- Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041105580
作品紹介・あらすじ
将軍吉宗に献上するために輸入されることになった二頭の象。一度は白紙になったものの、なぜか長崎に着いてしまった象を巡り、老中たちの陰謀が明らかになっていく。佐平次は解決できるのか…新解釈の時代ミステリ。
感想・レビュー・書評
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ナウマンゾウの絶滅後、日本は象の自然生息地ではない。
歴史上、海外から象が献上された例はいくつかあり、足利義持、正親町天皇、豊臣秀吉などに贈られている。
徳川八代将軍吉宗の時代にも、雌雄1対の象がやってきたことがあった。本書はその顛末を巡る物語である。
吉宗は倹約を旨とした将軍である。その吉宗が、象のようないかにも無駄の多いものを入手した裏には、何らかの事情があったのではないか、というのが本書の着眼点であろう。
「お上」のちょっとした気まぐれ、その意向を酌み取ろうとした(あるいは酌み取りすぎた)「忠義の家臣」の出過ぎた配慮、将軍に反感を抱く大名家、その家臣たち。さまざまなものが少しずつ掛け違い、すれ違って、南国から遠く離れた日本へと巨大な獣を運んでくる。
サブタイトルの採薬使とは、将軍の命を受け、諸国の薬草を採集・研究した人々を指す。本書ではいわゆる御庭番の使命も帯びていたとしている。「採薬使佐平次」はシリーズ物であるようだが、前作を読んでいなくても特に支障はない(ただ、採薬使としての本来の役目の部分に関しては、本書では十分には触れられていないように思う)。
吉宗の時代に、安南(ベトナム)から象が運ばれ、長崎で雌象が死に、雄象は陸路を江戸に向かい、途中、帝に拝謁するため位を得て、最終的に江戸に着いた、というあたりは史実であるようだ。
このとき、日本列島を縦断した象は沿道の庶民に強い衝撃を与え、江戸にも大きな流行を巻き起こした。装飾品や置物、歌舞伎や祭の山車など、さまざまなものに象の意匠が使われた。
象の行進は1728年のこと。印象深い象の絵を描いた伊藤若冲(1716-1800)も、あるいは京で、その姿を見たかもしれない。
本書は史実をふくらませつつ、ほろ苦い物語に仕立てている。
次第に採薬使と心を通わせ、「お手」ならぬ鼻を人の掌に乗せる芸のようなものを覚えたり、名前をつけてもらったり、酒を酌み交わしたりする象の姿は愛らしく、衝動的に象を飼いたくなるほどだ。
マメハンミョウの毒性(猛毒のカンタリジンを持ち、ヒトならば数匹分で致死性だという)や、鏃の返しは引き抜くときに傷を大きくするため、切開して取り出した方がよいなど、豆知識も興味深い。
さまざまな立場のものたちの思惑が絡み合い、あるいは象を守ろうと、あるいは象を殺そうとする中、戦闘で何人もが命を落とす。
江戸にたどり着いた象は、不遇の晩年を送り、そして悲惨な最期を遂げる。運命の巡り合わせから、思いもよらぬ異国で迎えたその末路は、あまりにも哀しい。
採薬使・佐平次とともに、そっと象の遺品に手を触れ、声を掛けてやりたくなる、余韻あるラストである。
*同じ出来事を題材に、象の搬送を史料から再現した『象の旅―長崎から江戸へ』という本もあるようです。これはこれでおもしろいかも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
採薬師佐平次の2作目。梨春や省吾といった脇を固める登場人物がいい味を出している。映画化やドラマ化しても、面白いものになると思う。
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採薬使・植村佐平次が将軍吉宗に献上する象を長崎から江戸に運ぶ道中で、様々な妨害があり、それに対処する物語だが、佐平次は冷静な判断で任務を完遂する.京では中御門天皇も登場.妨害する側の中心人物が羽指吉十郎、色々な妨害策を発想する手腕は素晴らしい.象使いの中国人漂綿と佐平次のやりとりが面白かった.将軍に佐平次がかなりキツイことを進言している.トップにある人には厳しい指摘をする取り巻きが必要なのだが...
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採薬師佐平次シリーズ第2弾。
将軍に献上するための長崎から江戸まで象道中。象を無きモノにしたい者と守りたい者、相反する思惑が交錯する中、佐平次たちは無事に象を江戸まで運ぶことができるのか。
2つの思惑よりも、佐平次が象を慈しみ、嬉々として象と心を通じ合う姿が良かった。最後はシンミリと切ない。 -
だいたい想像してたけどやっぱり象がかわいそうなことになった
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採薬使佐平次シリーズ、第2弾。
徳川吉宗の時代、二匹の象がやって来た。将軍に献上するため、長崎から江戸へと珍道中が繰り広げられる。しかし、その道々で、いろいろな人間の思惑が絡み、一行は邪魔をされる。
歴史上、その時代に象がやって来たのは事実であるらしい。あの手、この手で邪魔をしてくる輩を、象の護衛役の佐平次たちが切り捨てていく様は小気味良く、格好イイ。しかし、将軍のご機嫌取りや、これ幸いと権力闘争を目論む輩たちの振る舞いが、あまりにも身勝手。江戸に着くまでの攻防はそれなりに楽しめたものの、それ以降は、吉宗も含め、勝手な言い分の言い連ねで終始不快であった。実際のところ、象は物語と同様の残念な扱いを受けたのだろう。歴史モノとして、そういう事実を知っておくことは吝かではないのだが、物語の結末としては少々後味の悪いモノとなった。 -
前作で得た将軍の隠密として活躍する採薬使という設定で、八代将軍吉宗の時代に象が献上されたという事跡をもとに練り上げたシリーズ二作目ですが、今回は、ストーリーの展開に少々ムリがあるように感じられました。そのあたりをあまり気にしなければ楽しく読めます。前作のように採薬使ならではの蘊蓄や推理がもっと盛り込まれておればと思いました。象道中について調べてみたが、思ったほどには採薬使との絡みがなかったのかなという印象を持ちました。
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よかった。
良いシリーズ物になりました。
佐平次さんが超人すぎますが、これはいい物語です。
著者プロフィール
平谷美樹の作品





