ブランコ乗りのサン=テグジュペリ

著者 : 紅玉いづき
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2013年3月1日発売)
4.20
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  • 本棚登録 :537
  • レビュー :57
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041103937

作品紹介・あらすじ

20世紀末に突如都市部を襲った天災から数十年後、震災復興のため首都湾岸地域に誘致された大規模なカジノ特区に、客寄せで作られたサーカス団。花形である演目を任されるのは、曲芸学校をトップで卒業したエリートのみ。あまたの少女達の憧れと挫折の果てに、選ばれた人間だけで舞台へと躍り出る、少女サーカス。天才ブランコ乗りである双子の姉・涙海の身代わりに舞台に立つ少女、愛涙。周囲からの嫉妬と羨望、そして重圧の渦に囚われる彼女を、一人の男が変える。「わたし達は、花の命。今だけを、美しくあればいい」。

ブランコ乗りのサン=テグジュペリの感想・レビュー・書評

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  • 刺すような熱と冷たい恐怖。
    命綱ナシの夜間飛行。

    まばゆいばかりのスポットライトと拍手の雨の中、

    孤独に震える少女は
    自由を掴むため、
    本当の自分を取り戻すために
    漆黒の闇へと舞った…



    冒頭、上空13メートルからのブランコ乗りのシーンに
    ハートを強烈に鷲掴みにされた。


    なんという吸引力。
    なんという世界観。


    場末のBarやストリップ劇場、路地裏のキャバレー、移動遊園地やサーカス小屋など、
    妖艶でいかがわしく
    どこか悲哀に満ちた暗がりの世界に
    僕はなぜか決まって惹かれてしまう。

    大好きな佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』や
    サーカスのブランコ乗りの女に恋をする天使を描いた
    お気に入りの映画『ベルリン・天使の詩』、
    チャップリンの『ライムライト』、
    『道化師』や『道』をはじめとするフェデリコ・フェリーニの映画、
    ナイフ投げの的にさらされるヴァネッサ・パラディが官能的だったパトリス・ルコントの『橋の上の娘』、
    ルノワールやシャガール、ロートレックが好んで描いた
    閉鎖的で悪魔的で
    魅惑的なサーカスの世界。


    あまりにも少女漫画的であるとか、
    酔ったセリフに嫌悪感を覚えるとか、
    はっきり言って人を選ぶ作品なのは重々承知の上。

    しかし、そこに込められた熱量や
    確固とした世界観、
    生きているセリフの一つ一つに
    僕の胸は激しく高鳴った。


    甘やかで詩的、
    エロティシズムとリリシズムが
    絶妙に溶け合う文体で綴られる
    舞台に立つ者、
    選ばれし者たちの美学。

    哀切とともに慰撫するかのごとく描き出す、
    儚くも誇り高い少女たちの世界。


    描かれるのは
    見せ物となるために集められた二十歳にも満たない少女たちで構成された、
    道化のいない『少女サーカス』の世界だ。

    他者を排除するだけの強さと美しさを持ち
    勝利した者だけが、
    古き文学者の名前を戴き、
    眩いばかりの憧れの舞台へと躍り出ることができるのだ。


    怪我をしたサン=テグジュベリの影武者となるべく
    身分をひた隠してブランコ乗りに挑む
    19歳の主人公、片岡愛涙(える)。

    愛涙の双子の姉で
    ブランコ乗りの称号、
    八代目『サン=テグジュベリ』のを襲名した片岡涙海(るう)。

    少女サーカスのシンボルで蜂蜜色の声を持つ
    歌姫アンデルセン。

    少女サーカスの絶対的支配者である
    団長のシェイクスピア。

    できるなら舞台の上で
    動物たちに食われて死にたいと願う、
    笑顔を忘れた
    心優しき猛獣使いのカフカ。

    食物を拒絶し薬に依存する
    人形のような少女、
    パントマイムのチャペック。


    こんなセリフがある。
    「彼女は綺麗だった。私と同じ顔なのに綺麗だ。
    なぜならば、綺麗であろうとする人だからだ。
    誰かに賞賛されるために生まれた命だからだ」

    愛涙は確信を持って言う。
    ベッドから起き上がれない、たった一人の双子の姉を
    『世界で一番誇り高い、本物のブランコ乗り』だと。

    つまり、この作品は
    才能を持つ者と持たざる者のストーリーだ。

    永遠に追いつくことなどありはしない存在。

    同じ顔で生まれたのに
    誇り高く女神のように神々しい姉。

    陰口、嫌がらせ、妬み、
    嫉妬嫉妬嫉妬の渦の中、
    何の約束も何の保証もない世界
    だからこそ、
    決して手に入れることのできない
    『永遠』を求めて
    少女たちは命を削り続けるのだ



    フランソワーズ・サガンのデビュー作「悲しみよこんにちは」の17歳の主人公セシルのように
    傲慢で利己的で残酷な少女たちは、
    挫折や別れ、悲しみという感情を知って初めて、
    成熟へと
    大人の女性へと劇的な変貌を遂げる。


    チャペックとカフカが交わす
    さよならの形をしたバトン。

    凛と咲く歌姫アンデルセン。

    自分自身であり続けるため
    最後の決断を下す双子のブランコ乗り。


    勝負の世界で生き残るために
    苦悩の末辿り着いた
    それぞれの壮絶な『覚悟』に刮目して欲しい。

    エモーショナルに胸を打つラストシーンを読んで、
    僕にとってこの作品は
    記録ではなく
    記憶に残り続ける存在となった。

  • 未熟であれ。不完全であれ。

    紅玉さんのかかれる少女たちは、いつも未熟で不完全で、だからこそいとおしいのだろうな、と思います。
    19さい、という少女と呼ぶにはぎりぎりのおんなのこたち。
    こどもではなく、おとなにもなれない。
    そんな不安定な存在でいられるのって、実はほんのひと時のこと。
    だからこそ少女たちは命を売るのです。
    もがき、なやみ、苦しみながらも、永遠をちょうだい、と歌うのです。
    不完全であることはけして悪いことではないのだと。不自由であることが時にはいとおしいのだと。
    あと2ヶ月足らずでティーンズを卒業してしまうわたしは思うのでした。

  • 飛行機乗りじゃなく、空中ブランコ乗り。。。

    角川書店のPR
    「不完全であれ。未熟であれ。不自由であれ――スポットライトと拍手が、彼女達のすべて。あまたの憧れと挫折の果てに、選ばれた人間だけが舞台へと躍り出る少女サーカス。そこは、一瞬に命をかける少女達が集う舞台。」

  • 紅玉いづきさんの作品は久しぶりに読みました(*´-`)
    ガーデンロストもかなり良い作品でしたが、同じくらい気に入りました
    舞台はやや近未来的かな?とも思いましたが、そういうことも気にせず楽しめる作品だと思います。
    文庫本になったら買おうかな♪

  • 自分の居場所を、守ろうとする話。
    自分の居場所に、すがろうとする話。

    そこにいること、いれること、いつづけること。登場人物それぞれが、自分の居場所にいる意味・意義・理由を求めている話。
    熱意とか、諦観とか、惰性とか。
    誰がどれとかでなくて、登場人物それぞれに占める割合は違うけど、ぐちゃまぜになってます。

    「ガーデン・ロスト」と少し似た印象です。
    そっちは、高校という不本意でも所属しなくてはならない世界での、楽園の少女の話でした。
    「ブランコ~」は、所属することを懇願して、願い叶った楽園の世界。
    懇願した世だからといって、華麗で煌びやかでなく。
    そこにいるということを証明し続けること。


    「ガーデンロスト」も「ブランコ乗り」も、物語の舞台(高校とサーカス)に所属してるだけで、自分の存在は証明できる。所属したのが受動か能動かの違い。
    その世界で、自分が存在する理由を証明する物語なのか。
    だから、印象が似ていたのか。

  • 読みやすかったです。ブランコ乗りとしての専門的なお話ばかりだったらどうしようと思っていましたが、そうではなく面白かった。

  • すっごくよくわかる。と思ってしまった。
    宝物のような一冊。

    愛涙とアンソニーが特にすき!
    涙海、カフカ、アンデルセン、チャペック。登場人物がみんなすき!!
    続編があったらいいな!

  • 不完全であれという言葉は、創作物全般に言えることであろう。
    不完全であるがゆえに、描かれていない部分が気になるのであり
    想像するたのしみがあるのだ。

    と、それっぽいことを書いてみる。
    あ、不完全すぎるのは勘弁な。

    ラストは、やはりこれしかないだろうと非常に納得できた。

  • 雨の休日に読むにはちょうどいい、刹那的で儚い、けれどちょっと優しい気持ちになれるような良い本でした。

    お台場っぽい雰囲気の経済特区に、公営カジノの客寄せとしてできたサーカス。その担い手たちの物語。タカラヅカを彷彿とさせるようにサーカスは少女だけで構成されていて、ご丁寧に養成所としての学校も併設。ドロドロとした女社会や賭博黙示録的な世界の空気を含みながら、各キャラクターをテーマとした5編の短編は一定の方向性を形作って進んでいきます。
    少女マンガ的な濃密な人間の交わりや、戯曲的なセリフ回し(と、あと登場人物のネーミング)には圧倒されるところがない訳でもないですが、この大掛かりな舞台装置のおかげか、そこまで違和感は感じずに読み進められました。怪しげな乾いた都会の夜の空気感は、映像でイメージできてしまうほど。
    結末はありきたりなハッピーエンドではなく、とは言えだからこそ納得できるもの。

    懸命に生きていきたい、と思った今年50冊目でした。

  • あまり読まないタイプの小説だったが、面白かった。独特の世界の描き方でしたが、しっかり世界に入れました。

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