居心地の悪い部屋

制作 : 岸本 佐知子 
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
3.49
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本棚登録 : 527
感想 : 71
  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041101278

作品紹介・あらすじ

うっすらと不安な奇想、耐えがたい緊迫感、途方に暮れる心細さ、あの、何ともいたたまれない感じ-。心に深く刻まれる異形の輝きを放つ短編を集めたアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳家・岸本佐知子さん編+訳の短篇集。「イヤ」「さすがヘン」という素晴らしい評判も聞きつつ、発売日に買って積読にしておりました。地味ながらお洒落な装丁。

    最初のブライアン・エヴンソン『ヘベはジャリを殺す』から、傷と痛みをともなうイヤな感じで物語が進む。淡々と、傷と痛みをともないつつ、それは二人の間では決まり切ったルールなのか、なんか甘やかさもあったりして、そこが不思議な感覚。以前読んだレベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』(柴田元幸編訳『むずかしい愛』所収)に通じる感覚ながら、ドライな残酷さがもっと軽やかに描かれているような気がした。舞台ががらんとした(と思う)部屋で、小道具がタキシードやらチケットやらと、なんだか無機質でスタイリッシュなのが効果を上げてるのかもしれない。

    どの短編も、お約束のストーリー展開を反故にして、ゆるゆると「居心地の悪い」方向に物語が転がっていきます。ただ、意外でイヤ感はありながら、それは決して下品なゲテモノセレクトでなく、クリーンでそこはかとない知的なおかしみが漂う、そんな小説を岸本さんが選んでくださっているような気がする。人間の喜怒哀楽をつぶさにとらえた小説ばかりを選べば、「繊細な感覚を持っている」と評されるのはたやすいものだけれど、岸本さんは、そこ以外の要素をとらえるのに長けた、とても繊細な感覚の読み手だと思う。いつものとおりの明晰すぎる「訳者あとがき」では、岸本さんの読書に対するお考えのひとつが提示されており、こちらも愉しいです。

    個人的に好きなのは、先の『ヘベは―』と、ジュディ・バドニッツ『来訪者』、ジョイス・キャロル・オーツ『やあ! やってるかい!』。『来訪者』は落語『鷺とり』を彷彿とさせるものの、ハイウェイがらみのダークなイヤ加減がアメリカン・ホラー。『やあ―』は、だらだら書きの文章の裏に隠れた、シャープな物語の運びが面白いと思いました。

    読書に「ほっこり」「泣ける」「共感」を求めるかたには断固としておすすめいたしません(笑)が、苦みやえぐみを味わう読書もまた愉しいかと思いますので、この☆の数です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「苦みやえぐみを味わう読書もまた愉しいかと」
      色々あるコトが実感出来るのが素敵です(と、言いつつホラーは苦手なので、極力読みません)
      「苦みやえぐみを味わう読書もまた愉しいかと」
      色々あるコトが実感出来るのが素敵です(と、言いつつホラーは苦手なので、極力読みません)
      2012/05/15
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      nyancomaruさん:

      食べものと同じで、好きな読後感はあるにはあるんです。でも同じものばっかり楽しんでいても、好みが固定されてしまう...
      nyancomaruさん:

      食べものと同じで、好きな読後感はあるにはあるんです。でも同じものばっかり楽しんでいても、好みが固定されてしまうような気がするので、いろいろ楽しめるフットワークは保っておきたいと思っています。その結果、乱読ですけど。

      実は私もハードなホラーは苦手ですので、そういうものは極力避けています。
      2012/05/15
  • 最近マイ大注目の岸本佐知子さん編集海外小説短編集。読んでうっすらと不安な気持ちにさせるような作品を集めており、読者に少しでも居心地が悪くなるような気持ちにさせたら勝利です。
    結果、しっかり不穏な気持ちになる作品が多々ありました。ホラー映画のように読んでギャーっっとなるナイトメア的(1作だけはそう感じましたが)ではなく、なんとなく不安、不穏な空気を孕んだ小説の祭りでした。
    ルイス・アルベルト・ウレア氏の「チャメトラ」、アンナ・カヴァン氏の「あざ」は好み。

  • 読み終わった後になんとなくそれこそ居心地が悪くなるような短編を集めたアンソロジー。訳は岸本佐和子。
    読んだことある作家はジュディ・バドニッツ、エヴンソン、アンナ・カヴァン。やはりこのお三方の作品は飛びぬけていた。特にエヴンソンの「父、まばたきもせず」。あの一瞬(一文)ですべてがわかるという驚き。
    あとはステイシー・レヴィーンの「ケーキ」が良かった。「トパーズ」とか書いてた時のごりごりの村上龍に通じるものを感じた。高校の時めっちゃはまってたから懐かしい感じもした。

  • 11編からなる短編集。それぞれ個性的な話ばかり。読んでいる時はヌルリ、読み終えるとザラリとした感触。どこか不思議な感覚の残る作品ばかりだった。
    それにしても岸本さんは「変愛小説集」といい、今回の「居心地の悪い部屋」といい、タイトルセンスが光りまくっていて、いつも感心させられる。

  • 読めばもう二度と元の世界には戻れない。
    今とは違う世界へ誘う短編集。

    どの作品も「?」が残る奇妙なものばかりでした。
    また淡々としている印象を受けました。

    その中でも、「あざ」の急展開、「来訪者」の裏側でいったい何が起こっているのか、
    「潜水夫(ダイバー)」の何も起こらなかった感、「ささやき」の不気味さには、
    それぞれ独特なものを感じたように思います。

    ミステリ:☆☆
    ストーリー:☆☆☆
    人物:☆☆
    読みやすさ:☆☆☆

  • たしかに、居心地は悪い。
    強烈に、ではないけれど、確実に不安になる。
    でも、後味が悪いわけではない。
    これら11人12篇を編訳した岸本さん、お見事!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      岸本佐知子 の訳す本は目に付け所が、、、エッセイも変ですが。ずっと楽しみな人です。
      岸本佐知子 の訳す本は目に付け所が、、、エッセイも変ですが。ずっと楽しみな人です。
      2012/05/02
  • 不思議なテイストの話。
    あまり好きではなかった。

  • 12編の短編集。この中ではアンナ・カヴァン『あざ』、ルイス・ロビンソン『潜水夫』が印象に残った。今まで出会ったことのない作家の作品にもふれ、さすがの岸本さんです。

  • ゾワゾワとする気味の悪さがあった。
    ホラーとも違うしこの不気味な感じはクセになる。
    『あざ』『来訪者』『ささやき』『ケーキ』の、
    最後どうなっちゃったのと読んでから言わずに居られない結末が面白い。
    何作品かは解説を読んでもやっぱりよく分からない話だったけど、そのよく分からなさが個人的に気持ち良かった。
    黒いユーモアも多く、その面白おかしさが一層気持ち悪くさせていて、それが気持ちいい読後感を抱かせた。

    『来訪者』は電話の相手が両親なのだけど、自分の知っている両親と違う気がする…あの人たちは誰?…と追いながら何かすごく不安で居心地の悪いいやな錯覚を持ちました。
    『ケーキ』については、よく分からないまま始まりよく分からないまま終わった。不思議と爽快感があって楽しめた。犬と猫についてもおかしいけど「わたしは丸々となりたかった」からはじまり、だからケーキを買い込んで部屋の一周にケーキの棚を並べたという前提からして狂っている。そこにきて猫と犬が窓の外から二匹並んでずっと見てる、あいつらに見られてるから食べられない…という感じで物語が進んでいくけど、どこからつっこめば良いのやらといった感じで愉快なお話だった。そもそも読んでいてほんとうに猫や犬なの?と思うけど、丸々となりたいからケーキを部屋に並べるという時点でよくわからんし…あぁもう楽しい!
    『潜水夫』は中でもお気に入りの作品。
    スクリューに何かが絡まり船が動かなくなってダイバーに仕事を頼む話だけど、この頼んだダイバーが仕事を終えてからなかなか帰ろうとせず妻に言い寄るお話。いつ潜水夫が豹変しないか寝取られないかとピーターともども不安にさせられた。潜水夫の冗談がどこまで冗談かが分からず、ページを捲るたびにハラハラした。それにしてもこの潜水夫が本当にしつこい。途中で主人公のピーターに出来心が芽生えて殺しそうになるのだけど、それを武器になかなか帰ろうとしない。潜水夫のねっとり感に読んでいてイライラさせられながらも不思議と不快ではなくて、むしろ早く帰れという気持ちに同居した居心地の悪いながらもクセになる心地良さが満足の作品だった。

    なんだろうか。この作品は読者に話の外でも想像を膨らませようとしてくる。
    だから読んだあとも脳裏にあのとき読んだ感覚や気持ちが残っていて、何度も反芻させてくる。
    居心地の悪さがありながらも読ませるのは、そういうところだと思う。
    バッドエンドともホラーとも鬱とも違う。
    暗くも怖くも悲しくもない。
    でも背筋がゾゾゾっとくる、そんな読後感を求める人にはおすすめの作品です。

  • ステイシー・レヴィーンという作家についてのレビューを読んで興味を持ったので、手にとってみた本作。

    アンソロジーという情報以外何も仕入れず、レヴィーンは後ろの方か、と頭から読んでいきました。

    初手から

    ザワザワ…
    ????
    ん? え??

    となりまして、次、次と読むうちにタイトルの意味するところがわかりました(遅い)

    突然目の前の扉が開いて私は今何を読ませられているのだ?という不穏さ、親切心のカケラもない不可解さ、そして何もわからぬまま突然にまた扉を閉められる後味の悪さ。
    まさに居心地の悪い部屋を見て回るよう。

    各作者、その不穏さもやはりそれぞれ個性があり、これを小説と読んでいいの?そうかこれでいいのか。やったもん勝ちか、というなんか現代アートを前にした時と同じような気分。
    わかったようなわかんないような。いや、私には結局「好み」かどうかしかわからないけど。

    お目当てのステイシー・レヴィーンは、なかなかどうして強烈でした。訳が悪いんじゃないかと思えるほどの執拗な繰り返しと重複、あっちの世界に片足突っ込んだ人の文章に思える。山岸涼子の『スピンクス』とかちょっと思い出す。悪夢と奇想と現実と。そのどれもが本人にしか意味がなく(もしくは本人にすら意味はなく)、他人が入り込む余地がない。

    個人的にブライアン・エヴンソンが気に入りました。
    『へべはジャリを殺す』は瞼を縫うところから始まって再び瞼を縫うところで終わる。は?って感じでしょ?説明がなさ過ぎて何が起こっているのかさっぱりわからない。ただそこでは確実に「何か」が起こっていて、そしてそれはかなり絵になる。切り出した場面が抜群なのだ。映像が浮かんでくる。語られていない部分を想像したくなる。(ほとんど何も語られてはいない)『父、まばたきもせず』もそう。

    ルイス・ロビンソンの『潜水夫』はなんだかすごく読んだことがある感じがするなー村上春樹っぽいなーと思ったら『バースディ・ストーリーズ』にも別の作品が収録されているとあとがきにあった。自分、読んでいる。名前、覚えてなかったけど。見覚えあるはずだ。

    久々にスカッとしないものを読んだ。
    こういうのもたまにいい。
    不穏で不吉で得体の知れないものからはなるべく遠ざかって生きていきたいと普段は願っているけれど、でもそれは、すぐ近くにいつもいるんだということも私はよく知っている。
    だからたまにそんな居心地の悪い部屋をこそっと覗いて確かめずにはいられないのだ、と思う。

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