青い花

著者 : 辺見庸
  • 角川書店 (2013年6月1日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041104620

作品紹介

あいつぐ大震災と戦火で、恋も家族も未来も、すべてをうしない鉄路を彷徨う男。哄笑、恐怖、愛、虚無・・・が卍にからみあう、現代黙示小説の大傑作!!

青い花の感想・レビュー・書評

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  • 打ちのめされました。6月1日に発売されたばかりの、尊敬してやまない辺見庸さんの新刊。しかも小説です。発売前から予約して、1週間、指折り数えて待ちました。
    先程、読了したばかりです。長年追いかけている辺見庸さんの著作で、いや、私がこれまで読んできた小説の中で、最も打ちのめされた小説でした。
    同時に、これを小説と呼んでいいものかという疑念も沸きます。まるで詩編の連なりのようです。
    筋と呼べるほどの筋はありません。舞台は震災と戦災が同時に進行中の、恐らく近未来の日本でしょう。夢とも現ともつかない鉄路の上を、とぼとぼと歩く男が主人公です。
    現実を見ると、わが国で震災は起きましたが、戦争は「まだ」起きていません。ですが、著者の見立てはそうではないでしょう。わが国では「すでに」戦争が起きてしまっているのです。
    「破壊措置命令がまたでたらしい。PAC-5があらたに配備された。すでに敵ミサイルにむけ何発か発射され、そのうち何発かが命中したという。国産戦術核兵器製造がうわさされている。まちがいなく戦争は戦争なのだ。けれども、暴力になんらの意思も感情もかんじられない。非常時だからといって、お笑いがなくなったわけでもないし競艇も競輪も宝くじ(「戦争ジャンボ」がよく売れている)もパチンコもテレビのワイドショーもある。ACジャパンがさかんに戦争CMをながしている。『ちょっとした勇気。もうやめよう知らんぷり。信じよう、わたしたちのニッポン!』。」
    思えば、進歩的な方たちが盛んに喧伝するように、戦争は軍靴が近づいてくるなどというように、剣呑な空気をはらみながら起きるのではない。きょうびの戦争は、空虚なから騒ぎ、せせら笑い、スマホ、セックスレス、いいね! と隣り合わせに進行するのです。生身の身体を損傷するような痛みはきれいさっぱり消し取られ、「安心・安全」で衛生的に遂行されるのではないでしょうか。
    だとすれば、私は著者の見立てに同意します。
    不埒な企みに満ちた、不穏な小説です。などと利いたふうなことを書くことさえ、この小説を読んだ後では厭わしい。すべてが嘘くさく感じられ、自己嫌悪に陥ります。
    鉄路を歩きながら、主人公の思念はあてどなくめぐります。著者独特のアイロニーも健在です。ただ、長年、著者を追いかけてきて気付くのですが、かつてはあった「鋭さ」が減退したような気がしてなりません。随分と冷めていると言っても差し支えない。たとえば―。
    「わたしたちは税金をはらってボルサリーノの帽子を得意げにかぶってアホなことをだみ声でしゃべくるエテ公や老若の卑しい道化どもを飼ってやっているのだ。一義的責任はこちら飼い主がわにあるのは言うをまたない。エテ公や卑しい道化たちを飼うだけ飼って、飽食させ、なにもしつけなかったから、見てみろ、このざまだ。主と奴、主従が逆転して、いまやこちらが飼われているじゃないか。主人の目の前で葉巻をプカプカすう老けザル。ボケザル。下痢ばかりしている戦争狂の道化。軍事オタクの同輩。テレビからひりだされてきた大阪のあんちゃん。あんちゃんに土下座してあやまる自称進歩的新聞社。どこまでも図にのるあんちゃん。道化どもをもちあげるマスゴミ。模範的国民意識形成機関NHK。いいね! サムアップ。拡散希望! 歓呼の声をあげる貧しきひとびと。携帯をだきしめる貧しきひとびと。いきわたる貧困ビジネス。スマホ。スアホ。ドアホ。」
    著者はこれまでも執拗に政治や社会のありようを憂い、「個として怒れ」と読む者を駆り立ててきました。しかし、本書に「怒り」を喚起させるものはほとんどないか、ない。あるのは、ある種の諦観、諦念です。
    もうバカらしくてまともに取り合う気もないのか、それとも単に老境に達したためか。あるいは、思想の極北に到達してしまったのかもしれません。
    恐らく、著者は、もう、小説を書くつもりはないのではないでしょうか。いや、断言しましょう。辺見庸はもう小説を書くつもりはない。何とはなし、「決別」めいたものを感じさせる小説でした。
    いずれにしろ、大いに打ちのめされたことに変わりはないのですが。

  • リズムに乗って読むことが不得手な私がぐいぐいリズムに乗って読んでしまった。ただひたすら鉄路を歩き続ける男の独白。以前の辺見庸の小説にあるシュールな幻想性とは異なる幻想性、悪乗りしたトリップ感。狂った世界でオーバードーズ寸前に幻視する青い花に背筋が凍る。印象はゴイティソーロ『戦いの後の光景』に似ているが、他に類似のない新鮮で斬新な表現方法だ。作者のライフワークである思索が読経となりラップ的なリズムで怒り悲しみ笑い噴出。「はじまりがなされんがために人間はつくられた」つまり終わりはない。歩き続けろ!

  • 震災と戦災で荒廃した世界を、さまよい歩く男の想像、妄想、望郷。

    詩的で、乱雑で、ナンセンスでもある言葉の羅列に、最初はかなり取っ付きづらいものを感じるが、読み進めていくうちにぼんやりと状況が浮かび上がってくる。はっきりとした話の筋はないが、しかし昨今の社会状況に対する著者の感情がごった煮になった文章には、鈍く、しかし強烈な破壊力が込められている。ポレポレ。

    もっとも、これはエッセイや評論ではないから、はっきりと言語化された問題提起などはされないし、ましてやはっきりとした答えなど提示されない。だからこそ、スッキリした読後感はありえないし、安穏とした態度ではいられなくなる。

    美しく、グロテスクな、非国民小説。

  • 被曝汚染と戦時下にある街を壁づたいにひたすら歩く男。現在と地続きの近未来の光景が、男の独白で語られる。ビート感のある文体と、散りばめられた皮肉な笑い。暴走列車に乗せられ、一気に終着駅まで行ってしまうような感覚。現代の叙事詩とも呼べる作品。

  • 始めは本の中に入りずらかった。この『詩』と言ってもいいのかどうか迷うが、尊敬する辺見さんの魂の叫びあるいは諦念のようなものが、作中人物の歩みとともに迫ってきて、息苦しいほどだった。
    始めは少しとっかかりにくいけど、たくさんの人に読んでほしいと思いました。

  •  詩のような言葉が、リフレインするようにひたすら綴られている。底の所に流れているのは、あの大震災からの原発事故。それに対してのぐちゃぐちゃ感を表現しているのか、そのぐちゃぐちゃ感がこの作者の個性なのかはわからないけれど、そう、一枚の抽象画のような本でした。

  • 10ページも読まずに止めた。

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