- 本 ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041103180
作品紹介・あらすじ
廃部寸前の都筑台高校映研の部長・遊佐渉は、映像制作に秀でた後輩の樋口真由とともに、夏休みを利用して行われる映像制作合宿に参加するが……現実と虚構の狭間で繰り広げられる惨劇に、若き探偵が挑む!
感想・レビュー・書評
-
デビュー作『消失グラデーション』でドギモを抜いてくれた
可愛い過ぎる名探偵・樋口真由が再び登場の第二弾。
今回は前作の一年前のストーリーとなります。
個人的には前作ほどのヤラレタ感はないし、
中盤までのあまりに説明的な描写の数々に正直途中
心折れそうになったけど(笑)、
(リアルさにこだわったが故なんやろうけど、詳細な映像に関する描写がちとしつこい感じは受けました)
…が一転、
残り100ページからの怒涛の展開と切ない余韻には
いやはや充分過ぎるくらい酔わせてもらいました(笑)
新進気鋭の女性映像作家・真壁梓が夏休みを利用して行うビデオクリップ制作のスタッフとして、
撮影合宿に参加することになった
私立都筑台高校2年生で映画研究部部長の遊佐渉(ゆさ・わたる)と
美貌の1年生樋口真由。
そんな中、廃校となった中学校の校舎を改装して作られた山の中のスタジオでの撮影合宿中に
クロスボウ(ボウガン)による殺人事件が発生する…。
なんと言ってもこの小説が斬新で面白いのは
現役女子高生による音楽ユニットのプロモーションビデオの撮影とそれを制作する過程を
リアルなドキュメントとして
映像に収める二重構造になっている点。
(なんと制作側のプライベートな時間もカメラが回り、合宿所のあらゆる場所にカメラが仕掛けられてます)
そしてその中で起こるアクシデントも実はすべて監督の意図したもので
それは限られたキャストにしか知らされていないんですよね。
次に何が仕掛けられてるか分からない中での撮影で
キャストもスタッフも疑心暗鬼になっていく構成が緊張感抜群で
手に汗握る非常にスリリングな効果を生んでいます。
(ただ、この複雑な構成こそが読者を混乱させる原因にもなっているんよなぁ~汗)
密室の教室から放たれた矢による「フェイクの殺人事件」。
(コレはキャストに扮した生徒が演技をしている)
現実と虚構の曖昧な境界線。
監督である真壁梓は
この合宿撮影にどんなパースペクティヴ(全体像)を思い描いているのか?
事件の謎を解かなければ
撮影は直ちに中止になってしまう緊迫した状況の中繰り広げられる
探偵・樋口真由の推理。
撮影用のカメラに映った映像を手掛かりに
ひとつひとつ地道に検証する手法もスゴく新鮮で惹きつけられます。
(ブライアン・デ・パルマ監督のサスペンス映画の傑作「ミッドナイトクロス」を思い出したなぁ~)
そして起こるフェイクではない
本物の殺人事件と
いつの間にかブレーキワイヤーを抜き取られた自転車の謎。
冒頭で書いたように
密室と梓の過去との関係に気づき、
渉のオヤジである私立探偵が登場してから
物語は俄然面白くなってゆきます。
しかしこの作者は第31回横溝正史ミステリ大賞を受賞したデビュー作「消失グラデーション」同様に、
フェアプレイにのっとった
伏線の張り方とその回収の鮮やかさ、
そしてほろ苦い青春群像を書くのが抜群に上手い。
(例えミステリー要素を排除したとしてもそれだけで充分に面白い物語なのです)
今作ではクールでツンデレな樋口真由の新たな魅力も発見できるし、
今作から新たな語り手となった
松田優作に憧れる私立探偵を父に持つ、
都筑台高校二年で映画研究部部長の遊佐渉(ゆさ・わたる)や
遊佐の幼なじみで葦原女学院高校映研・映像班チーフのお嬢様、
御津矢秋帆(みつや・あきほ)など
それぞれ痛みを抱えた少年少女たちの
キャラの書き分けも相変わらず上手いです。
作者自身、映像制作の仕事をしている経験から
撮影手法や機材の詳細な書き込みはハンパないし、
映画や音楽へのウンチクも豊富で、
CGがまだない時代のSF映画の傑作「ブレードランナー」で
未来のロサンゼルスをイメージした煙る高層ビル群の撮影秘話にはニヤリとさせられました(笑)
(しかもこれと同じ手法のトリックが物語のカギを握る重要な場面で使われています)
デビューから二作目ということで
粗やツッコミどころは多々あるけど、
まだまだ底知れぬポテンシャルを秘めた作家だと思うので
引き続き追っかけていきたいなぁ~。
映像関連に興味のある人、
切ない青春ミステリーが読みたい人、
一風変わった構成のミステリーに飢えてる人に
オススメします。
(この作品から読んでも分からないことはないけど、デビュー作の「消失グラデーション」を読んでいた方がより深くその世界観を楽しめます)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作者自身2作目にして前作の続編。設定自体は
探偵役の「樋口真由」が高校1年生の時なので
前作から遡った事件になるんですね。学校も違うし。
名門女子高校の映研部と同学園に在籍する
アングラポップユニットのビデオ制作に
同校を卒業した新進気鋭の映像作家が一枚噛み
音楽映像制作の夏合宿が開始される。そこで
起る現実とシナリオと虚構の数々。
過去に起った少女監禁殺人事件とのリンク...。
フェイクとリアルが混じった状況下で凄惨な
事件が勃発...。
正直...長いw。全体の2/3辺りでようやく事件が
発生し、ようやく虚実混じった世界がクリアに
なっていく。まるでそこまでが茶番だったかのような
展開で後半と前半のギャップに少々戸惑います。
さらにはキーパーソンとなる人物のそもそもの
動機付けが異様な環境に対して薄い印象なのと、
事件に関連する人物があまりにご都合主義的に
揃っている...という根っこの部分が余りに安易な
気もします。
作品の細かい部分はかなり面白いのですが根幹が
あまりに現実離れしていて...基本的には面白い
作品なのに勿体ない。
作中で登場する音楽ユニット「HAL Project」が
使用するシンセ群に一番テンションがあがりましたw。
女子高生がProhet5使うなんて...ズルい。 -
前作「消失グラデーション」同様、タイトルの命名が上手いと思う。
前作ではセーラー服に紺のハイソ姿の少女が床に横たわって椅子に足を載せている写真、今作はパンツも見えそうなミニ丈制服姿の少女の躍動感ある写真。……同性でも手に取ってしまう。…制服ってずるいよ!卑怯だよ!と、制服に縁のない学生時代を過ごした者として声高に叫んでみる。
前作で冴えた推理で活躍した樋口真由は、以前通っていた学校でもある事件に関わっていた…
映研の面々とOGで若手映像作家の真壁梓をつなぐ別の線は…
キーになるのは、ある男が拉致した少女たちをクロスボウの的にしていた猟奇的事件。
……えーと、前作以上に読みづらかったです。視点が変わりすぎて、疲れました。まゆゆの設定自体、無理やり感否めないしなぁ。 -
長かった…前作はスルスル読めたのに、今回はなかなか読み進められず。
前半のカメラ技術の話とか、興味が持てなくて一度挫折しかけ、後半のトリックの複雑さに、疲れました。
トリックものの推理小説が好きな人なら納得のいくレベルなのでしょうか?突然に予定外のスーパー協力者が現れるのは、前作と同じ。ここら辺がご都合主義的に感じるのですが。
しかも後味が悪い。どうせご都合主義なら、最後は救い出して欲しかった。
相当屈折した思いを抱えているはずの共犯者のその後も描かれず、3人の恋模様で終わられても、展開についていけてないので、すっきりしないなぁ。と思いました。 -
前作がちょっとびっくりさせられたので、今度は?
今度は、別な意味でびっくり。
なんだかめまぐるしく目線が代わって、
ミステリー自体も予想範囲内にまとまった割に
やたらと長い、重い(質量内容ともに)。
残念でした。
それでも、表紙がイイ感じ。
ジャケ買いの一冊と思えばおさまるかなぁ。 -
全体的に説明が冗長的で、ちょっと読むのが面倒くさくなった。
読者(我々)と本の中の登場人物に与えられた情報に差異があるのは、探偵ものとしていいのか?とちょっと疑問。 -
この作者とは相性が良いのか悪いのか、全く分からなくて困る。
前作「消失グラデーション」は、こそばゆい違和感を覚えながら読み続け、最後の最後でトリックが明かされ、おおっ、と思わず唸ってしまったのだが。
今回も同様の違和感を覚えながら読み進めたが、何とも冗長すぎる。
450Pほどある、かなりの長篇で、イントロの部分から説明が多い。無駄な描写が多い。
このエピソードは物語上必要なのか? ミステリー上の伏線としてどうしても必要なのか? 最後で何か意味を持ってくるのか? と疑問を持たざるを得ないようなシーンが延々と続く。
初見の作家だったら、もうとっくに本を放り投げている。
つまらん、読み進める気がしないってね。
ただ、前作のことがあったので、苦労しながらも1/3の150P過ぎまではこらえた。耐えた。
だけど、もうだめ、辛すぎる。誰がって? わたしが。
面白いと思うような世界に全然入り込めない。
150Pの前半部分なんて、ぎゅっと圧縮して50Pほどでよかったのじゃないか? と思ってしまう。
どこで物語が佳境に入るのかまで興味が続かなかった。
よって、160Pで断念。残念。
長沢樹殿、もう少し何とかならんかったのかね、この前半部分。
単に高校生を交えての映画作りのストーリーが続くだけ。
面白そうな展開もないし、後半の殺人部分で大きな意味を持つのかもしれないが、幽霊話に本気で怖いなんていう女子高生に至っては、辟易するばかりだ。
あーあ、小説全体の構成をもうちっとでいいから考えて作品を書いてほしいものだ。
また、最後まで読まずにレビューでこきおろしてしまった。
まことに、あいすみません。
でも、先を読みたいと思うようでなければ良い小説とは言えないでしょう、当然。
宮部みゆきや高村薫や横山秀夫ら大御所たちの重厚なサスペンスミステリーを間に挟んで比べて読むと、やはりデビュー仕立ての作家の作品には何かしら瑕疵があることが気になって仕方がないなあ、とあらためて思った。
この著者、年齢も性別もまだ明らかにされていないのだけど。
女性のような気がするなあ、三十代くらいの。
それとも、20代の若い男の子か? -
「消失グラデーション」続編。前作のネタバレはない……のですが。いや、逆にそのネタをばらさないようにしようとものすごーく苦心の跡が! なので前作未読の人は、数々の意味深な描写に引っかかってしかたないだろうなあ(笑)。
ユーモアを交えながらの青春ミステリ。フィクションの世界を取り入れつつ、交錯するミステリの世界はなかなかの読み応え、と思っていたら。だんだんと本当の凄惨な事件に発展してきてびっくり。首を切断した理由が斬新でした。なるほど~。 -
私立都筑台高校2年生、弱小映研部長の遊佐渉は、新進気鋭の女性映像作家・真壁梓が、夏休みを利用して行うビデオクリップ制作のスタッフとして、撮影合宿に参加することに。
そこには、美貌の1年生樋口真由の姿もあった。
かくして、廃校となった中学校の校舎を改装して作られた山の中のスタジオでの撮影合宿が始まる。
しかし、キャストとして参加していた女子生徒役の一人が撮影中に突如倒れ込む。
なんとその生徒の胸には、クロスボウの矢が深々と突き刺さっていた!?
真由は残された映像をもとに超絶推理を始めるが、合宿は凄惨な殺人劇へと変貌してゆく。
デビュー作『消失グラデーション』を読んだ時に、審査員の先生方のコメントのおかげで純粋に楽しめず。
再チャレンジのつもりで第2作目を読んでみました。
なんだろう、このモヤモヤ感。
そもそも何で樋口真由?真由のアレを隠す意味って?
殺人が起きるまでが長すぎだし。真壁の横暴さにはイライラしっぱなしだし。
「みしゃこ」の時点で、もうダメこの人。
HALの二人の会話も理解不能でした。
気に入ったのはスタッフの街田さんと渉の親父くらいか。
ただ、あの首を切った理由はよかった。
しかし、合わなかったなぁ。読んだ順番が悪かったかなぁ。-
>kwosaさん
恐縮です。こちらこそ、ありがとうございます(^^)
首を切った理由としては、今年は綾辻さんの「奇面館」もよかったで...>kwosaさん
恐縮です。こちらこそ、ありがとうございます(^^)
首を切った理由としては、今年は綾辻さんの「奇面館」もよかったですよ。
確かに、こういう新しい解釈に出会うと、わくわくしてしまいますね♪
こちらこそ、泡坂さんなど、往年の作家さんが気になりつつ手を出しかねておりますので、いろいろ参考にさせていただきます。
よろしくお願いします。2012/12/01 -
ともさん、コメントありがとうございます。
「奇面館」ですか! 「館」シリーズは「迷路館」で止まっているので、楽しみにしながら読み進めていっ...ともさん、コメントありがとうございます。
「奇面館」ですか! 「館」シリーズは「迷路館」で止まっているので、楽しみにしながら読み進めていってみます。長い道のりですが。
米澤穂信から泡坂妻夫を知り、道尾秀介から都筑道夫を教えられ、ブクログで梶龍雄に出会いました。横溝正史はもともと好きで、高木彬光にもはまりつつあり、『本格ミステリ・フラッシュバック』を座右に、気が向けばブックオフの100円コーナーを巡り、積読ばかりがたまっていく日々です。
ミステリに限定しても、新刊や海外まで含めると未読の本がこんなにも...... 嬉しいような気が遠くなるような。
長文、失礼しました。2012/12/02 -
>kwosaさん
私も!米澤さんで泡坂さんを知り、道尾さんで都筑さんを知りました。
でもなかなか、遡って手を出すまでには至らず・・・。
...>kwosaさん
私も!米澤さんで泡坂さんを知り、道尾さんで都筑さんを知りました。
でもなかなか、遡って手を出すまでには至らず・・・。
ぼちぼち読み進めたいです。
でもミステリのトリックは刊行時に読んでないと新鮮味が薄れるものがあるので、なかなか難しいですよね。
それでも残る名作は数多くありますが。
タイミングって大事だなぁって、よく思います。
「館」は「暗黒館」の厚さもネックですね。
ご感想楽しみにしています。
どうもありがとうございました。2012/12/03
-
-
前作『消失グラデーション』に関しての深刻なネタバレはありませんが、刊行順に読んだ方があらゆるポイントでニヤニヤできるはず。
動画サイトで高い評価を獲得し世界的にも注目されつつある女子高生の音楽ユニット。そのミュージッククリップを制作している葦原女学院高校映研。今回クリップの制作過程をドキュメンタリーとしてカメラに収める、同学院の卒業生であり映像作家の真壁梓(まかべあずさ)。そして学院外の人間を含むオーディションによって集められたスタッフたち。
バスケ部の次は映研が舞台。
映像技法や機材、舞台装置からスタッフの動きまで前作同様に臨場感が凄いです。そしてミュージッククリップの撮影を、さらに演出を加えたセミ・ドキュメントとして撮影する過程で起こる事件という多重構造。リアルと虚構の境界が曖昧で幻惑され油断できません。
また、密室に始まりミステリでは定番となったあらゆるギミック、トリック、シチュエーションが、料理の仕方によってこうも新鮮に甦るのかという驚きと楽しさがあります。
特に、何故◯を◯◯したのかという謎に、過去に例を見ないと思われる新解釈を加えたのには感心しました。
ほんのり「貞子」テイストの不思議美少女や、土佐藩士ばりに男前なワーキングウーマンなど、今作も「いいキャラ」満載。
現代的な題材を扱いながらも、意外に横溝正史の『八つ墓村』などに通じる雰囲気もあり『消失グラデーション』のスマートな印象とは違って、混沌としたパワーと魅力に満ちた作品でした。
著者プロフィール
長沢樹の作品





