眺望絶佳

  • 角川書店
3.06
  • (6)
  • (29)
  • (72)
  • (25)
  • (4)
本棚登録 : 288
感想 : 76
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041100967

作品紹介・あらすじ

自分らしさにもがく人々の、ちょっとだけ奇矯な日々。客に共感メールを送る女性社員、倉庫で自分だけの本を作る男、夫になってほしいと依頼してきた老女。中島ワールドの真骨頂!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • スカイツリーと東京タワーの往復書簡と、スカイツリーや東京タワーが見た物語。どことなくせつない話が多かった。

  • スカイツリーと東京タワー、新旧タワーの眼下で繰り広げられている、人々の様々なドラマ。タワーが登場するのは最初と最後だけなのだが、その間で描かれる8つの短編は過去(昭和)と現在(平成)が交錯し、両タワーのシルエットがほのかに浮かび上がってくるかのようだ。
    描かれているのは些末な出来事の連続であり、日々に埋もれがちなエピソードばかりだが、現実と非現実の境目が曖昧になるような浮遊感が、不思議と心地よく感じられた。ちょっと日常からはみ出した登場人物らの奇矯な振る舞いは、時に不気味で、でもどこか憎めなくて、ユーモラスで。つくづく、中島さんって「余韻」の天才だなぁ。
    どの短編も好きなんだけど、やっぱり、エンディングを飾る東京タワーの「眺望よし。」【復信】が印象的。毅然と立つ東京タワーの貫録よ!一時代を築いた建築物の矜持にしびれました。
    東京に暮らす人々の軌跡には、東京タワーとスカイツリーが存在しているんだなと何だか羨ましくなった。

  • 若いスカイツリーから、年を経て落ち着きを見せる東京タワーへのつぶやき。そして、その返事。
    二つの優しい往復書簡に挟まれて語られる、下界の人間たちの営みもまた、優しく切ない・・・。
    人って時代の流れの中でそれぞれ自分の人生を送っているんだよね。高い所から自分たちを俯瞰して見ている者がある、なんて考えてもみなくて、ただ目の前のことにあくせくしてるだけなんだけど、それはそれで幸せかも、と思えるようなお話が数編。
    うん、素敵な一冊でした。

    私が一番好きだったのは「おさななじみ」。
    ちょっとエキセントリックな匂いを漂わせるバーのママがお店を閉める、という独白(お客さん相手にしゃべっているらしいんだけど、読者が読めるのはママの話だけ)。
    なんと、彼女は結婚するらしくて、ここでママは48才であることが明かされる。
    結婚相手はおさななじみ、ということなんだけど、ママの舞いあがり方に、ホントにそうなの?一人で妄想してるだけじゃないの?とつい心配になってしまうのは、なんか痛いものを感じながらも、ママのことが好きになっていたから、なんでしょうね。

    NPOの職員で海外暮らしの長かった彼を浮き浮きと空港で出迎えるママ。嬉しくてたまらないのがよくわかるし、だからこそ、彼の目線で語られるあれこれにドキドキ。大丈夫なの?ホントに結婚するって約束はあるの?

    ネタばれです。

    そして、その後にまた出てくるママのおしゃべり。
    あっ、そうだったのかぁ~~~、という純情初恋話には、それまでにたくさんの伏線が用意されていたことにそこで初めて気づくんだけど、これがね、実にいいんですよ。
    ちょっと長くなるけど、お話の最後を何行か書きうつしますね。

    結婚できるって思ってなかったからさ。48年間ずっと。
    そんなの夢だと思ってたから。
    だから、なんか、すごくうれしいわよ。
    幸せだわよ、言っちゃうけど。
    ほんと、めちゃくちゃうれしい。


    ここで、私、泣きました。こんな平凡なフレーズなのに、泣かせられちゃうところが中島さんの力、なんでしょうね。^_^;

  • 東京を舞台にした短編集。東京タワーとスカイツリーが見つめてきてこれからも見つめていく東京に暮らす人々の営み…と考えたのでいいのだろうか。流れてゆく「時」はやさしいような、せつないような。
    「亀のギデアと土偶のふとっちょくん」「よろず化けます」「おさななじみ」のやさしい感じが好き。「金粉」のイヤな感じも好き。

  • 東京を俯瞰するスカイツリーからの書簡にはじまり、8つの短編を収録。
    それぞれの短編はぐぐっとズームアップされ、日常の小さな出来事が描かれている。
    特別珍しくはないけれど、そうそうありふれている訳でもない。
    そんなちょっとした物語を読んで、作者の想像力が深いのに感心してしまった。
    「金粉」は、かつて薔薇屋敷と呼ばれた家の姉妹がゴミ屋敷の住人になってしまった話。ゴミを持ち帰ってくる老女がいう、我が家の持ち物を人が勝手に持ち出しているから取り返すためとの理屈にハッとした。
    金粉のエピソードが切ない。
    「おさななじみ」は、一番好きな短編。5つ星!
    お店を閉めるママの語りと結婚をすることの打ち明け話に引き込まれてしまった。
    ママの純情、学生時代から時を超えて叶った運命にジンとした。
    よかったねぇ…。私もうれしくなったよ。
    大円団じゃないけど、小さなハッピーエンドの物語。良かったです!
    思わず読み返してしまい、味わい深かった。

    • じゅんさん
      「おさななじみ」のママ・・・すれっからしに見えて、純情だった“彼女”がとても可愛らしかったですよね。私もジンと来ちゃいました。
      「おさななじみ」のママ・・・すれっからしに見えて、純情だった“彼女”がとても可愛らしかったですよね。私もジンと来ちゃいました。
      2012/03/26
    • tsuzraさん
      「おさななじみ」のママ。初めはまとわりつくような口調に引いてしまいそうでした(笑)
      でも知らないうちに私も好きになってしまいました。学生時代...
      「おさななじみ」のママ。初めはまとわりつくような口調に引いてしまいそうでした(笑)
      でも知らないうちに私も好きになってしまいました。学生時代の回想から、不意打ちのように秘密を知り、あっと息をのみました。
      ほんとうに純情がしみてきますね。
      2012/03/26
  • 東京の町並みを見下ろす新旧二つのタワー。いずれもその時代を象徴する建築物、というよりは都市の空気感を表す代表選手だろう。

    そんな二つのタワーの下で営まれる人々の日常のスケッチ群。隔たった時の経過が、ひとつひとつの話に書き込まれていく。

    擬人化された新旧タワーの往復書簡の間に挿入された形の8編の短編が、二つの時代の空気感、そして隔たりをさりげなく伝えてくれる。

  • スカイツリーと東京タワーが交互に書簡をやり取りする話と思っていたら、それは最初と最後だけでした。
    その間に昭和と平成の短編が挟まっていました。
    『よろず化けます』『亀のギデアと土偶のふとっちょくん』『おさななじみ』が面白かった。

  •  それでももう一度、あなたに言いたい。
     あなたとわたしは、立っていなければいけません。
     照っても降っても、荒れても凪いでも、常に堂々と立っていなければなりません。それだけがわたしたちにできることであり、立ってさえいれば人々はわたしたちを見上げて安心し、明日を生きる活力を身に蘇らせることができるのです。
     いつかわたしたちは不可抗力で、立っていられなくなるかもしれない。それでもその日が来るまでは、わたしたちは立ち続けなければなりません。
    (P.186)

  • 変わらず巧いなぁと思う。特にママが結婚する話が良かった。そりゃ幸せだろうな、と羨ましく。

  • 東京が舞台の短編集。淡々。

全76件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中島京子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×