これからお祈りにいきます

著者 :
  • 角川書店
3.47
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本棚登録 : 639
感想 : 103
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041104699

作品紹介・あらすじ

人型のはりぼてに神様にとられたくない物をめいめいが工作して入れるという奇祭の風習がある町に生まれ育ったシゲル。祭嫌いの彼が、誰かのために祈る――。不器用な私たちのまっすぐな祈りの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 津村記久子さんは、「浮遊霊ブラジル」が面白かった記憶があったので、図書館でたまたま見つけて借りてみた。中編と短編、二編の小説集。

    サイガサマのウィッカーマン(中編)
    父親が不倫しているようで、中2の弟も不登校になってしまった、母親はなんかいつもズレていて会話するのもダルい。そんな高2のシゲルだが、根は真面目。だから、どう家族と向き合ったらいいか分からない。
    そんなシゲルの住む町(京都っぽい)で行われる冬至の祭り、「サイガサマ」。
    この行事が好きなわけではないのに、何故だか深く関わることになり、ちょっとずつ自分の中の見方が変わっていく…。

    バイアブランカの地層と少女(短編)
    ダイワハウスのCMで、中村倫也が演じている心配症の夫のような大学生の主人公十和田。
    京都から出たことのない彼は、ボランティアガイドをしているが、ある時アルゼンチンの女子学生とメールでやり取りするようになる。
    彼女から送られてくる言葉は、不安症から抜け出せなかった十和田にとって、一歩踏み出すきっかけとなる。


    どちらの小説の主人公も、地味で目立たないタイプなのだが、根がとても真面目な愛すべき男子。
    こういう子にスポットを当てて書かれていることが、もうたまらなく愛しい感じ。
    何かが大きく動くことはないが、小さな変化こそ日常の大事だと感じる。
    2020.8.10

  • 津村記久子さんの描く世界ってなんでしょう
    特別ではない日常なんだけれど、不思議な空気が
    ふわっジワと。
    二編とも冴えない男子の日々
    でも、彼の中にある『真摯な優しさ』にグッと惹かれます。
    「サイガサマのウイッカ―マン」
    「バイアブランカの地層と少女」
    タイトルが???だったけれど、読み終わって納得でした。
    装丁のデザイン、中表紙の金紙はまだ謎ですが。

    ≪ 人のため 祈る心は 希望の灯 ≫

  • すばらしくよかった!! 好きすぎて感想が書けないです。
    ユーモアがあってほんとうに笑えて、最高にいい話で、読後感もすばらしくよくて。読んでいて興奮して胸がつまるような。
    本当に好きだ。

    「これからお祈りにいきます」っていうのが本のタイトル。なかに二編、どっちも確かに、祈り、願い、の話。

    津村記久子さんの書く人々が好き。ごく普通というより、普通よりさえない、いろいろうまくいっていない人たちなんだけど、なんというか、人生に謙虚というか。尊敬する。そういう人になりたいとか思う。いろいろヘタレでも、少し心がひらけているという感じもすばらしい。そして、少しずつさらに心が、そして人生もひらけていくというような。
    そういえば、二編とも悪い人がまったく出てこない。

    「サイガサマのウィッカーマン」
    最初、え、SF?とか思ってびびったのだけどそんなことはなく。モチーフは民話みたいな感じなのだけれど。ウィッカーマンってなんだ、と思ったら、ウィキペディアでは「古代ガリアで信仰されていたドルイド教における供犠・人身御供の一種で、巨大な人型の檻の中に犠牲に捧げる家畜や人間を閉じ込めたまま焼き殺す祭儀」だそうで。それに似たお祭りのある町で、なんとなくそのお祭りの手伝いをすることになった高校生男子が主人公の話。

    「バイアブランカの地層と少女」
    これこそ、めちゃくちゃ好きだった。ものすごくおもしろくて読んでいて楽しくて、笑えるとかいう本でもわたしは笑うことってあんまりないんだけど、これは本当に笑ったところがたくさんあった。京都が舞台で、主人公大学生男子は観光ガイドとかしていて英語の勉強をしようとか思って、外国人とメールをやりとりするようになって、とかいうところが個人的にツボだったり。なんかふと、外国の映画にありそうとか思ったり。

    ってどちらもあらすじを書こうとしても書けなかったんだけれど、なんだろう、タイトル見てもどういう話になるのかわからない感じ、ストーリーが妙な展開というかストーリーがあってないようなというか。すごく津村さんぽいというかユニークだと思う。
    っていうのは、わたしがあらすじを書くのが病的に苦手だからかもしれないけど。

    結局、なんの感想にも説明にもなってなくて申しわけないことです……。

  • 例えば受験生だった年の初詣では合格を願った。
    例えば母の体調が悪かった年の初詣では母の回復を願った。
    そしてどちらの願いも無事に叶ったのだけど、その時に私は初詣に行ったから願いが叶ったとは思わなかった。
    叶わなかったら思い出したかもしれないけど(勝手だなぁ)。

    願いが切実であれば出来ることは全てしたくなる。
    思いつくことは何でもかんでも。
    その一つが神頼みなんだと思う。
    受験生だった年は勉強も頑張ったし、インフルエンザの予防接種も受けたし、学業御守りだって買った。
    その全てが合格に向けて出来ることだった。
    母が具合が悪かった時、私に出来ることは多くなかった。
    何も出来なくても会いに行くこと、一緒にいること。そして神頼み。かなり切実だった。

    この小説でも神頼みはその時出来ることの一つだ。
    自分のことでも、大事な誰かのことでも、出来ることは全部やりたいという気持ち。それが祈りなんだな。
    神様に届いたから願いが叶ったのか。
    それとも個人の努力、能力、生命力、etc.のためなのか。
    本当の本当のところは常に曖昧。
    (むしろそこを曖昧にしないサイガサマはすごい。すごい設定ですよ、津村さん。)
    でもだからこそ全力で頑張れるのかもしれない。
    それがこの世界の優しさなのかも。
    このやさしい小説を読んでそんなことを考えた。

  • 2つの中篇が収録されており、若い男性が主人公の(高校生、大学生の違いはあるが)青春もので、家族や友人、そして、好きな人と、いろいろ悩みがあり、どちらかというと幸せだと思うことは、少ないかもしれないが、それでも全体通して読むと、そんなに悪いものでもないのではないか、と思える微妙な匙加減が素晴らしいと思います。ただ、「サイガサマのウィッカーマン」の方は、やや展開が冗長だったかな。

    更に、その中に、日本や世界独自の文化や歴史民俗的要素が、奇妙なのほほんとした雰囲気でありながら、くすりと笑えて、時にピリリと辛い、独特な世界観で、面白いなあと感じました。ウィッカーマンは実際に存在することを知らなかったのですが、これを読んで興味を持ちました。

    また、それぞれの主人公の性格が、結構、頭の中では色々毒を吐きつつも、若い頃特有の、妙な他人への気の遣い方加減が可笑しくて、何か好感を持てたのも、印象的でした。

  • 不幸から守ってくれる代わりに、身体の一部を持って行ってしまう神様サイガサマ。
    但し、ひとつだけ絶対に持っていってほしくない体の部位を、粘土や石膏、編み物などで作り、申告物として奉納することで、失うことを回避できる。
    主人公のシゲルが住む町では、冬至の日に人を模した巨大な籠の中に町民の申告物を投げ入れ燃やすという一年に一度の祭りが恒例になっている。

    時間が経ってしまったので記憶が薄れているけれど、高校生の主人公・シゲルを中心に、祭りの準備をめぐり、不登校の弟やバイト先の公民館の人々、高校で別れ別れになってしまったセキヅカなどと関わっていくことで話が展開される話。


    2作目に収録されている『バイアブランカの地層と少女』は、京都で観光案内サークルをしている大学生が主人公。
    海外カルチャーに興味のある私からすると、地球の裏側に住むアルゼンチンの少女とオンライン上でやりとりしながら思いを馳せていく様がとても共感できた。
    なかでも、大の飛行機嫌いのくせに、急に思い立ってアルゼンチンへ旅経とうとする臨場感に、とてもわくわくし、そうだよな、大学生ならお金さえあればふらっと行けるよな、と無性に羨ましくなった。


    タイトルの『これからお祈りにいきます』という言葉が指すように、2作とも宗教に関する物語。
    アニミズムの日本らしい作品で、外国人にも勧めたいと思える小説だった。
    そのわりに、記憶が薄れてうまく作品の良さをレビューでアピールできないのが残念。

  • 収められた2つの物語はどちらも祈りや願いをテーマにしています。

    「サイガサマのウィッカーマン」はサイガサマという神様に取られたくない身体の一部を申告して祈る、不思議な祭りがある町が舞台。
    あまり気乗りしないまま祭りの手伝いをすることになってしまった男子高校生が主人公です。
    「願いを叶える代わりに…」という悪魔的な神様かと身構えていたのですが、読み進めていくとだんだん親しみが沸いてきて、最後には微笑ましく感じていました。
    神様と人間の距離感がちょうどよくて、日本の神様ってこんな感じだよなぁ…とほっこり。

    「バイアブランカの地層と少女」は京都で観光ガイドをしている男子大学生が主人公。
    アルゼンチンの少女とメールで交流するようになり、地球の反対側で自分とはまったく違う彼女の暮らしに思いを馳せるようになります。
    英語が得意ではない主人公がメールの最後に添えた彼女を思いやる文章、そして彼女のためにとった行動がとてもとても優しくて、鼻の奥がツンとしました。

    どちらの主人公も物語を通して少しだけ強くなる。
    その"少しだけ"の塩梅がちょうどよいのです。
    このちょうどよさが津村さんだなぁ…好きだなぁ…と思いながら読了。

    誰かのために祈ることは、こんなにも尊いのだ。

  • 「サイガサマのウィッカーマン」、「バイアブランカの地層と少女」の二篇を収録。共通点は、本作のタイトル通り「これからお祈りに行きます」ということと、主人公が10代後半~20代前半の男子学生ということ。(このタイトルの意味は、読了後しみじみとよくわかります。)
    「サイガサマ…」は、神様に「これだけは取られたくない」もの(手とか心臓とか)を工作して申告し祈りを捧げるという、摩訶不思議な奇祭のある町に生まれ育った男子高校生・シゲルが主人公。その祭りを忌み嫌うシゲルだが、何故だかその祭りに携わる羽目に。
    こういう設定は津村さん初めての試みだな~と新鮮ではあったが、なかなかとっつきにくい展開だった。だけど根底に流れる津村イズムは変わらず!何度か読み返すほどに、張られた伏線の意味がわかってくる。父が倒れ、生活を支えるため複数バイトをこなす同級生のセキヅカ。申告物教室に通う、シゲルの隣家の謎の老女。イケメンだったのに、ある出来事をきっかけにつるっぱげになってしまった小学校の恩師。不登校となり、やけにリアルな内臓の申告物を黙々と作る弟・ミツル。それぞれの人生が絡み合い、意外な真実が浮かび上がってくるところに津村さんの構成の巧さが光る。
    それぞれに深刻さは抱えているかもしれないけど、何故だかふふふと笑いたくなってしまう津村さんの作風が好きだな。このサイガサマも、願いを叶えるときは願をかけたものの体の一部を取っていくって…いきなり目だの指だのがぽろっと取れるってのが考えようによってはグロい!って思うんだけど、何だか自然に受け入れられてしまう。この設定がこうつながるのか!と、納得します。
    ひそかに津村さんのフード描写も私は好きで、祭りでふるまわれる「土手焼き豆腐」がめっさうまそうでした。しめのうどんもこれまたうまそう!レシピ知りたいよ!
    「バイアブランカ…」の主人公・作朗も、つつましく不器用な男子学生。とあるコミュニティがきっかけで知り合った、ブエノスアイレスの女子・ファナとのささやかな交流をきっかけに、地球の裏側での彼女の暮らしに思いを馳せる作朗。だけどそんな彼女の日々に翳りが…。彼女の幸せを願うゆえの、作朗の突発的な行動に対し、人によってはもしかしたら「ええ、ありえない!」と思うかもしれない。でも、私はそんな作朗の健気さを好ましく思う。
    シゲルも作朗も地味目で控えめで、真面目に生きているつもりが、要領が悪いのか欲がないからなのか…時に裏目裏目にいってしまうところがトホホなんだけど、それでも誰かの為に祈る彼らに、すごく共感してしまう。
    ぷっと噴きだしたかと思えば、ちょっとしんみりさせられたり、なりふり構わなさに胸が熱くなったり、でもまたぷっと噴いてしまったり…。この、真面目さと滑稽さの同時進行!津村さんならではだよなと。今回もやられましたよ。
    「何事もないように。いやもちろん何事かはあるだろうけど、あらゆる物事ができるだけ早くそこから回復できるように。」
    この一文が心に響くな~。笑いながらも、私はちょっと涙が出そうになりました。

  • 『バイアブランカの地層と少女』のが特に好きやった!自分の為じゃなくて誰かの幸せや希望をお祈り出来るって素敵なことやなぁと心がふんわりした。
    そっと、自分ではないけど大切な人の幸せを祈れることがみんなで出来たら、それこそ平和な世界になるんじゃないかと本気で思う。
    疲れた時に読みたくなる本!!!

  • 面白かったぁ~~!  不機嫌な高校生男子・シゲルの閉塞感溢れるリアルな日常の話なのだけど、同時にとても優しい&不可思議な町の祈りにすっかりやられてしまいました。

    津村さん、また新境地ですね。(#^.^#).





    よそに女がいるらしい父親、どうにも頓珍漢な母親、不登校の中学生である弟、とどこを向いても楽しい要素がない高校生・シゲル。
    ただ、始まってすぐのページから、何かこの町には奇妙なお決まりがあるらしい、ということがわかります。絶妙に不親切な(#^.^#)語りなので、どこが変わっているのかなかなか実態が見えてこないのだけど、

    どうもサイガサマという神様が土着の信仰対象とされているらしい、
    何かをお願いして叶えてもらうとその人は体の一部を失う、
    だから、ここだけは持って行かれると困るという部位を紙粘土なり、ニットなり、折り紙なりで“申告”する、
    という、なんか怖いんだか、可笑しいんだか、わからないもので、

    でも、その申告のための祭りが毎年当たり前のように執り行われているという…。

    シゲルは公民館でバイトをしている関係から、その祭りのための部位づくりの講座を手伝うことになる。
    シゲルを含む町の人々はサイガサマを本当に信じているのか、どうか微妙な描き方で、そこがまた面白い。(#^.^#)

    シゲルは、
    サイガサマは神さまの中ではとても力が弱いので、そうやってもらい物をしないと力が発揮できない、と漠然と感じてはいるみた。

    体のどこかが無くなってしまう、なんて、どこであろうがとんでもないことだと思うのに、町の人たちが呑気に申告物の準備をしている様が、うん、読ませられてしまうんだよね。


    ネタばれです。







    私はなんだかんだ言って、ただの罪のない風習じゃないの、と思ってたんだけど、

    後半、遠足の際の大雨から小学生たちを無事に学校に連れ帰った先生が次の日には髪の毛全部を失っていた、とか、クラスメートのセキヅカが長い入院をした後、お父さんが長い眠りに入り、セキヅカは元気に退院、なんていう“実例”が出てきたりして、そっか、そうだったのか、なんて。(#^.^#)

    シゲルはずっとヒドいニキビに悩まされていたのに、セキヅカのお父さんの無事を祈り、顔半分だけニキビが無くなる。半分だけかよ、へたくそ、なんてサイガサマをなじるシゲルがまた可笑しいし、願いは自分のため、ではないところがポイントなんだね・・。


    こんな変なお話を考えてしまう津村さんって!! (#^.^#)
    町全体で奇妙な習わしを受け入れてしまっている人たちが好ましく、津村さん、大好きです!と言いたいです。 

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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