雪と珊瑚と

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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本棚登録 : 1878
レビュー : 373
  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041101438

感想・レビュー・書評

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  • くららさんが、とてつもなく素敵だ。

    私が崇拝する三大おばあちゃんの一人、『西の魔女が死んだ』の
    まいのおばあちゃんを彷彿とさせるような、しなやかな強さと温かさ♪
    (おばあちゃんと呼ぶにはまだまだお若いので、
    崇拝するおばあちゃん軍団には加えられないのが残念だけれど)

    母によるネグレクトで、帰宅しても食べるものもなく、ひとりぼっちで調味料を舐め
    給食でなんとか生き永らえ、21歳にしてシングルマザーとなった珊瑚の

    愛情こめた家庭料理がひとかけらも入ったことのない淋しい胃袋を
    ホクホクのおかずケーキや大根の茹で汁のスープで温かく満たし、
    疲れた人をおなかの底から支えるお惣菜の店を出す、という
    飢えを味わい続けた珊瑚ならではの夢を抱くきっかけを作り、
    人見知りの真っ只中の雪ちゃんを預かりつつ、その夢を後押しする。。。

    そんなくららさんや心ある仲間に支えられながら、
    カフェで出すメニューを選び、ネーミングに頭を悩ませる珊瑚に
    「ほらほら、アトピーでも食べられる、あの長芋のメロンパンもどきも入れないと!」だの
    「『エビとブロッコリ』、『カニとブロッコリ』は、あんまりだよ!
    もちょっと飾り気があっても。。。」だのうるさく語りかけ、
    すっかりスタッフになった気分でメニュー作りに参加している自分にハッとしたりして。

    。。。というくらい感情移入して読み耽っていたので
    珊瑚がネグレクトを受けて、食事を満足にとることすらできなかったことも
    人の好意を利用するような振舞いを薄汚いと感じ、何につけても遠慮がちであることも
    彼女が抱える事情を何ひとつ知らないのに、
    「私はあなたが嫌いです。」とわざわざ手紙を送りつけ
    「周りから少しずつ親切と同情を掠め取る浅ましい人」と決めつけ
    「中身がなにもない、不愉快だ、あなたの生き方が鼻についてたまらない」
    と、悪意を投げつける美知恵には、珍しく怒りがこみ上げてしまった。。。

    そんな一方的な手紙にまで怒りより先に納得と反省を抱いてしまう珊瑚に呼びかけたい。

    人の胃袋も心も温めるお店を出せたのは、
    さみしい胃袋と心に悩んだあなたへの、紛れもない「お計らい」だよ。
    素晴らしい人たちがあなたの周りに自然に集まって支えてくれるのは
    同情でも施しでも哀れみでもなく、
    あなたが不器用だけど真摯に生きようとしているからだよ。
    自分の観点に凝り固まって勝手にあなたを格付けして
    投げつけてくる毒を、唯々諾々として飲み込まなくていいんだよ。

    母の愛を得られずに大きなうろを抱え、
    外についた内臓に傷を負いながら生きていく糧を得ようとしていた
    さみしい木のようだった珊瑚は
    お腹の中に雪というあたたかい命を宿すことで、
    空っぽだった内側と傷ついてボロボロになった外側をくるっとひっくり返して
    「おいちいねえ、ああ、ちゃーちぇねえ」と、雪と一緒に幸せをかみしめられる
    おかあさん、という人間になれたんだよ。

    • takanatsuさん
      「素晴らしい人たちがあなたの周りに自然に集まって支えてくれるのは
      同情でも施しでも哀れみでもなく、
      あなたが不器用だけど真摯に生きようとして...
      「素晴らしい人たちがあなたの周りに自然に集まって支えてくれるのは
      同情でも施しでも哀れみでもなく、
      あなたが不器用だけど真摯に生きようとしているからだよ。」
      本当にその通りだと思います!
      美知恵さんのような人のそばにはきっと集まってこないでしょう。
      きっとそれが全てを物語っているのですよね。
      2012/09/12
    • まろんさん
      takanatsuさんの、心を込めたレビューを読んで
      ぜったいに読まなきゃ!と思って出逢えた本です。
      くららさんみたいな芯のある優しさ、穏や...
      takanatsuさんの、心を込めたレビューを読んで
      ぜったいに読まなきゃ!と思って出逢えた本です。
      くららさんみたいな芯のある優しさ、穏やかさを備えたひとになりたいと思いつつ
      自分の好悪を見境なく投げつけてくる美知恵さんにカッカしてしまって
      ああ、私はまだまだ修行が足りないなぁ、と思う今日このごろ。

      図書館から借りましたが、どうしても手元に置きたいので
      ちゃんと買ってきます!
      すばらしい本を紹介してくださって、ありがとうございました(*^_^*)
      2012/09/12
  • まず、美しい響きのタイトルがいい。読むまえからずっと思っていた。
    表紙はどことなく哀しみのような寂しさのようなものを感じた。
    それはきっと珊瑚の覚悟なのかもしれないと
    読み終えたいまは思う。

    生まれたばかりの雪のかわいらしいことといったらない。
    珊瑚の自立心はそのかわいさに比例するほど確立している。
    頼る人はいない。ひとりで生きていかなければならない。
    雪を育てていかなくてはならない。
    その気持ちの強さ。まだ21にして、なんと立派なことか。

    出会いは大切だと心の底から思う。珊瑚は出会いに恵まれた。
    そして珊瑚の生き方はそれに応えている。

    美知恵の言動は、わたしのおなかのなかに重いものがたまっていった。
    もう関係がなくなってから、そんなことをわざわざ伝えるなんて
    なんの自己満足だ。


    料理が作っているときからおいしそう。ネーミングもいい。
    わたしも「雪と珊瑚」に行ってみたい。
    自分を休めることのできる場所にできるだろう。

    夢中になって読み、夜更かしをしてしまった。

    • まろんさん
      おお!私ものめり込んで読みました!
      macamiさんも同じ気持ちで読んでくださったみたいで、感激です♪

      21の若さで雪を産んで育てて
      それ...
      おお!私ものめり込んで読みました!
      macamiさんも同じ気持ちで読んでくださったみたいで、感激です♪

      21の若さで雪を産んで育てて
      それまでの苦労も、これからの苦労もぜんぶ背負い込もうとする珊瑚が
      すばらしい出会いに恵まれたっていいじゃない!
      珊瑚の過去も生きる姿勢も知らない人が
      勝手な思い込みで貶める権利なんかないのに!
      と、とてつもなく感情移入して読んでしまった本です。

      「雪と珊瑚」のお店そのままに、
      悪意をふりまく美知恵さえやわらかく受け入れようとする珊瑚にくらべて
      私は人間ができてないなぁ、と今になって思ったりして(笑)
      人とつながることの難しさも美しさも、教えてくれる本ですね(*^_^*)
      2013/04/10
    • macamiさん
      わお!まろんさんと同じ気持ちだなんてうれしいです!

      美知恵はもう「キィッ!」となるぐらいいやでした。(苦笑)
      そしてこんな気持ちでいる人が...
      わお!まろんさんと同じ気持ちだなんてうれしいです!

      美知恵はもう「キィッ!」となるぐらいいやでした。(苦笑)
      そしてこんな気持ちでいる人がどうして結婚?と。
      ・・・わたしのほうがまるきり人間できていません。苦笑

      起きること全部を自然に受け入れて、どんな困難も
      ただ超えていくことしか考えない珊瑚の姿勢が
      とても素晴らしかったですよね。
      2013/04/11
  • 二十一歳のシングルマザー、珊瑚。
    ようやくお座りが出来るようになった娘の雪。
    散歩の途中で見つけた張り紙で出会って、娘の預け先となったくららさん。

    珊瑚は生活のために娘を預けて、パン屋でのアルバイトを始めたけれど、「人の生活を支えるような食べ物を提供したい」とカフェを開こうと考えるようになる。

    背の高い屋敷林に囲まれた古い家。
    顔の見える生産者が育てた無農薬の野菜をふんだんに使って、手間暇をかけて作ったお惣菜。
    ネルドリップで丁寧に入れた芳醇なコーヒー。

    ずいぶん前にNHKの昼の番組で武蔵野の面影を求めて、三鷹か吉祥寺あたりの家から中継しているのを見たことがある。
    あれは、夏の終わりだったか秋口で、少し和らいだ陽射しが木々の間から差していた。家はまるで旧軽井沢あたりに建っていてもおかしくないような雰囲気があった。
    屋敷林という言葉からその家を思い出した。

    豊かなうまみや力強い味わいを持つ野菜を丁寧に料理をして、人を養う食べ物をつくる描写。
    人の温かな思いやりや善意、妬みや複雑な感情。
    丁寧に丁寧につづられていく。

    自身もシングルマザーの母親に育てられ、愛された記憶が薄い珊瑚が不思議と人を引き付け、助けられて、カフェの営業も軌道に乗る。資金もなく、飲食店でろくに働いた経験もない珊瑚が店を切り盛りして成功することや、彼女を支えてくれる人たちの献身ともいえる態度も、現実にはなかなか難しいことだと思う。

    日常は淡々と過ぎていき、何かが起こっても、期待されるような解決もないし、その事実を深追いすることもなくそれで終わっていく。
    とてもあっさりしているようでいて、けれどリアル。

    P316
    すべてのことに解決がつかないまま、けれど生活はそんなことはお構いなしに次から次へと続いていく。朝が来て夜が来て確実に日々は流れる。

    本当に、そう。
    それでも、つかの間、丁寧に料理をしたり、誰かのために時間を割いたり、けれど結局効率的でもなく、一見無駄が多いような日々を時には必死に、時には淡々と過ごしていく。

    子どもを持つということも、シングルマザーであるということも、
    独身でいるということも、嫌いな人がいるということも、とにかく否定されない。すべてあり、と思わせてくれる。

    少し疲れている人に是非ともおすすめしたい。

    • まろんさん
      この本をこんなに穏やかに、心静かに読めるnicoさんが、すばらしいと思いました。

      私はぽわーっとしているせいか、第一印象で苦労知らずで甘え...
      この本をこんなに穏やかに、心静かに読めるnicoさんが、すばらしいと思いました。

      私はぽわーっとしているせいか、第一印象で苦労知らずで甘えている、と思われてしまうことが多くて
      渋谷のスクランブル交差点で信号待ちしているとき、いきなり
      見知らぬ女性に、「あなたみたいな人大嫌い!」と言われて固まっちゃったこともあったりして。
      そんなこともあって、なんだか珊瑚にやたらと感情移入してしまって
      謂れのない悪意を、ぜんぶ自分のせいだと思わなくていいのに、と
      なんだかむきになって読んでしまったところがあるのです。
      言葉でも、行ないでも、お料理でも、周りのひとを温かく包むくららさんのようになりたいなぁ、
      と切実に思います(*^_^*)
      2013/01/10
    • nico314さん
      まろんさん

      私はくららさんや珊瑚には憧れるけれど、魅力がまぶしくて感情移入できず、むしろ一緒に働くゆきちゃんの目線で、珊瑚を応援しつつ...
      まろんさん

      私はくららさんや珊瑚には憧れるけれど、魅力がまぶしくて感情移入できず、むしろ一緒に働くゆきちゃんの目線で、珊瑚を応援しつつ、くららさんと仲良くなりたいな、なんて思いながら読んでいました。
      丁寧に料理をこしらえることは、生活を土台から作り上げていくことにも似て、珊瑚が再生されていくようで気持ちがほんわかしました。

      まろんさん、とっても嫌な目にあってしまったのですね。その時は、理不尽さに打ちのめされたり、後から怒りが込み上げてきたり、きっと簡単には忘れられない苦々しい気持ちが、おりのように沈んだのではないでしょうか。(背中に手をあててさしあげたい気持ちです)
      この本の中の手紙の主には、何があったんだろうとつい因果を考えてしまっいました。

      それにしても、くららさんも珊瑚もきれいな言葉づかいですよね。料理も言葉づかいもなんだか人の在りようが現れているようで、今日の夕食は少しだけ丁寧に作った(当社比)影響されやすい私です。



      2013/01/10
  • ラストがいい。すごく好き。
    なんてなんて喜びに満ちた瞬間なんだろう。
    この幸せはきっと彼女のことを包み続けるはず。
    そして彼女も周りの人に安らぎと喜びを与え続けるはずだ。

    物語の最初、珊瑚さんと雪ちゃんがくららさんに出会う場面から、圧倒的な安心感に包まれた。
    くららさんが作る料理の湯気が私のことまで癒してくれるようだった。

    珊瑚さんが出会う人が彼女に優しいのは、珊瑚さんが魅力的な人だからだと思う。
    好きになれない人に対して、他人はこんなに近寄ってきてはくれない。
    私には美知恵さんの言うことが正しいとは思えない。
    手紙で言いたいことを一方的にぶつけるというやり方も気に入らない。
    顔を見ないで言葉を受け取ることはとても難しい。
    書き手にそんな意図がなかったとしても、受け手は攻撃的なニュアンスを強く受け取ってしまうことが多いように思う。
    美知恵さんの手紙は、そもそも攻撃的なものなのだから尚更だ。
    卑怯だと思う。偉そうなことを言っているけど、あなたのしていることはなんだと言ってやりたい。

    珊瑚さんや雪ちゃんには、そんな悪意をおおらかに受け流せる余裕を常に持ち続けてほしい。
    そしてきっと大丈夫だと、物語のラストの2人は思わせてくれる。
    幸せってこういうものだとわかった気がした。

    • まろんさん
      書籍広告やみなさんのレビューで気になっていた本なのですが、
      takanatsuさんのこのレビューの最後の3行と
      引用された文章がとても素敵で...
      書籍広告やみなさんのレビューで気になっていた本なのですが、
      takanatsuさんのこのレビューの最後の3行と
      引用された文章がとても素敵で
      よ~し!ぜったい読むぞー!と、エンジンがかかりました♪
      ありがとうございます(*^_^*)
      2012/08/06
    • takanatsuさん
      まろんさん、ありがとうございます。
      今読み返すと感情的になっていて恥ずかしいです‥。

      でもこの本のラストは本当に素敵ですので、是非!
      まろんさん、ありがとうございます。
      今読み返すと感情的になっていて恥ずかしいです‥。

      でもこの本のラストは本当に素敵ですので、是非!
      2012/08/06
  • 「赤ちゃん、お預かりします」

    そんな貼り紙を見て、藁にもすがる思いでくららを訪ねるシングルマザーの珊瑚。娘の雪を育てるため、生きるために働かなければならない。

    パン屋で働く中、アレルギーを持つ男の子、その母親と出会う。アレルギーを持つこどもにしてあげられることはないか、ナーバスになることもやむを得ない母親の力になれることはないか。
    くららと過ごし、一緒に食事を取る中、他者から何かあたたかいものを手渡してもらうということが、生きる力に繋がるということに気づき、珊瑚はカフェを開きたいと思うようになる。


    カフェを開くまでの過程がきちんと書かれてあるのがとてもよかったです。
    また、シングルマザーであることの気負い、同情されたくないという気持ち、嫉妬心などを素直に認めて克服しようとする珊瑚が清々しいなと思いました。
    前向きで料理上手のくららがとても魅力的です。相手の全てを認め、受け入れるという姿勢、彼女の信仰に関わるものもあるかもしれないけれど、すごいなぁと思いました。くららの作るごはんが食べたい!
    時生さんも場を和ませてくれる素敵なキャラでした!

    母親に愛されないということを受け入れた珊瑚の気持ちは想像を絶します。それでも雪の母親として、一人の人間として前を向いて生きる珊瑚の強さ、母親の強さを感じました。

    最後の雪の「おいちいねえ、ああ、ちゃーちぇねぇ」はほんとに泣けました。
    「食べる」こと。「生きる」こと。
    ごはんを食べると元気になる。
    それは一杯のスープでもたとえさ湯だってかまわない。「食べる」という行為は明日も頑張ろう、生きようと思わせる、心の「復興」に繋がる。
    単純だけれど、その本質に気付かされる、考え直すきっかけになる一冊です。

  • 山野珊瑚は、21歳。
    同棲のような結婚。出産は同じアパートで助産師養成学校に通っていた那美に手伝って貰った。
    そして離婚。生後7ヶ月の赤ちゃんの雪を抱え、途方に暮れていた。
    まず預けなければ働くことも出来ない。
    さまよっていたら「赤ちゃん、お預かりします」という張り紙を見つける。
    古びた普通の民家に一人で住む中年の女性・藪内くらら。
    くららの好意に救われ、背水の陣からの暮らしが、どうにか始まる。

    高校を中退したときから勤めていたパン屋に戻ろうとすると、今は歓迎するけれど、実は来年店を閉めると言われる。
    親切な店主夫妻だが何か事情があるらしい。

    くららは料理上手で、知恵と包容力がある。
    尼僧として海外に行ったこともあるという変わった経歴は、少しずつゆっくりとわかってきます。
    くららの甥の貴行は農業をやっていて、美味しい野菜を作っていました。
    珊瑚は生い立ち故にあまり人に馴染まない方だったが、少しずつ、くららに料理を習っていきます。
    くららさんの料理と気配りが何とも素敵なのです。

    パン屋「たぬきばやし」で働きながら、仕事帰りで疲れた人に、身体にも心にも優しい料理を作りたいと思い立ちます。
    店を出したらいいと助言され、驚愕するが。起業のために借金する方法があるのだ。
    店を出すとはどういう事か教えて貰うために、知り合いの店の手伝いに行くと、何もかも初心者なのできびしく怒られてしまう。
    しかし物件を見に行くと、少し駅からは遠いが、木立に囲まれた雰囲気のある古い家で、すっかり気に入ったのだ。
    パン屋のバイト仲間・由岐も積極的に協力。
    意外にとんとん拍子に、店の話は進んでいく。

    珊瑚自身は、やはりシングルマザーだった母にネグレクトされて、家に何の食べ物もないまま何日も放っておかれたという育ち。
    給食で生き延びていた。
    スクールカウンセラーの藤村に思い切ってそのことを訴え、毎朝トーストを食べてから教室に行くようになる。
    高校に行けたのも彼女のおかげだが、母親は学費を払わないまま連絡が取れなくなったので、中退。
    その後は連絡できなかった藤村にようやく連絡してみると…

    赤ちゃんの雪がとても可愛い。
    子供は無条件にかわいいと思う方ではないんですが、この描写にはやられました。
    夜泣きをされて苦しむ珊瑚にはちょっと同情するけれど。
    そういう時期は大変だよね。
    わずか1時間、雪のいる部屋の扉を閉めてしまったことに深い罪の意識を抱く珊瑚。
    こんな一途な人だから、周りも手助けしたくなる。

    パン屋のバイト仲間だったが、珊瑚を嫌っていた美知恵。
    後にわざわざ手紙に「あなたが嫌いです」と強い非難を書いてくる。
    人に甘えていいのか迷っていた珊瑚は、全否定された思い。

    こういう事が起きうるってことは、年の功でわかります。
    異質なものがよく思われないことは時々あるけど、きついことをわざわざ言ってくる場合というのは~
    言われた側の真実を見ていることはまずない。言う側の性格やこだわり、コンディションのほうが大きいもの。
    ネグレクトされた生い立ちの珊瑚に、ようやく訪れた幸運の方が多かった時期。
    こんな人の様子をポーズと思うのがねえ…美知恵は心得違いをしていると思うけど。
    おそらく店を見に来て、すごい労働量で苦心もしていることに気づいたら、少しは見方が変わるでしょう。少しは。
    言われた側が深く考えた結果、何か成長することもありますよ。
    一人で生きてきたのではないと、珊瑚が改めて実感したように。

    若い無責任な元夫・泰司が顔を出したり、その両親が孫に会いたいとやって来たり。
    行方がわかった母に会いに行ったことも。
    はっきりした結論を出さないまま、珊瑚がなんとなく希望を抱く心境になるのがいいですね。
    そして、雪の生命力溢れる言葉。
    無敵だなあ!

    • まろんさん
      「きついことをわざわざ言ってくる場合というのは、
      言う側の性格やこだわり、コンディションのほうが大きい」
      というsanaさんの洞察力に溢れた...
      「きついことをわざわざ言ってくる場合というのは、
      言う側の性格やこだわり、コンディションのほうが大きい」
      というsanaさんの洞察力に溢れた言葉に、うんうん、と深く納得しました!
      私は美知恵の理不尽さに「きーー!」とひたすら憤慨するばかりだったので。。。

      それにしても、聖母のようなくららさんが素敵すぎる作品でした♪


      2012/10/05
    • sanaさん
      まろんさん、
      素敵な作品ですよねえ。
      くららさんが本当に貴重な存在で、作る料理もひとつひとつ美味しそうだし、ちょっとしたひと言や受け止め...
      まろんさん、
      素敵な作品ですよねえ。
      くららさんが本当に貴重な存在で、作る料理もひとつひとつ美味しそうだし、ちょっとしたひと言や受け止め方がいいんですよね。
      人柄だけじゃなく、幅広い経験もあって初めて、ここまで出来るんだなあ…

      珊瑚の視点から主に描かれていて、店を出すあたりは、急に上手くいくようにも見えるのです。でも案外、事が動く時ってこうなんじゃないかと。
      その後、危機も来る、やっぱり。

      生々しくて、けっこう長い時間、考えちゃいました。
      美知恵の言ってきたことが当たっているように思う珊瑚に「いやいやいやいや、それは違う!言葉の意味は正確にとらないと」と言ってあげたくて。
      核心に迫る部分があるというのは、当たっているのとは違うので。美知恵がどういう人間か背景は書かれていないのでわかりませんが。
      こういうときに起きうる問題だというのはよくわかるんですよ~。
      2012/10/05
  • 梨木香歩の小説を読むときって、自分が何かに躓いたり気になったりするときだなあと思います。今の自分の心境とシンクロ率が高かったので星5つです。21歳のシングルマザーの珊瑚が、カフェを併設した惣菜店を開くことを決意し、開店後も葛藤しながら娘の雪と生きていく自分の居場所をつくっていくお話でした。

    珊瑚は、何かにぶつかるたびに不安を抱え、やりたいと決めたことなのに自信をぐらつかせながら、綱渡りのように一歩一歩進んで行きます。確たる支えがないまま進んでいく様子があまりに等身大で夢中で読んでしまいました。支えがないというのは珊瑚がシングルマザーで身分が不安定であるというようなことではなく、自分の決断を絶対的に肯定してくれる存在はいないということです。

    お店を開くことを決断しても、開店しても、そのお店が軌道に乗っても、絶対的な安心感はやってきません。不安を抱えながら、でもやっていくしかないという現実感が丹念に書かれていました。中でも美知恵からの手紙にはひやっとさせられました。文面だけ読めば悪意のある手紙ですが、驚き傷つきながらも「ひどく納得している自分がいる」と思う珊瑚の心情にかなり共感。

    この作品でも、エッセイでも、梨木さんは、自分の人生を遠くから見ているような、自分と現実が乖離しているような、本当は自分はからっぽじゃないか、という不安にたびたび触れています。ついつい不安なときに梨木さんの本を読んでしまうのは、こうした不安に共鳴しているからだと思います。

  • 出来すぎな感じが否めない。
    何もかもがタイミングよく現れ、珊瑚を助けてくれているみたいに思えて。
    「そんなおとぎ話みたいな話、あるわけないよ」
    と思う私は今、ちょっとやさぐれてるのかな?
    そもそも、これはお話なのだ。話がうまく進んでそれで幸せを感じて、何が悪いんだ。
    前向きに努力を重ねる人には、くららさんの言うような「お計らい」的めぐりあわせってあるのだろうな。
    だから、何かしらの希望はいつでも持っていようと思える。

    まだ若い珊瑚だけれど、素材と真摯に向き合い、世間に対する諦観とも違う第3者的な視点を保持しつづけるその姿に、エッセイで垣間見た梨木さんの姿が重なって見えた。

    ああ、子供の無邪気さって、本当に天使みたいだなぁ。
    ラストシーンでは、珊瑚じゃないのに、涙腺が緩んでしまって。
    読後は心がほわっと温かだ。

  • 最初、出版社の新刊情報ページにタイトルが載った時、それは、「雪と珊瑚」だった。たった四文字に心惹かれて、素敵だなぁと思ったものだけれど、出版がのびのびになり、最終的なタイトルは、「雪と珊瑚と」になった。たった一文字がつけくわえられたことで、雪と珊瑚、シングルマザーとその子供の世界に、たくさんのひとたちがつながっていることが、わかる。

    珊瑚は親にネグレクトされ育ったせいで、ひとに頼るということができない。ただ目の前にある現実から逃れるという一心で21歳まで生活をしてきた。その彼女が、くらら、という珍しい経歴をもつ女性と出会い、総菜カフェを開くようになるお話。

    カフェの経営は一見順風万般だが、珊瑚の性質で、いくつもの葛藤を抱え、それを考え、考え、ゆっくりと乗り越えていく。
    その悩みは、共感できることもあれば、そういうことを考えるのかという発見もあり、その彼女の内面を深く描くことで、「かわいそう」な話でもなく、単なる成功物語でも終わらせていない。

    文章は、最近ずいぶん「軽く」て「短い」文章を読んでいたせいか、段落のない長い文章にいったんひるむが、読み出すと心地よい。やはり梨木さんの文章だ。静謐で、奥にある力を感じる。

    物語は、いったんはエンドマークをつけているけれど、わたしは続きがあるように思えてならない。なにより続きが読みたい。雪が大きくなるにつれて、珊瑚の世界はもっと広がざるをえないだろう。そこでどう対応していくのか。見守りたい。

    それにしても、物語の最後で、どっと涙があふれそうになった。
    赤ちゃんの「雪」の成長物語でもあるこのお話。彼女の描写もまた、かわいいの一言で終わらせない。赤ちゃんは赤ちゃんなりに感情があり、その発露があるのだと気づかされる。その描写の細かさは、珊瑚がいかに雪をしっかりと見ているのか、ということにもつながっている。

  • 自分の過去と重なる部分が多く、読み進めるうちに古傷が痛むこともあって、辛い事もあった。

    誰にも頼らずに育ててきたようで、実は色々な人に助けられ、支えられている。
    例えば、道で転んだ人に手を差し伸べるのと、それは同じだと私は思う。
    助けられて当たり前と思うのは間違いだけど、助けられたことに卑屈になるのも違うんじゃないかと。
    でも渦中の珊瑚にはそれがなかなか呑み込めない。
    このお話は、様々な経験を通して、珊瑚が「大人」になっていこうとする過程を描いたものかなと感じた。
    子が出来たから大人になる訳でもなく、就職したら大人でもない。という。

    最後に、雪の言動にいちいち涙が出てしまう私もやはり心のネジが緩んでるのだろう。
    夜泣きが続いて自分も限界で一人部屋に閉じ込めてしまうところ、気持ちが解りすぎて泣きながら読んだ。

著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

雪と珊瑚とのその他の作品

雪と珊瑚と (角川文庫) 文庫 雪と珊瑚と (角川文庫) 梨木香歩

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