- 本 ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041103050
作品紹介・あらすじ
雲南の山村に住む2ちゃんねらー。欲望の海マカオで「ニッポン定食」として働いていた風俗嬢。上海で日系企業の依頼で組を作ったやくざ。嫌われている国をわざわざ選んだ者の目に映る、日本と中国とは――。
感想・レビュー・書評
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和橋と言う本で、中々面白い本だったと思います。
まず和橋と言う言葉の定義に関してですが、著者は中国に渡った日本人と言う定義で話を進めています。架橋は各国に渡った中国の人間だったので、和橋は中国で活動する日本人と定義すべき、と言うロジックは全然通ってないと思いますが、この本の対象は、「中国に渡った」和橋であります。面白いです。
ストーリー形式で話が進んでいきますが、話の発端は2ちゃんねるに書き込みをした、中国の田舎で暮らしていると推測される日本人を探し出し、インタビューしようと言うところになります。
書き込みに残された幾つかの痕跡から、彼の身元を追っていくのが前半になりますが、途中で話が終わり、著者のこれまでのインタビュー話に切り替わります。
例えば、マカオで売春する日本人女性の章では、日本人であることを武器にして海外で積極的に富を得ようとする女性たちの話が出てきます。ギャンブル的でもそこに魅力を感じる女性たちの生き様ですね。力がなければ夢を描けない日本より、一晩17万と言われる世界に夢を見る、と。
続いて中国に於けるエリート在員の暮らしについて。領事館などで働く人々、大企業の駐在員が月30万と言われる日本人向け高級マンションで暮らし、日本に居るよりも日本らしい、かつて日本人が理想として持ってきた生活を謳歌する人々の話は中々面白かったです。インターナショナルスクールは月々20万円だっけな。現実問題として子供の教育をどうすべきか、というのは難しいですね。どうでも良いですが、我が母校の名前が出てました。これだけ金を掛けて我が母校に入れた親たちは発狂するのでは…。閉じた社会とそこでクラス人々の未来はどこに続くのか、興味深いです。何にせよ遠くない未来に既存のシステムではやっていけなくなるでしょうね。
更に続いて、中国で活動する日本人ヤクザの話。日本人社会が中国社会でやっていく為に必要なインフラとして必要とされ、金とコネの力で機能する暴力団システム、その成り立ちについて。
そして閑話の最後に日中友好と言う良く分からん言葉に踊らされ、また自分の道を生きている人々の話ですね。これはそこまで斬新な話でもなかったです。
そして話は戻り、当初の2ちゃんねらー探しが終わり、インタビューしている場面に戻ります。簡潔に言えば、窮屈な日本社会より、旧態依然で混沌としている中国の方が住みやすい人々も居るようです。
普段目にしない中国に暮らす日本人のナマの声が収録されている(と思われる)ので、知識として非常に有用だと思われます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
若いルポライターが放った一作。3年ぐらい前に香港ではちょっと話題になった。「和僑」という言葉は、ここにいると割と身近。ただ、この本が定義する和僑は大分狭義なもの(筆者も断っている)、従い僕はこの本で書かれていることが「和僑」とは思わない。中華圏に限定すべきとも思わないし、中華圏でももっと違った層をカバーする方が実態に近い。彼が捕まえたのはかなり隙間的なところにいる人達なので、それをして「和僑」というのは、どうかな。でも、今の中国の実態で見えづらいところにタッチしてる、と言う点では、読んでもいいと思う。ハードカバーの値段払うほどの価値があるかはわかんないけど…(俺払っちゃったよ!)。ところでこう言う本はKindleだったらガツンと値段下げないと!
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中国に渡った日本人(和僑)に、もはや現実の日本国内にも存在しないほど、過剰に日本らしい日本を見てしまうというルポ。
おしとやかで男性を立てる大和撫子(マカオの風俗嬢)、勤め人のご主人と専業主婦の奥さんからなる幸せな四人家族(上海の駐在サラリーマン)、堅気の人間を守る侠気を持つやくざ(上海のやくざ)、理想主義だけで割り切れるシンプルな国際認識(北京で日中友好の幻想に翻弄された人たち)、閉鎖的だが内部に入り込めば居心地のいいムラ社会(雲南省の農村に住むVIPPER)。
著者のまとめ方に完全に賛同できるかは別として、話は面白かった。 -
総論として「和僑」を語るにはサンプルが少なすぎ、かつ著者が興味を持った対象のみ。こんな人もいるのね、という程度の話。
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中国の農村で暮らす2ちゃんねらー、マカオで稼ぐ風俗嬢、上海の闇を取り仕切るヤクザ、その一方で同じ上海でも平穏に「日本人として」の生活を全うしようとする駐在員たち…様々な理由で中国と関わり続ける"和僑"たちから、最終的に筆者は過去の日本の「残り香」を感じ取る。
一口に「中国と関わる」と言ってもその関わり方は様々だ。日本にいて中国に意見する人々もこれに加えれば、それぞれがそれぞれの立場で互いの関わり方に(程度の差はあれ)非難・意見している状況。その多様性が本書からも伝わってくる。
自分自身も細い糸ではあるが中国という国と関わりを持っている。そんな自分が個人的に興味を持ったのは風俗嬢のルポ。自分でも何故惹かれるのかは分からないが、恐らくそれは純粋な好奇心から関わってるからであろうか。「あるべき論」ではなく、今現に関わっている人たちの等身大の姿は読んでいて清々しい。「ガツガツと外に出ていけ!」というギラギラオヤジどもの論調が溢れる昨今だが、それぞれが思い思いのやり方で外国と関わる姿は、むしろ元気や希望を与えてくれる。 -
フリー記者のくせに冷静な見方と語りがよい。風俗も裏社会も表社会と根本は変わらない。常に吟味・厳選で運と知恵とコネが必要な中国。広い広すぎる。
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2024/01/28
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自分自身が旅行者という身分だったからか、旅行中に「異郷で暮らす人びと」に興味を持つようになった。なかでも、中国人はいろいろな場所で目にした。
イラク北部のクルディスタンでも中国資本の商業ビルが建っていたし、ネパールのカトマンズでは小さな中華街が建設中だった。ヨルダンでは、春をひさぐ小姐たちの店で一夜を明かさせてもらったりもした。本国内外を問わず、安くて味の保証された中華料理には幾度となくお世話になっている。まったく、中国人はたくましく生きている。
(この本が定義する)「和僑」=「中国で暮らす日本人」は、いわゆる「勝ち組」だけに限らない。彼らはどうして中国に流れ着いたのか、彼らの目に中国はどう映るのか。
国家としての「中華人民共和国」ではなく、地域の名称としての「中国」が好きだという筆者の論調は、ちょっと暑苦しいと思うところもある。それでも共感を覚えてしまうのは、やっぱり僕も「中国」が好きだからだろう。 -
和僑に関係する断片的なチープエッセイ。
著者プロフィール
安田峰俊の作品





