なぎさ (単行本)

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041105788

作品紹介・あらすじ

なぎさは山本文緒さんの書かれた2013年発売の著書です。
三人の登場人物の視点をうまく使いながらストーリーが進んでいき、読者をストーリーの中に引き込んでいきます。なんの変哲もない普通の登場人物達が自分の守りたいものを守ったり、プライドを傷つけられたりしながらも毎日を過ごしていき、人生に向き直っていく物語です。

感想・レビュー・書評

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  • とても心揺さぶられました。故郷の長野を離れ、久里浜に移り住んでいる冬乃と佐々井夫婦。連絡を絶っていた妹の菫が、突然転がり込んできて姉の冬乃にカフェをしようと誘う。冒頭から、訳あり感が漂う。
    夫婦、親、姉妹、様々な人間関係が複雑に絡み合う。ブラック企業の闇、仕事をすることの厳しさ、自分の意思を相手に伝えることの大切さ。
    人間模様のじわじわの重さが長く感じ、中盤から読むのが辛くなりました。けれど、深い丁寧な心情描写に読み入っていきました。いつか光が見えますようにと。
    とんでもなく自分勝手な登場人物に憤慨し、イライラさせられる。実際に似たような人はいそうでリアリティーがあった。
    酷い目にあって傷ついた冬乃は、
    「世界が違って見えた。(中略)悲しいのに、生きていけそうな気がした。こんなに泣きたいのに、なんで力がみなぎってきているのだろう」
    この境地に達っする。もうこれ以上のことはないだろう何だって出来る気がする。この気持ちに共感する。

    親の呪縛からも逃げれなかった。「こうしなさい」と言われ、生き、自分を縛ってきた。もう大人なのだから自分を認めればいい。わかってもらえないとしても、感じたこと思ったことそのまま。個人的には、佐々井がとても魅力的にみえた。冬乃の一番の理解者、冬乃と二人、幸せになれる。時に思いが伝わらなくて、もどかしさも抱えるが、静かな穏やかな夫婦愛を感じた。
    ラスト冬乃はどうしようもない両親、妹菫を認める、許すでなく。その中に深い家族の絆を見た。
    冬乃はすごく地道に努力している。感情移入していただけに、徐々に逞しくなっていく様子が良かった。
    真っ青な沖の光のなぎさ、冬乃が見たのは眩しい光。

  • ああ、山本文緒が帰ってきた。
    彼女の長編はもう読めないのかな、と思っていただけに感無量。
    おかえり!!

    20代の頃に読みふけった山本さんの小説。
    表面には現れない心の傷、足元のおぼつかなさ、言いたい事を言えないもどかしさ、そして孤独感。
    この感じ、他の作家じゃ絶対味わえない。

    この物語は以前の山本作品の繊細さを余すことなく堪能させてくれる一方で、もうちょっと現実寄りになっていると思う。
    親の呪縛から逃げるために故郷を捨てた冬乃、そしてその妹の菫がどうやって親と対峙するのか。
    家族とは何なのかがこの小説の核になっている。
    一方で、いかに働くのか。誰のために働くのか。
    ブラック企業で働いている冬乃の夫の佐々井や、後輩の川崎。
    カフェを突然始めると言いだす菫と、それに翻弄される冬乃。
    働き方を模索する小説でもある。

    読んでいる途中は苦しかったり、辛かったり、イライラしたり、悲しかったり。
    けっして楽しい小説ではないけれど、それぞれが一歩一歩前に向かっていく姿が良かった。
    そうだよ、いつだって山本さんの作品は読後感が良い。
    最終的には救ってくれる。
    だからまた読みたくなる。

    久々の山本作品に興奮しなんだかまとまりがなくなってしまった。
    あまり無理せずに執筆活動を続けてほしいと願いつつも、もっともっと読みたい欲求が抑えられない私。
    でも仕方がない。

    私が利用する図書館の予約ランキング上位と言えば、東野圭吾とか今をときめく池井戸潤。
    もしくは文学賞受賞作や村上春樹の新作が並ぶ位で、新作もそう待たずに読むことができる。
    ところがどっこい、「なぎさ」は珍しく3ヶ月以上待った。
    山本文緒の人気ってやはり絶大。
    こんな田舎町でも。

    これからも時折で良いから彼女の作品を読んで、歳を重ねていきたい。
    そんな気分だ。

    • cecilさん
      はじめまして!
      素敵なレビューだったのでフォロー&コメントさせて頂きました。

      実は山本文緒さんの作品をあまり読んだことがなく、
      な...
      はじめまして!
      素敵なレビューだったのでフォロー&コメントさせて頂きました。

      実は山本文緒さんの作品をあまり読んだことがなく、
      なんとなく短編小説のイメージがあったので
      こちらの長編作品がとっても気になりました!

      特に人間模様を繊細に描写している作品が好きなので、
      vilureefさんのレビューを拝見してものすごく読みたくなりました!

      >働き方を模索する小説でもある。

      私も現在、働き方を模索している最中なので、
      これは読まずしてどうする!という気持ちになってますw
      早く読みたい!
      2014/02/19
    • vilureefさん
      cecilさん、はじめまして!

      コメント&フォローありがとうございます♪
      これからもどうぞよろしくお願いしますね。

      cecil...
      cecilさん、はじめまして!

      コメント&フォローありがとうございます♪
      これからもどうぞよろしくお願いしますね。

      cecilさんの本棚もなかなか魅力的な本がたくさん!
      私とかぶる本もかなりあって嬉しいな~。
      レビュー読ませていただきましたが、優しいレビューの割に結構辛口評価!!(笑)
      いいですね~、そう言うの好きです。

      山本文緒をお読みになったことがない!
      おお、やっぱりお若いんですね。
      昔は長編が多かったんですよ。
      ドラマ化されたりと・・・。
      今も褪せることのない名作揃いですので、是非お読みになってみてくださいませ。
      2014/02/19
  • 鎌倉のちょっと先の久里浜が舞台のおはなしです。

    結婚して子供がなく、旦那さんと共に平凡な日々を送る、専業主婦の冬乃目線と、冬乃の旦那さんの部下の川崎くん目線と、とても怪しい人のモリ目線で話が進んでいきます。

    冬乃の所に、ボヤで住むところが無くなってしまった、妹の菫が転がり込むところから始まります。

    あれよあれよという間に、ああなって、こうなって……。

    自分が何をやりたくて生きているのか?こんな事をやりたいがために生きているのか?そんな葛藤が見える本でした。

  • 20代の頃、好きな作家の筆頭だった山本文緒さん15年ぶりの長編!前作の中編集「アカペラ」の刊行のときも嬉しかったけど、今回はまた改めて「お帰り!」という気持ちになり、読む前から感慨無量でありました。
    山本作品だから、ということ以上に気になっていたのが、キーワード「ブラック企業」「カフェ経営」。パっと見、結びつきそうにないこれらの単語が、話が進むにつれ奇妙に絡み出す。故郷の長野を離れ、久里浜に住む佐々井夫婦のもとに転がり込んできた、妻・冬乃の妹の菫。菫の発案で、姉妹でカフェ経営に携わることとなり、専業主婦だった冬乃は戸惑いつつも開店準備に巻き込まれていく。一方夫の佐々井は、元芸人の後輩川崎と仕事の合間に釣り三昧の日々だったが、会社は突如、理不尽なほどの忙しさに見舞われることとなる。
    冬乃(『カフェ』サイド)・川崎(『ブラック企業』サイド)の交互の語りで、それぞれの過去のエピソードを挟みながら話が進んでいくが、それらをつなぐのが、唐突に佐々井家に現れた菫の知人・モリ。善人なのか悪人なのか、イマイチ正体不明なこの男が実に不気味。どうやら川崎とも面識があるらしい(川崎の芸人時代に絡みあり?)。そして、時々ぽつぽつと出てくる登場人物らの意味深な行動、発言が不安を徐々に染みのように広げていく。
    どうして佐々井夫婦は長野を離れたの?
    どうして菫は前の居住先でぼやを起こし火傷を負ったの?
    どうして冬乃は通帳記帳しているところを菫に見られておどおどしたの?
    どうして川崎はモリに怯えるの?
    佐々井らの会社の壮絶なブラックっぷりにぞっとしながらも、カフェ開店の準備シーンは多少心が躍る。冬乃の作る料理のフード描写にもわくわくする。どんどん自信を付けていく冬乃を頼もしいと思い始めてきたところで、終盤は思いがけない展開を迎え、様々な謎は次々に明らかになる。度肝を抜かれる、どんでん返しのようなこの手法は文緒さんならでは。
    家族の愛憎。夫婦のすれ違い。皆「幸せ」を求めて生きてきたはずなのに、心の歯車は噛み合わず、必要以上に傷つけあってしまう。気持ちをうまく伝えられなかったり、思いとは裏腹に空回りしたり。それぞれが心身のバランスを崩し、クライマックスでは苦さが一挙に押し寄せてくるけど、同時に、全てを包み込むような山本さんの視線の温かさも感じられる。山本さんの長編の構成の巧さは、15年前から魅了されていたけれど、長いブランクの中で山本さん自身が感じてきた痛みや苦しみが、本作に形を変えて反映されているんだろうな、と思えた。
    本作についての読売新聞のインタビューで、彼女はこんな風に述べていた。
    「成り行きまかせで生きてもいいと思うんです。受け身でも。そう自覚できれば、だいぶ楽になる」
    その言葉を実感できる存在が、冬乃が散歩きっかけで知り合い、交流を深めていく「所さん」(仮称)という老人。付かず離れず絶妙な距離感で彼女を見守る所さんの励ましに、私自身も救われた。
    40を過ぎ、自力ではどうにもならないことの多さに愕然とすることが増えた。己の拙い大人力なんかじゃ太刀打ちできず、無力感に苛まれてしまうけど…山本さんの言葉のように、成り行きまかせにして、その上で、どう歩んでいけるか。いくつになっても迷い、足掻くことばっかりだけど、この作品に出会って一筋の希望を見出すことが出来たかなと思う。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      メイプルマフィンさんのレビューを読んでいたら、私同じようなこと書いてるじゃん!!
      とちょっと笑っちゃいました。

      ...
      こんにちは。

      メイプルマフィンさんのレビューを読んでいたら、私同じようなこと書いてるじゃん!!
      とちょっと笑っちゃいました。

      私も山本さんの小説が大好きで、心待ちにしていた一人です。
      だからまっさらな気持ちで読みたかった。
      なので新聞書評もブクログのレビューもなるべく目につかないようにしておりました(笑)
      そんな理由で、やっとメイプルマフィンさんのレビューを読むことになった次第です。

      メイプルマフィンさんのレビュー、的確です!
      私なんて何を書いていいやら、とっちらかってしまって書いたり消したりを繰り返し・・・。
      でもメイプルマフィンさんがちゃんと気持ちを代弁(?)してくれたから良かった~。

      素敵なレビュー、ありがとうございました。
      2014/02/10
    • メイプルマフィンさん
      vilureefさん:コメントありがとうございます!
      やっぱりね、20代に彼女の作品に触れてきたファン達は、感じることは皆同じだと思うので...
      vilureefさん:コメントありがとうございます!
      やっぱりね、20代に彼女の作品に触れてきたファン達は、感じることは皆同じだと思うのです♪
      ほんっと、本を出してくれてありがとうって感じで、本屋の店頭でうっすら涙ぐみそうに…
      ってちょっと大げさか(笑)でもそんな気持ちでした。
      vilureefさんも同じことを感じて下さって、とても嬉しいです!それにしても図書館で3か月待ちでしたっけ、すごいですね!
      (こちらの図書館はどんな状況なのかムショーに知りたくなった)
      それだけ皆さん心待ちにしていたんでしょうね。
      そして、きっと新しい読者もついてるんだろうな。それもまた嬉しいですね。
      2014/02/10
  • 登場人物それぞれのこころの動きに共感し、展開が気になりどんどん読み進めていった。脆いようで強い繋がりや絆に感動したし、生きにくさの先にある希望を見つけることの大切さを改めて感じることができた。

  • この小説は私をどこに連れていくのだろうと思いながら読み進めた。
    行き着いたのは解放だったのかもしれない。

    その解放は私にはもう必要のないものだった。
    でも、きっと必要な人がいる。
    その人たちにとって良い小説になるかもしれない。

    私のリズムと山本文緒さんが奏でるリズムは合わないなーと思った。

  • 山本文緒という作家が私は一番好きだ。文章に態とらしさが全くなく、平易で淡々としているのにぐさりぐさりと心を刺し、今ではもう平気なんて思い込んでいた傷口をぐらぐら揺らしてまた血を吹かす言葉選び、人物と作家との距離と読者と人物との距離が同じだと感じるところ、あげれば切りが無いくらいに。
    だから待っている、読み終われば次の作品を。出来るまできれいなお座りで待っていられる。

    『なぎさ』は主人公冬乃の家にアパートでボヤを出してしまい家を失った妹の菫が転がり込んでくるところから始まる。冬乃に妹はカフェをやらないかと持ちかけてくるのだが…
    冬乃の夫の佐々井は毎日部下の(今時の男の子の)哲夫を連れて海釣りに出かけていた。佐々井のことを哲夫はいいひとだが何を考えているのか分からないと思う。仕事がしたくて入ったのに毎日こんな有様では意味がないと苛立ちを募らせていたが、ある事件の後ことは一変する。自分がいるのがブラック会社だと知った哲夫は…

    物語は二人の視点で主に進む。そこにカフェ経営に出資をしてくれるモリという男や、公園の足湯で出会った所ジョージに似たおじいさんなどが絡んで、久里浜という土地のなかで普通に生きることの難しさとむず痒さが描かれる。
    ラストの光を見ようと懸命に前を見始めた人物たちが清々しく、穏やかな海を見ているような気持ちで本を閉じた。

  • 読み始めは登場人物が皆ぼんやりしていて、読むのが少しだるく感じました。登場人物のキャラや個々の考え方が虚ろというか、揃いも揃って覇気ややる気の無いのばかりだなぁと…。
    菫がカフェを開店させてからは、少しずつ動き出し、それぞれの物語が進んでいくため楽しめました。

    冬乃、佐々井、菫、川崎が主な登場人物ですが、誰に共感するかは人それぞれと思います。自分は共感はしなかったが、所さんが好きです!
    最後に夫婦がそれぞれに強くなり、手を取り合って生きていく選択をするのが良かった。

  • 山本文緒さん追悼読了。
    皆さん思うところは同じなのか、図書館へ行って山本さんの作品を探したが、残っていたのはこの単行本一冊。これは私が読むんだな。
    直木賞他気になる作品が多かったが、初読。
    うん。古典でも文豪でもライトノベルでも無い。久しぶり、こっくりした小説。

    人生に潮流の様な物があるのなら、その流れに少し外れてしまった登場人物達の物語。それぞれ心の距離は残るが、逆らわずさりとて流されず、次に進もうとする。読み手により多様な感想を持たせそうな読後。

    コバルトブックスからの活動で若い読者をたくさん開拓されたでしょう。功績は大きいと思います。

  • よかった。
    読みやすいけれど、なんだか読んでいてヒリヒリした。
    登場人物それぞれに切ないところがあるというか、深かった。
    ホリは好きになれないなー。

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著者プロフィール

1987年に『プレミアム・プールの日々』で少女小説家としてデビュー。1992年「パイナップルの彼方」を皮切りに一般の小説へと方向性をシフト。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞。2001年『プラナリア』で第24回直木賞を受賞。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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