがわからなくなっているって怖くない? という危惧はきっと当然のものだと思います。

    事実、ここからは情報が増える分主人公のわからないことはどんどん山積みになっていきます。
    ここで補足しておくと、ここ漫画十巻は原作書籍五巻の内容に相当するわけですが、早くもその2/3のページにまで進んだと言えばわかりやすいでしょうか? 

    これは時間がないので展開を巻きで進めているのではなく、実は主人公以外の視点が多いのに彼女だけの視点で話を進めているがため、だったりします。

    逆算して結論を述べましょうか。
    主人公は自身も困惑するしかない不可解な状況に出くわした結果、戦争が起こります。
    順を追って説明すると、まず主人公は盗賊退治の名声に惹かれてやってきた現地宗教の信者に崇められる(六巻で主人公が行った善行が布石として効いています。漫画ならではの読み返せばわかる演出もあり)ことに。

    ついでに、死病に苦しむ貧民をちょちょいのちょいで救ったりの、本人には何の気なしな善行を働いたら、国が抱えるにふさわしい権益の種と見なされる。
    まぁ、ここまでは主人公も遠隔視および並列して進めていた現地語の部分的な習得によって理解します。

    で、主人公は現地の混乱を申し訳なく思いつつも美味しい果物の捧げ物という実益もあるので善行を続行します。「支配者スキル 救恤」の取得など強烈なリターンもあり。止めるという選択はなかったもので。

    すると、なぜか国(滞在国ではなく敵対国)が「人語は解しているだろうけど」「害意を向けたら容赦なく逆襲に出る魔物」相手に「見返りのない従属が目的ですって言っちゃう」「傲慢で頭の悪い使者」を送ってよこすという暴挙を働きます。傍から見ると狂気の沙汰にしか見えませんが、やっちゃうんですよ。

    この使者、妙に味はありますが迷惑そうなおっさんって主人公の感想そのままのデザインなので妙に印象に残りますが、所詮は捨てキャラ、主人公に敵対を向けて一話跨いでお亡くなりになります。
    ええ、彼、本国からは死んで開戦の口実づくりになってもらうための人身御供だったようです。

    なお、これら一連の流れについて、主人公は手持ちの材料はあるにせよ乏しい中で言い当ててみせたのですが、開戦の口実づくりに主人公が利用された――という事実に変わりはありません。
    すなわち一連の事態の主役でないことは確かです。結果現れた戦場を力で蹂躙することができたとしても、ここに至った以上は自分が主導していない思惑に流されていることに頭のいい主人公は気づいていることでしょう。

    生まれるのは困惑と不安。
    喩えるなら、自身は盤上で繰り広げられるゲームの強大極まる駒。
    囲まれているといっても、周りにいるのは弱い駒、だけど駒を動かしているプレイヤーは見当たらず、盤上を見渡すには足りていない現状に歯噛みする――といったところでしょうか。

    実際のところ、この事態をお膳立てしたプレイヤーたちの視点は書籍版では出ています。
    彼ら視点からすれば、主人公のイレギュラーな行動の数々に十分振り回されてはいるのですが、やはりその辺が見えないこの漫画のみを取ればすべて見通せない不気味さの方が募る印象です。

    あえて主人公以外をオミットしたことによる「限界」、両方を知る私視点からはどうも見えてきた気がします。
    もちろん、それがいいか悪いまでを断じるのは時期尚早、下手すれば完結まで分からないかもしれません。

    とは言えコミカライズ担当の「かかし朝浩」先生はそれらを理解した上で現状の構成を継続するようです。

    すなわち、先生が提言されるのはメディア間の相互補完ですね。
    『蜘蛛ですが、なにか?』というコンテンツ群を楽しむうえでなにか一つのメディアだけでは情報が制限されていて「わからない」のなら、互いを参照して読者、視聴者各々の像や真相を探っていけばいい。

    漫画のレビューで取り上げるには甚だ不適当かもしれませんが申し上げておくと漫画以外の媒体(原作書籍、原作WEB、アニメ)を選り好みするのはもったいない、そういうことです。
    この漫画が一級のコミカライズであることは断言しますが、決して完全無欠ではない。どうしてもすべてを描き切れないならなにかは切り捨てるしかないことを確認できた意味で、この巻はかなり重要だと思います。

    一方で描写を絞ることで掘り下げられる良さもあります。たとえばこの巻で取り上げたエピソードを取ると、実は単純にのほほんと楽しんでいられるだけの場面ではなかった。
    悪気はなくても、力を持っていれば知らないうちに渦中に巻き込まれることもあるという普遍の真理を叩き込まれた、そういう解釈ができるともいえます。深読みかもしれませんが、原作理解も深まった気がします。

    というわけで少々余計な意見を挟んだかもしれませんが、内容についてのレビューはそろそろこの辺で〆るとしましょう。この巻のラスト、さっそく主人公視点だけでは絶対にわからない経緯の追加です。

    とりあえず受けた恩は返そうと戦場に少しばかり助太刀をした直後、マークしていたはずの「魔王」が使えないはずの空間転移を使って主人公の眼前に現れる――、完全な不意打ち。

    ここまで学習してきた異世界語のお陰で言っていることはわかるのですが、対話の余地なく蹂躙が待っていそうな大ピンチです。なお、この経緯についての情報自体は後でもたらされるものの、真に何が起こったを知るには魔王視点が欠かせないでしょうね。

    カットしても話の上での意味は通りますが、できれば見ておきたい一幕を切るか切らないか? こういった無数の葛藤の先にコミカライズは生まれているのだなと今更ながらしみじみと思ったりもします。
    どちらにせよ、十巻発刊に伴い連載ストックはすべて吐き出されているので先は全く読めないのですが。

    では最後に本書描き下ろしについて軽く触れるとともに一言申し上げて〆といたしますね。
    三巻から開始され、四巻、六巻、八巻と続いた描き下ろしミニ漫画『もうひとりの転生者』シリーズは4P収録、今回はシリーズの主役である「フェイ(漆原美麗)」が「カティア(大島叶多)」の愚痴を聞く話です。

    さりげないというにはあまりにあからさますぎるカティアの心の揺れと、それでも幼少期ならこういう無神経なことも言えたんだな……というまだ前世を引きずっている会話が少々毒はあるものの貴重な資料でした。
    それと、短いながらもこのコーナー、明確に本編とのリンクを意識しているのでそちらの視点でも見逃せません。

    あとは、各種メディア間でのキャラクターデザインの差異もアニメが進んだ現状、比較の材料が増えてきて面白くなってきた頃合いかもしれません。

    原作書籍でメインキャラクターがデザインした「輝竜司」先生の画を「かかし朝浩」先生がどうご自身の絵柄に落とし込むか、その逆も然りで。輝竜先生の応援イラストはその辺をしっかり物語ってくださっていますよ。
    レギュラーの「ソフィア」のデザインは輝竜先生先行で、その母「ケレン」は娘から逆算してかかし先生がデザインし、ひるがえって輝竜先生がご自身の絵柄で絵を寄せられる、なかなかに趣深いリレーかもしれません。

    なお、原作者「馬場翁」は毎回休まず2~3Pの掌編を描き下ろしてくださっており、この巻でも例外ではありませんでした。ちなみに、テーマはその時それぞれ。
    魔物の生態系や異世界の月についてなどの必須でなくとも知っていて損のないものだったり、一大転機の前の主人公のちょっとした心情を補完したりと、重要性の方も場合によりけり。

    ちなみに今回は異世界の文明レベルが意外と高いというもので、さり気に伏線を兼ねたモノでした。

    以上、大変長々と語りましたが、これは二桁という節目を迎えたこと。
    ならびに主人公の行動範囲や影響力が目に見えて広がったことで、主人公だけではこの作品のすべてが説明しづらくなったということの証明ということでご理解いただけましたら幸いです。

    また、次の巻からいよいよこの漫画が盤面はもちろん、紙面でも一大転機を迎えることを予測しておきます。
    具体的にはこの巻のレビューでも申し上げた以上の変化をもって、表紙の装いを一気に変えてくるでしょう。
    多少前後するかもしれませんが、その日は遠くない、ならばきっと次の巻です。

    本編中で度々予告はされています。薄々察している人は多いとは存じます。
    とはいえ、ここからは相当勇気がいると思います。バトル比重の高い展開からの脱却や、主人公のマスコットとしての魅力を捨てなければいけない、漫画版の魅力を支えた要素のいくつかを外さなければいけないのですから。

    とは言え、そんな変化も主人公にとってはお手の物。部外者が怖がることではないですね。
    ゆえに、彼女が天衣無縫に進化を楽しむ姿をかかし先生が見事に描き出す日は近いのでしょう。
    だからこそ私個人は十一巻を楽しみに待つことにします。同時に。傲慢にも、より多くの人々が彼女の晴れ姿を前にして微笑んでくれるだろうと夢見る私もいます。私はきっと彼女のファンなのでしょうね。

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