- Amazon.co.jp ・本 (451ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041101049
作品紹介・あらすじ
丸に尻尾を描いただけで豚のお尻に見えてしまうのは脳が必要な情報を瞬時に補って認識しているから。進化の過程で脳細胞が発達させてきた人間らしさとは何かの謎に迫る一気読み必至のエンタメ科学ノンフィクション!
感想・レビュー・書評
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ロングセラー『脳のなかの幽霊』で知られるラマチャンドランの最新刊である。
著者は科学者であり医師である。研究ばかりではなく、実際に患者と直接やりとりをして、豊富な臨床経験も持つ。そこがこの著者の大きな強みの1つだと思う。
脳の働きは外からはわかりにくい。どのような刺激がどういった経緯で処理され、どのようなアウトプットがされるのか。肝心な部分はブラックボックスであり、判明している部分は多くはない。
脳研究は、古来、事故や負傷などで脳の一部が損なわれた結果、その部分の機能が判明してきた面がある。本書で著者がブラックボックスを探る手掛かりとしているのは、疾患や異常な状態である。
切断されたり麻痺したりしたはずの腕や脚がまだあるように感じる「幻肢」の現象は何を意味しているのか。自閉症児は自分と世界をどのように捉えているのか。脳卒中等で発話能力が損なわれた人は、他の人の話を聞いても理解できないのか、それとも自分で文章を構築する能力だけが損なわれているのか。
そういったことの解析から、普段疑問にも思っていないような「あたりまえ」の機能の構造が浮かび上がってくる。見過ごしがちな「正常」の機能に裏側から光が当てられ、隠れた意味が現れてくる。
著者は最新機器を駆使するというよりも、シンプルで手軽な実験を好む。得てしてこうした実験は、誰が見ても結果が一目瞭然であるという美点を持つ。
著者の持つ豊かな考察力にも舌を巻く。共感覚とメタファーについての論考の項は特に興味深く読んだ。
この発想の豊かさがあってこそ、機器にのみ頼るのではない独創的な実験が生まれるのだろう。
共感覚やミラーニューロン、自閉症、言語の進化を経て、著者の考察は類人猿と人類の違いに及ぶ。われわれが「美」を感じるのはなぜなのか。われわれの内観はどのように進化してきたのか。
新しい研究結果も盛り込みつつ、研究内容そのものだけでなく、読者の想像力を刺激する多くの示唆に満ちている。
本書は、一般読者にとって読みやすい「単純化」と専門家の気難しい目にも耐える「正確さ」を両立させることを目指していると、前書きで著者が述べている。
「読みやすい本」イコール「レベルが低い本」ではない。その好例がここにある。
個人的には『脳のなかの幽霊』の衝撃にはやや及ばない印象を受けたが、多くの人にとって刺激的な楽しい読書となることだろう。 -
脳神経科学の分野で著名な研究者であるラマチャンドラン先生の著作3冊をまとめ読み。なぜもっと早く読んでなかったのだろうと、自分に問いたくなる名著だ。自我、自意識というものの進化的起源を神経学の病理研究事例から考察していく。「私の心」が私の体の中にあって、私の思考や言動を司っているという概念がグラグラと揺れる。脳機能について、現段階ではまだまだわからない事も多いが、少しずつ科学的に解明されていく時代に自分がいあわせていると思うとワクワクする。
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おそらく専門書の何倍も読みやすいに違いない。
だけど、脳神経に素人で頭のよくない私には、少し難しかったのが正直なところ。
驚きの連続でへえ〜って心の中で常に思うことばかりだれど、特に興味がわいたのは、なぜ人は抽象画を好むようになるのかの章。なるほど!そこにアハ!を感じる訳か、とひとり合点がいった。 -
脳神経学者のラマチャンドランの新作。オリヴァー・サックスよりもロジカルなところが強く、ラマチャンドランの方が好きだ。
『脳のなかの天使』という邦題は著者のベストセラー『脳のなかの幽霊』とタイトルを掛けているが、原題は『The Tell-Tale Brain』なので特に両著はシリーズの関係ではない。なので「幽霊」から「天使」になったことにそもそも著者にはその意図は何もない。装丁も全く違っていて、シリーズ感を出して売りたいのか意図が分らなく、やや残念。「幽霊(Phantom)」は、元となった幻肢や病態失認の話も出てくる。一方、「天使」については、最初の「人間は類人猿か天使か」という過去の問いが出てくるのだが、タイトルにするものでもなくまた「脳の中の」という修飾にも相当しない(が、まあよし)。
近年のこの分野の大きな研究の進展として、ミラーニューロンの発見が挙げられる。ミラーニューロンとは、自身がその動作を起こしたときと同じニューロンが他人が同じ動作をしたときにも同じように発火するニューロン群。本書でも、その存在により模倣と共感の能力を獲得し、人間が人間たるに至った進化の鍵を握ったのではないかとしている。
「ミラーニューロンとその機能を理解することの重要性は、いくら強調してもしすぎにはならない。ミラーニューロンとその機能は、社会的学習にも、模倣にも、ものごとに対する姿勢や技能の文化的伝達にも、さらには私たちが「語」と呼んでいる、ひとかたまりの音の文化的伝達にさえも、中心的役割をはたしているのではないかと考えられる」とまで言っている。自閉症もミラーニューロンの機能異常により説明できるのではという仮説も提案している。
ミラーニューロンについては、『ミラーニューロンの発見』(マルコ・イアコボーニ)により詳しいので、興味があればそちらも読んでみるといいだろう。
また、数字に色が付いて見えると言う共感覚の症例を一例として、信号伝達経路において脳内の配線が混線して機能が近いところが引きずられて刺激されるのだという。この辺りは使われている用語も含めてずいぶんと専門的な話も含まれる。少しわからないままに読み進めていくとそれでも脳が物理的な現象であることと、かつ、かなり微妙だがロバストなバランスの中で動いていることがよく分かる。『幽霊』にも出てきた幻肢の例も含めて、意識のだまされやすさについても興味深い話がいくつも出てくる。
また、古今の多くの哲学者が悩んできた「自己」や「意識」についても脳神経学の立場から迫っている。その秘密が早晩明らかにされるのではとの期待を著者は抱く。「自己」の特徴として、統一性、 連続性、身体性、私秘性、社会的埋め込み、自由意志、自己認識、の7つの特徴を挙げており、精神疾患の症例から「自己」を形成するこれらの特徴がどこから来ているのかについて興味深い考察を行っている。
「脳」と「意識」はやはり不思議な器官だ。それでも年々その謎が解かれているのがわかる。そして、何かがわかればその先にさらに違う謎が出てくる。副題は、"A Neuroscientist's Quest for What Males Us Human"。まさしく最後の秘境であり、そこに挑む知的冒険という感じなのだろう。
「人間は真にユニークで特別な存在であり、「単なる」霊長類の一つではない」 ―- 進化論を経て人間が絶対的に特別な存在ではないということが明らかになった上でなおその論考の果てにも脳神経学者としてこのような結論に至るのは心が動かされる。 -
第1章 幻肢と可塑的な脳
第2章 見ることと知ること
第3章 うるさい色とホットな娘―共感覚
第4章 文明をつくったニューロン
第5章 スティーヴンはどこに?自閉症の謎
第6章 片言の力―言語の進化
第7章 美と脳―美的感性の誕生
第8章 アートフル・ブレイン―普遍的法則
第9章 魂をもつ類人猿―内観はどのようにして進化したのか -
自閉症など脳の障害がある場合、本当にいろいろな症状があるんだと思わされるし自分にもいつか訪れるかもしれないので興味深い。
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もちろん、人間の脳を生きたまま解剖して其の働きを調べることなどできるはずもないので、何らかの理由で脳に損傷を負った患者の観察から、脳のそれぞれの部位のはたらきを明らかにしていくことになるのだが、それでも人間の脳のメカニズムのすべてが解明されるには程遠いのである。
特に、自己とか自己意識というものが脳のどんなはたらきによって形成されるのかは、科学者のみならず哲学者にとっても大きな問題として議論されてきた。いつかそれが明らかにされる日は来るのだろうか。 -
おもに視覚の神経と感情と行動について。
そして話はあちこちに飛ぶ。おもしろいのは全体的にはフロイトに否定的でありながら防衛機制に関しては評価が高いというあたりで、防衛機制のそれぞれについてコメントがあり、また意識の解明に役に立つとまでしているあたり。
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ありがとうございます(^^)。
bokemaruさんの感想、ぜひ伺いたいです。楽しみに待ってますね♪
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