雪と珊瑚と

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041101438

作品紹介・あらすじ

珊瑚、21歳。生まれたばかりの赤ちゃん雪を抱え、途方に暮れていたところ、様々な人との出逢いや助けに支えられ、心にも体にもやさしい、惣菜カフェをオープンさせることになる……。

珊瑚(さんご)
21歳。家庭の事情により高校を中退し、20歳で結婚するが、約1年後に離婚。雪とふたりで暮らしている。

雪(ゆき)
珊瑚の子。生後約7ヶ月。

強くたくましく人生を切り開いていくシングルマザーのビルドゥングロマン!

感想・レビュー・書評

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  • 「珊瑚は今年、二十一歳になった。二十歳の時に結婚して、一年そこそこで離婚した。赤ん坊の雪は、ようやくお座りができるようになったばかりだ。」読者の皆様はこの文を読んでどう感じるのだろうか?
    これはタイトル見開きの文章書き出しのページに書かれているこの物語、主人公・珊瑚の状況説明である。
    この始まりで、大変そうな生活を、想像するも、こんなうまく道が開ていくものだろうかと、小説ならではだなぁと思う。

    20歳で結婚し、わずか1年で離婚した山野珊瑚は、21歳のシングルマザー。生まれたばかりの娘・雪を預ける場所も、働く環境もなく、途方に暮れていたところ「赤ちゃん、お預かりします。」の小さな貼り紙を見つける。その貼り紙により出会った女性・藪内くららから「食」の大切さと、「前進」する勇気を教えられる。

    本作は、起業成功レポートであり、シングルマザー子育て奮闘記であり、料理レシピ録でもある。そして対人ストレス解消録でもある。

    貯金も底が見えはじめ、子供を育てるために働かなくてはならない。しかし、公立の保育園も個人経営の託児所にも空きがなく、途方に暮れていた時に見つけた貼り紙「赤ちゃん、お預かりします。」
    母子家庭で男親からの援助もない状態で、子供を育てていく精神的、肉体的苦労。子供の夜泣きに苦しみながらも我が子を育てる使命感が、自分が経験した苦い、辛い母との関係を断ち切るためのように思えてならなかった。あるいは、私は母とは違うと否定を、証明するためのようにも感じてしまう一方、そうではないと願いたい気持ちがある。
    そうではないと願いたい気持ちは珊瑚を支える女神のようなくららの存在。彼女の存在が珊瑚にとって母のような存在に映り、珊瑚が経験した子供時代の過酷な生活の連鎖を断ち切っているように感じる。

    珊瑚にとって、くららは、母であり、アドバイザー的な存在であったのではないだろうか。自分の母とは、全く異なる人種のくららに母を重ねることはないだろうが、くららを通して知り得た人として生きる力、人間関係構築が珊瑚の人生に大きく影響している。

    珊瑚がカフェ経営の夢に奔走するが、その中でも、周りのサポートに支えられて、変わっていく珊瑚の心の成長と、雪の身体的な成長が重なる。

    「私はあなたが嫌いです。最初から嫌いでした。」といった手紙をよこした元バイト仲間の美知恵の手紙。くららや由岐のようにいい人ばかりではなく、人の気分を害する類の人って、やっぱりどこにでもいるのだなぁと、思った。小説の中に登場するくらいなので、もしかしたら実生活では、意外ともっと多いかもしれない。この美知恵の手紙が結果的には、珊瑚の心の整理にも繋がることになるのだが、それが強い人間と弱い人間の差のように思えた。

    読みやすく、また、食が体や心を育むのが感じられ生きていく勇気を与えてくれる心地の良い作品であった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kurumicookiesさん
      「きっと作者の意図する読み方では」
      そうかも、、、自然体で読まなきゃダメでしよね。。。
      kurumicookiesさん
      「きっと作者の意図する読み方では」
      そうかも、、、自然体で読まなきゃダメでしよね。。。
      2020/12/07
    • kurumicookiesさん
      猫丸さん、
      没頭するとすぐに忘れる「自然体」…泣
      猫丸さん、
      没頭するとすぐに忘れる「自然体」…泣
      2020/12/07
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kurumicookiesさん
      にゃ~ん
      kurumicookiesさん
      にゃ~ん
      2020/12/07
  • くららさんが、とてつもなく素敵だ。

    私が崇拝する三大おばあちゃんの一人、『西の魔女が死んだ』の
    まいのおばあちゃんを彷彿とさせるような、しなやかな強さと温かさ♪
    (おばあちゃんと呼ぶにはまだまだお若いので、
    崇拝するおばあちゃん軍団には加えられないのが残念だけれど)

    母によるネグレクトで、帰宅しても食べるものもなく、ひとりぼっちで調味料を舐め
    給食でなんとか生き永らえ、21歳にしてシングルマザーとなった珊瑚の

    愛情こめた家庭料理がひとかけらも入ったことのない淋しい胃袋を
    ホクホクのおかずケーキや大根の茹で汁のスープで温かく満たし、
    疲れた人をおなかの底から支えるお惣菜の店を出す、という
    飢えを味わい続けた珊瑚ならではの夢を抱くきっかけを作り、
    人見知りの真っ只中の雪ちゃんを預かりつつ、その夢を後押しする。。。

    そんなくららさんや心ある仲間に支えられながら、
    カフェで出すメニューを選び、ネーミングに頭を悩ませる珊瑚に
    「ほらほら、アトピーでも食べられる、あの長芋のメロンパンもどきも入れないと!」だの
    「『エビとブロッコリ』、『カニとブロッコリ』は、あんまりだよ!
    もちょっと飾り気があっても。。。」だのうるさく語りかけ、
    すっかりスタッフになった気分でメニュー作りに参加している自分にハッとしたりして。

    。。。というくらい感情移入して読み耽っていたので
    珊瑚がネグレクトを受けて、食事を満足にとることすらできなかったことも
    人の好意を利用するような振舞いを薄汚いと感じ、何につけても遠慮がちであることも
    彼女が抱える事情を何ひとつ知らないのに、
    「私はあなたが嫌いです。」とわざわざ手紙を送りつけ
    「周りから少しずつ親切と同情を掠め取る浅ましい人」と決めつけ
    「中身がなにもない、不愉快だ、あなたの生き方が鼻についてたまらない」
    と、悪意を投げつける美知恵には、珍しく怒りがこみ上げてしまった。。。

    そんな一方的な手紙にまで怒りより先に納得と反省を抱いてしまう珊瑚に呼びかけたい。

    人の胃袋も心も温めるお店を出せたのは、
    さみしい胃袋と心に悩んだあなたへの、紛れもない「お計らい」だよ。
    素晴らしい人たちがあなたの周りに自然に集まって支えてくれるのは
    同情でも施しでも哀れみでもなく、
    あなたが不器用だけど真摯に生きようとしているからだよ。
    自分の観点に凝り固まって勝手にあなたを格付けして
    投げつけてくる毒を、唯々諾々として飲み込まなくていいんだよ。

    母の愛を得られずに大きなうろを抱え、
    外についた内臓に傷を負いながら生きていく糧を得ようとしていた
    さみしい木のようだった珊瑚は
    お腹の中に雪というあたたかい命を宿すことで、
    空っぽだった内側と傷ついてボロボロになった外側をくるっとひっくり返して
    「おいちいねえ、ああ、ちゃーちぇねえ」と、雪と一緒に幸せをかみしめられる
    おかあさん、という人間になれたんだよ。

    • takanatsuさん
      「素晴らしい人たちがあなたの周りに自然に集まって支えてくれるのは
      同情でも施しでも哀れみでもなく、
      あなたが不器用だけど真摯に生きようとして...
      「素晴らしい人たちがあなたの周りに自然に集まって支えてくれるのは
      同情でも施しでも哀れみでもなく、
      あなたが不器用だけど真摯に生きようとしているからだよ。」
      本当にその通りだと思います!
      美知恵さんのような人のそばにはきっと集まってこないでしょう。
      きっとそれが全てを物語っているのですよね。
      2012/09/12
    • まろんさん
      takanatsuさんの、心を込めたレビューを読んで
      ぜったいに読まなきゃ!と思って出逢えた本です。
      くららさんみたいな芯のある優しさ、穏や...
      takanatsuさんの、心を込めたレビューを読んで
      ぜったいに読まなきゃ!と思って出逢えた本です。
      くららさんみたいな芯のある優しさ、穏やかさを備えたひとになりたいと思いつつ
      自分の好悪を見境なく投げつけてくる美知恵さんにカッカしてしまって
      ああ、私はまだまだ修行が足りないなぁ、と思う今日このごろ。

      図書館から借りましたが、どうしても手元に置きたいので
      ちゃんと買ってきます!
      すばらしい本を紹介してくださって、ありがとうございました(*^_^*)
      2012/09/12
  • 母からネグレクトを受けて育った珊瑚。
    食べることもままならず、母の愛情を受けずに育った珊瑚が
    雪という子を持ち、周りの人に支えられ、「雪と珊瑚」というお惣菜カフェを開く。

    くららさんが素敵です。
    こんなおばあちゃんみたいな存在の人がいたらどれだけ心強いか。(おばあちゃんっていったらくららさんに失礼かも・・・)

    出てくる料理もどれも美味しそうで、食いしん坊の私はメニューの名を見ながら想像が膨らみ、お腹がすいてしかたなかった。

    珊瑚は多くの人に助けられ、支えられ雪と2人で生活していくことができている。現実は、こんな甘いことはないだろうな・・と思いながら読み進めてたけど、人との出会いはやっぱり大切にしないとなぁと改めて思ったし、
    自分が年をとったとき、くららさんみたいな人になりたいなぁと思った。

    • まろんさん
      noboさん、こんにちは!

      雪が生まれるまでに苦労を重ねた分、珊瑚は周りの人に恵まれましたね。
      私もくららさん、憧れです。
      あんなふうに大...
      noboさん、こんにちは!

      雪が生まれるまでに苦労を重ねた分、珊瑚は周りの人に恵まれましたね。
      私もくららさん、憧れです。
      あんなふうに大切な人をやわらかく支えてあげられる人になれたらなぁ(*'-')フフ♪
      2013/05/01
    • nobo0803さん
      まろんさん

      くららさん、本当に素敵ですよね♫
      珊瑚が周りの人に恵まれているのと同じように、
      私も案外、周りの人には恵まれてるなぁと思ってま...
      まろんさん

      くららさん、本当に素敵ですよね♫
      珊瑚が周りの人に恵まれているのと同じように、
      私も案外、周りの人には恵まれてるなぁと思ってます。なので、周りの人が与えてくれるやさしさを
      大切にし、私自身も人にやさしさを与えれるように頑張ろう♫と思いました。
      目標はくららさんです!(^^)!
      2013/05/03
  • 「赤ちゃん、お預かりします。」
    自分の子供を人に預けるというのは、どれほど不安なことか、子供がまだいない私でもある程度の想像はできる。でも珊瑚は預けなくてはならない。働くために、そして雪と二人で生きていくために。

    美知恵さんからの手紙は、読んでいるだけでもすごく傷ついた。人からの憎悪というものは、なんというか、醜くそして鋭い。

    でも、くららさんの存在と、優しくてあったかくて真っ直ぐな言葉が、珊瑚をそして私を救ってくれる、強くしてくれる。

    物語が進んでいくごとに珊瑚もそしてもちろん雪もどんどん成長していく。最後のページの雪が可愛くて幸せな気持ちになった。

  • まず、美しい響きのタイトルがいい。読むまえからずっと思っていた。
    表紙はどことなく哀しみのような寂しさのようなものを感じた。
    それはきっと珊瑚の覚悟なのかもしれないと
    読み終えたいまは思う。

    生まれたばかりの雪のかわいらしいことといったらない。
    珊瑚の自立心はそのかわいさに比例するほど確立している。
    頼る人はいない。ひとりで生きていかなければならない。
    雪を育てていかなくてはならない。
    その気持ちの強さ。まだ21にして、なんと立派なことか。

    出会いは大切だと心の底から思う。珊瑚は出会いに恵まれた。
    そして珊瑚の生き方はそれに応えている。

    美知恵の言動は、わたしのおなかのなかに重いものがたまっていった。
    もう関係がなくなってから、そんなことをわざわざ伝えるなんて
    なんの自己満足だ。


    料理が作っているときからおいしそう。ネーミングもいい。
    わたしも「雪と珊瑚」に行ってみたい。
    自分を休めることのできる場所にできるだろう。

    夢中になって読み、夜更かしをしてしまった。

    • まろんさん
      おお!私ものめり込んで読みました!
      macamiさんも同じ気持ちで読んでくださったみたいで、感激です♪

      21の若さで雪を産んで育てて
      それ...
      おお!私ものめり込んで読みました!
      macamiさんも同じ気持ちで読んでくださったみたいで、感激です♪

      21の若さで雪を産んで育てて
      それまでの苦労も、これからの苦労もぜんぶ背負い込もうとする珊瑚が
      すばらしい出会いに恵まれたっていいじゃない!
      珊瑚の過去も生きる姿勢も知らない人が
      勝手な思い込みで貶める権利なんかないのに!
      と、とてつもなく感情移入して読んでしまった本です。

      「雪と珊瑚」のお店そのままに、
      悪意をふりまく美知恵さえやわらかく受け入れようとする珊瑚にくらべて
      私は人間ができてないなぁ、と今になって思ったりして(笑)
      人とつながることの難しさも美しさも、教えてくれる本ですね(*^_^*)
      2013/04/10
    • macamiさん
      わお!まろんさんと同じ気持ちだなんてうれしいです!

      美知恵はもう「キィッ!」となるぐらいいやでした。(苦笑)
      そしてこんな気持ちでいる人が...
      わお!まろんさんと同じ気持ちだなんてうれしいです!

      美知恵はもう「キィッ!」となるぐらいいやでした。(苦笑)
      そしてこんな気持ちでいる人がどうして結婚?と。
      ・・・わたしのほうがまるきり人間できていません。苦笑

      起きること全部を自然に受け入れて、どんな困難も
      ただ超えていくことしか考えない珊瑚の姿勢が
      とても素晴らしかったですよね。
      2013/04/11
  • 二十一歳のシングルマザー、珊瑚。
    ようやくお座りが出来るようになった娘の雪。
    散歩の途中で見つけた張り紙で出会って、娘の預け先となったくららさん。

    珊瑚は生活のために娘を預けて、パン屋でのアルバイトを始めたけれど、「人の生活を支えるような食べ物を提供したい」とカフェを開こうと考えるようになる。

    背の高い屋敷林に囲まれた古い家。
    顔の見える生産者が育てた無農薬の野菜をふんだんに使って、手間暇をかけて作ったお惣菜。
    ネルドリップで丁寧に入れた芳醇なコーヒー。

    ずいぶん前にNHKの昼の番組で武蔵野の面影を求めて、三鷹か吉祥寺あたりの家から中継しているのを見たことがある。
    あれは、夏の終わりだったか秋口で、少し和らいだ陽射しが木々の間から差していた。家はまるで旧軽井沢あたりに建っていてもおかしくないような雰囲気があった。
    屋敷林という言葉からその家を思い出した。

    豊かなうまみや力強い味わいを持つ野菜を丁寧に料理をして、人を養う食べ物をつくる描写。
    人の温かな思いやりや善意、妬みや複雑な感情。
    丁寧に丁寧につづられていく。

    自身もシングルマザーの母親に育てられ、愛された記憶が薄い珊瑚が不思議と人を引き付け、助けられて、カフェの営業も軌道に乗る。資金もなく、飲食店でろくに働いた経験もない珊瑚が店を切り盛りして成功することや、彼女を支えてくれる人たちの献身ともいえる態度も、現実にはなかなか難しいことだと思う。

    日常は淡々と過ぎていき、何かが起こっても、期待されるような解決もないし、その事実を深追いすることもなくそれで終わっていく。
    とてもあっさりしているようでいて、けれどリアル。

    P316
    すべてのことに解決がつかないまま、けれど生活はそんなことはお構いなしに次から次へと続いていく。朝が来て夜が来て確実に日々は流れる。

    本当に、そう。
    それでも、つかの間、丁寧に料理をしたり、誰かのために時間を割いたり、けれど結局効率的でもなく、一見無駄が多いような日々を時には必死に、時には淡々と過ごしていく。

    子どもを持つということも、シングルマザーであるということも、
    独身でいるということも、嫌いな人がいるということも、とにかく否定されない。すべてあり、と思わせてくれる。

    少し疲れている人に是非ともおすすめしたい。

    • まろんさん
      この本をこんなに穏やかに、心静かに読めるnicoさんが、すばらしいと思いました。

      私はぽわーっとしているせいか、第一印象で苦労知らずで甘え...
      この本をこんなに穏やかに、心静かに読めるnicoさんが、すばらしいと思いました。

      私はぽわーっとしているせいか、第一印象で苦労知らずで甘えている、と思われてしまうことが多くて
      渋谷のスクランブル交差点で信号待ちしているとき、いきなり
      見知らぬ女性に、「あなたみたいな人大嫌い!」と言われて固まっちゃったこともあったりして。
      そんなこともあって、なんだか珊瑚にやたらと感情移入してしまって
      謂れのない悪意を、ぜんぶ自分のせいだと思わなくていいのに、と
      なんだかむきになって読んでしまったところがあるのです。
      言葉でも、行ないでも、お料理でも、周りのひとを温かく包むくららさんのようになりたいなぁ、
      と切実に思います(*^_^*)
      2013/01/10
    • nico314さん
      まろんさん

      私はくららさんや珊瑚には憧れるけれど、魅力がまぶしくて感情移入できず、むしろ一緒に働くゆきちゃんの目線で、珊瑚を応援しつつ...
      まろんさん

      私はくららさんや珊瑚には憧れるけれど、魅力がまぶしくて感情移入できず、むしろ一緒に働くゆきちゃんの目線で、珊瑚を応援しつつ、くららさんと仲良くなりたいな、なんて思いながら読んでいました。
      丁寧に料理をこしらえることは、生活を土台から作り上げていくことにも似て、珊瑚が再生されていくようで気持ちがほんわかしました。

      まろんさん、とっても嫌な目にあってしまったのですね。その時は、理不尽さに打ちのめされたり、後から怒りが込み上げてきたり、きっと簡単には忘れられない苦々しい気持ちが、おりのように沈んだのではないでしょうか。(背中に手をあててさしあげたい気持ちです)
      この本の中の手紙の主には、何があったんだろうとつい因果を考えてしまっいました。

      それにしても、くららさんも珊瑚もきれいな言葉づかいですよね。料理も言葉づかいもなんだか人の在りようが現れているようで、今日の夕食は少しだけ丁寧に作った(当社比)影響されやすい私です。



      2013/01/10
  • ラストがいい。すごく好き。
    なんてなんて喜びに満ちた瞬間なんだろう。
    この幸せはきっと彼女のことを包み続けるはず。
    そして彼女も周りの人に安らぎと喜びを与え続けるはずだ。

    物語の最初、珊瑚さんと雪ちゃんがくららさんに出会う場面から、圧倒的な安心感に包まれた。
    くららさんが作る料理の湯気が私のことまで癒してくれるようだった。

    珊瑚さんが出会う人が彼女に優しいのは、珊瑚さんが魅力的な人だからだと思う。
    好きになれない人に対して、他人はこんなに近寄ってきてはくれない。
    私には美知恵さんの言うことが正しいとは思えない。
    手紙で言いたいことを一方的にぶつけるというやり方も気に入らない。
    顔を見ないで言葉を受け取ることはとても難しい。
    書き手にそんな意図がなかったとしても、受け手は攻撃的なニュアンスを強く受け取ってしまうことが多いように思う。
    美知恵さんの手紙は、そもそも攻撃的なものなのだから尚更だ。
    卑怯だと思う。偉そうなことを言っているけど、あなたのしていることはなんだと言ってやりたい。

    珊瑚さんや雪ちゃんには、そんな悪意をおおらかに受け流せる余裕を常に持ち続けてほしい。
    そしてきっと大丈夫だと、物語のラストの2人は思わせてくれる。
    幸せってこういうものだとわかった気がした。

    • まろんさん
      書籍広告やみなさんのレビューで気になっていた本なのですが、
      takanatsuさんのこのレビューの最後の3行と
      引用された文章がとても素敵で...
      書籍広告やみなさんのレビューで気になっていた本なのですが、
      takanatsuさんのこのレビューの最後の3行と
      引用された文章がとても素敵で
      よ~し!ぜったい読むぞー!と、エンジンがかかりました♪
      ありがとうございます(*^_^*)
      2012/08/06
    • takanatsuさん
      まろんさん、ありがとうございます。
      今読み返すと感情的になっていて恥ずかしいです‥。

      でもこの本のラストは本当に素敵ですので、是非!
      まろんさん、ありがとうございます。
      今読み返すと感情的になっていて恥ずかしいです‥。

      でもこの本のラストは本当に素敵ですので、是非!
      2012/08/06
  • 「赤ちゃん、お預かりします」

    そんな貼り紙を見て、藁にもすがる思いでくららを訪ねるシングルマザーの珊瑚。娘の雪を育てるため、生きるために働かなければならない。

    パン屋で働く中、アレルギーを持つ男の子、その母親と出会う。アレルギーを持つこどもにしてあげられることはないか、ナーバスになることもやむを得ない母親の力になれることはないか。
    くららと過ごし、一緒に食事を取る中、他者から何かあたたかいものを手渡してもらうということが、生きる力に繋がるということに気づき、珊瑚はカフェを開きたいと思うようになる。


    カフェを開くまでの過程がきちんと書かれてあるのがとてもよかったです。
    また、シングルマザーであることの気負い、同情されたくないという気持ち、嫉妬心などを素直に認めて克服しようとする珊瑚が清々しいなと思いました。
    前向きで料理上手のくららがとても魅力的です。相手の全てを認め、受け入れるという姿勢、彼女の信仰に関わるものもあるかもしれないけれど、すごいなぁと思いました。くららの作るごはんが食べたい!
    時生さんも場を和ませてくれる素敵なキャラでした!

    母親に愛されないということを受け入れた珊瑚の気持ちは想像を絶します。それでも雪の母親として、一人の人間として前を向いて生きる珊瑚の強さ、母親の強さを感じました。

    最後の雪の「おいちいねえ、ああ、ちゃーちぇねぇ」はほんとに泣けました。
    「食べる」こと。「生きる」こと。
    ごはんを食べると元気になる。
    それは一杯のスープでもたとえさ湯だってかまわない。「食べる」という行為は明日も頑張ろう、生きようと思わせる、心の「復興」に繋がる。
    単純だけれど、その本質に気付かされる、考え直すきっかけになる一冊です。

  • シングルマザーの珊瑚が娘・雪を抱えて、周りの人間に助けられながら惣菜カフェを開店し、日々の生活を営む。
    淡々とした文章の中、くららさんの透明で柔らかい空気が物語に温かさを与えている。あぁ、こういう言い方もあるのかと、彼女の感性が素敵だと思った。
    梨木さんの描くおばあさんは、いずれもそういう空気で「西の魔女が死んだ」のお祖母さんを思い出す。

    涙する描写はあるが、自分や雪の事でさえも、あまり心を動かしている様には見えない珊瑚。
    でもネグレクトを受け、一人で生き抜く必要があると、少しの事では心が揺らがなくなるのだろうか。
    それが何に対しても無感動に見えて、物語の主人公なのに浮いているように見えた。
    雪の夜泣きが酷く疲れ果て、口を抑え部屋に置き去りにしてしまった珊瑚。虐待だと感じた、けれど疲れ果てて自分を責める気力がない。泣きながら初めて自分の名前を読んだ雪をいじらしくも憎らしいと思ってしまった、母親ならば誰でも経験する苦々しい感覚。
    ようやく人間らしく、母親らしく戦っている姿に見えた。そして、自分に重ね合わせて読んでしまった。
    今日大きな声で怒鳴ってしまった息子へ謝っても足りないから、いっぱい抱き締めたくなった。

  • 働く女性、子供のいる女性、日々の生活に疲れてる女性、夢がある女性、そんな女性に読んで貰いたい一冊です。

    シングルマザーの珊瑚、そしてその娘の雪の物語。珊瑚が子供を育てながら働いて生きることの難しさに直面しているところから物語は始まります。そこで出会うのが、くららというお祖母ちゃん。このお祖母ちゃんは元修道女で、作者の梨木さんっぽい登場人物。くららと出会うことでゆっくりと珊瑚の人生が動き出して、ついにはお惣菜屋さんを開業します。その過程での珊瑚のゆっくりとした心の動き。多くの女性が共感するんじゃないでしょうか。

    途中で美知恵っていうとにかく性格の悪い女が登場するのですが、私は彼女のストレートな思い(というか悪意といっても良いかも)にもっとも共感してしまった。この女性は珊瑚に出会った先から敵意むき出し。とにかく性格が悪い。
    それは「シングルマザーの何が偉い?」っていう本当にストレートな負の感情から来ているのだけど、そんな美知恵に対して馬鹿正直な潔さを感じた。隠そうとしない悪意。すごく良く言えば正直。
    そんな美知恵の直截な悪意に晒された珊瑚はそこで初めて自分を客観視します。
    わたしはこの物語ではこのシーンが一番好きです。

    賛否両論だと思うけど、くららとの出会いで得たものが珊瑚の光だとしたら、対照的に美知恵との出会いで得たのは珊瑚自身の影の部分。でも嫌な出会いだからって本人に負の影響があるわけじゃありません。光と影、両方の自分を知ることで人は大きく成長できるんです。

    地味な作品だけど色々考えさせられました。

    • nico314さん
      kanakoyoshidaさん、はじめまして。
      フォローありがとうございます。

      >賛否両論だと思うけど、くららとの出会い で得たもの...
      kanakoyoshidaさん、はじめまして。
      フォローありがとうございます。

      >賛否両論だと思うけど、くららとの出会い で得たものが珊瑚の光だとしたら、対照的 に美知恵との出会いで得たのは珊瑚自身の 影の部分。でも嫌な出会いだからって本人 に負の影響があるわけじゃありません。光 と影、両方の自分を知ることで人は大きく 成長できるんです。

      そうですね。
      確かに、関係の良好な人だけと暮らしていけたらよいけれど、現実には難しい。
      本人が良い人だからこそ、却って妬まれてしまうこともありますよね。

      美知恵はなぜあのような行動に出たのか、説明はなかったけれど、彼女に強い負の感情を起こさせた原因がとても気になりました。
      現実にもわけもわからず不条理な行動をとられることもありますし・・。
      2013/02/01
    • cecilさん
      >nico314さん

      おおお!こちらこそフォロー有難うございます!
      そしてコメントまでいただいてしまって本当に嬉しいです。

      そういえば美...
      >nico314さん

      おおお!こちらこそフォロー有難うございます!
      そしてコメントまでいただいてしまって本当に嬉しいです。

      そういえば美知恵については詳しく書かれていませんでしたね。美知恵の背景にどんな出来事や感情があるのか気になってきてしまいました。ぜひ美知恵を主人公にスピンオフ作品を出してほしいですねw
      私は小説とかだとよくヒールに注目してしまいます。あと悪人が主人公の暗めの小説とかも嫌いじゃないです。
      ヒールの思考や感情に興味深々です。
      2013/02/04
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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梨木香歩の作品

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